2024/07/09 のログ
■焔城鳴火 >
「なんか悪いわね、教員が同行してたらやりづらいでしょ」
申し訳なさそうにしつつ、少女の少し後ろからついて行く。
「ん、ああ。
よくある噂よ、学校の怪談――って、こっちの子にも伝わるのか?
『夜中に動き出す人体模型』『一人でに演奏するピアノ』『絵から抜け出す絵画』、なんていうようなもんの仲間。
とはいえ、ほら、こんな学園じゃなんでもありみたいなもんだし。
私もちょっとSNSで見ただけなんだけど、『夜中に人影がうろついてる』なんて、あるとねえ。
くだらないとは思いっても、無視するわけにはいかないのよ」
なんて言って、肩を竦める。
「竜胆も、ここまでで変な人影とか見なかった?
しょーじき、私みたいな無能力なやつが見回りしたって、仕方ない気がするんだけどね。
朝一のニュースで『女性教員が行方不明になりました』なんて流れたりして」
などと、茶化すように言う。
が、それがこの島、この学園だとわりと冗談にならない話ではあった。
■竜胆 襲 >
勿論、やりづらさはある。
しかし教員として言っていることは正論。
同行を拒否するのも逆に怪しいところではある…。
「なるほど…SNSには色々な噂がありますからね。
いえ…見回りは、無断で夜中に残っている生徒のためにも必要かとは思います。
対処よりも、予防が重要だと思いますから」
付け加えた一言は、自分たちの活動の礎でもある理念。
事件化し祭祀局が動く頃には既に犠牲が出てしまっていることが多い。
そんな怪異に冠する被害を少しでも減らすべく、秘密裏に動いている。
だから、なるべくならばば、この場には現れて欲しくなかったのだが。
不意に、足を止めて。
背後を歩く鳴火先生に手を差し出し、前進を止めるよう制する。
…その先、廊下の行く先には。
月の光に照らされる下、真っ黒な人影が蹲っているのだった。
■焔城鳴火 >
「あー、そう言ってもらえるとありがたいけど。
ほんっと、あんたってば真面目な子ねえ」
しみじみと、いい学生だと思いながらついて行けば。
――これでも、修羅場を潜った数が少ない訳ではない。
空気が変わったのは直ぐにわかった。
「――竜胆、私の後ろに下がんなさい。
一応――確認しないといけないから」
ふぅ、と少しばかり緊張を感じさせる声音で、小さく少女へと伝える。
照らされた人影からは、少しも目を離さないで、警戒はしているが――。
■竜胆 襲 >
「───」
言葉を発しようとして、先んじて前に出た彼女に口を噤む。
自ら能力が無い、と言いながらも生徒の前に出る。
真面目なのは一体どちらですか、と言いたくなる程に"先生"だ。
──黒い人影は、ただただ真黒い。
それはライトで照らそうとも変わらず、まるで影がそのまま立体を佩びているかのようだった。
蹲っているようだったそれは、ゆっくりと立ち上がり…人の形であることをより色濃く映し出す、そして。
ゆら、ゆら…。
朧げに輪郭の揺らぐ奇妙な風体で、ゆっくりとこちらに向け、歩きはじめる───。
「先生」
「逃げて」
後ろから、そう小さく声をかける。
見るに明らかだ。
アレが人でないことは。
■焔城鳴火 >
「――バカねえ」
そう言いつつ懐に手を入れる。
掴むのは、鳴火が最も信頼していた――今でも信頼『し続けている』、『彼女』の異能。
薄く小さな、魔術を込められた亀の甲羅。
「生徒を置いて逃げるようじゃ、教師失格でしょうよ」
そう言って亀の甲羅を、自分の目の前に放り投げる。
「observationis mare stellarum ego est.――『戮仙』」
魔道具は鳴火の詠唱を受け、その効力を発揮する。
それは、ただ、物理的にも超常的にも機能する『壁』を作るだけの効力。
黒い人影の目の前に作った『壁』に、人影はすぐ体を押し付け始めたが、『壁』はすぐに壊される事もなく、人影を刺激した様子もない。
「とはいえ、手札はそう、多くないのよね。
竜胆、あんたから見て、アレは人間?
それとも異邦人?
どちらでもない、怪異?
