2024/10/29 のログ
ご案内:「第一教室棟 屋上」にリリィさんが現れました。
■リリィ >
――小雨が降りしきる。
色を濃くした屋上は、おかげでいつもよりも人気が少ない。
■リリィ >
目視出来ないほどに僅かな凹凸に出来た水鏡が幾重もの波紋で歪むのを、屋上と後者を繋ぐ扉脇――辛うじて濡れるか濡れないかといった場所に佇んでぼんやりと見下ろす。
「ふー……。」
身の内に溜まりつつある疲労を吐き出すように、長く、深く、息を吐いた。
学校は楽しい。
友人と言っていいのだろうか、こんな自分でも気さくに話しかけてくれる人の子らはいる。
ひとでないのもいるけれど、まあ、大部分はにんげんだ。……そう、にんげんなのだ。
「……あ~……ん~~……!」
意味のない音を長く伸ばして、ずるずると座り込んでは膝を抱えた。
内側に仕舞い込んだ腹は……ほんの少しだけ、空腹を覚えている、かな?
否、ぜんぜん我慢できるくらいだけど。元々を思えば、おなかがへったなんて思う程でもないくらいに些細な異変程度だ。
それなのに、
「……おいしそうだなんて、思っちゃうのはだめだよねぇ……。」
溜息が濡れた屋上に溶ける。
ご案内:「第一教室棟 屋上」に汐路ケイトさんが現れました。
■汐路ケイト >
ひと探しの、雑用。
はっきり属さないアルバイターはそんなことも仰せつかっちゃったりして。
お金にならないからと断るわけには――うん、いかなかった。
(屋上によくいる――って、いないときのほうがおおいでしょうに。雨天ですよ、それも)
それでも手がかりがないし、ほんの僅かな余暇の間だったので、断れなかった。
屋上、はじめて来る。扉をそっと押して、雨音と自分を隔てるものがなくなった瞬間、
おいしそう。
「――――ッ」
聞こえてきた言葉に、びくぅ、と肩を竦めた。
そろ、と横に眼鏡の奥から視線を向ける。
そこにいた、座り込んでる先客に、気まずそうな顔から――愛想笑いに。
「ど、どうも~っ……ど、どうしました。お加減よろしくないとかっ!」
■リリィ >
「……贅沢になってる気がする~!」
わっと顔を伏せて嘆く声を篭らせる。
人気はないけど。でも、人と生きる学園で声高に主張するのは憚られた。
折角食堂に誘ってくれたのに。
友達と仲良くお昼なんて、それこそ夢にみたことじゃないか。
スカートの裾から覗く尻尾が、苛立たしげに屋上を打つ。飛沫が舞った。
――その微かな水音と少女の声が重なるか。
そこで漸くすぐ傍の扉が開いているのに気が付く有様だ。
「! あ、こ、こ、こんにち……は……?」
弾かれたように顔を上げて同じく取り繕うように笑顔を広げたところで、はたりと前髪の下で瞳が瞬く。
同時に鼻先がスンと揺れた。
おいしそうな――でもなんだかすこし、変わった匂い?
ついつい応答も半端なままに、じぃとそのお顔を見つめてしまわん。
■汐路ケイト >
尾と角だ。
尾……というには動物的な色の薄い、そう、有り体に言えば。
悪魔……っぽいひとだ。というか、多分そうだ。
「こんにちは!」
臆さなかった。
声がデカい。笑顔を向けはしてみるけれど、その視線が向けられていることに気づく。
よいしょ、と長いスカートが濡れないように膝裏に折りたたみ、しゃがみこんで視線の高さを合わせた。
「ちょっとひとを探してるんですけど、ほかには誰もいない……っぽいですね屋上。
はじめまして。……あたしの顔、なにかついてます?」
これはそばかすですけど、と指先が顔を撫でる。
そのせいで幼気だが、目鼻立ちは整っているのと、奇妙な色がある。あなたのそれに少し似ている。
その身に満ちる精気は――力強い人間のものでありながら、どこか鉄錆の味が混ざる。いろんな意味で、濃そうな。
「具合悪いのかなって……それとも、おなかすいてたり……?」
■リリィ >
此方が其方を見つめるように、
其方も此方を見つめている。
しかししとやかな雨音が場を制すのは束の間。
明るい声に白髪がそよぐ。否、日が照らず冷え冷えとした風が通り抜けただけだろうが、虚を突かれたが如くぱちぱちと瞬きを繰り返す。
「ぇ、あ……、そうですね。
わたし、お昼休みのベルが鳴ってすぐに此処に来ましたが、誰も見ていませんよ。」
人探しというのならばここはきっと外れだ。色のない雲から唯々静かに滴る雫で濡れていない地面は既に見つけることが出来ない。
大半は教室や食堂なんかで和気藹々とお弁当なりなんなりをつついているに違いない。
そばかすですけど、ととぼけた言葉に呆けた顔が漸う解れて仄かな笑みが滲む。
「いえ、すみません。その、少し変わったにおいだな、っておもって。
……わたし、リリィって言います。先日から学園の一員になりました。よろしくお願いし、ま、……す。」
両膝を辛うじて濡れていない床について頭を下げ――かけて、軋む。視界にはシスター服。
あれこれ、淫魔的には宜しくするには少々難がある、の、では……?
