2024/08/21 のログ
シア > 「できないとね、それくらい。
 できるんじゃない、いのはちも。」

人相や人物像を覚えることは、当然のようにできる。
相手もそうだろう、と聞いて答えてもらえるかは別にどちらでもいい。答えを期待しているわけでもない。
ただ、確認のようなものである。

「そうだろうね、多分。」

さらりと相手によって話し方を変えたり、相手だけに聞こえるように調節をしたりする。
そういった特殊な芸当を苦もなくこなすだろうことは想像に難くない。
今の二人の会話にしても、どちらも空気に溶けるように互いだけが聞こえるような言の葉が飛び交っている。

「……普通かな、まあ」

自分の知る普通とは、もうちょっと違う気がしないでもない。
ただ、なにが駄目かと言われたら別に何も駄目ではない。
それに少なくとも、服装、という第一印象から人が感じ取る様子としては"普通"になるはずだ。
それで十分ではあるだろう、と少女は判断する。

「親切……成り行きだけどね、ボクは。
 ん? 便利なもの? わからないけれどね、いのはちがどう思うかは。」

別に親切でもなく、なんとなくその場の流れだった、と少女は主張する。
それも手短に切って、普通に問いかけに少し考える。

「いくつかある。例えば……住処。拠点はありがたいね、管理されるのが難点だけど。
 端末だね、それから。"学生手帳"ってやつだけど、正確には。
 引き出しやすいかな、情報を。つけやすくなるね、連絡とかも。
 相手も持ってなきゃだから限られるけどね、連絡先は」

電子、とやらの力で調べ物だったり連絡だったりができるのは革命だと思う。
その分、デメリットもないわけではないが、仕方ない。
損を重く見るか、得を重く見るか、あとは自身の判断である。

「借りてきたんだ、黙って。盗みっていうけどな、普通は。
 まあいいかな、気づかない内に戻せるなら。」

するりとツッコミを入れはするが、別に大事とも思っていない。
バレた時にちょっと騒動がありそうだが、そうなったらもう知らない。

「……ん」

自意識過剰だった、と笑う忍びを見据える。
本人の意図も伝わってくる。関わった自分にまで影響は与えない、と。
それはありがたいことだ。警戒すべきことが減る。

それはそれとして、僅かに引っかかることがある。
こちらは別に深い意図はない。ただ、少し気になること。

「案じて欲しいの、いのはちは?」

この忍びもそういう心理を持っているのか。それとも、単なる軽口なのか。
命の軽い彼は何を思っているのか。

いや、本当は何も思っていないのかも知れないが。誰かのように

学生 >  
肩を揺らすだけの忍び笑いがあって、

「にしてもよもや一目で看破されるとは思わなんだが。
 恰好以外に違和はござったかな? それともただの勘でござるか?」

一度きりの邂逅から一週間は過ぎ、しかも当時男は殆ど肌身を晒さぬ忍び装束。
大して今は借りた服に身を包み、無論頭巾も被っていない。
結びつける根拠を知りたがるが、男には取り立てて慌てる風も落ち込む風も、どころか気にしている素振りさえない。
ただの興味本位。世間話。そんな調子にて。

太鼓判、というには多少心許ない反応ながら、満足気な様子。
もしかしたら見様によってはフフンと得意げにも取れるやも。

「成り行き、でござるか。
 先日はそうであったとしても、直してくれと強請った拙者に応えてくれたのは?今こうして拙者の疑問に応じてくれるのは?」

それもまた成り行きなのだろうか。少女がそうだというなら異を唱える気はないが。
深く考えず流れに身を任せるはこの男とてよくやること故に。

「ふむ、住処。雨風が凌げるは確かに便利。
 そして端末。……嗚呼、学生手帳。然り、扱えさえするのであらば便利でござろうな。」

うむうむと頷き同意を示す姿勢。そう、扱えたら便利なのだろう、扱えたら。
ちぃと墨色が遠くを見た。これで察して頂きたい。因みに此の忍者、スマートフォンをすまぁとふぉんと発音する。

「なに、拙者とシア殿が口を噤めば分かるまいよ。この後直ぐに痕跡消して返却する故、問題ないないでござる。」

人差し指を口許に添えて、しぃ、と潜めた声と息を雑ぜて笑った。

さて少女はといえば、何やら気にしている様子。きょとんと瞳を丸くして、其の胸の内が語られるのを待とう。

「んん?……如何でござろうな、あまりない経験でござる故。」

新鮮な気持ちにくらいはなるんじゃなかろうか。顎を擦りながら思案する。
欲しいか欲しくないかと問われたならば、

…、
……、
………。

「うむ、わからんでござる!」

ニッコリ!

