2025/01/12 のログ
■緋月 >
「――――――――」
こっそりと一部始終を覗き見ていた、行儀のよくない書生服姿の少女。
流石に屋外からの覗き見ゆえ、声までは良く聞こえなかったが、稽古…と言っていいだろうか、
ともあれ、見覚えのある剣士…大太刀を手にした青みがかった髪の少女の技前は、唸るものがあった。
(確か……霜月、雫さん…でしたよね。去年の6月の、懇親会に、挨拶をした。)
いくらか会話も交わしたが、生憎、諸々の機会の問題で、実際の手合わせや
稽古などは一緒した事はなかった。
それを考えると、少しばかり狡い真似をしたかという気持ちはあるが――――
(……強い。)
どう言えば良いのか、一連の動きはどこか「お手本」のようなものを感じた。
誰かの何かを真似たような…僅かな違和感。
だが、それを抜きにしても尚見事な、後の先の取り方と体術を織り交ぜた動き。
素直に、「強い」と感じられるものだった。
例えそれが「本来の」彼女の戦い方ではないとしても…否、だからこそ、余計にその技術の高さを感じられる。
(……いかん。つい、昂ってしまいますね。)
出来る限り抑えてはいるつもりだったが、もぞり、と、心中で首をもたげるものがある。
強者との戦い…勝ち負けと、それ以上に、得られる「何か」。
それが、つい、漏れ出てしまう。
■霜月 雫 > 「あの子の攻めは全て一撃必殺の威力を持ちながら、そのほとんどは同時に誘いでもある。
だから、変に受けたり避けたりするよりは、流して崩したり、拍子を重ねて抑えた方が……」
等と自分なりの霜月霈攻略論を話していると、気配を感じた。
――戦士の。
闘いに身を置く者がつい発してしまう、欲求の気配を。
「――どちら様かな?」
なので、その気配の方に呼びかける。
意図はまだ読み切れないが、とりあえずそうしておいた方が良かろうという判断だ。
■緋月 >
「う゛っ。」
思わず口がバッテン状態に。
こちらに向けてかけられた声は、いくら窓越しでもしっかりと聞こえて来る。
(流石に感じ取られてしまいますよね…うう、気まずい……。)
だが、此処で逃げ出す程恥知らずではないつもり。
まずはコンコン、と窓を叩き、其処からひょいと顔だけ覗かせる。
そして軽く入口の方を指差してから、一時失礼して足を進め、改めて入口から。
そっと顔を覗かせ、大太刀の少女が気付けば、また小さく頭をぺこりと。
「……すみません。こちらの方から、強い気迫を感じてしまって、つい引き寄せられてしまって。
覗きについては謝ります。誠に申し訳ない…。」
そうして、いつもの刀袋を両手で持つと、深々と頭を下げる。
――何やら、好奇の視線が集中しているような気がする。
■霜月 雫 > 「ん、気にしないで。ここはそういうところでもあるからさ。何なら入部する?」
敢えて軽い口調で言って空気をやわらげつつ笑って見せる。
『覗きはともかく、まあ気になるよなー』
『お、君も結構遣う?』
部員たちも笑って興味深そうにしている一方、あれ、とシズクが少し考え込んで。
「ああ、懇親会の時に会ったよね。うん、やっぱり強そうだ。
どうする?見学とか体験とかしていく?」
ぽん、と手を打って。
大体、一定以上遣える人間と言うのは、その気配が漏れる。
細かな所作に、隠しようもなくにじみ出てしまうのだ。
そして、シズクから見ても、目の前での書生服姿の少女は、かなりの遣い手に思えた。
■緋月 >
「あ、あははは……生憎、他の部活に既に入っておりまして…。」
こちらはこちらで興味があったが、流石に部活を変える不義理はしたくない。
ちょっと色々事情もあるので口には出来ないが…それを置いても、今の部活の皆さんとはよくやれているので。
「はい、6月の…半ば以来でしょうか。お久しぶりです。」
あちらにも思い出して貰えたようで、ちょっと安心。
見学や体験については、少し心が揺れる。
――実力ある者が技を見せる機会は、決して多くない。
その機会があるなら、感謝を忘れてはならない。
ふう、と一つ息。軽く頭を下げながらお返事。
「…では、今日はお言葉に甘えて見学を。
折角の学びの機会ですから。」
強者から学べるものは学ぶべき。すっかりとその思考は身に沁みてしまっている。
お言葉に甘え、一つ礼をしてから部室へと上がり込ませて貰う事にした。
部員の皆様の問いには、少し困ったような、曖昧気味な笑顔。
こうして色々と質問されるのに慣れていない様子である。
(……さて。)
どれだけ、学びを得られるか。
――如何に小さかろうと、機会を逃すものではない。
手合わせを申し出られたら、素直に応じる構えである。
(一番、相手にするのが怖くて…一番、学びを得られそうなのは、やはりあの人ですけど。)
書生服姿の少女もまた、大太刀の少女の実力がかなりのものだと見ている。
深い所までは、測りかねているが。
■霜月 雫 > 「ああ、流石にそれはね。仕方ないや」
あははと笑う。
どんな部活に入ってるかは知らないが、流石に無理強いは出来ないし、するようなものでもない。
そうして、見学を申し出る少女が入ってくるのを見て……ふ、と。
自分の中にも、欲求が湧いた。
「――それじゃあ、折角だから、軽く手合わせして見ない?
