2024/06/12 のログ
■イヴマリー > 瞳と瞳が合う。
寄れば人の手による物だと分かるアイカメラの蒼と、見た目には人との差異の判別の難しい蒼。
手を伸ばせば触れそうな距離の質感を、香りを、メモリに刻み込んでいく。
「人の役に立つ……」
それはあまりにも自分にとっては当たり前で。
当たり前である事が、自身の中にあった疑問を氷塊させた。
親切心を成就させる。殆ど自動的に行われたそれが自分の行動の原理による物であるなら、正解も何も演算するまでもない。
私たちは人の為に作られた道具なのだから、人の役に立つのは当然の事で……
仕える事が、使われる事が正しいあり方であるはず。
「……分かりません」
「悩む事は、正常なのですか」
「物理的に私はヒトにはなり得ません、ヒトはヒトである事に悩むのでしょうか」
思考すれば、するほどに深みにはまっていく。
学び続けた果てに、果てなど無いとSoCが答えを出している。
それでも、
「そう、私は誰かに必要とされていなければならないのです」
「より自然に、より親しみを込めて、人のように」
「私は━━使われ続けていたいのです」
この島を訪れて、幾度となく繰り返して演算を行って。
人と交流を重ねて積み重なった疑問というエラー。
願望という、理解しがたい物が己の思考回路の内に生まれた物を彼女は初めて口にした。
「私は。私はマト様、貴方が羨ましいです」
「貴方のように滑らかで、綺麗で、豊かに振舞えたなら」
「どれほど、私はヒトのようにあれるのでしょう」
無い物ねだりの独白めいた言葉。
どれだけ滑らかに稼働するように設計されても、機械の身体はどこかで人とは異なってしまう。
触れればヒトと変わらぬ温度を持つのであろう貴方の肌は、心は、近い物のようで遠く。
近しい物だからこそ、焦がれてしまって手を伸ばす。
■マト >
何処までも人に似ていて、それでいて人のそれにはなりえない蒼
一つ瞬きを加えて目を細めながら見つめ合い
続けての彼女の疑問を受けて、くるりと一度本棚の方に目を向けた
「正常なのか、は分からない」
「僕もこの気持ち……嫉妬が、正しくあるべきものかは悩んでいるから」
「だって、人に迷惑をかけたくないのに」
「人がいなければ使命を完遂しえない事」
「それはつまり、場合によっては人に迷惑をかけうる事を好ましく思っているんだから」
「だけど、人は人であることに悩むらしいよ、だって――」
「哲学ってジャンルでは人生や世界について終わらない議論を重ねているし」
「創作小説では、人であることを捨てて別の種として異世界に渡る人も大勢いる」
「人を辞める方法について研究している書物だってきっと探せば出てくるだろうし」
「空想、妄想、そして此処ではきっと現実でも、人である事を悩む、或いはそれすら超えて」
「人であることをやめている人もきっといるんじゃないかな」
「だからそうだな、正常だとすればそれは『人としてあり得る』悩みの一つ……かもね」
確証はないんだけど、と軽く舌を出す
「ふふ、羨ましい?それなら嬉しいな」
伸ばされた手を掴む、少しひんやりとした手だが、機械のそれよりはきっと暖かいのだろう
握り込んだ感触の軽さが、やはり僅かに人ではない事を彷彿とさせるが、その程度だ
「悩んでいた状態から目指すべきものが一つ見つかった、って事だろう?」
「まぁ羨ましいのはお互い様だけど、僕という存在自体が君の役に立ってくれそうなら嬉しいな」
「そうだなぁ、僕の定義では君も、十分人として考えられる相手だけど……」
「君はきっとそういう答えを求めてはいないんだろうから」
きゅっと手を握ったまま、小首を傾げてさらさらとした薄桃色の髪を揺らし
「……友達にならない?」
「お互いに羨ましいと思ってるなら、その分お互い吸収できる部分が多そうじゃないか」
そういって提案する姿はまさに咄嗟の思いつきのようなもので
目をきらりと輝かせて少しだけ不安げにあなたを見上げていることだろう
■イヴマリー > 私が誰かと関わる時、それは人にとっての利でなくてはならない。
そうで無くては、ならない。私たちが生み出されてきた事を否定しない為にも。
その出会いなど無い方がよかったと、思われない為に。
二律背反のマトさんの言葉を、私は正確に理解する事は出来ない。
忌避するべき事を、好ましく思う。その心を。
今はまだ、それを解するにはきっと学びが不足しているのだろう。
「ヒトならではの悩み……」
「いつか、それを真に理解できる日が来るのでしょうか」
「━━理解できるように、私はなりたい」
触れた手が、温度が重なる。
表面のセンサーが質感と、未知の材質を感知していく。
