2024/06/08 のログ
ホロウ > 「制圧任務ですか」

確認するように復唱する。
苛烈な制圧任務。確かに、あの様子はその言葉が表現として適切であろう。
だが、その言葉で収まるようなものなのだろうか。

「それでは、お言葉に甘えさせていただきます。」

こちらを見つめるその眼に宿る熱量は、その様子や口調からは想像出来ないもの。
学生とは到底思えない、どうすればそんな眼を得られるのか。
少女を模した自分と大して変わらぬ背丈のこの少年は、どんな思いでいるのか、想像が及ばない。

「私は以前、別の都市にて、治安維持を目的とした観測を行っておりました。
私は道具ではありますが、治安維持や防衛という行為において自分なりの意見を持っているつもりです。」

常世島の、とは言わない。

「治安維持において、攻勢に出たり、時には命を奪わざるを得ない必要がある事は理解しております。
ただ、行き過ぎたものになってしまうと、必要以上の犠牲を出したり、不安を与えるものとなってしまうのではないかという懸念もございます。
そういった懸念について、あなた様が考えていないという風に言うつもりはございません。ただ、どのようにお考えかをお聞かせ願えないでしょうか」

治安維持と防衛に貢献してきた一個人としての感想。
様々な事象が人々に与える影響、バタフライエフェクトとも言われるものを幾度も観測してきた身としては、気にしてしまうものであった。

神代理央 >  
「君の考えは大いに尊重されるべきであるし、私もその通りだと思う。治安維持、という任務において過剰な暴力を振るう事は、時に民衆の支持を損なうものだ」

少女の言葉に頷く。
その出自や少女がどの様な経験をしてきたのか…は、兎も角として。一般論、或いは持論としての治安維持に対する意見。
其処に絶対的な正論。正しい考えなど存在しないのであれば、それを否定する材料は無い。

「唯、それはその治安を維持する区域。地域。地方。国家。それぞれの事情を加味し、最適な行動を取る必要がある。
……此処まで言っておいて何だが、私の行動と意見が常世学園という地方において最適である、と声高に主張する訳では無い事は、先に明言しておこう」

つまりは、自論はあるが押し付けるつもりは無い、と。
先に断りを入れた上で。

「治安維持に置いて私の様に過剰な暴力を振るうに対し、懸念材料として考えられるのは暴力を振るわれた側と、風紀委員会に守られている一般生徒の支持。この二点に尽きる」

「落第街と呼称される地域の住民は、違反部活の制圧に巻き込まれ、住居を奪われ、命を落とす。そうなれば当然、風紀委員会への敵意は高まるだろう。まあ幾ばくかは違反部活へその敵意を向けるかも知れないが…其処に至るには、我々による啓蒙活動が必要だ」

「次点で、一般生徒の意見。これは…いや、此処に常世学園の歪みが多少はある。学園の公式見解としては、そも落第街は存在せず。その区域に居住している者は、公式には存在しない。となれば、落第街での出来事を一般生徒に伝える公式な報道機関は数が絞られる。アングラな報道については、そうではないがね」

「さて。以上の要件を満たすに、類似する事案は多い。それが何だか分かるかい、ホロウ」

朗々と述べた少年は、其処で一息。
どうかな、と言わんばかりにじっと。少女の瞳を見つめている。

ホロウ > 少年の回答を、こくこくと頷きながら聞いていく。
投げかけた時点で最終確認的な意味合いの強かったこの問いは、少年がすらすらと回答を述べ始めた時点でその目的を達成している。
この部屋にいた風紀委員らを見ていても分かる事だが、自身の懸念が的を射たものであるならば彼には恐怖や軽蔑といった視線が向けられていたであろう。
だが、室内にいた新入生の彼らの視線にはそういった感情は殆ど見て取れなかった。不安こそあったが、それは少年に向けたものではないだろう。
統計や世論として数えるには恣意的なデータかもしれないが、過剰な懸念を向ける程の人物ではない事は分かっている。

であるから、少年が話を進めるにつれて少女の表情は納得と安心を表に出したものへと変わっていく。
だが、ここで話を切ってしまうのもコミュニケーションとして可笑しな話であるし、神代理央という人物を知る上で機会損失である。
更に言うならば、少年のやり方にいささか否定的である少女にとっては、ここからが本番でもあるとも言える。

「思いつくものとしては、難民問題や異邦人の受け入れについてなどでしょうか」

投げかけられた問に対し、少し間をおき、見つめ返しながら応える。
複数の立場の意見を折衷しなければならないトラブルは多数あるが、国際社会と大変容以降の現代において問題とされるのはこの二点ではないだろうか。