否否、少女自身に此方を害する意思は見受けられない。
ポンコツ淫魔の方は……多少気になりはするものの、そのにおいも相俟って、気を抜くとごくりと自然、喉が鳴ってしまうのだが。
おなかが空いているのか?――答えは、YESともNOともいえる。強いて言えば、小腹が空いた気がするなぁ、くらいだ。
少し前ならば意識することすらなかった程度。だから、気まずげに目線が余所を向く。
「んん……そ、……いえ、あの、ぐ、具合は……わるく、ない、です……!」
嘘はいってない。嘘は。
誤魔化すというにはへったくそ過ぎるが。
■汐路ケイト >
互いの視線の間は眼鏡のレンズがある。
魔力の反応を感知できるなら、見つめれば見つめるほど感じられるはず。
そういうのを、シャットアウトできるようになっているやつだ。ある程度、ではあるけれど。
……外からの?
「――えっ」
探し人はやっぱり不在。それに唇を尖らせてうんうん唸っていると、不意に水を向けられて。
慌てて襟を引っ張ってすんすんしてみる。あ、汗の匂いとか……では…?
うん、よく使ってる香水の匂い。"暴食のピーチ"。安くて助かっている身だしなみ。
今日は運動も部活もしていないのでだいじょうぶ――なはずで……だから。
「あたしも、つい最近来たばっかで。お仲間ですね、リリィちゃん。
ケイト・ショーディーです。日本風に言うと、汐路ケイト!
気楽にケイトって呼んでくださいね!」
びっ、と親指を立てて、笑顔。なのだけれども。
少し視線を彷徨わせてから、さっきのにおいのことについて、色々考えると。
「あー、えっと、その」
ちょっとだけ、もごもご。胸の前で指と指つんつんして視線を彷徨わせてから。
「おいしそうな……におい、します?」
そろ、と伺うようにして、視線を。
デリケートな話題、ではある。種族――人種問題を更に拡大させてしまったこの世界においては。
なんでか、なんとなく、わかってしまったらしい。思い当たる節が、あるような。
■リリィ >
仄かな違和感。
意識を向ければ向けるほどに、不思議な少女だと思う。
不躾な視線を注ぐことは止めたが、その後もチラチラと気にする気配を覚るだろうか。
窺っていると、文字通りニオイを気にする仕草にはっとした。
変わったにおいがするだなんて、年頃の女の子に向けて発するには不適切な表現なのだと、そこでやっと気が付いた。
どうやって繕おうかと慌てる間に少女の言葉。
「ケイト様ですね。
リリィちゃん……お、お仲間……うぇへ……。」
途端にやつく頬を抑えるように両手を添える。むにむに。
単純な頭から色んなことが抜け落ちかけたところで言い淀むような音を聞いて、きょとんとした眼差しが少女へと。
「んん……そ~……んぅ……そう、ですね……あの、正直……、わたし、人の精気が糧になりますので……。
アッ、で、でも、わたし、無理矢理襲ったりなんてしませんからっ!」
リリィちゃんと笑顔をくれた少女に対して誤魔化すのは憚られた。
わたわたと両手を振って弁明とする。
「ただ……、」
今度は此方が言い淀んだ。
すん、と、もう一度鼻を鳴らす。
――雨のにおい。濡れたコンクリートのにおい。香水のにおい。人のにおい。
それから微かに、……ひとでないもの、の、におい、かな? 極々僅かに覚えるのは、既視感のような。親近感のような。
■汐路ケイト >
「ケイトでいいですよぉ。ケイトちゃんでもいいですよ!
