2025/01/09 のログ
桜 緋彩 >  
「ええ、実戦剣術を謳って、実戦の許される場で。
 それでも尚、暇潰しに興じる余裕のある流派()です」

刀の鍔元に掛けられた左手が、音もなく鯉口を切る。

「――とは言え、まぁここでグダグダと舌戦ばかり繰り広げていたところで、それこそ退屈の極みでしょう。
 では、せっかく譲ってもらったことですし、こちらから――!」

ぬるり、と。
あまりにも滑らかな動きで刀を抜き、そのまま胴薙ぎの抜き打ち。
速い、と感じる動きではないだろう。
しかしその速度は実際凡人のそれではなく、大きな才にたゆまぬ努力を上乗せした神速の抜き打ちである。
更に多重に具現化した刃を一つに束ねた「神槍」でのそれは、ただの抜き打ちとは思えないほどの存在感をも放っている。

霜月 霈 >  
「余裕、ね」

「それって言い換えると慢心とか侮りってヤツなんだけど──おっと」

いい気性だ。
なんだかんだ言っても斬り合うのが大好きな気性。
剣やってるヤツなんて根底はそんなものだ。覆い隠す面の皮が厚いか薄いかの差でしかない。
それで言えば──薄いほうだ。
嘲笑う少女は、そもそも被ってすらいないが。

神速の抜き打ち。
どう考えても即座に構えることも出来ない斜な立ち方の少女は、それでも獰猛な笑みに口元を歪めた。

「──はっ」

放たれた幾重にも重なる剣閃。
類稀な才気はそれを一瞬で見抜く、そして───。
遅れて鞘鳴りが響き、抜き放った剛刀一閃。ただの一撃で多重に具現化した一撃を纏めて叩き払って見せた。
ただの一撃が打ち合った様にしか見えぬにも関わらず、無数の斬撃が同時に叩きつけられたような音と火花が散る。

大いなる才気、弛まぬ努力。
才能がある上に努力まで必要とは、大変なことだと嘲笑う様な、本物の天賦の才が抜き身となった。

「いいね。安い挑発よりよっぽど退屈しない」

稀に見る体幹の持ち主。打ち合った姿勢のままに、異様なる速度での戻し──そして。
明確に"心臓"を狙い、最速の突きを繰り出した。──それは、寸で止めるような気配など、一切感じさせぬものだ。
万が一の事故?
そんなもの、剣術家が立ち会えば無限に起こること。

桜 緋彩 >  
ただ一合の打ち合いには思えない轟音が響く。
ガシャァンとガラスをまとめて叩き割った様な音。

「ッは!」

その音を聞いて、彼女の反応を見て、笑う。
牙をむき出しにした猛獣のような笑み。
その通り。
剣を振る奴なんざ、結局のところ斬り合いが大好きなのだ。

体勢を戻すのはこちらの方が若干遅い。
体感と膂力に任せたあまりにも強引な体捌き。
心臓に迫る刃を、僅かな足捌きと刀の操作で受けた。
こちらの刀の上をあちらの刀を滑らせるように逸らしていく。
身体で劣るこちらは、その遅れを技術で持って埋めて見せる。

暇潰しだ(退屈はさせない)と言ったはずです――!」

そのまま神槍を纏った脚で踏み込んで。
自分よりも膂力で勝る相手に力押しの勝負を挑む。
相手の刃を外へ逸らしながら、今度はこちらの刃が彼女の首元へ迫る番。

霜月 霈 >  
普通の刀よりも圧倒的に重い隕鉄刀。
それを容易く操る天性の体幹の良さ。
そして野性じみた、直感的な当て勘。
それらを以て、この少女剣士は初見の技にすら易々と対応する。
技を振る側として溜まったものではない筈だ。
しかし、眼の前の相手は気性のほうがそれに勝つらしい。

「──おや、当たると思ったけどな…。
 ああ嘘、ちゃんと峰打ちにする予定だったから」

突きだが。
付け加えたようなどうでもいい言葉もまた、相手の神経を逆撫でる小道具。
それで乱れる相手は案外多いのでとりあえずやっておくのだが。効果の程は微妙だった。

ギャリ、と刃同士が競り合う。
太刀を滑る刃、その向かうベクトルを巧みに操作し鍔迫り合いへと持ち込んだ。
野生、直感的な剣士、と思わせて技巧も確かに練られている。
霜月流正統後継者の姉を狙う妹、匠な技巧がない筈もない。
もっともそれは、姉や目の前の剣士のように鍛錬で得たものではなく、全て実戦で磨かれたものなのだろうが。

