2024/10/07 のログ
武知一実 >  
「いやデカけりゃ入るってもんじゃねえでしょうよ!?」

なるほど容量があれば確かにココアの一つや二つ入る―――わけねえだろ!
しかもココアだけならまだしも(まだしもじゃねえ)、他にも色々と入ってるようで、
バラバラと出て来たそれらを見ていると、流石にオレの理解力も追い付いて来ない。

「いや、あんパンあるんでいいっす……
 じゃなくて、そんなにゴロゴロ入ってたら、流石にマグカップの中に入ったりするじゃないんすか?
 そもそもいくらポケットがデカかろうと、カップに入ったココアを入れて何ともないって事はねえっすよ、普通!」

一度堰を切ってしまえば、まあ出るわ出るわ自分でも驚くほどに。
出て来るのが甘味だなというのは流石と言ったところだけど、そも色々入ってる事自体が次の疑問のタネになって収集がつかねえ。

ジャック >  
「入れば入るんだよ、少年」

さも当然であるかのように。

「いいかい、ポケットと言うのはものをしまうところだ。
 私はそこに、今日はマグカップとこういった大量のお菓子をしまっている。
 あぁ、あとさっき吸っていた煙草もだね。
 とにかくポケットに車や自転車をしまっているというわけではないんだ。
 それらは物理的に入らないからね。
 ポケットはものをしまうところ、しまうところなら入ればしまえるのは道理だろう?」

などと、上体を前傾して指を立てて語って見せる。
勿論そんなことはあり得ないのだが。

「――なんてね。
 これは私の能力の一つだよ。
 私は「凍結」と呼んでいるのだけれど、モノの時間を止められる能力だ。
 それを使えば、火の付いた煙草だって火が付いたままポケットに放り込んで持ち運べる」

さっき吸っていた煙草を取り出し、彼の方に放って見せる。
先端は赤々と光っているが、煙は出ていない。
触っても熱くないし、力を込めて握りしめても折れるどころか変形するそぶりも見せないだろう。

武知一実 >  
「液体の入ったカップだって一応物理的には入らんもんっすよ。
 正確には入ったまま仕舞えないってとこっすけど」

理屈としては通って……ないない。
さすがに煙にまこうとしてるのはオレでも察しがついた。
思わずジト目で先生を見下ろしてしまう。

「――ああ、能力っすか。
 生徒は異能とか超能力とか、そういうの持ち合わせてるってのは知ってたっすけど、教員もってのは盲点っしたね……
 考えてみりゃ、それこそ大人も子供も関係ないし、大人の生徒も居るんだから……」

タバコを放られ、それを両手で受け止める。
まだ赤く火が点いているのを見て、反射的にフィルター側を摘まんでしまうが、熱くはなかった。
それに、先生が言う通り時間が止まっているかのように硬直して、まるで鉄で出来てるかのように硬い。

「はぁ……ホントだ、カッチカチになってら……
 なるほど、じゃあココアもカップに入った状態でこうしておけば、そりゃポケットにも入れてられるっすね……」

ジャック >  
「私が持っているのは、あと「縫合」と「再編成」だね。
 「縫合」は――言うより見た方が早いだろう」

言うが早いか、彼の持っている煙草と彼の腕をそれぞれ手で掴む。
その瞬間、親指の腹と煙草がくっ付いてしまった。
くっ付く、と言うか、最初からそこから煙草が生えているかのような。

「こういう具合だ。
 要は物と物をくっつけてしまう能力だね。
 ちなみにそれぐらいなら数時間で完全にくっついてしまうよ」

とんでもないことをさらっと言う。

武知一実 >  
「……「縫合」と、「再編成」?
 まあ、これが「凍結」って言うんなら、文字そのままって訳じゃねえんだろうけど……」

凍結というよりも硬化、それこそ停止と呼ぶ方が的を射ている気がする。
ならば今言われた能力も、聞いたそのままを想像するより――って考えてるうちに腕を掴まれた。
すると一瞬のうちに、オレの指とタバコが同化していた。

「なるほど、「縫合」……やっぱり、聞いたそのままでイメージしねえほうが良いな。
 縫い合わせてるというより、融け合わせてる感じだ。
 ……って、さすがにこのままは困るんすけど!?」

くっ付けることが出来たんなら、戻すことも出来る……んだよな?
オレは親指から生えたタバコと、先生の顔とを交互に見る。
我ながら珍しくちょっと焦っている。このまま完全にくっ付けば、未成年喫煙者のレッテルは免れないだろ。