年齢も近……いや……見た目近い感じですし!逆にほら、敬称あると壁ができちゃうというか。
あたしたちおんなじ生徒なわけですから!ねっ!よろしく~!」
言いはしても、結局落ち着かないだけだったりするのだ。
愛想はいいほうだ。友達が多いかといえば…プライベートをともにするひとはすくない。
処世術、ではあるのかもしれなくて、ぐいっと手を掴んでぶんぶんした。握手。
「……なる、ほど?」
ちょっと顔が険しくなった。童顔なのであまり迫力はないかも。
シスター服で険しくなるとちょっと怖がらせちゃうかもしれないけど。
「淫魔……ですか。
いえ、あの……その。初対面で踏み込みすぎですよねごめんなさい!
ちょっとそこらへん苦手なとこがあってですね、えっとぉ……!」
わたわたと両手を賑わしく動かしてしまう。なんか拳法みたいな。
なにを誤魔化そうとしたのだろう。踏み込みすぎたところか。
「ああ、」
彼女が何を言いたいのか、というか、気付いたのか。
なんとなく、わかったらしい。まあ――ごまかしきれるものでは、ないことは、それこそ、修道院にも学園にもいわれている。
「……………」
座ったまま、ひょこ、とより距離を近づけた。
「ないしょですよ。……学校は知ってるんですけど。
いちおう、その、隠してはいるので……」
目を閉じる。顔を近づける。接吻をするようだ。
ふれるまえに、再び目はあいてしまうのだけれど。
そして、ちょっとだけ。
秘密にしてることを、みせたあとに。
「―――――あたしは、その。いろいろあって、三年くらい……シてなくて。
だから、えっと。リリィちゃんが、なんでダメ…って思ってるのかなあ、って……?」
■リリィ >
ぽぽぽと頬が茹だるが如く上気した。
ほんのりと仰け反るように背を弓なりに撓らせる。
「えぇっ!そ、そんなっ……え、ぁ、ぅ……
……け、けけ、ケイト……ちゃん……っ?」
簾のように隔てる前髪の奥、薄っすらと透けたイエローの瞳が狼狽と期待とを雑ぜて色付いた。
頬はによよと蕩けて崩れているに違いない。
わ~!なんて間延びした悲鳴だか歓声だかが握手の上下運動にあわせて波打つ。
ひとよりは冷たく、でも今は内側にひっそりとしたぬくみのある白い手が暫し友好を深めるとして。
舞い上がったポンコツ淫魔に冷や水を被せる程には迫力がなくとも、
よろしくと告げて手を取ってくれた少女の表情が翳るのは気になった。まあ、ぎくりとしたのもホントウだけど。
「い、いえ、隠しているわけではないので……!」
だからそう、頭を振る動作にも気がかりが見て取れるかもしれない。
程なくそれも少女が垣間見せた秘密に氷解する。
瞠目。まぁるくなった瞳に、しかとそのちいさなひみつを焼きつけた。
満月みたいなひとみの侭、微かに唇が戦慄く。
「な、んで、……って、だって、それは。」
――よくないことだから。
それ以上も、それ以下でもない。だがそれは、ひととしての倫理観。
少女ならばわかるだろうか。そうでなくても、先程否定しなかった以上、此方は純粋なる其れとしての存在であるのは明白だろうが。
■汐路ケイト >
「あたしは、その、えっと。
するたびに、ちかづいていく……らしくって」
少し離れて、自分の唇を撫でてみる。
我慢している理由は、ある。要するところ、半端者、灰色が、黒に近づくか否かの話。
黒になりたくない理由はあるのかも。
「だからおくすりで抑えてるんですけどね。
おとなになってくると、ペースがあがってきて」
その指がふれるのは、しっかり大人びて成熟している胸の稜線に。
禁欲的な衣は、いわば隠れ蓑、のようにも。
「のんでないときだったら、あたし、リリィちゃんのことも。
おいしそう、っておもったかもしれないです」
膝を抱えて、ちょっとアンニュイ。
そういうものなのかもしれない。でも。
「……合意のうえなら、いいんじゃ……
っていうわけでも、ないんですかね……?」
みたところ、純粋種のようには見える。
だったらその……おいしそう、と思ったら、合意のうえで食べるのは。
「貞操観念的にダメ、な感じなんです、か……ね……?」
話していくうちに、ぼっ、と顔が赤くなった。
そういうことなのか?と感じると、流石にぶっこみすぎた話題を取り扱っている自覚があった。
話をふっておいて、腕に顔を埋めてしまった。