神代理央 >  
「その通り。まあ、難民問題を地球人の基準で考えていたのは20世紀の話であるし、今は異邦人との関係性もあるからそもそも難民、と呼称する事が色々と難しい時世ではあるがね」

大変容が起こる前。国境、宗教、民族。様々な問題で故郷に居られなくなった者達は、居場所を求めて彷徨った。東欧…バルカンの某国など、良い例だろうか。

「難民は、言うなれば元々居住している市民に彼等の保証という負担を強いる。更に彼等によって治安が悪化するなら、それは難民への悪感情へと成り得る。そして…こと、二級学生の立場とは、それとほぼ等しいものである、と私は考える」

居住権も市民権も持たない…謂わば、戸籍の無い住民達。
それは正しく難民と呼称するに相応しい者達では無いだろうか。

「しかしこの島では、社会保障の負担という点を生徒達が憂慮する必要は無い。何故なら、そもそも常世学園は、彼等の為に予算を割いていない。存在しないのだからね」

まあ厳密には予算が零、と言う訳では無い。
正式な手続きを踏めば生徒にはなれるし、社会生活を送る為の支援は生活委員会や各部活など、様々な手が差し伸べられている。

「と言う事は。国民…島の生徒達が憂慮するのはただ一つ。市民権を持たない…つまりは学園の管理外にある者による治安の悪化だ。この島はまだ平和を保ってはいるが、島外においては常世学園ほど平和を保っている国家は決して多くは無い。もしかすると、平和を求めて島へやって来た生徒もいるだろう」

「さてそうなれば。その様な二級学生と違反部活に対して『苛烈な制裁を行っている委員』がいる、という文字列の情報があったとしても」

「それを我が身に置き換える様な強烈な何かが無ければ。二級学生を守るよりも、自分達の生活の安寧を守る事に重きを置く。それは当然の事だ。此の島の平均年齢を考慮すれば、むしろそうで無ければ、と言うものだよ。かつて、我々よりも人生経験と叡智に優れた様々な国家ですら、そうであったのだから」

見て見ぬふり、とまでは言わずとも。
我が身を削って難民を救うよりも。難民によって自分達の生活が脅かされる方が人間は怖いのだ。
そしてそれは、決して悪では無く。そしてそれが、人間の感情であるのならば。

「だから私は、違反部活という生徒達の日常を害する存在を排除するに当たって、二級学生を巻き込む事を厭わなかった」

「彼等は常世学園の保護を求めない。或いは、保護出来ない理由がある。であれば、その心身を私達が保証する理由は無い」

「勿論積極的に害する理由も無いが…違反部活を殲滅する事が、学園の治安を守る為に必要な事であれば」

小さく、吐息を吐き出して。

「……そう思ったから。いや、そう思っているから。私は君が見て来た通り、様々な人間を巻き込み、殺してきた」

「…これで満足かな?」

ホロウ > 「常世財団と言えど、神ではありませんからね。」

他世界線の常世と今いる常世は別の常世ではあるが、監視者たる自分がホルス(天空神)ではなくホロウ(見えざる目)と名付けられた点においても、常世財団が神ではない事を表しているのではないだろうか、などと思う。
なんなら、全ての者を救う事は神であっても難しいであろう。
そうではない常世が犯罪者やそれに近しい者達を保護したり、多くの予算を割くことは現実的に難しいであろう。

「説明には満足致しました。あなた様の仰る通りであると思います。
最大多数の最大幸福という言葉もありますし、人々が自分の幸せを第一にすることも理解できます。おそらく常世財団や風紀委員会、そしてあなた様も出来る限りのことを為した上であのような行為に至ったのですね」

「パフォーマンス的側面もございましょう。罪を犯すという行為の重篤さを周知させ、自分たちを守る戦力を直感的に理解させ安心を促す。」

満足したように、数度頷く。
そして、再び顔を上げる。

「説明には満足しました。あなた様の行動を妨げたり文句を言うつもりはもうございません。
何より、私の意見とあなた様の意見は共存すると判断致しました。
ですので、一つ提案させていただけないでしょうか」

瞳の照準が少年の目を捉える。

「現在、私は風紀委員会への所属及び観測情報の提供による協力を行う事が決定しています。その上で私の行動を監視する人物が配備される予定です。
監視と言っても、その実態は直属の上官のようなものです。
その役割は、現在誰が配備されるか決定しておりません」