ジャック >  
「アッハッハ。
 能力の名前が「縫合」だぞ。
 外せるわけないじゃないか」

楽しそうに笑いながら。
あくまでくっ付ける能力であって、取り外すことは出来ない。

「まぁ安心したまえ、戻す方法はあるよ。
 一度私の手と君の腕を「縫合」して、「再編成」だ」

彼の腕を掴んでいるままの手を、彼の腕と「縫合」。
煙草がくっ付いているところまでの部位を自分の身体として「再編成」する。
その間、自分が掴んでいる彼の手首から先の感覚がなくなるだろう。
そうして煙草と指の縫合部を「再編成」で外して、彼の腕を元通りに「再編成」。
最後に自分と彼の「縫合」部を「再編成」で外して、元通りだ。

「この通り、「再編成」は自分の身体を作り変える能力だ。
 自分の身体にしか使えないのが難点だが、まぁ今みたいに「縫合」すれば、一時的に対象を自分の身体としてしまえる」

武知一実 >  
「笑いながら言う事かよ!
 軽いノリでトンデモなことをすんじゃねえよッ!
 ……あ、ああ……戻せるなら先に言えって」

思わず地が出ちまった。一応、この学園で先生やってる人には取って付けた様でも敬語を使う様にしてんのに……。

で、「再編成」?
てかその前に何つった?先生の手とオレの腕を「縫合」?
これ以上ややこしくしないで貰いたいのが本音だが、変に口を挟んで戻らなくなっても敵わねえ。
オレは大人しく事の成り行きを見守る事にして……

「……感覚が無くなった時はマジでやりやがったと思ったっすけど。
 はあ、ともあれ無事に戻って良かったっすよホント。
 ったく、あの野郎……何がエロい保健室の先生だ、物騒極まりねえじゃねえか……」

一時的に感覚の無くなっていた手を握ったり開いたりして確かめる。
オレの手だ……多分。正直、一時的とはいえ先生の身体の一部になっていたのが戻って来たっていう説明で、本当にオレの身体なのか不安にはなるが。
事前に聞いていた情報からは想像も出来なかった能力に、さすがに愚痴が口を突いて零れる。

ジャック >  
「アッハッハッハ。
 同意も無しに取り返しのつかないことをするわけがないだろう」

自分の膝を叩きながら笑う。
あまりに反応が良かったもので、ついからかってしまった。

「まぁこんな感じで大抵の怪我は治せるよ。
 夕方までは大抵保健室にいるし、夜は万妖邸に居るから、怪我をしたなら来なさい。
 死にさえしていなければ「直して」あげよう」

煙草を回収し、代わりとばかりにミルクココアを彼の手に置く。

武知一実 >  
「まだそこまで先生のこと信用してねえんすけど。
 取り返しがつく事でも同意なしは良くねえと思うんすよね!」

一応先生としての自覚と自負はあるようだし、結果的に元に戻してくれたから良いような物を。
ひとまず、しばらくは警戒しておいた方が良さそうだ。少なくとも、先生の手の届くところに近寄らんようにしとこ。
……ったく。

「治してる……って言うんすかね、いいけど。
 万妖邸……ああ、あそこっすか。
 世話になる事はあんまりねえと思うんすよね、オレ怪我の治り早いし。
 けどまあ……悩み相談くらいなら、しに行くかもしんないっすけどね」

保健室にな!
揶揄うのには閉口するが、それでも先生としてはしっかりしてるように思える。
まあ、あんまりお悩み相談とかするタイプには見えねえけど、話しやすさは他の先生たちの中ではマシな方だ。

……と、ミルクココアを啜りながら思うオレだった。

ジャック >  
「アッハッハッハッハ!
 信用してもらうために全て見せたのだけれどねぇ!」

心底楽しそうに、大口開けて笑う。
自分の膝をバンバンバンと激しく叩きながら。

「怪我の治りが早い、とは言っても、治療した方が更に早く治る。
 それに例えば骨折なんかは正しい処置をしないと歪んだままくっ付いて、後の生活に悪影響が出ることもあるからね。
 そう言ったことも「直せる」から、君でなくとも友達が困っていたら連れてきたまえ」

