2024/07/15 のログ
ご案内:「第二教室棟 廊下」に八坂 命さんが現れました。
■八坂 命 >
夜の教室棟。
誰もいないはずのそこに、一人の女生徒がいた。
廊下にへたり込み、涙目である一点を見つめている。
そこにいるのは、影。
動きは遅いが、その分その身――影のことを身と言っていいのかどうかはともかくとして――に濃厚な悪意を宿している。
女生徒は腰が抜けてしまっているのか、へたり込んだまま距離を取ろうとしているが、その速度は目の前の影と似たり寄ったり。
やがて影の一部が細く伸び、鎌首をもたげた。
狙いを定める様にゆらゆらと揺れ、女子生徒の方を向いてぴたりと止まる。
一瞬溜める様に引き絞られた影の触手は、次の瞬間目にも止まらぬ速さで射出され、
「あぶない!!」
女生徒と影の間に飛び込んできた乱入者によって防がれた。
宙に浮かぶ四対の腕は青白い盾を構えており、それで触手の一撃を凌いだのだ。
「逃げて!
早く!」
影との間を盾で遮り、後ろの女生徒に叫ぶ。
一瞬呆けていた女生徒は、しかしすぐさま立ち上がり、転げる様に逃げて行った。
■八坂 命 >
「あっぶな……人死に出るとこやったやん」
女生徒がその場からいなくなるのを確認し、改めて影に向き合う。
影は何度か触手で盾を叩いているが、どうやら突破できないらしい。
とりあえず対魔バリアは機能するようだ。
ただしそれと戦えるかどうかはまた別の話。
どうしたものかとじわじわ距離を離していたら、触手の数が一気に増えた。
「や――っば!!」
一本は防げた。
あの様子では二本もまぁ大丈夫だろう。
しかし目の前の影は数えるのがバカらしくなるぐらいの本数を引き絞っている。
背筋に悪寒が走ったのを感じた瞬間、盾を構えたまま踵を返し、走り出した。
「っ、うぁ……!!」
が、駆けだそうと地面を蹴ったはずの脚が付いて来ない。
見事につんのめり、無様に地面を転がった。
何事か、と振り向けば、
■八坂 命 >
「――ぁ、」
射出された触手が二本、右のふくらはぎを貫通していた。
盾は端の方がボロボロになっていて、どうやら出力の弱いところを破られたらしい。
「、――っぎ、」
しかし今はそれどころではない。
自分の鼓動に合わせて破裂するのではないかという勢いで右足が脈動している、ような気がする。
今はまだ現実味がないからか、痛くはない。
だが、それは確実にやってくる。
地獄の底に通じている暗い穴から這い出てくるような激痛。
「い、ぎあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
それが脳を焼く。
我慢する、なんて選択肢は取れなかった。
右脚の膝から先の内側から数十本、数百本の針が飛び出してくるかのような激痛。
耐えられるわけがない。
■八坂 命 >
ぎちり、と。
その激痛ではない感触が右脚に走った。
反射的に右脚を見ると、他の触手が絡みついている。
「っ、ひ――うそ、や――ッッッ」
覚悟する間もなく、思い切り引っ張られた。
視界がぶれる。
最早叫ぶことも出来ない。
引っ張られた先、放物線の頂点で一瞬動きが止まる――止まった様な感覚。
激痛の中、触手の引っ張るその先を見れば、影。
大きく広がった影は、今日の獲物を歓迎するかのようで、
「っ、ざ、けんなあああああ!!!」
死への恐怖を打ち消すように、理不尽に叩き付けられそうになった死に激昂するかのように。
涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔で叫び、浮かぶ腕――タケミナカタを自分の飛ぶ先に移動させる。
そこでもう一度盾を展開。
顔から突っ込むことになるが、死ぬよりマシだ。
「ぐ、ぇ」
鼻から落下した。
めちゃくちゃ痛い。
死んだ方がマシだったかもしれない。
ご案内:「第二教室棟 廊下」に史乃上空真咬八さんが現れました。
■八坂 命 >
いや。
死ぬより全然マシだ。
影の上の盾から鼻血塗れの顔を引きはがし、直下のそれを涙目で睨み付け、
「消え、ろおおおおおおおお!!!」
盾を展開している一対以外の腕をそれに向ける。
掌が何かをチャージするように光り、一瞬それが途切れた次の瞬間。
六本の光芒が、影を焼く。
影の断末魔とも、光の射出音とも取れる音が響き渡り、同時に溢れる廊下を端から端まで照らすような光。
光が収まれば、影は文字通り影も形もなくなっていて。
荒い息をしながらそれを確認し、ずるりと盾から滑り落ちた。
「ぅ゛、ァ゛ァ゛ッ――!!
あんの、やろ――!!