次またお話しできる機会がいつくるかわからないし、剣を交える機会なんて猶更。
それに、私も興味、出ちゃってさ」
そう、問いかける。
■緋月 >
「――――それは、」
心を読まれたかのような、感覚。
あるいは、自分の「念」がそれだけ分かり易いものなのか。
まあ、いずれにせよ、である。
「…こちらとしても、有難いお申し出です。一手、御指南願いたく。」
大きく息を吐くと、先程までどこか情けなさのあった少女の雰囲気は一変する。
戦に臨む剣士…という表現は流石に行き過ぎだが、強者との手合わせに何処か心躍る気配を纏った雰囲気。
「では、使う得物はどちらに? 流石に…こちらはどうかとは思うのですが。」
中を一通り見回し、木刀か竹刀の類を探しつつ、手にした刀袋を軽く持ち上げてみせる。
軽い手合わせで…流石に真剣沙汰はどうかとは思っての発言。
■霜月 雫 > 「指南、なんてほどのものじゃないけどね。こっちが指南を受けることになるかも?」
そう笑いつつ、心地よい気配に心が震える。
強い剣士の放つ気配。
綺麗で澄んだ、美しい闘気。
それについすぐに応えそうになって。
「ああ、そうだね……刃引きしても危ないし。
じゃあ、木刀にしようか。ええと、刀の長さは……聞いちゃうのはズルかな?」
竹刀の長さが固定である剣道では、刀身を隠し間合いを誤認させる技法はほぼ使い物にならない。
だが、実戦では長さは流派や個人の好みによって全然変わってくる。よって、その長さを知ることは、明らかにこちらが有利になることだ。
様々な長さの木刀はあるので、倉庫に来てもらって選んでもらおうかな?等と考えつつ問いかける。
■緋月 >
「分かりました。木刀で、ですね。
では――二尺四寸があれば、そちらをお願いしたく。」
特に躊躇う事も無く、素直に長さを口にする。
実際には、手にする刀の長さより五分短いのだが、其処まで厳密な木刀というのはそうそうない。
足りない分は…それこそ、工夫か慣れ、である。
(それに、覗きをしてしまいましたからね。)
敢えて長さを伝えた理由の一つは、其処にある。
普段扱いの技ではなかったかも知れないにしろ、先に手の内を一部とはいえ見たのはこちら。
其処の所の埋め合わせ、というか詫びというか。
そう言った所も入っている。
「――さて、と。」
木刀が到着するまでに、こちらも準備。
と言っても、手にしている刀袋をしっかりと腰に差し、抜けないように気を付ける位だ。
外套を外す事もしない。
もしもの非常時に、悠長にそんな時間を取ってくれる程、相手が暢気ではないから。
――既に、手合わせに臨む準備は万全である。
■霜月 雫 > 「ん、了解。ちょっと待っててね」
そう言って、とててと倉庫に行き、自分の分のやったらと長い木刀と、緋月の分の二尺四寸の木刀を持ってくる。
後者を手渡した後、ある程度の距離を取ってから、平正眼に構える。
「それじゃあ、よろしくお願いします。
――霜月流及び桜庭神刀流、霜月雫。参る」
■緋月 >
「――と、ありがとうございます。少し失礼。」
と、軽く断りを入れてから、木刀の柄を握り、くるりと軽く回転させる。
無論単なるパフォーマンスではない。重心の確認という、大事な作業。
木刀ひとつ取っても、完全に同じとは言い難い。微かな違いが、手元の狂いを生みかねない。
――使い込まれた感があるが、バランスのよい木刀だ。
思わず小さく微笑みが出てしまう。
「こちらこそ、よろしくお願いします。
……宵月壱刀流、緋月。いざ、参る…。」
名乗りを受ければこちらも名乗りを返し。
未だその真名を名乗る資格がない故に、偽りの流派名である事だけは心の中で謝罪しつつ。
書生服姿の少女は、手にした木刀を八相に構え持つ。
ゆらり、と、一瞬、陽炎のように、その身から剣気が揺らいで上がる。
