2026/02/24 のログ
武知 一実 >  
「ドンピシャだな、流石は本職――」

強烈な風切り音が頭上へと向かい、蜘蛛の脚を捕えた。
突然の事に理解が追い付かずに墜ちて来た蜘蛛へと、振り上げていたバットを振り下ろす。

――纏わせた雷は、厚く、重く。
前みたいな刀の刃じゃなく、今度はもっとデカい大剣をイメージして。

「これで、(しめ)ェだァァァ!!」

バットが蜘蛛型の影に触れるより一瞬先に、雷の刃が届く。
そのまま、およそ殴打には似つかわしくない音と共に影は両断された。

「――フゥー。 ナイスアシスト、助かった」

親玉の影がやられたことで、無尽蔵に湧き出ていた小影も霧散していく。
飛び掛かって来たのを吹っ飛ばしてたから気付かなかったけど、小さい方もやっぱ蜘蛛の形してたんだな。
一勝負終えた感慨に浸りつつ、オレは手助けしてくれた女へと向き直る。

……ってやべ、祭祀局って事はオレ完全に部外者じゃん。
風紀程じゃ無ェとは思うが、怒られ案件では? このまま逃げた方が良くねえか?

アリスブルー >  
――しかし、巨大蜘蛛とは懐かしいですね。
 昔、ダンジョンを探索していた時など、よく見かけましたが。

無論、ああいった類の蜘蛛と、今回の蜘蛛は全くの別物ではあるのだが。 

 
「ありがとうございました」

全てを見届けた後、深く腰を折ってお辞儀するエルフ。

「本日はオフでしたので、近くに買い物に来ていたのですが、
 穢の気配がしたもので……何かあってはいけないと駆けつけた次第です。

 まさか既に対処していただいている方が居るとは思いませんでしたが、
 お力添えできたようで嬉しいです。
 
 きっとこれも、神が導いてくださったのでしょう」

先まで戦場に立っていたとは思えないほどに、落ち着いているエルフ。
青年の方を見やれば、柔和な笑みを見せる。
もし慈しみが光として目に見えて存在しているのなら、
このエルフの周りはきらきらと輝いていたことだろう。

「お名前を伺ってもよろしいでしょうか?
 祭祀局の方……ではないです、よね?
 もしよろしければ、正式に祭祀局で働いてみるなど、いかがでしょう?
 穢の探知も含めて、大変素敵なお手並みでしたので」

どうやら怒るつもりはないらしい。寧ろ、エルフはスカウトの為に一声かけるのだった。
一切の悪意も陰もない、輝く笑みだ。

武知 一実 >  
「ああいや、礼を言うのはこっちの方だ」

一人では走査する暇が作れなかった。
この女――アリスブルーだったな確か――が居てくれたからこそである。
……まあ、だからこそと言うべきかもしれない問題も一つあるんだが、それはそれ。
まあ、今は祭祀の仕事を横取りしちまったんじゃないか、って問題の方が――

―――お? どうやら今回は祭祀と競合した――って訳じゃなさそう?
なら怒られる心配も無ェか、こいつはツイてた。日頃の行いって奴か。

「休日のところ、仕事でもねえのに来るなんざ随分と熱心だな。
 そのお陰で助かったてのも事実なんだが……神、ねぇ」

――何となく、手放しで喜べない。 いや、他人の宗教観をどうこう言う気はねーんだけども。
それはそれとして、コイツ……何か妙にキラキラしてる(まぶしい)気がする。
あんま関わった事無いタイプだな。

「あ? 名前?
 一実――武知一実、かずみんって呼んでくれ。
 あ゛ー、せっかくのお誘いだけどよ、基本的に一人で()る方が性に……まあ、能力的にも合ってんだよ。
 褒めて貰ったこと悪いが、ありゃ雷――電気で辺りをスキャンしたってだけで、その――」

走査は範囲内を対象無差別に行うもんで。
さっきみてえな影なら魔力妖力の類、人間なら肉体をスキャニングして目に見えない範囲の情報を得る術だ。
で。言うまでもなく、さっきは範囲内にアリスブルーも居た訳で。

「黙ってても後味悪いから言っとくけどよ。
 アンタの事も、頭の天辺から足の爪先まで、しっかり把握しちまってんだよ」

だから、極力味方の居ないところでやりてえ、っていう。

アリスブルー >  
「まぁ、私にだってプライベートはありますが……
 それでも、人に害をなす穢があれば祓う。
 これは祭祀以前に、私の務めですから」

自身の両の掌をぎゅっと合わせて握って、胸の前に置く。

「ありがとうございます。
 なるほど、かずみんさんはお一人で怪異に対処したいのですね。
 それですと確かに、共同作戦もよく展開される祭祀局では、働き辛いかもしれませんね。
 
 そうとは知らず、出過ぎた真似をしてしまいましたね……申し訳ございません」

と、両の手を握ったまま青年の方へ。
ととと、と小走りに近づいて、改めて腰を深く折って謝罪をした――のだが。


「へ?」

もし慈しみが。母性が。
輝きとして見えていたとしたら。
それは今この瞬間に全て消え失せた。

「え、ええええーーっと。
 私の、てててて、天辺から、つつつつつ爪先? 爪先ま、で?」

そうして、自らの頭の上に手を置いた後、すす、と手を沿わせていって。

ぷるぷる振るえていたエルフは何か思うことがあったのか、顔を真っ赤にして飛び退る。

「あのその、あの、し、ししししし失礼いたしましたーーーーっ!!!!
 ごめんなさい! わ、私ったらなんてはしたない!
 ああ、その……色々忘れてください! それではーーーー!」

それだけ早口で伝えれば、ばびゅーん、と。
凄まじい勢いで走り出すエルフであった。

武知 一実 >  
立場に限らず、個人の務め――か。
まあ、コイツに限らず大半の生徒はそういう気概で行動するんだろうとは思う時は、ままある。
前に屋上で会った女生徒もそうだったな。
じゃあ、オレは? 今はあくまでもバイトとして怪異と喧嘩してるわけで―――

そこまで考えて、考えるのを止めた。
志なんざ他人と比べるもんじゃねえ、相手に失礼だ。

「いやいやいや、謝るのはオレの方で。
 前以て一言伝えときゃ、良かったんだけど――」

ノンデリ。
時たまにダチから言われる言葉をふと思い出した。
それとほぼ同時に、アリスブルーから慈しみの光(なんかまぶしいの)が消えて、顔がみるみる赤くなっていく。

「ああっ、やっぱそうなるよな、悪い!
 けど、何のフォローにもならねえとは思うけど! 別に恥ずかしがるような、身体(もん)じゃねえと思うぞー!」

あーあかずみんがまたノンデリかましたよ、とダチの声が頭で木霊する。うるせぇ。
脱兎のごとく駆けて行くアリスブルーの背に向かって声を掛けるが果たして届いてるかどうか。

「……学校とかで顔合わせるのがちょっと気まずいな」

はぁ、と溜息と共に肩を落とし、オレもその場を後にすることにしたのだった――

ご案内:「第三教室棟 廊下」からアリスブルーさんが去りました。
ご案内:「第三教室棟 廊下」から武知 一実さんが去りました。