「──そぉ、らっ!!」

押し合いは有利。
それを理解しない相手でもないだろう。
次の判断を向こうがする前に、鋭い前蹴りを放つ。
片足立ちになろうがまったく揺らぐことなく、放たれる蹴りもまた十分以上の威力の乗った一撃。
当たろうが当たるまいが、それで距離が離れれば、再び即座に突きの構えだ───狙うは、顔面。
首を捻れば避けるのは容易い。見切られれば確実に避けられるだろう一撃を──あえて往く。
どう対応するのか、それをしっかり見させてもらうぞという意思を隠そうともせず、それは放たれる──。

桜 緋彩 >  
「ちゃんと当てないと当たりませんよ」

鍔迫り合いに持ち込まれた。
しかし重い。
刀もそうだが、力も、その力の掛け方も。
才能の塊と言う言葉ですら生ぬるいようで、全く羨ましいにもほどがある。

「ふ、ンッ!」

押し込まれるところに飛んでくる蹴り。
後ろ足と腹筋に力を込めて腹で受けるが、それでも後ろに押し出された。
離れていく相手が取った構えは再度突きの構え。
こちらもズドンと後ろ足を踏みしめ身体を支え、

「うォらァ!!」

同じ軌道、同じ狙いで突きを放つ。
纏うのは刃ではなく実体化した刀身。
神槍二式の切っ先が隕鉄刀の切っ先と衝突し、お互いの刀の反りで外側へ逸れていく。
先ほどの様に一撃で全て叩き割られることはないが、それでもガラスを続けざまに叩き割るような音。

霜月 霈 >  
お、結構本気で蹴り込んだにしてはいい手応え。
力んで、重心を落として、しっかり筋肉緊張させて受け止めたか。
避けてくれたらもう少し優位を以て突きを撃てたんだけど。

「(──それも理解っての即断即決、最良の判断か。やる)」

笑みが深まる。
しっかりと斬る覚悟で打たれる空気感といい。
これだ。最低でもこれくらいじゃないと、私の才能は成長してくれない

雄々しい叫びと共に、殆ど同時に繰り出された突き。
互いに衝撃に弾かれる形で、元の距離感へと戻る。
壮絶な音がした割に刀は無事。頑丈な本身で全く助かる。

「──重ね重ねの一刀。特異な剣術だな。これが…」

桜華刻閃流か。
東洋、極東の地ではポピュラーな『気』の概念を取り入れている。
それを利用したのがおそらく、先程から繰り出されている攻撃。
隕鉄刀の重量と、最大限に発揮される力点を叩きつけることで相殺してはいるが。
同時にいくつもの斬撃を受けているような重みだ。初見で見抜ける者は自分以外にはそういないだろう。
常に自分の有利な間合いを意識した足運びといい、実戦を謳うだけのことはある。

「それ、収束だけじゃなく乱撃にも使えるんだろ?」

纏めて叩きつけることが出来るのなら、分散させられない道理はない。

「──それも見せてもらおうかな」

更に深く笑みを浮かべ、床を蹴る。
これだけの踏み込みでも床板は無事。さすがは神技武練塾の道場だ。
繰り出すのは、とてつもない重量を持つ隕鉄刀とは思えぬ程の神速の連斬。
ランダムな軌道で繰り出されている…ように見せて、それは的確に頸、髄といった人体各部の急所を的確に狙って繰り出されてゆく──。
無論、寸止めの気配はない。
在るのは──本来死合いに持ち込むべき鬼気迫る剣気のみ。
当たった、としてもそれを背負う覚悟くらいは刀を握る時点で出来ている。そう語るかの如く。
……まぁ、姉にはこっぴどく小言をもらうんだろうけど。聞き流せばいいよね。

桜 緋彩 >  
激しい音は全てこちらが重ねた刀身が砕け散った音。
どんな強度をしているのか。
そしてそれだけの強度だ、重さも相当なものだろうに。

「全て持っている相手と言うのは、心底嫌になる――!」

言いながら、歯をむき出しにして笑っている。
至近距離での短い打ち合いが終われば、今度はお互い足を使っての機動戦と言った様相。
僅かでも反応と判断を誤れば命の一つや二つはあっさり落とすような斬撃を、しかし紙一重で見切って避けていく。