(……さて。先か後か。)
構えつつも、まずは其処が主眼。己が先を取るか、相手が先を取るか。
ほんの一瞬だけの思考。其処を衝くも、敢えて見逃すも――向き合う少女次第。
■霜月 雫 > 「(宵月壱刀流か……聞いたことのない流派だね。
一刀流系列……だったら初手に八相は選ばない気はするし、違うかな?)」
構える緋月を見て、少し考える。
こういう時、ヒサメならば構わず突っ込んでいくのだろうが……シズクは合理の剣士。
冷静で、慎重。故に、相手の情報を得ることに手間をかける。
「(もう少し、探ってみるかな)」
八相の構えは、基本的には逆胴や袈裟斬りに繋ぐ構えだ。もっと言えば、移動用の構えの側面も持つ。
スス、と間合いを詰め……その構えと木刀の長さから想定される間合いの、わずか外で切先をゆらゆらと揺らし、ちらつかせる。
時にわずかに入り、時にわずかに下がり。
相手の制空圏の際を、切先で探りつつ、揺らめかせることで居付きをなくしながら、本物の初動を隠す。
探りと初手、両方の側面を持つ仕掛けを打ち、出方を見定めようとする。
――桜庭神刀流『不知火の切先』
■緋月 >
一瞬の思考の間にも、攻めて来る様子はなし。
否、少し間合いは詰められたが…其処まで。
ほんの少し。僅かに間合いの外で、長大な木刀の切っ先がゆらゆらと揺れている。
(……誘われている。)
技の名は知らずとも、その性質については見当がついた書生服姿の少女。
こちらの「刃圏」を探りながら、こちらに「打ち込ませよう」としている。そんな直感を持たせる動き。
(成程…本質は恐らくこちら、「待ち」の型ですか。)
待ち、あるいは後の先。
それが恐らくは、今、相対する少女の「型」。
ならば、
(……誘いに、乗ってみましょうか。)
ホォォ、と軽く奇妙な呼吸音。そして次の瞬間、
「疾――!」
しゅん、と、瞬間移動したような速度で、書生服姿の少女が――「後ろ」へと移動する。
縮地法。高速移動を行う為の念法術を使い、後退を行う事によってほんの一瞬、誘いを「狂わせる」。
一瞬後、木刀を肩に担ぐように構え、蒼い風のような氣を纏って一挙に踏み込む少女の姿。
其処から繰り出されるは、風の如き袈裟斬り――。
『飛天・聳孤閃。』
無論、この技法には若干の欠陥がある。
後退からの前進という余分な一工程を挟む為、縮地法を用いても尚、相応の実力者には
対応可能な「猶予」を与えてしまうのである――。
■霜月 雫 > そう、待ち。
相手を動かし、合わせ、いなし、制する。
こちらこそが、霜月雫本来の戦型。
だが、流石に想定外のことが目の前で発生した。
「(下がった…武術的じゃない、異能!?)」
瞬間の後退。
武術にも瞬間的に動作する技法は存在するが、どうにもそれに必要な身体操作を感じなかった。
おそらくは異能や魔術の類。それ故に起こりが掴めず、瞬間間合いの把握が狂う。
が、しかし。
「(真っすぐ来るのなら……!)」
――この状況、後退により発生した瞬間の利に加え、もう一つシズクに利がある。
それは、根本の間合い。長さが倍近くある大太刀型の木刀は、真正面からぶつかるのであれば必然、先に届くのだ。
その利を活かし、袈裟、または逆胴が来ると当たりをつけて左霞の構えに近い形に取りつつ、切先を『置く』。
言っていること、やっていることは単純だ。
相手の移動予想位置に、切先を置いておく。
後は、相手がそれに突っ込んで来てくれる。
だが、相手の動作を、速度を、読み切らないと有効に遣えない高難度技。
突きの亜種であるため、読み切って躱されれば内に入られる危険を併せ持つ一方、最小限の動きで敵を制することも可能な、まさに技巧の極み。
――霜月流大太刀術『待宵』
■緋月 >
その対応を目にした時、書生服姿の少女の心にあったのは…感嘆であった。
(流石――対応が、速い…!)