監視対象『Unknown』。形ばかりのその通称とは反し、少女に課せられた義務や制限は監視対象というよりかは都合のいい道具。
それを自由に振るえる役職を誰に任せるのかはまだ決定していない。

「もしあなた様がよろしければ、私の監視役となりませんか?
発見、追跡、監視。場合によっては移動や補給においてもお力になれます。
殲滅の達成率の改善と、二次被害の防止などにもお力になれると思います」

力強く語る。少女の目的は後者が主だが、前者についても目的だ。治安維持において障害となる対象の完璧な排除に貢献することは望ましいと言える。

「いかがでしょうか」

神代理央 >  
「………ふむ」

少女が理解した事と、意見を違えなかった事に小さく頷く。
…が、次いで投げかけられた言葉には、少しの思案顔。

「…君の提案に大きな異論は無い。しかし、私を上官…と、この際呼称するが、そうするに当たって、君の精神衛生上に関する懸念事項が一つ」

情報は常に武器だ。そういう点では、彼女の様に常に情報という点で先手を取りやすくなる能力の持ち主は『道具』としては確かに欲しい。
しかし、自身の任務の性質を考慮すると、彼女がそれを是とするかどうか…は、確認を取らなければなるまい。

「私は先程も言った通り、違反部活とは無関係な二級学生の被害を、制圧任務の際に大きく考慮しない。全く、とは言わないし規定通りの保護は行うが…"他の風紀委員"ほど、優しくは扱わない。人権について強い敬愛を持っているなら、私は良き上司足り得ない。私は任務の遂行を是とする人間だからな」

「次に、そもそも私が前線に出る機会は恐らく君が見ていた期間よりも少なくなるだろう。最前線で2年戦った。そろそろ次を育成しなければならないからな。積極的な戦闘行動を求めるなら、私よりも適任の委員がいるだろう」

つまりは。自身に付けば、時には非道な作戦に従う可能性があると言う事。そして、そもそも以前ほど前線に積極的に立つ立場では無い、ということ。
その二点を、彼女が受け入れられるかどうか。それは確認しなければならない事項である。…それと、もう一つ。

「…それと。私は既に監視対象の生徒を一人、保護下に置いている。私を直属の上官に、と言うのであれば、その生徒とも好意的なコミュニケーションを求めたい所でもある」

そう言えば彼女は、とこコレなるイベントに出場するのだろうか…と、ふと走りかけた思考を元に戻して。

「これらの事項を聞いてもまだ、君の気が変わらないと言うのなら。喜んで私は君の主になろうじゃないか」

謂わばコンセンサス。
上司と部下、という関係性だからこそ、ミスマッチを防ぐ為の対話。彼女の能力は欲しいが、彼女が本当にそれを望むのかどうか。
利己的な事を言えば、此方の都合を聞いても尚、自身の下に付いてくれるのかどうか。

力強い言葉と共に宣言した彼女に対するのは、その意思を確かめる様に見つめ返す紅い瞳。
細波も立たぬ紅が、じっと君を見つめている。

ホロウ > 「はい、なんでしょうか」

精神衛生上、というからには何かしらショッキングな事象なのであろうが、基本的には問題ない。
見た目は少女でも、25年間様々なものを見てきた。それこそ、ショッキングな出来事は少なくないし、救えなかった人もいれば未然に防げなかった事もある。それらを乗り越えてきた経験がある以上、恐らくは大丈夫だろう。
気持ち強気で臨む。

少年の言葉を最後まで聞く中で、とある箇所で少女の表情が少し曇る。テストで復習してこなかった部分が出題された時のような顔である。
その部分とは、もう一人の監視対象についての話。
その点について数秒ほど視線を下ろして考え、再び視線を上げて話始める。

「私は元々公的機関の道具としての役割を果たしてきた観測機です。人権を敬ってはおりますが、それが任務遂行を妨げるようなことや、優先順位を違える理由とはなり得ません。先ほど申し上げた二次被害の防止という点についても、任務遂行の要件を達成したうえでのこととなります」

私情と任務は別として考えて活動してきた。公私混同は島の治安を守る為にも最も避けるべき事の一つである。
それに、言ってしまえばこうして自身の配属先の希望を述べている時点で私情側も受け入れていると言える。
それに、彼の生み出す惨状は遠目でもじっくり見えている。それこそ、地に伏した違反者が踏みつぶされ地面と同化する所も見たことがある。