こちらもミルクココアを啜りながら。

「あぁ、治療じゃなくても「改造」したい時にも来ると良い。
 こっちは保健室では処置出来ないから、万妖邸の方だけどね」

武知一実 >  
「いけしゃあしゃあと……
 まあ、ひとまず先生としては多少信を置いても良いとは思ってるっすよ」

でも近づかない。少なくとも手の届く範囲には近づかない。
何がそんな面白いんだ、と思わなくもないけれども。

「そういう事言うあたりは先生として信用出来るんだよな……
 まあ、ツレには紹介しとくっすけどね。元々話には出てた事もあったし、ジャック先生っすよね?」

オレからアイツらに名前を出したら、また天然記念物が大量発生してたみたいな顔されるんだろうか。
それは癪だ。癪だけど、まあ、ココアの甘さが気持ちを鎮めてくれるからさほど気にはならない。

「改造はもうこれ以上は遠慮しとくっす。
 あんま良い思い出もねえんで、普通に普通の生徒として」

ジャック >  
「私は君のことは気に入ったよ。
 反応がとてもいい」

からかっていて面白い、という部分もあるが、反応がいいということは実験の結果が分かりやすいということでもある。
ニマニマと彼の顔を眺めつつ。

「見ての通りれっきとした保健の先生だからね。
 保健の先生と言うのはえっちだと言うのも相場は決まっているだろう?」

彼は特に興味がなさそうだが。
それはそれとして腕を組んでどデカイそれを持ち上げてみせて。

「おや、改造された経験が?
 君が望むならば、調整を手伝ってもいいよ
 それはそれで興味があるし」

武知一実 >  
「そりゃどうも。
 ………人から気に入られて嫌な気持ちにはなんねえのが納得いかねえっすね」

すげぇ複雑な気持ちになった。
普通に話してて、普通に言われりゃ素直に喜べたものの、今となっては何か裏があるようで気が抜けねえ。

「見ただけで解るほど保健の先生じゃねえっすよ。
 どういう相場っすか……ちゃんとしてる他の保健の先生が聞いたら噴飯ものっすよソレ……」

ダチもそんな事を言っていた気がするし、どこか納得してしまいそうな自分が居て腹立たしくも思える。
意図的か無意識かは分からないけれど、さすがに目の前で持ち上げられて強調されれば目は向く。
……デカい、けども。 能力を説明された今となっては、それが本当に初めからこの先生のものだったのか、という疑いの目で見てしまう。

「……別に、いっす。このままで。
 何か苦労があるわけじゃねえし、さっきの感じだと……先生が能力でどうこう出来るのって、物質……手で触れられるもの、って感じっすよね?」

ジャック >  
「はっはっは。
 君もなかなか天邪鬼だねえ」

主にこちらのせいではある。

「マンガではよくあることだろう?
 ――ふむ、まぁ手で触れるものとは言うが、例えば君の身体が何らかの改造を受けているとしよう。
 さっきの様に一時的に私の身体の延長とすれば、「改造された君の身体も私の身体」と言うことになる。
 と言うことは君の身体に宿った何かしらの力も私が扱えるし、「再構成」で弄ることが出来る。
 言ってしまえば身体の設計図を書き換えるようなことが出来る、と言うわけだな。
 簡単な話、君が望むなら、君の身体を君の好きな様に作り変えることが出来る、と言うことだよ。
 異能も含めてね」

勿論彼が望むならば、という条件付きだが。
流石に物理法則そのものを書き換えることは出来ないが、こと生物の身体なら割と何でも出来る。

武知一実 >  
「どの事を言ってんすか……」

嬉しくとも素直に喜べない事だろうか。いや、それはオレのせいじゃねえし。
それともえっちな事に関心はあれど、そう見えない素振りを取ってしまう事だろうか。……それはオレのせいではある。
いずれにせよ、今となってはこの先生の前では身構える案件になってるのは、間違いなく先生の所為だけどよ。

「理屈は解ったっす、解った上でやっぱ御免被りたいっすわ。
 別にその言葉に嘘は無いんだと思うんすけど、一度先生の身体の延長になって、その後ちゃんと元通りに分かたれたとしても、
 本当にその存在がオレであるのか、ちょっと自信持てねえっすから」

何つーんだっけ、テセウスの……船? 確かそんなだった気がする。
アレはちょっとずつ入れ替えて行ってって話だし、細かいところは違う気はするけど、大筋で言えば同じことだと思う。
身体の一部に異能が宿ってるんなら話は別だけど、オレの場合そうじゃねえのは自覚しているし。