おきにの、ブーツ、だめに、しやがって――!!」
どくどくと脚から血を流し、廊下の真ん中で呻く。
■史乃上空真咬八 > ――――漆黒の帳よりも昏く、禍月の天より紅く。
それは確かに、闇より出でて、確かな唸り声を上げる。
■史乃上空真咬八 > ――……暗闇の中で、蠢くものがあった。
それは毛皮?それとも黒衣?溶けて、混じって、余りにも曖昧な輪郭を引きずるようにしながら、
それはゆらりと、現れてくる。
……最初に見えたのは、赤い眼。
灯りのない彼方で、それは双眸を輝かせている。
白い牙が見えたような。 それとも、唸り声が先だろうか。
仄かに獣の匂いか、それとも、あるいは、あるいは――。
「…………そこに誰か居るのか」
――ドスの効いた、低い声が響き渡った。
■八坂 命 >
「――う、っそ、やろ……」
闇に浮かぶ赤い目。
微かな獣臭。
影ではないようだが、夜に溶ける様な真っ黒の輪郭が蠢いているように見える。
「、ぅ、ぐぅ、……っひ、ぎ」
涙が出てくる。
嗚咽をこらえきれない。
鉄臭いにおいがする。
血で鼻が詰まっているのだろう。
鼻の付け根?もずきずきするし、そもそもそれ以上に脚が爆発しそうなぐらい痛い。
「う、うぅ、ひぐ、ちくしょ、ぅ゛ぅ゛ぅ゛……!」
死にたくない。
こんなところで死にたくない。
涙をボロボロ流しながら、鼻から血をだらだら流しながら、それでもあがくように宙に浮く腕を三対、そちらに向ける。
ごめんね襲ちゃん。
僕ここで死ぬかも。
同じ部屋の住人になったばかりの部長に心の中で謝りながら、タケミナカタの掌から対魔ビームを撃つべくチャージを開始。
■史乃上空真咬八 > ――――チャージを開始すれば、幾らかの光がそこらを照らしもするだろう。
何より向けられた相手も、それが只ならぬ光と理解しているならば、即座に行動を取らざるを得ない。
「……オイ、オイ、……オイ」
――白刃二刀、短くも鋭いと判る小刀を握った両手が上がり、
「……"そのマズいモン"を向けンじゃねェ、人殺しになる気か、テメェは」
……近づいてきながら声を掛ける容貌が、光の下にさらされる。
黒衣――というより、ポンチョのような黒い長い首巻。
それに隠れていた顔を、前を下に引いて晒す。
赤い眼――獣と思われたその眼は、紅く、そして不機嫌に細められている。光が眩しく、眇めたために。
相手が誰かと理解するより先に、舌打ちしながら近づく足が早まった。
「ッ……派手にヤられやがったか」
――この際、多少抵抗されても良い。
そのまま近づき、直ぐ近くに跪きにいく。
■八坂 命 >
「――ひ、と……?」
その姿が明らかになって、気の抜けた様な声を漏らす。
自身の腕に照らされた姿は、確かに人だった。
「怪異じゃ、ない――、ッッ!!」
安堵。
ほう、と息を吐き、向けていた掌を下ろす。
次の瞬間、右脚の中で痛みが暴れ出した。
内側から鼓動に合わせて、肉を食い破って外へ飛び出そうとするような痛み。
がしゃん、と浮いていた三対の小さい方の腕が落ちる。
一対だけ大きいそれは、自身の腕があるはずの場所に追従するようになっている。
その大きい腕で右脚を抑え、廊下をのたうち回って。
「ァ゛ッ――が、ぁ゛っ、は、ぅ゛ぅ゛ぅ゛ッ、――ィ゛ア゛ア゛……ッッッ!!」
まさにのたうち回る、と言った表現がぴったりだろう。
歯を食いしばって必死に痛みをこらえようとするが、当然それでどうにかなるわけでもない。
ブーツの中が血でぐちゃぐちゃになっているのがわかるが、そんなことはどうでもいいぐらいに痛い。
■史乃上空真咬八 > 「حمار!!」
舌打ちと同時に、暴れる相手の患部を視る。
何かどうこうというより先に、
「少し堪えろバカ女ァ!!暴れると傷に障るッ!!」
強めの声だが、痛みを訴える場所の見当はつく。
――押さえる腕を掴んで退け、押さえる。
履いている靴に一言謝罪もなく迷いもなく、刀で紐を切るつもり、
このサイズと大きさなら脱がせて引っ張れば間違いなく痛いどころじゃない。
なるべく患部への接触を避けるなら、ぶっ壊して切り裂いて外すしかない。
――落ちている小さな腕の数々にも神経を張る。
なんかあったら自己防衛としてさっきのをこっちにブチこみかねない。
「……安心しろ、すぐ塞ぐ、落ち着け、大丈夫だから!!」