後退・前進の行動遅滞から発する僅かな猶予。
その間にこちらの動きを見切り、最小の動きで最高の効率の反撃の型を取って見せた。
こちらの攻撃の型・速度、それらを見切らなければ配置できない、高難度かつ最高効率の後の先。
一瞬のみ、他心法を起動。思考速度を最大拡張。
このままでは激突し、一本負け。だが、停止するには既に速度が出過ぎている。
ならば――「配置された未来」を「捻じ曲げる」しかない。
その為の最適解は――
それを弾き出した直後、他心法を切断。小さく眩暈が来るが、許容範囲内。
袈裟斬りの動きを変え――構えられた長大な木刀に、「押し付ける」。
単純に言えば、圧し切りの型。少し腕に負担はかかるが、これで切っ先を逸らす事は可能。
無論、構えの力を抜かれればこちらも体勢を崩す事は必須。
故に、その一瞬の間で、手にする木刀から手を放し、圧し当てた大太刀型の木刀を軸に「回転」させる――!
扱える箇所が極めて限定される、幻惑を交えた裏の剣技。
『裏技・巻蛇――。』
枝に巻き付く蛇の如き刀の動きに混乱すれば…大太刀から滑り来る
真っ向斬りの牙に噛まれるのみ――。
■霜月 雫 > 「(『待宵』に合わせた!?)」
待宵は、単純ながら、正しく遣えば対応の極めて難しい技だ。
と言うより『対応が間に合わないように遣う』技である。
故に、構えの変化による保険も込みで対応しきったつもりであったが……その読みを、上回られた。
強烈な押し込みで、わずか切先が下がり、待ちが崩れる。
これにより、切先でそのまま突く狙いは瓦解。しかし、抑え込んできたのならばそれはそれで良し、刃を合わせた状態からの切先三寸の駆け引きこそ独擅場。
外して切り返そうとしたところで……『抜け』た。
「(手放した!?いや、これは……!)」
ただ手放しただけなら、刀は落ちる。
桜庭神刀流にも存在する、組討に移行する際のパターンの一つだ。
だが、これは刀が『落ちない』。
それどころか、刀身を軸に回転して残っている。
異様な光景に刹那面食らうも、瞬時に思考を切り替え、それに反射する。
これは、要するに手から離れているだけで、刃を合わせて相手が摺り込んできているのに近い。
ならば……!
「はあっ!!」
霞の構えから下に押し込まれた切先。
それを、くるんと小さく回して面斬りを仕掛ける。
これは本来、低めに構えている際に切先を絡まされたときに、それを外しながら攻撃に転ずる技法。
回転する木刀を『普通に仕掛けてきている相手の切先』に見立て、それを巻いて、諸共に斬り落とす。
――桜庭神刀流『巻落』
■緋月 >
(「これ」にも反応できますか――!)
更なる驚嘆と――僅かな歓喜。
使う機会がまるでなかった初見殺しの裏技までも、対応して見せて来る。
僅かな猶予でも、対応の手を探り、的確に引き当てる。
(後の先の極み…あるいは、見切りの天賦の才…っ…!)
無論、其処に至るまでに相応の修練はあっただろう。
それでも、此処まで高められるのは――ひとつの「才」と言って、申し分ない実力だ。
心から、書生服姿の少女はそう思う。
『――朔! 得物が「掴める」タイミング!』
《無茶を言う…! 恐らく、あと――!》
『了解…合わせて!』
自身の動体視力を内なる「友」と動機させ、打ち落とされる木刀の柄を掴むタイミングを探り――
『《……此処っ!》』
地面に転がる直前。まさに間一髪でキャッチ。
そして――巻蛇で滑り込む木刀を追って来た形の書生服姿の少女が、木刀を手にしたなら…
それは即ち、「木刀の刃圏の内」。
『――草薙!』
文字通り、草を薙ぐかのような、足首を狙っての薙ぎ払い。
無論、これで仕留められるとは思っていない。
一瞬でも後退するか、飛び上がって避けるか…その合間に、再度の縮地法で以て、
仕切り直しの形に持っていく事は可能であろうか――!