ジャック >  
「君のことだよ。
 ふむ、君のことをいつまでも君と呼ぶのも味気ないな。
 名前を教えてくれないか、少年」

ぴ、と掌を上に向け、人差し指で顔を指す。

「なるほどね。
 いや、無理にとは言わないよ。
 君の意思を尊重しよう」

彼が嫌だと言うなら、この話はここで終わりだ。
あっさり引き下がる。

武知一実 >  
「1年の武知っす。武知一実。
 ……ちゃんとした名前、あんま好きじゃないんで、かずみんって呼んでくれると気が楽っす」

別に君とか少年とか、それでも良かったけれど。
まあ聞かれれば答えない理由も無いので、大人しく名乗る。
そういや、名前が好きじゃないって人に言ったのは初めてかもしれん。

「気持ちだけありがたく頂戴しとくっすよ、サンキュっす、先生」

まあこの人の場合全部が親切心からではない様な気もするが。
それでも何らかの気遣いから提案してくれたのだろうとも思える。
だから、素直に礼を言っておくことにした。

ジャック >  
「武知一実少年、ね。
 まるで雷神を思わせるような名前だが、ふむ。
 嫌いだと言うのならば仕方がないな、かずみん少年」

良い名前だと思うのだが、彼が好きじゃないのなら仕方ないだろう。
彼の言ったあだ名で呼ぶことにしよう。

「なに、私としても他人の研究成果を覗き見るのに興味があったというのもあるからね。
 ――おっと、そろそろ午後の授業が始まる頃じゃないか?」

谷間から懐中時計を取り出せば、そろそろ良い時間だ。
立ち上がり、座っていた折り畳みの椅子を拾い上げ、彼にもそろそろ授業の準備をするように促して。

「私も保健室に戻るとしよう。
 それではな、かずみん少年。
 また会おう」

そう言って、手をひらひらさせながらヒールを鳴らして屋上を後にする――

ご案内:「第一教室棟 屋上」からジャックさんが去りました。
武知一実 >  
――――――。

「……たまたまっすよ」

自分を売った親の姓なんて名乗りたくは無いが、かと言って捨てきれるほどでもなく。
昔付けられてた符丁をもじった名もまた同様だが、どちらも自分自身を裏付ける物には違いねえ。
……だったら折衷案として、自分でつけた自分のあだ名で呼ばれんのが一番楽だ。

「まあ、んなこったろうとは思ったっすけど。
 ――え?もうそんな時間っすか? 時計持ってないんすけど、予鈴聞き逃してたか――」

気が付けばバレーボールに興じたり興じなかったりしてた生徒たちも屋上から居なくなっていた。
咄嗟に時間を確かめられるものが無く、先生なら時計持ってるだろうかと見遣れば。

………いや、そこに入れてるんかい!!!
動きに釣られて見ちゃったじゃねえか、くそぅ……

「何が『ポケットは物をしまうところだ』だ……!
 って、何でキレてんだろうな、オレ……」

ああもう、こんな時どんな反応をするのが普通なのかが分からねえ。
一頻り頭を掻いた後、先生が立ち去ってから少し遅れてオレも屋上を後にしたのだった。

ご案内:「第一教室棟 屋上」から武知一実さんが去りました。
ご案内:「第一教室棟 保健室」にジャックさんが現れました。
ご案内:「第一教室棟 保健室」に設慧 新伊那さんが現れました。
ジャック >  
もうすぐ午後の授業も終わるだろうと言う様な時間。
保健室のソファを横に使い、仰向けで寝そべりながら本を読んでいる。
今日も相変わらず暇な一日ではあるが、保健室なんて暇なら暇であるほどいいのだ。
生徒が安全に過ごしている証拠であるし、自分の手間もかからなくていい。
ソファの隣にサイドテーブルの様に置かれた丸椅子に乗せられたクッキーをぼりぼり食べながら優雅な読書タイムである。

設慧 新伊那 >  
こんこん、と静かな保健室にノックの音が響き、その返答を待たずに扉が開く。
控えめな音を立てながら保健室の中に入ってきたのは、黒いボブカットの女生徒。
眼鏡の奥で、夜の森のような新緑の瞳が辺りを見回す。