「初見でここまで見切られたのは初めてですよ……!」

刃や刀身を重ねているだけに留まらず、それの対になる嵐剣の存在にまで気付いている。
確かに少し考えればわかる道理とは言え、それを斬り合いの最中で即辿り着いて見せるとは。
剣戟の合間を縫うように、こちらも刀を振るう。
その度に虎の爪のような複数の斬撃や、渦を巻くような刃、振るう刃に纏わり付くような剣閃の嵐などを繰り出していく。
神槍を纏う脚で無理矢理なストップアンドゴーで強引な方向転換を繰り返しながら、的確な急所への攻撃を避けつつ、矢継ぎ早に繰り出し続ける剣戟。
お互いにかすり傷一つ負わずに動き続ける様子は、彼女の言う「努力した程度の凡才」にはどう見えるのだろうか。

霜月 霈 >  
「イヤになる? そんなカオ、してるように見えないけどな──!」

周りでははたと気がついた塾員達がどよめき、距離を取って遠巻きに避難していた。
広い道場の広範囲で打ち合う剣戟と火花が散り散りに咲いて。

「霜月流に比べれば幾らか技がシンプルだし、何より」

「アンタの気性が、読みやすい」

剣士としての在り様こそ違えど、互いに通ずる部分が在る。
そして、天性の才能の上に努力を重ねた姿は──常に背を追う、姉と同じ。
唯一認める姉以外に土をつけられることなどない。
その圧倒的な自負心と、己が姉に対する絶対的信頼───強い、ただそれのみを、
目の前の相手にも感じているからこそ、そしてその気性が似るからこ、驚異的な速度での読みと後の先が成立する。

「──ふっ!!」

互いにかすり傷ひとつつけられない攻防。
瞬間的に太刀を収めたかと思えば拉致を空けるかのように、抜刀にて振り払う一閃。
その一閃には───多重の剣閃が重なり、乱れ咲く斬撃をまとめて一刀で薙ぎ払った。
それは、硝子が重なり砕け散る様な音と共に。

遠巻きに眺める塾員達は各々その攻防を見逃さぬよう静かに、邪魔せぬよう立ち見ている。
彼らもまた、凡夫と詰られようと、彼らも貪欲に最強を目指す者達には違いないのだ。

桜 緋彩 >  
「いやいや、これでも随分と辟易してますよ?」

満面の笑みで答える。
ここまで喰らい付く相手は久しぶりだ。
否、喰らい付いているのは自分だろうか。
どちらでもいい。
一つ間違えば首が落ちると言う刃のぶつけ合いは、やはり楽しい。
気性が読みやすいと言うのはこちらも同じ。
とにかく最短距離で命を断ち切る、その獰猛なまでに純粋な殺気が心地いい。
一瞬後ろに飛び退き、同時に放った嵐剣は、一瞬の溜めの後の居合により一瞬で打ち払われた。
見ただけでここまで完璧に模倣――いや、もはや習得と言ってもいいだろう――されたのも初めて。
しかし、そうだろうなと言う予感めいた思いもあってか大して驚きはしない。
彼女が鞘から刀を抜き放ったと同時、こちらは刀を鞘に納めて距離を取る。

「コ、ォ――」

そこで動きを止め、剣気を鞘の中の刀に集中。
これまでに見せた神槍よりも更に大量の刃と刀身を束ね、空間が歪んで見えるほどの存在感を放つその刀。
腰に差した鞘を半分ほどまで引き出し、自然に前に出した右手の位置に、ちょうど来るように柄を置く。
才気の上に気が遠くなるほどの修練を重ねた、現時点での神槍の最高到達点。
彼女がどれだけ刃を重ねようが、その隕鉄刀ごと叩き割る、と言わんばかりの気合を全身から滾らせながら、

「――いや、今日はここでやめにしましょう」

集中と構えを解いた。

霜月 霈 >  
別に意趣返しといった趣ではない。
単純に、こんな感じか…という実感を得たかっただけの模倣。
即席にしてはまあ良く出来たほうだが、自分にそれが合うかどかは連ねてみねばわからない。
そのためには───もっと引き出しを開けて来い。
そういった意味も込められた居合の一閃だった。
しかし。