(久しぶりに、楽しい――!
嗚呼――雫さんは、本当に、強い…!)
『――――斬りたく、なってしまう…!』
――書生服姿の少女の、宿痾とも言うべき衝動。
それが首をもたげるのは、ある意味必然だった。
■霜月 雫 > 「(嘘、巻落で落とした木刀を『掴んだ』!?)」
確かに、一瞬巻く瞬間はある。即座の斬り落としではない。
だが、それでも一瞬だ。その一瞬で、精密に木刀の柄を掴み取って見せた。
「(動体視力と身体操作能力が人間離れしてる……!)」
心に満ちるのは驚嘆、そして焦燥。
そもそも、よく言われることだが、刀は下段に対し弱い。
下段からの攻撃に対する有効な防御手段が極めて少ないのだ。
しかも、これは下段も下段、足首を刈り取らんと木刀が疾る。
「(受け、無理。跳躍、連撃に対処不能。後退…?)」
瞬間、高速で思考が巡る。
が、それよりも早く。
――たゆまぬ鍛錬によってさまざまな状況への対応を染み込ませた、身体が動いた。
選択されたのは『蹴り』。
斬られようとしている足を上げ、薙ぎを外して、前傾姿勢で突き出された顔を蹴る。
クリーンヒットすれば良し、外されてもどこかに当たれば蹴り飛ばして間合いを切れる。
躱された場合はそのまま前に出て相手と交差し、仕切り直す。
――桜庭神刀流、組討『鼬払い』
■緋月 >
「!!!!?」
飛んできたのは、まさかの蹴り。
こればかりは、驚かずにはおられなかった。
(いや、その裾じゃ丸見え――じゃない!)
相対する少女が、鍛錬によって体に刻み込んだ「対応」から反射的に「回答」を導き出したように。
一瞬邪念に囚われながらも、書生服姿の少女もまた、反射的に「対応」を取っていた。
蹴り飛ばした足に伝わる感触は…敢えて例えるなら、宙に舞う風船を蹴ったような、おかしな感触。
そして、蹴り飛ばされた少女は――片足で蹴られたにしては、明らかにおかしい距離を
飛んでいき…くるりと宙で体勢を整え、四つん這いの獣のように地面に着地し、ゆらりと立ち上がる。
軽功法。体重を一時的に極めて軽くする事で、打撃の衝撃を無効といえるレベルで削減する術。
しかし、それでも蹴られた場所が場所である。
軽く頭をふらつかせ、空き手の左手で一度こめかみを軽く打ち、ようやく首が据わった。
「――――ここまでに、しておきましょう。
これ以上は、どっちかが大怪我をしてしまいそうですし。」
大きく息を吐いて、内なる衝動ごと戦意を打ち消す。
実際、これ以上ヒートアップすれば、どちらかが、あるいは双方とも大怪我をしかねない。
それはまた…対応可能な設備が近くにある時に、機会があれば…の方がいい。
そういう訳で、先手での停戦申し込み。
実質、先に音を上げたという意味では負け宣言にも等しいものだった。
■霜月 雫 > 「(軽い!蹴りを流された!?)」
蹴りは確かに当たった。きっちり丸見えになりながらも綺麗に当たったはずだ。
だが、その感触が異様に軽い。
霜月流『浮雲』、桜庭神刀流『焔跳び』。いずれも、相手の攻撃に合わせて飛ぶことで威力を軽減する技だ。
だが、そのどちらに当てた時よりも、はるかに軽い。まるで、元々の重量が減っているかのように……。
驚きつつも、構えなおして追撃を……と考えていたところで、待ったが掛かる。
――正直、丁度よかった。
言う通り、これ以上ヒートアップすれば、致命的な怪我に繋がりかねない。逆に言えば『怪我をさせない』ようなレベルで戦える相手ではなかった。
「うん、そうだね。有難う御座いました」
刀を納め、礼をする。
そして。
「――いやあ、強いね。なんていうんだろう、普通の剣術の常識が通じなくて、何度も予測を上回られたよ。やっぱり、一筋縄じゃいかないね」
笑みを浮かべながら感想を述べる。
事実、終盤の攻防は紙一重だった。
応手を間違えたら、応手を導いて形にするのが一瞬遅れたら、間に合わず打たれていただろう。