「失礼します。1年の設慧です。帰り際にすみません、頭が痛くて……
 少し休んでもいいでしょうか?」

その顔には、柔和な微笑みが浮かんでいる……が、確かに少しばかり顔色が悪いようにも見える。
元より色白なのだろう、素人目が見てもわからないレベルだが。

ジャック >  
「ふぁい」

ノックの音に、クッキーを口に含んだまま返事を返す。
ソファから起き上がり、本をソファの上に置いて入り口を見れば、ボブカットの女生徒が扉を開けていた。

「ふむ。
 ベッドは空いているから好きなところを使うと良い。
 痛み止めはいるかな?」

立ち上がり、薬箱へ向かう。
ごそごそと薬箱を漁り、頭痛薬はどこだったか、と探しながら。

設慧 新伊那 >  
「いえ、大丈夫です。いつもの事で……
 私、気圧に弱いみたいで。季節の変わり目は、いつも痛くなっちゃうんです。
 横になると酷くなるので……座っていてもいいでしょうか?」

ゆらりと歩き出し、ベッドへ腰掛ける。
姿勢のおかげである程度楽になったのか、ほう、と細い吐息。
ごそごそと箱を漁る様子を眺めながら、目を細める。

「先生は、痛くなったりしないんですか?」

ジャック >  
「なるほど。
 いいよ、どのベッドをどう使おうが君の自由だ」

ベッドを寝るために使おうが座るために使おうが、どちらでも構わない。
座った方が楽な体勢ならば、それを咎める理由はどこにもない。

「私かい?
 たまに痛むことはあるが、大抵直してしまうから困りはしないね」

治す、ではなく直す。
薬箱から市販の痛み止めを見つけ出し、彼女が座るベッドの横のテーブルに一応置いておこう。
苦痛に耐えられぬ時のむがいい。

設慧 新伊那 >  
「ありがとうございます。……ジャック先生、でしたっけ。
 ちょっと怖いけど美人で優しい先生がいる、って聞いてたんですけど……
 その通りみたいですね。」

くす、と薄い笑顔を浮かべた。どうもそんな噂が立っているらしい。
静かな保健室にベッドがきしきしと軋む音を響かせながら、話を続ける。
薬を飲まずとも、話していると多少頭痛が紛れる。

「自分で?……凄いんですね。私もそんな力があればいいのに。
 異能って、結構不公平かも。」

ジャック >  
「ああ、ジャック霧崎だ。
 怖い?
 ふむ、出来るだけフレンドリーに接しているつもりではあるが……」

腕を組んで顎に手を当てる。
生徒とすれ違う時は笑いかける様にしているし、話すときは小粋なジョークも交えているつもりなのだが。
実はそれが絶妙に怖がられていることには気付いていない。

「ハッハッハ。
 確かに直す手段は私の能力だがね。
 どこをどう直せばいいかを判断しているのは知識だよ。
 医学知識もなく身体の中を弄り回すなど出来るものか。
 例えば君に自分の身体の中を弄る能力があったとして、どこをどう弄れば今君が感じている頭痛を消すことが出来るか、わかるかね?」

設慧 新伊那 >  
「ふふ……私も、そう思います。フレンドリーで、素敵な先生だなって。」

特にそれについては深く言及しない。
笑顔が怖いとか、急に話しかけてきて怖いとか、体が大きくて怖いとか。
そういう噂はちらほらあるのだが、言うのは失礼だろう。

「……わからない、ですね。やっぱり努力が必要かぁ。
 先生も、使いこなすまでには苦労したんでしょうね。凄いと思います。
 私も似たような力なら、先生に教えてもらえたのに。……残念。」