シア > 「目、体格、物腰……かな。
 言えるまでではなかったけど、完全に間違いがないと」

格好などは飾りに過ぎない。見ていたのは、体つき、身長、目。そこに、自然すぎる自然な動作。
それらを重ね合わせた類推。
100%の確度だったかと言われれば、そこまで確証を持った解答ではなかった。
当たったことに、こちらも少々困惑したところも正直ある。
そこは素直に白状する。半分くらいはたまたまであった。

満足げな様子を、するりと見て流している。

「うん。みたいなものじゃないかな、成り行き。
 拒否するの不自然だと思うしね、どっちもあそこまで言っておいて。」

話を振っておいて、その先を拒絶する。
それは如何にも会話としては不自然な気がする。
自然すぎてもおかしいかもしれないが、不自然すぎてもおかしい気がする。
それだけの、こと。

「でしょう。ん……」

便利さに同意するいのはちの発言が、途中で濁る。
裏の意図を解釈するのはそう難しいことではない。

「ああ。つかえないんだね、絡繰り。
 ……うん? こっそり借りたの、それも?」

あえて、"絡繰り"という。端末、が通じなかったのでその方が通じがいいだろうと判断。
そして、また気づく。学生にもなっていない相手が、学生手帳の扱いなど知るはずがない。
つまり、彼は既に触れているはずだ。それすなわち、学生服と同じ手順を踏んだのか?と訝しんだのだ

「聞けば教われるよ、使い方ならだいたい。」

なんだったら自分も人に聞いたのである。
聞いた、というよりは教えてくれた、が正確だがそれは伏せておく。

「広める気はないけどね、ボクも。
 そうだね。犯罪じゃないね、気づかれなきゃ」

仮に気づかれても、正体にまでたどり着かれなければ問題はない。
そこさえ誤魔化し切れれば問題はなかろうし……自分たちなら可能だろう、とも思う。
少女は真顔で頷いた。

「…………」

それからの少女の唐突な質問に、いのはちは珍しくしばし黙り込む。
それゆえか、少女は大人しくその答えを、相手の瞳を見ながら待つ。

「……ああ。そんな感じか、やっぱり」

にっこり笑顔とともに放たれた言葉。
一般的には何の役にも立たない、と言われそうなその回答。
それでも、少女は怒りも、がっかりもしない。

「わからないね」

学生 >  
「嗚呼ァ~……成る程、運と観察眼の併せ技でござったか。」

慣れぬ服ということに加え、知人の少なさもあって詰め物だのの小細工はしていない。
骨格だの、人の身では変えようのない部分で判断することはままあることだ。
然り然りと納得した様子で深く頷く。

「そうでござるか?
 「その位調べなよ、自分で。」くらいは申しても構わんのでござるよ?」

忍びでしょ、と、少女の口調を真似てみる。
声色は男自身の侭故に、なんとも珍妙なる響きよ。
ニコニコと――否、ともすればニヤニヤと、そんな風にも見えなくない面が、頭巾がない為まるわかり。

「いづれは如何にかせねばと思うて居るが、何分それよりも優先せねばならぬ事柄が多い故。」

その優先せねばならぬ事柄とやらも、最低限のことは自身で調べ確かめねばなんとなし居住まいが悪いという、職業病めく理由なのだが。
先に少女が告げた住処よりも、情報収集を優先している現在である。

そんなことは置いといて、またも少女に察せられる事態。
隠してはおらなんだ故に、肯定は極々軽く。

「あ、手に余るなと判断して直ぐお返ししたでござるよ?」

引き際は弁えている。壊したりもしてないし、その後問題になっているようなこともない。
偉いだろう?とでも言いたげにつと顎先を持ち上げてドヤる忍び。

「きちんと籍を置くことにならば、そういった制度も利用できよう。それまではこう……ニン!でなんとか致すでござる。」

大抵のことはニン!てすれば如何にかなる。ならないことも勿論あるが。
此度の看破、つまるところ不法侵入やら無断での拝借やらも、少女の胸一つとはいえ、如何にかなりそうではあるし。という、楽観視。
或いは、如何にかならなければならないでいいという思考回路やも。

「習った通りに擬えるは容易なれども。
 シア殿も、自身の心を解するは不得手でござるかな?」

シア > 「そう。選んだ感じ、くじの数を減らしてから」

言ってしまえば、そういったレベルの推測である。
自分の持っている情報で一番確度の高い物を選んだら、たまたま当たってしまった。
運、というにはおこがましいかもしれない

「……ん。そうか。
 あったんだね、そういう答え方も。参考になった。
 ……『そのくらい調べなよ、自分で』……なるほど」


男のにやにや笑いがこちらを見てくる。
特に不快感を感じることもなく、それどころか真似た口調で語られたことを真顔で受け取る。
もしかすると、少女に面倒な手札を与えてしまったのかも知れない。