確か魔術の講義をいくつか選択してたでしょ、判別できない?」
『守らなくてはならない生徒』を後ろにかばうように位置取りを変えながらも。
『頼りになる常世の学生』としても、素直に助言を求める。
「一応、あの『壁』は直ぐには壊れないし、向こうにその気がなければ数分の間は維持できる。
だから、あんたから見て、逃げられる相手なら逃げる。
だけど、あんたがアレを危険だと判断するなら――素直に言うわね。
――竜胆、助けてくれる?」
そう、真面目な少女に、振り向かないまま意見と、助けを求めた。
■竜胆 襲 >
「(──不可視の防壁!)」
短い詠唱の後、黒い影との間に壁を展開してみせた先生。
これで逃げる時間を。ということかと思えば、そうではなく──。
見定める算段、とは。
「…、アレ、は……」
眼の力を強める。
見えてくるのは、先程の小さな黒い影と同じ。
ただただ、漆黒。何かが化けているわけでもなく、ただただああいう"モノ"
怪異、と呼称するに相違ない。
「人間では、ないと思います、そして……。
動きは緩慢に見えます…逃げた、ほうが───」
『谿コ縺呎ョコ縺吶♀蜑阪r繧ウ繝ュ繧ケ迥ッ縺咏官縺吝?縺ヲ迥ッ縺怜ース縺上@縺ヲ』
──黒い影から意味のわからぬ声が漏れる。
ただ、何を言っているかはわからぬとも…伝わるのは『悪意』そして『害意だ』
SNSでの目撃報告例がある"理由"だ。
これだけの悪意を見せながらも、一般生徒が生きて逃げることが出来る。
それほどに、この怪異は遅く、頼りない。
見え防壁に手をべたべたと擦り付け、やがてはガリガリをひっかくような素振りすら見せる──。
「…危険でないようには、見えないです」
助ける力がない、とは言わなかった。
…この場の判断を彼女に一任することで、責任の在り処を特定する。少々小狡いやり方。
とはいえ、アレを伸ばなしにすればいずれは…被害も出る筈。
ぐ、と黒い外套の下で手を握りしめる。その手の内には、武器の核となる黒い勾玉を秘めて。
■焔城鳴火 >
「――うん」
少女の声にか、黒い影の声にか。
鳴火は相槌を打った。
「悪いわね、それで、生徒を怖がらせるわけにはいかないのよ」
どちらに言ったのか――曖昧な言葉選び。
そして。
「あんたが言うなら、そうなんでしょうね。
竜胆、頼むわ。
――『助けて』」
そう、『壁』一枚隔てた影から目をそらさず。
共にいる少女へと、明確に助けを求めた。
■竜胆 襲 >
逃げることは選択しなかった。
"真面目"なこの先生なら、当然かと納得するところもあったけれど。
「──今日のことは、"内緒"ですよ、先生」
怪異の話が表に出れば、夜間の学校に好奇心で訪れる生徒も増えるかもしれない。
多分、この怪異は"一体ではない"から。
言うが早いか、
一足飛びに少女は怪異と女教師の間へと躍り出る。
黒い外套を翻し、そこから除く華奢な腕に、いつの間にか出現した黒い刃鎌を振り翳す。
僅か、背後から見えたなら、その眼は薄闇の中でもはっきりと視認できるほど、紅く輝いて───。
「っ…!!」
その動きに一切の迷いなく。
隔絶の刃鎌にて、悪意と害意の塊の様な人形の黒い影を、
女教師の展開した『壁』ごと、一刀の下、切り裂いて見せる。
『縺弱c縺ゅ≠───』
悲鳴のような、不快な声。
それが深夜の廊下に木霊すると共に。
切り裂かれた黒い人影は崩れ落ち───煤となって廊下にその跡を残していた。
■焔城鳴火 >
「――お見事」
ぱちぱち、と場違いな拍手を送って、教師は笑う。
「いやー、凄いわ。
見事な手腕――慣れてるわね?」
そんな事を、少しだけ困ったように言いながら。
煤の近くに落ちた、割れた亀の甲羅を拾う。
煤はともかく、こっちの『道具』は、うっかり他人に拾われるわけにはいかない。
「『見ざる』『言わざる』『聞かざる』――ってね。
まあ、『見ざる』は無理だったけど、大方は予想通りというか」
はぁ、と大げさに。