「前線へ出る頻度についてですが、私は戦闘行為を求めている訳ではございません。
私はあくまでも観測機ですので、危険地帯の監視や戦況の把握、伝達などを行う役割が主となります。
それに、あなた様が直属の上司となったとしても、私の主な任務は観測で、私の属する先は風紀委員会となります。
ですので、あなた様が頻繁に出撃しないのであれば、風紀委員会としては好都合だと思われます。
それと、私の目的は島の治安維持、より具体的に言うのであれば、最小被害で事態を鎮圧するための情報提供です。
この目的をあなた様に従う事に当てはめて言葉を選ばずにお伝えするのであれば、あなた様の不要な殺しを可能な限り減らす事にあります。
これは、あなた様に限った話ではありません。島内で発生するトラブルなどを可能な限り速やかに、最小の被害で解決することも含まれます。
もし殺人を愉悦と考える様な風紀委員会の方が居た場合はまた考えますが、それまではあなた様の元で観測機として活動したく思います。」

観測機としての目的を達成する事が第一目標。それも違えるつもりはない。
今知り得る範囲で最も過激なのは目の前の少年だ。であれば、彼の懐に居ればそれを抑制する事に尽力出来る。

「最後の一点ですが、少々確約できかねます。
私自身はその方と好意的に接する事に異論はございません。ですが、その方について私は一切存じあげません。」

一切合切が不明な相手との好意的なコミュニケーション。それは、一方的な希望では叶わないと思われる。
その点が唯一の懸念事項と言えよう。

「ですが、私としてはその程度で目的遂行の意思を違えるつもりはございません。
以上を踏まえたうえで、あなた様がよろしいのであれば、風紀委員会に私の意思を伝え、正式な伝達や意思確認を行っていただく所存です。
風紀委員会の神代理央を監視対象『Unknown』の監視役とすることを希望すると、そう伝えようと考えています」

再び、両目の照準が少年の眼を捉えた。
逃すまいと言わんばかりの、正確でどこまでも見透かすような瞳で少年をのぞき込むだろう。

神代理央 >  
さて少年の方はと言えば。
少女の表情と回答にこくりと頷き──一瞬、少女の表情の変化に僅かに首を傾げつつ──彼女の言葉の後に続く。

「…了解した。君の理念や目的、及び私の下に付く場合の行動指針は、君が告げた通りで構わない。
また、細かな指示が無い場合は自由行動で構わない。監視役になったからといって、必要が無ければ君の自由を制限するつもりも無いからな」

「監視対象については…まあ、そうだな。後日説明しよう。取り合えず、円滑なコミュニケーションの意志さえあれば良い」

訥々と告げる言葉は、事務的なもの。
彼女の言葉と目的を理解した上で、それを認める…それもまた、仕事の内だと言わんばかりの────

「……だが、努々忘れるなホロウ。私の下で、私を縛ろうと言うのなら。私の傍らで、私の戦禍を鎮火しようと言うのなら」

一歩、少女に近付く。
まだ数歩分の距離はある。ただ一歩、近付いただけ。
此方を見据える少女の両眼を、にこり、と笑って見つめ返した少年は。

「私と共に、戦禍で焼かれる事を…覚悟しておくのだね」

それは、彼女の言葉に対する肯定の返事。
それを表す様に、右手を…差し出した。

ご案内:「第四視聴覚室」から神代理央さんが去りました。
ホロウ > 「ご了承いただき、ありがとうございます」

軽く頭を下げ感謝を伝える。
自分の述べた目的や行動理念は、行動を制限するものといっても差し支えないものだ。
多少意見されることは覚悟していたのだが、意外にも彼はすんなりと受け入れた。
これは予想だが、彼はこういった事が初めてではないのではないだろうかと思う。
自分のような意見を持つものは、そう珍しくもないだろう。そして、それを伝える者が二年もの間不在であったのかは疑問である。
もしこの予想が正しければ、彼の行動を制するのは想定をはるかに超える時間と労力を要するのではないだろうか、そう予測される。

「はい、勿論、覚悟の上です。これからよろしくお願い致します。」

差し出された右手を握り返す。
少年の意思を支え、意思に従い、その方向を正す。それを体現するかのように、しっかりと力強く、包み込むような握手を交わすだろう。
投げかけられた笑みは返さない。その笑みは宣戦布告と受け取る。彼にとってはそういう訳でもないだろうが…こちらはそう受け取る。
侮るなかれ、この意思を。睨んでいると言われても否定できない程鋭い目つきと、僅かに上がった口角で応じてみせた。
それは、己を道具と自称した身には到底似合わぬ、強い自我を貫こうとするものであった。

ご案内:「第四視聴覚室」からホロウさんが去りました。