ジャック >  
「そう言ってもらえるとありがたいね」

ニヤリ、と笑って。
怪しげな笑顔だが、これでも精一杯フレンドリーな笑顔のつもりなのだ。

「何事も努力は大事だよ。
 能力を十全に使えることと、それをどう使えるかはまた別の話だからね。
 ふむ、自分の能力について悩んでいるのかな?」

教えてもらえたのに、と残念そうな顔をする彼女。
しかしここは保健室だ。
生徒からの相談に乗るのも保険医の仕事である。

設慧 新伊那 >  
「ええ。どこも悪くなくても来ちゃおうかな」

くすりとそれに返礼するように笑う。
蕩けるように温く眼を細め、舐めるように笑うのだ。

「悩んでいる、と言うほどのものでもないんですが……
 使い道、あまり思いつかないんですよね。どうしたらいいかな、って。」

とん、と頭痛薬の箱を叩く。
……箱の外装がバラバラに砕け、中に入っていた包装シートがぱたりと倒れた。

ジャック >  
「サボるために入り浸るのでなければ歓迎するよ」

いつでも来ていいとは思うが、かと言ってサボる場所に使うようならばダメだ、と。
先生らしい釘は差しておく。

「ふむ?
 これは、パズルかな?」

バラバラになった痛み止めの薬の箱。
その欠片一つ拾い上げてみれば、ジグソーパズルのピースのように見える。

「これは、元通りに組み立てれば元に戻るのかな?」

設慧 新伊那 >  
「大丈夫です、弁えますから。本文は勉学、ですよね。
 でも、それ以外なら……ね?」

薄く微笑む。可愛らしいところもあるのだな、と認識を改めた。
ちゃんと先生をやっているところが、特に。

「ええ。組み立てれば元に戻りますよ。
 あとは、私が元に戻したいと思ったり、遠くに離れたりしても。」

とんとん、と再び箱の破片を叩く。
まるで映像を逆再生するかのようにパズルのピースが寄り集まり、箱の形に戻った。切れ目もなければ、破損もない。
ジャックの指に摘まれているピースも、元の形に戻りたいのか薄く震えている。

ジャック >  
「たまのサボリぐらいならば、大目に見ようか」

ニヤリ、と口の端を持ち上げて。
先生とは言え、所詮は保健の先生、と言ったような態度。

「ふむ。
 つまりは外側を傷付けずに内側にアクセスできる手段と言うわけだ。
 これはこれで応用の効きそうな能力だとは思うがね?」

自分の専門分野に限って言っても、例えばメスを入れずに頭や身体の中の治療を出来ることになる。
能力が及ぶ範囲をどこまで区切れるかによるが、出来る様になればかなり使い勝手がいい能力だと思う。

設慧 新伊那 >  
「ふふ、こう見えても優等生ですから。
 でも、先生がそう言ってくださるなら……偶にはサボっちゃおうかな。
 たまに会いに来るくらいは、見逃してくださいね?」

「異能認定の時も、そう言われたんです。
 ……でも、私は別に医術に興味があるわけでもないですし。
 ただ、そういう力があるってだけで……できることとやりたいことが繋がらなくて。」

ふ、と薄く息を吐いて錠剤の包装を指で叩く。
気怠げに見えるその動作に押されたように、包装の中から錠剤が一粒、二粒と転がり出た。
包装は、まるでスライドパズルのように組み代わり、その隙間から錠剤が零れ落ちている。

「……すみません、愚痴みたいになってしまって。
 先生相手だと、ちょっと喋りやすくて。」

ジャック >  
「人間張り詰めているばかりではいずれ破裂してしまうからね。
 本業に支障が出ない程度にサボるのはむしろ推奨したいぐらいさ」

手に持ったパズルのピースを離せば、箱の方へ戻っていく。
それを興味深そうに眺めながら。

「人生なんて言うのはそう言うものだ。
 選択肢を持っていると言うだけでも、人生に余裕は生まれる。
 ちなみにやりたいことと言うのは何かな?」

今度はジグソーパズルではなく、寄せ木細工のようなばらけ方をする薬の包装。
色々パターンも選べるらしい。

「保健室ははそう言うところでもあるから構わないけれど、それはすぐ戻してもらえると助かるかな。
 薬と言うものは密閉されていないとすぐダメになってしまうからね」

設慧 新伊那 >  
「ありがとうございます。肝に銘じておきますね。
 ……ジャック先生くらい、みんな優しければいいのに。」

ふわふわとパズルのピースは飛んでいき、欠けた箇所へとピタリとハマった。
切れ目や繋ぎ目などは一切なく……中身が抜けていることを除けば、未開封の箱のままだ。

「あ、すみません。戻しますね。」

パズルになった包装をかさかさと操作して、元のポケットへと錠剤を戻す。
錠剤を詰め直した包装をテーブルに戻した時には、既に元の密閉された包装へと戻っていた。

「……さあ。わかりません。
 何となく生きてて……何となく本が好きだから、何となく図書委員をしてて……
 何となく、進学したほうが良さそうだから、勉強して……
 先生みたいに、自分の道を見つけられてるのが羨ましいです。」