後の先こそシズクの本領ではあるが、それにしても後手に回り過ぎてしまった……と反省する。
■緋月 >
「――ありがとうございました。」
相対する人に合わせ、書生服姿の少女も木刀を収め、一礼。
そうして、予測を上回られた事に対しては、少しだけばつが悪そうに。
「……あはは、実は、私の学んだ剣術…特殊な術法との併用が前提なんです。
速度を高めたり、動体視力や思考速度を強化したり…最後のは、一時的に体重を極限まで軽めて
打撃を受け流す術…なんですけど、頭にいいのを貰っちゃいましたから。」
と、種明かし。
つまり、恐らく純粋な身体能力だけで戦っていた相手に比べて、結構なズルをしていたという事。
「それでも一太刀も入れられませんでしたから…雫さんの見切りの実力は、本当に脱帽ものです。」
其処までして、結局自分が一撃蹴りを喰らってしまったのだから、まだまだ未熟者である。
(これは、修練に力を入れなくてはいけませんね…!)
お陰で、新たな気付きと、より高みを目指す理由を得られた。
――今度は、目の前の人に、唸らせられる一手を入れてみせる。
■霜月 雫 > 「ああ、やっぱり。高速移動は分かったけど、そこら辺も強化してたんだね。
霜月流にも巫術で強化する技法はあるけど、そこまで融通は利かないからなあ」
それに対して、ズルい、とは一切考えずに素直に感心する。
自分の中にある技能、能力をフルに使うことは、何一つズルい事ではない。
それこそ、シズクとて必要であれば巫術によるサポートを織り込んだ巫刀術を遣うのだから。
「ありがと。霜月流は特に、転身や捌きを重視してるからね。そこら辺は十八番だから、そう言ってくれると嬉しいよ」
そう、十八番だ。
その十八番で何度も想定を覆されたのだから、もっと読みを広く、深くしなくてはならない。
それに、瞬間的に自己強化を行うやり方は、巫刀術にも応用できそうだ。
「(思いがけず、凄く勉強になったなぁ)」
それを織り込んでの稽古を今度から考えてやってみよう、と決意するのであった。
■緋月 >
「何と…。念法術…私の流派が扱う術の総称ですが、それと同じような
強化法を使う流派が他にもあるとは。世界は広いですね…。」
身体の強化術を用いる技法がある流派は「魔剣」である自身の流派位だろうと思っていた。
融通が利かないとは言うものの、似たような技を用いる流派があるとは思わなかったので、軽い驚き。
同時に世界の広さというものを改めて実感する。
「――他の流派との立ち合いは、そうそうありませんから。
今回は、得難い機会でした。霜月流の技の冴え、お見事です。
色々と、課題と…それに、目標のようなものも出来ました。」
改めて深々と一礼。
転身や捌きの見切り。容易く取り入れるは難しいかも知れない――が、
その動きを敵対者が行うと想定して、イメージトレーニングに応用するには充分なものを見せて貰えた。
「――と、すっかり長居をしてしまいましたね。
では、私はこれにてお暇を。本日は、ありがとうございました。
皆さんも、今日は失礼しました。」
この場の方々に一礼し、木刀を返すと暇乞い。
――演習場でターゲット相手の打ち込みだけでは見られないものを見られた、有難いひと時であった。
■霜月 雫 > 「巫術を用いる剣術……巫刀術は、未だ練り上げ途中ってところなんだ。
色々参考にさせてもらうよ」
強化術のみならず、巫術による支援を用いて多角的に戦う剣術。
その分難易度が高く、扱いも難しいが……今の仕合の中でも、ヒントになるものはたくさんあった。
「こちらこそ、本当に勉強になったよ。
それじゃあ、またね。機会があったら、一緒に稽古でもしようね」
そう言って、手を振って見送る。
そして、今回の仕合で得た教訓をもとに、新たに鍛錬に励むのであった。
ご案内:「神技武練塾」から霜月 雫さんが去りました。
ご案内:「神技武練塾」から緋月さんが去りました。