「優先すること……ああ。
 そういえば、他所から来たんだったっけ、いのはちは。」

それなら情報集めが最優先だろうな、と考える。
ずいぶんと強引な手も使っているようだけど、なにかこだわりがあるのだろうか。

「そう。返ったなら大丈夫だろうね、多分だけど。」

今のところ騒ぎになっていないのだから、そういうことなのだろう。
では、そこはひとまず問題なし、と。

「ニン、ね……便利そうだよね、それ」

忍術、と言われるもの。それは知識にはあっても、なかなか実物は見れない。
単なる気合の代わり、ということもありえるが。
ともあれ、なんだか万能そうだ。学ぶ機会があれば覚えると色々なことが捗ったりするだろうか。

「……うん、まあ。
 不得手、というか……実感がない?」

問に少し首を傾げ……答えた。
なんとも言葉にしづらい。

学生 >  
得心がいっては頻りに顎を擦る。

「自身が認識できぬ極々些細な情報を無意識下にて精査した結果、という可能性もある故に。勘や運も莫迦にはできぬものでござる。
 拙者も里から離れ、弛んでいるでござるな。気を引き締めて参らねば。」

気を引き締めると言いながら、立ち姿は極々自然。
否、溶け込むという点に関してはそれが正答なのだとして。

「だがまあ、あまり多用はせぬことをおすすめするでござるよ。」

何せ交流をぶった切る物言いだ。用法用量守ってご使用いただく様にお願い申し上げる。
尚、この忍びの男は多用されようが気にすまいが。こまけぇこたぁいいんだよ。

「然り。職業柄、事前に調べられることは調べてから臨むが身に染みている故。
 ……此れでも手段は選んでいるのでござるよ?」

軽犯罪くらいにしか手を染めてナイヨ!の主張。
それにしたって極力迷惑にならぬよう、かつ、騒ぎにならぬよう、色んなことに気を配っている心算。
相手を慮るのではなく、自身の為でしかないが。

「便利でござるぞぉ。とはいえ、見るに絡繰りの方が手っ取り早いでござろうが。」

血の滲むが如き辛く苦しく厳しい修行も要らぬことだし。
少女の目に興味が見て取れるなら、「いつかお披露目致そうか?」なぞと本気か否か判断がつき辛い調子で笑おうか。

「ほう、実感が。それまた何ゆえでござろうか――……とと、」

尚も話を続けんとしたところで、昼休憩の終わりを告げる鐘の音が響く。
教室へぞろぞろと吸い込まれていく学生らから少女へ瞳を転がして。

「シア殿はこの後どういった御予定で? お手隙ならば拙者と校内でぇとなぞ如何でござる。」

冗句めかして誘うその心は、「よければお話しながら校内案内でもして頂けまいか?」という下心。
正規生徒の同行あらば、怪しまれる確率は格段に減ろう。
ただ、現在お返し出来るのは束の間の暇潰し程度故、少女への利はあまりにも少ない。
無論断られたとて気にせずに、「然らば、またの機会に。」そう言って手を振り一人校内偵察へと戻るだけのこと。
もしも誘いにノッて頂けたなら、ニコニコと笑顔で校内を練り歩きつ暫し世間話に興じることに。

兎角、そんな感じの“忍び、校内に潜入する!の巻”でござった。ニンニン。

シア > 「珍しい例だと思うけどね、ボクの場合は」

そんな細かいところまで気にして見るような人は、そうは居ないのではないか、とも思う。
ただ、この島は魑魅魍魎の跋扈する場所。警戒するに越したことはないか。
自分も引き締めねばいけないか

「そうだね、多分」

あくまで選択肢の一つ。
普段は今までの正解を選んでいたほうが、いいのだろう。

「今頃追手がいると思うしね、手段選んでなかったら。」

あまりやりすぎれば、風紀などが動き出すだろう。
持ち上げる気もないが、かといって油断できる相手でもない。
トラブルは少ないに限る。

「ん。うん。どこかで見せて、今度」

努力、修行の成果。そんなことより一足飛びにできる科学器具の方が良い。
それもまた、一つの結論。
ただ、そういうことではない。存在としての忍術に興味がある、といっていいだろう。
だから、ねだるだけねだってみる。

そして、鐘の音が響いた。

「……話しすぎたね。ん」

でぇとなど、どうか、といのはちは問うてきた。
冗句なのだろうな、と思うのだが……冗句、なるほど

「『いいんじゃないかな、一人で行けば。忍びでしょ』」

そういって

「自然だよね、冗句には冗句で返すのが」

小さく首を傾げて。結局のところ、自分の知る範囲で校内案内をしたことでござろう。
ニンニン。
……こんな感じ?

学生 >  
――これは蛇足でしかないのだが、終始忍びの技術でもって制御していた男の声が、此の時ばかりは高らかに響く。酷く愉快そうに。そんなオチ。

ご案内:「第一教室棟」から学生さんが去りました。
ご案内:「第一教室棟」からシアさんが去りました。