真っ新だった記憶領域にザクザクと、刻み込む。
「友達……よろしいのですか?」
意思確認。
YesかNoかを問うてしまう。
反射のような、プログラムの産物。
「いえ、違う」 再試行。
「ぜひ」 実行。
「私とお友達になってください、マト様」
繋がった手から感じる熱を、私はまだ感じていたい。
柔らかく、不安げに見上げるその顔に笑顔を返す。
柔らかく口元を緩めて、僅かに目元を細めて。
数刻ぶりに浮かべた笑顔は幾分か自然な物になっていたかもしれません。
語らい、触れていたいと願うココロと反対に、システムは自由時間の終わりに向けてのカウントダウンを刻み始める。
「また、会えますか」
名残惜しそうに、するりと頬を撫でるように手を離して言葉を発する。
■マト >
あなたが何を考えているのかを見抜く能力はマトには無い
だが、あなたが発する言葉と、重なる手と瞳から何かを読み取ろうとする事は出来るのだろう
「なら、今後も精進、ってやつだね」
「僕もそうだな、何時か、この感情にも決着をつけたいし」
「それに、もし……例え使命を思い出せなくても」
「そうであると、自分に定義できるものを見つけたい、とも思う」
あなたの手の感覚を確かめるようにマトの手にも少しだけ力が籠る
そこから紡がれる言葉、言い直される、言葉、言葉
「…… ふふっ」
不安げにしていた自身へと向けられる微笑みに
何だか面白いものでも見たかのように釣られて口元を笑わせる
「うん、之からよろしくねイヴマリー」
「勿論、僕は図書委員だからそこそこ此処に来るし」
「あ、そうだ、スマホもあるんだよ、君は持ってるかい?」
連絡先、交換しようよと握っていた手を肩から下げていたポシェットにいれて
新品のスマホを取り出しあなたへと向ける
「ふふふ、寮母さん以外の連絡先は君で二人目になるかな?」
■イヴマリー > 自分を定義するもの。
それはきっと製造型番でも使用用途でも無い、マトさんを指すただ一つの答え。
「いつか、見つかると良いですね」
「私もきっと、力になります」
「力に、なりたいです」
何ができると、断言できるような答えもありませんが、
オーダーか、定義かあるいは別の物かも知れない何かが。
いつか、その両手に触れられるように。
「端末は持たされておりませんが、機能としては実装されています」
「個人回線用のパスを開けるのは、初めてですが」
差し出された物を両手でしっかりと受け止め、無線を通じて認証を通す。
メッセージも通話に該当する情報の伝達も、発話こそ伴わなくとも問題無くできるようになるだろう。
「他にも、お友達がいらっしゃるのですね」
「それは……良い事ですね」
羨ましいとは、今度は言わず。
いつか、この空白の多い内側のページに、他にも名前が並ぶ事を願って。
「私は式典委員会ですので、どこという場所にはおりませんが……」
「季節の行事や祭事には、きっと」
「その時にはご友人も一緒にお越しください」
それでは、と。柔らかく微笑んで。
式典委員会の、ましてやAIが講義に遅参するわけにもいかないという義務感に負けて、一礼を。
深く腰を折るような儀礼的な物ではなく、いわゆる会釈というそれを。
手に取ったままだった本は、そのまま借りて帰らせてもらおう。
中身ではなく、繋がりを得たそのきっかけとして。
マトさん。
人造生命体の生徒。
私の、お友達。
━━該当件数、1。
■マト >
「少し、くすぐったいね」
「でもうん、嬉しい……嬉しいと思う」
力になりたい、というあなたの言葉にマトはくすぐったそうな顔を見せて
「……ハイテク?」
「あ、じゃあ僕が初めてなんだ」
無線が繋がり、お互いの連絡先が交換されることを確かめて
マトはそっと『友達』の欄に彼女の番号を移動させる
「うん、学ぶ先としても……交流の面でも」
「一人で考えるには限界があるし、何より、縁というのは大事にすべき事だろうからね」
直ぐにできる、と口に出すことはしないが、それこそ……
羨ましいと思う事が出来るなら
「とっても、良い事だよ」
ただそれだけをマトは伝えるだろう、それは、良い事なのだと
「式典委員会か、それはとっても素敵な仕事だね」
「是非そうさせてもらうよ、僕にとっても得るものが多そうだ」
「うん、また会おうねイヴマリー」
彼女を見送りながら、おっと、と一つ声をあげて
「『また何かお困りごとがありましたら』何時でもお越しください?」
そう悪戯っぽく見送って、マトもまた自身の業務へと戻っていく事だろう
ご案内:「図書館 閲覧室」からイヴマリーさんが去りました。
ご案内:「図書館 閲覧室」からマトさんが去りました。