ジャック >  
「設慧くんの周りの人はみな余裕がないのだろうね」

優しさと言うのはつまり余裕だ。
自分のことで精一杯ならば、人に優しくする余裕などありはしない。

「私は生き物の身体に興味があったからね。
 筋肉がどう動くことでどういう風に骨が動いているのか。
 食べたものがどう消化され、それがどういう風に吸収され、エネルギーに変わったり身体を作ったりしているのか。
 生き物がどう言う言う風に生きていて、どうなると死ぬのか」

だから知りたいと思った。
知りたいと思ったから、勉強して、医術を身に着けた。
ただそれだけの話だ。

「私としては設慧くんが助手に着いてくれると大変助かるのだがね。
 大変便利そうだ」

設慧 新伊那 >  
「かもしれませんね。
 私も……他の人を気にかけてる余裕はあまりないですから。
 優しくしなきゃ、優しくしたい、とは思うんですけど。」

それは偽りのない本音だ。
いつでもどこでもだれにでも優しく生きる、などということが出来るとは思えない。
特に、自分のような人間には。

「……できることと、したいことが一致したんですね。
 羨ましいなあ、先生。とっても楽しそうで。きらきらしてて……
 とっても、素敵。」

じ、とジャックの眼を見る。
炎が揺らめくようにも、水面が揺蕩うようにも見える深緑の瞳がその瞳を捉える。

「……ふふ。光栄です。
 お手伝いしながら探すのも、楽しいかも知れませんね。」

ジャック >  
「他人を気に掛ける余裕がある、と言うのはある種の特殊能力だ。
 人がそう出来るからと言って自分もやらなければならないと言うことにはならないよ」

余裕があるものがすればいいことであって、余裕のないものがしなければいけない事、と言うわけではない。
人は人、自分は自分だ、と。

「そうでもないよ。
 確かに「凍結」はパーツの保存に役に立ってはいるし、「縫合」もあればまぁ便利だ。
 パーツがあればどんな患者でも救えると言うわけではないし、「縫合」も無ければ無いでどうとでもなる。
 「再構成」に至っては自分の身体にしか使えない。
 出来ることとしたいことが一致したのではなく、したいことをするために出来ることを使っているだけだ」

全ては努力次第だ。
最初からしたいことが出来るものはいないし、出来るからすると言うのも烏滸がましい。
したいから、するためにあらゆる手を尽くす。
それだけである。

「――ところで設慧くん。
 私は所謂ハーフサキュバスと言うものだ。
 そんな私の前で、そんな欲しがるような目をするものではないよ。
 何もかも搾り取られて残りカスのようなモノにされてしまっても文句は言えないからね」

人差し指で彼女の額を小突く。
仮に彼女がクラスの男子にそんな目を向けているのだとしたら、彼らはさぞかし居心地が悪いだろう。

設慧 新伊那 >  
「……そう、かもしれませんね。
 ありがとうございます。」

自分は自分、他人は他人、分かりきった真理ではある。
それ故に、自分を他人のために切り売りするような真似をする必要はない、というのもわかる。
なぜ優しくなりたかったのか。その答えはすっかり忘れてしまった。

「……………。」

努力の道筋が見つからない少女にとって、それは少しばかり辛い現実であった。
行く先が見つからないのでは、その櫂を掻く意味もない。
手を尽くす価値をどこかに見出せなければ、尽くすべき手もないのだ。

「あう。
 ……ふふ、すみません。きらきらしている人を見るとつい。
 何かに向かって、頑張って、努力して……素敵ですよね。好きなんです。
 だから、先生も素敵だと思います。」

自分にない物を持っているから。
思春期特有の悩みだと言われればそれまでだろうが、思春期の少女はその悩みに真剣だった。
思わせぶりで蠱惑的故に、真面目に取り合われないことも多いのだが。

ジャック >  
「やりたいことが無いのなら、好きなことを思い出すといい。
 私は生き物の身体の仕組みを知るのが好きだったからこの仕事に着いた。
 もし設慧くんが頑張っている人の手助けをするのが好きだと言うのなら、教師なんかは向いているかもしれない。
 ――設慧くんのような美人教師からその目で見られては、男子生徒は勉強どころではないかもしれないが」

行き先に迷った時は原点に戻ってみるのが大事だろう。
歩いてきた道を見失ってしまえば、歩く先もわからない。

「まぁ、設慧くんのような綺麗な子からそんな目で見つめられて、悪い気はしないけれどね。
 ハッハッハ、ありがとう。
 こう言っては何だが、将来で悩む思春期の姿と言うのも、私からすれば素敵なことだと思うよ」

