2024/07/01 のログ
ご案内:「第三教室棟 食堂」にイヴマリーさんが現れました。
イヴマリー > ━━目的地到着。危機感知件数7、接触事故ゼロ。

(ノープロブレム、通常歩行ペースでの実所要時間を記録しました)
音声発話するでもなく、メモリに1つのログを生成。
3分12秒。予測演算比で40秒の遅延。

「食堂とはこうも混み合うのですね」

アイカメラに映った長蛇の列。
ぶつかる事を厭わぬ速度で横を走り抜けていった人波、
それらの行きつく場所は演算通りここで相違なく。

食堂、文字通り食事をする部屋。
あるいは、いろいろの料理を提供する店。
様々な国、異世界にすら配慮を持った多様な文化の食事をとれる場所。
摂食行動の不要な私には、無縁の場所。

ただ、その場所は賑やかで。
一心不乱に麵をすする人、初めて頼む料理にどう手を付けて良いのか分からず悩む人。
その殆どが、喜びに近い感情を表情から読み取る事ができる。

例え場違いでも、その様子を見る事ができるのは、良い事だった。
ヒトが嬉しそうにしている事は、私たち(ノイド)にとっては最重要な要因なのだから。

イヴマリー > 新規受信メッセージ一件。

『要約内容をインプットしてダイアログ(集合データベース)に基づく返信文面を自動生成します』

並ぶ人の列から離れて、ただその光景をアイカメラに映していた所に通知。
自動化されたルーチン用のプログラムが作動するのをただ看過しそうになって、差出人に気が付く。

(━━駄目です、原文のままライブラリに転送を。
自動生成した文面は廃棄してください)

リベルダージ(オーナー)からの定時連絡ではありません。
大切な友人からのメッセージなのだから、私自身の言葉で返す物です。
定石や慣例などでは無く、私が返したいのです。

文章を生成━━チェック。問題無し(ノープロブレム)。送信を実行します。

流れる時間はほんの僅かで。
生成された文面はデータのそのままに、僅かばかりのラグを伴ってあの人に届くのでしょう。
近況報告と言っても差支えの無い内容、ただそれだけの事。
それだけのことが、ルーチンではない作業を私に選ばせてくれる。

これをヒトは嬉しかったと、形容するのでしょうか。
気持ちや心に理解は及ばなくとも、席に着き顔を綻ばせながら食事をとるヒトたちのように。
心を動かす何かを、きっと私は享受させてもらっている。

女生徒 > 「あの……ここって並んでます?」
イヴマリー > 恐る恐ると言った具合にかけられた声。
振り向けば困った様子の見知らぬ生徒。

「あ……申し訳ありません、人を待っていただけで。
 並んでいるわけではないのです」

シチュエーションに対して自動生成される都合の良い言葉の発話。
二コリと微笑み、改めて端の方へとズレる。
見惚れる、とは少し違いますが見入ってしまっていたとはいえ、ややこしい位置に居た。
ヒトに迷惑を、かけてしまった。

それは、良くない。

女生徒 > 「あぁ、それなら良かった。
勝手が分からないって人も少なくはないから、
何処に並んでいいのか分からないのかなって」

イヴマリー > それじゃ、と。
そう言って彼女は去っていきます。

円滑な整列を阻害したことを咎められたのだと、思っていたのですが。
邪魔になっているからどけと、あるいは前に進めと暗に申されているものだと。

「━━分かりません」

図らずも親切に、されました。
そんなに私は、右も左も分からないように見えたのでしょうか。

(ライブラリの映像データにアクセス。
5分前からの私のカメラデータからシミュレートした立ち姿の出力を)

12倍速で再生した私の振る舞いは━━いえ、やめましょう。
リベルタージへ転送するデータにはプライバシーの侵害が発生する内容があったと、閲覧規制をかけます。
私たちAIは学習するものです。
自らの不名誉を隠すくらいの小細工を覚えた次は、怪しくない程度に様子を伺う術を学びましょう。

……急務です。

ご案内:「第三教室棟 食堂」からイヴマリーさんが去りました。