けれど少し嬉しそうにため息をつきつつ。
少女の顔を笑って見上げた。
「言わない、訊かない、撮らない、書かない。
とうぜん、事情があっての『内緒』なんでしょ。
あんたは――竜胆は信用できるし、私が言う事は何もない」
そう言って、両手軽く上げて肩を竦めた。
「――さ、それじゃあ次を探しにいくわよ。
どうせ、私に遭わなかったらやるつもりだったんでしょ?」
大方を察した上で、辞めさせる事もなく。
ただし、単独行動をさせる、ともいう事はなく。
あくまで一人の教師として、『生徒』のする事を見守るつもりのようだ。
■竜胆 襲 >
少女は、褒めの言葉には応えず。
まるでそうするのが自分にとって呼吸をするかのように当たり前の行為だったような…褒められることには該当しないのだと。
ただ、女教師が割れた甲羅を拾い終えた跡も、床に残った煤を見下ろしていた。
──先に斬滅した小動物の怪異と、残った煤の量に差を感じられなかったから。
「……予想通り、は困りますけど」
漸く口を開く頃にあ、あれだけ大仰な武器の姿は消え、眼の色も元に戻っていた。
「そうですね。訊かないでいただけると助かります。
…この活動を学園から禁止されても、困りますので」
信用できる、と口にする彼女。
まだ会って僅かだと言うのに。
自分が先生を信用したのは、その教師という立場もあってのこと。
なぜ彼女が自分を信用できるのかは、よくわからなかった。
そして、次、と言う彼女に、口を挟む。
「…いえ、今夜はここまでです」
手元には、懐から取り出した学生手帳。
その通知画面を見ながら。
「占星術で予測できた今日確認出来る黒い影は二体…。
一つが人型だったのは予想外でした、けれど……」
ふと、窓の外に視線を移す。
丸く、大きく、廊下を照らしていた満月が、この時期特有の厚く黒い雲に隠れようとしていた。
■焔城鳴火 >
「これくらいの『異常事態』はね。
想像できないと、私みたいなのは生きていけないのよ、今時ってのはね」
武器が消え、目の色が戻る様子まで見届けても、ふぅん、と興味深そうに唸るだけ。
それ以上、問いただす事はなく。
「もちろん、約束する。
けど、あんたも約束して。
きっちり、自分や部員の安全だけは守り切る事。
そうじゃないと、まーた宿直が私になるからね」
そう言ってから、懐からタバコケースを出して、タバコを一本口に加える。
火をつける様子はなく、薄暗い中に慣れていれば、それがシガレットチョコだとわかるだろう。
そして、それをまた箱から一本だけ突き出した状態で、少女の方へ差し出す。
「へえ、そうやって占いを使うのねえ。
オッケー、それじゃあ引き上げましょう。
はいこれ、助けてくれたお礼――」
少女の視線に釣られれて窓の外を見上げる。
月が隠れていく様子に、どこか不吉さを感じずにはいられないのは、先ほど討伐された怪異を見たがためか。
■竜胆 襲 >
「困りものですね」
こんなものを想定しておかないといけないなんて。
矢張り、祭祀局や風紀委員といった大きな組織だけでは足りない。
この怪異も、今はまだ大きな事件は起こしていない。
おそらくそれは、これから起こる───。
「───……」
自分や部員の安全を守り切ること、という言葉には、返事を返さない。…ただ。
「…自分の身は自分で守ります。
それが規律で、責任でもあるつもりです」
そうとだけ答え、それではと教室棟の入口に向け踵を返す。
差し出されたシガレットチョコには、片手を遮る様にあげて。
「…遠慮します。この時間の間食は太るので。…お気持ちだけで」
やんわり?と断りをいれて、先立って歩きだす。
深夜の廊下を明るく照らしていた月の光が少しずつ陰りを見せる中、夜の一幕は閉じる。
少しずつ深みを増す闇は、まるで学園の深夜に不吉な影を落とす様だった。
ご案内:「第二教室棟 深夜の廊下」から竜胆 襲さんが去りました。
ご案内:「第二教室棟 深夜の廊下」から焔城鳴火さんが去りました。