彼女の額を小突いた右手で、そのまま彼女の頭をわしわしと撫でてやる。

設慧 新伊那 >  
「……教師、ですか。いいかもしれませんね。
 少し考えてみます。」

交えられた冗談にくすくすと笑い、少しばかり表情を緩める。
それもまた一つの道だ、と言われた気がしたのだ。何も、今すぐに道を決めるべきというわけでもない。
もう少し悩んで迷ってみるのもいいかもしれない。

「ふふ、ジャック先生も私なんかよりずっとお綺麗ですし……
 ……それに、お世辞じゃなくて本音ですよ?先生が素敵だって思うのは。」

頭を撫でる手に、そっと手を触れる。
……こういう態度が男子に良くない想像をさせているのだろう。そういった雰囲気だ。

ジャック >  
「とにかく色々学びたまえ。
 勉強だけではなく、アルバイトをしてみたり、委員会で頑張ってみるのもいいだろう」

経験は大事だと。
頭を撫でる手に触れてくる彼女。
そのまま手を彼女の下顎へと移動させ、少し強めに掴み、顔を寄せる。

「やめた方が良い、と言わなかったかな?
 それとも、それをお望みで?」

そのまま親指を彼女の口に入れて、ぐい、と口を開かせる。

設慧 新伊那 >  
「はい。もう少し……知見を広げてみます。」

大事なのは選択することではなく、選択肢だ。
……そう思った矢先、手が顔に触れる。顎がぐいと引き寄せられる。

「……………。」

がこん、と顎が歪んだ。というより、『回転した』。
ジャックの指を受け流すようにその顔が組み代わり……元に戻る。
これも異能のバリエーションの一つ。何も、無生物にのみ機能するものではない。
顔の一部をルービックキューブのように回転させたのだ。

「すみません。不快な思いをさせるつもりはなかったんです。
 まだそういうことは早いと思うので。……ええ、まだ。」

ジャック >  
口に突っ込んだはずの指が、それどころか彼女の顎を掴んでいたはずの手がするりと反対側へ抜けた。
ガシャガシャと組み変わって元の形に戻る彼女の顔。
一瞬あっけに取られるも、

「――クック、アッハッハッハ!」

笑う。
自分のお腹を押さえて大笑い。

「――ハー、失礼。
 なるほど、わざとやっているわけではないようだね。
 何、不快とは思っていないよ。
 誘っているのかと思えば、いやはや、まだやはり高校生と言うところかな。
 うん、自分の身を守ると言う意味でも気を付けたまえよ」

ひとしきり笑ってから、彼女の頭をぽすぽすと軽く叩く。
子供をあやすような仕草。

設慧 新伊那 >  
優しく頭を撫でられ、目を細める。
安堵を感じているようにも見える表情だ。

「……ええ、何かわからないですが……気を付けます。
 怖いのは私も嫌ですから。」

するりとその手から逃れるように身を引き、ベッドから立ち上がる。

「……ありがとうございます、先生。頭痛、随分楽になりました。
 また困ったことがあったら来ますね。あとは、サボりとか……
 先生に会いたくなったとき、とか?」

ジャック >  
「繰り返し言うが、気を付けたまえよ。
 君の目にキラキラしている様に見えるものは、それの一つの側面でしかない。
 こちら側に向いていない面がドロドロした汚泥のような何かで覆われていないと言う保証はないのだから」

カツカツとヒールを鳴らしてソファに向かい、どさりと深く腰を下ろす。
脚を組んで本を持ち上げる姿は、無駄に煽情的で。

「構わないよ。
 甘いモノも沢山置いているから、そう言うのが欲しくなった時にも来ると良い。
 いつでも歓迎するよ」

ひらり、と本を振って見送りのあいさつ代わりに。

設慧 新伊那 >  
「ええ。ありがとうございます。」

そう言って、錠剤の空き箱を開ける。
『未開封の空箱を開いて中身を戻す』という珍妙な行為ではあるが……
それをジャックの前のテーブルに戻し、一礼。

「甘いのも苦いのも好きですから、その時はぜひ。
 それでは、ありがとうございました。」




「……ふふ。終わっちゃってたかも、私。」

それもまた、『選択肢』の一つだろう。

ご案内:「第一教室棟 保健室」から設慧 新伊那さんが去りました。
ご案内:「第一教室棟 保健室」からジャックさんが去りました。