「───、何だ。もう御仕舞か。
 凄いのが見れそうで、少し心踊ったんだけどな」

鬼気迫る様な迸りと見た相手が構えを解く。
ようやく次の引き出しが開くかと思ったところだっただけに、やや不満げな表情を浮かべ、溜息と共に刀を収めた。

緊張状態で斬り合いを見ていた者達も、呼吸を忘れていたかのように大きく息衝くそれが道場に満ちる。

桜 緋彩 >  
「流石にこれ以上は仕合では済みそうにないですからね」

苦笑しながら。
これを出せば、多分自分か彼女か、どちらかが死ぬ――とまでは言わずとも、少なくとも剣士として再起不能の怪我を負うだろう。
どちらに転んだとしても自分の望んだ展開にはなりそうにないし、

「何より雫どのに申し訳が立ちません。
 これ以上は然るべき用意を整えてから、と言うことになりますね」

身代わり人形とか、VR訓練施設を使うとか、そう言う準備が必須だろう。
鞘を元の位置まで差し込み、姿勢を正し、彼女に一礼。

「――さて。
 どうでしょう、暇潰し(退屈凌ぎ)ぐらいにはなったでしょうか?」

仕合中の獰猛な笑みはどこへやら、最初この部屋へ来た時と同じような、柔らかい笑顔を彼女へ向けて。

霜月 霈 >  
「然るべき用意、ね……」

斬りかかられたら開始でいいだろ、と思う少女にとっては、ややまどろっこしい話だった。
姉の名前を出されれば、双眸を顰めて溜息一つ。

そういうの()邪念っていうんだけどな先輩。
 斬り合いにそういう配慮、邪魔なだけだと思うんだけど──肩に立場がぶら下がってると重そうだな」

桜華刻閃流当主という肩書がそれを邪魔しているのなら、勿体ないなと思う次第だ。
鍛錬が必要な程度の才能とはいえ、類稀な剣士には違いないというのに。

「…そういうところは姉貴と一緒だな」

とはいえ、やる気のない相手に打ち込んだところで──いや、それを試すのも……。
柄に手を再びかけそうになるが──さすがに大目玉では済まなさそうな姉の顔が浮かぶ。
仕方ない、やめとこう。

「ちょっと運動には足りないくらいかな。
 ──まぁ、多少なり経験値にはなった。桜華刻閃流も堪能とまではいかなくとも、一応見れたし」

今日見れたのは一応程度だ。
無駄な時間だったとは言うまい。
退屈とまではいかない、と言葉を続けてはいたが、その割には随分楽しそうに斬り合っていたのを彼女は見逃してはいなかっただろう。

桜 緋彩 >  
「色々面倒なんですよ。
 風紀委員的にも、ね」

一応これでも風紀委員なので、仕合で誰かに怪我をさせたとか怪我させられたとかになると面倒なのだ。
彼女が言う通り当主と言う立場もそうだし、風紀委員としての立場もある。
現代社会で生きているとは思えないような彼女の言葉に、申し訳なさそうな苦笑を浮かべて。

「それは良かった。
 もしもっと見たいと言うことでしたら、放課後に訓練施設で集まって道場のようなことをやっておりますので、一度おいでください。
 見るだけであれば霈どのには退屈かもしれませんが……」

逆に言えば、然るべき用意さえしたのであれば、もっと見せても構わない、と告げる。
彼女だけではなく、周囲の者たちにも伝える様に。

「とんだ新年のご挨拶になってしまいましたが、私はこれで失礼いたします」

もう一度礼をし、部室を去る――その直前。

「霈どの、機会があればまた立ち合いいたしましょうね」

彼女に向けてにっこりと笑いかけ、今度こそ部室を後にするだろう。

ご案内:「神技武練塾 - 神技堂」から桜 緋彩さんが去りました。
霜月 霈 >  
立場、立場。
純然な斬り合いには不要なことばっかりだ。
けれど、申し訳無さそうに苦笑いするその顔を見れば、仕方なしと思うしかない。
彼女とてそういった柵がなければ…ということなのかもしれないし。

「そういうのはいいよ。見てるだけだとフラストレーションも溜まるし。
 ……再戦はいいけどさ」

剣士、という立場上。
それまで五体満足でいる保証はお互いにない。

「………」

だから一回の邂逅で思う様斬り合っておきたかったんだけどな。

その言葉をその背中に投げかけることはせず、見送って。

「ふぁ…帰って寝よ。お世話さまー」

大あくび一つ。
太刀を肩掛けに、少女もまた神技堂を後にするのだった。
──これがバレたらまたなんか雫姉に色々言われそうだな、と内心辟易しつつ。

ご案内:「神技武練塾 - 神技堂」から霜月 霈さんが去りました。