2024/09/10 のログ
ご案内:「図書館 閲覧室」に蒼き春雪の治癒姫さんが現れました。
ご案内:「図書館 閲覧室」にDr.イーリスさんが現れました。
■蒼き春雪の治癒姫 > それは、真夜中だった。
暗がり。
明かりの薄い図書館。
消え入りそうな程の儚げな雰囲気で、
茫々たる足取りで、
雫を零しながら、
終焉を目指して歩く。
蒼い雪柄が、
一つ。
■蒼き春雪の治癒姫 >
(これで。ひと夏の淡い夢の終わり―――)
■Dr.イーリス > 深夜帯の図書館。
それもここは禁書庫に近い。
「蒼先生に図書館の見回り頼まれてしまいました。ゴミ処理係の管轄とは基本的に外れると思いますが、これもお仕事です」
蒼先生は風紀委員ゴミ処理係の先輩、そして直属の上司という事にもなる。
明かりの薄い図書館、イーリスの傍にはライトをつけたドローンが一機飛んでいる。
いつも図書館は資料を集めるのにお世話になるが、今日は見回りのお仕事。
そこでイーリスの機能、屍骸レーダーが反応した。
「え……? 完全感染者……」
いやおかしい。紅き屍骸は落第街やスラムから出られない……。
どうして図書館に……?
屍骸がいるのはすぐ近く。屍骸のもとに駆け寄っていく。
ドローンのライトが屍骸を照らした。
「……風紀委員です! 動かないでください!」
白いロンググローブの風紀腕章を見せて、そう告げる。
(……な、泣いています?)
蒼髪で着物姿の少女。その少女は、泣いていた。
何があったのだろう……。とても悲しそう。
(ど、どうしてこのような人に、屍骸レーダーが反応を?)
「あ、あなたは紅きし──……」
そこまで言いかけて、イーリスは考える。
「す、少し待ってくださいね。どう考えてもおかしいでしょう。このようなところに屍骸が現れて、しかも殺害欲とは無縁そうな凄く悲壮感ある少女だなんて……」
少し待ってくださいね、というのは少女に言った言葉。
その後の言葉は、独り言である。イーリス、ちょっと混乱気味。
「私の屍骸レーダー壊れました……? それにしては、エラーとか何もなかったではないですか……」
引き続き独り言。
イーリスの前、虚空にモニターが表示される。そのモニターを素早い手つきでタッチ操作していた。
モニターに映るのはプログラミング画面。屍骸レーダーにバグなどがないか、システムを確かめているのだ。
■蒼き春雪の治癒姫 > ドローンには
蒼い猛吹雪のような光景が映るだろう。
そして。
紅き屍骸のレーダーには。
間違いなく。
完全なる感染者の信号が出る。
照らされるは、
蒼色の雪柄。
零れるは雫。
「ああ、ごめんね。」
「どうか。」
「どうか、通して」
「何もしない、誰にも迷惑をかけない、から」
そこまで言って。
気付く。
(この少女―――!!!)
目を見開く。
■蒼き春雪の治癒姫 >
Dr.イーリス…ッッッ!!!;
■蒼き春雪の治癒姫 > 「ど、どいて…!!」
「早く、どっか行って!」
こいつは
殺さないとだめだ
殺さないとだめだという意識が、
限界を超えそうなシロモノだった
悲痛に訴えかける
もう
時間切れが
近いというのに…!!
■Dr.イーリス > イーリスは紅き屍骸を研究している。
落第街やスラムを跋扈する屍骸をどうにかしたいとずっと思っていたからだ。
紅き屍骸には幾度の痛い目を見た。四肢を何度も失ったし、長く紅き呪いに苦しめられた期間もある。
特にイーリスが別格に意識して敵視していたのは《紅き月輪ノ王熊》。上述の呪いも王熊によるものだった。イーリスを苦しめた屍骸においても、王熊はあまりに別格。
王熊は既に討たれた……はず。最近、生存疑惑もあるが……。
紅き屍骸は落第街やスラムから出られない。殺害欲により行動する。
だが目の前の雪のような少女は図書館で遭遇して、しかも殺害欲もなさそう、という……。
「こ、こんなもの……データにありません…………」
イーリスは冷や汗を流す。
システムを確認した結果、紅き屍骸レーダーは何も壊れてなどいない。
雪のような少女に、凛と視線を戻した。
「どきません。あなたは紅き屍骸ですよね……。紅き屍骸なら、私の事を知っているはずです。私はDr.イーリス」
紅き屍骸には、情報を共有する能力がある。
彼女とイーリスは初対面でも、雪のような少女はイーリスの事を知っている事だろう。
ライトで照らしているドローンから銃口が出現。
「どちらにしてもあなたは深夜に図書館、それも危険な禁書庫へと向かおうとしている侵入者……」
銃口を向けるのが風紀委員の管轄である事も述べ。
「答えなさい、紅き屍骸。封鎖エリアの外にいるという事は、何らかの理由で封鎖エリアを突破する方法が見つかりあなた達の活動範囲が広がったということですか?」
■蒼き春雪の治癒姫 > 「!!」
何で、知って……
いや。
何もおかしくはない。
"この女には気をつけろ"
"何をやってくるか分からない"
"この世界で、紅き屍骸にとって最も危険な存在"
嫌でも知らされた情報だ。
「やめて。お願い。私が"おばけ"じゃなくて、"紅き屍骸"になってしまう。」
切実な願い。
銃口へ向けて、涙ながらに声をかける。
「答えるから。」
「だからやめて」
何かを、こらえるように、頭を掴んでふらついた。
後退る。
訴えかける。
「……今必死に抑えてんだよッッ!」
「殺害欲を!」
「分かるでしょ!」
「最優先撃破目標!!」
「Dr.イーリス!」
「これ以上、戦意を向けられたら!」
「刺激されたら!!!!」
■蒼き春雪の治癒姫 >
「 殺 し た く な る 」
■Dr.イーリス > イーリス単身とドローン一機のみで、普通は侵入者に対抗できない。
見回りの時は動かせない事になっているが、もし侵入者がいた時に出動許可がおりているメカがいる。
そのメカ《試作型メカニカル・サイキッカーMk-Ⅲ》が出動しようとしていたのだが。
「え……?」
素っ頓狂な声をあげてしまう。
「やめて……でございますか。えっと、申し訳ございません。やめます……」
ドローンの銃口が仕舞われる。
とても切実な願いに、イーリスは思わず謝罪してしまった。
「殺害欲を押さえておられるのでございますか……!? あなたはまだ正気が残っているのですね……!」
紅き屍骸。もし完全感染をしてしまった場合、殺害欲に飲まれてしまうと思っていた。
だが雪のような蒼き少女は、必死に耐えている……。
イーリスは、殺害欲を耐えた人をもう一人知っている。
王熊に呪いを通してイーリスへと殺害欲を流しこまれた時、その人物エルピスさんが殺害欲を代わりに引き受けてくれた。
エルピスさんは紅き屍骸ではないけれど、殺害欲を耐え抜き、王熊との決戦の日に打ち勝った。
(先程の涙は……必死に、殺害欲を耐えていたから……? いえ、それだけではない……ですよね……多分)
「ごめんなさい、もう戦意を向けません!」
イーリスは、蒼き少女に駆け寄った。
そして注射器を取り出す。
「紅き感染の治療薬です……。しかし、完全感染のあなたを治療する事はできません……。それでも、正気を保っていられるあなたなら、少しは殺害欲を押さえられるかもしれません」
不完全感染者は治せても、完全感染者の癒す治療法は見つかっていない……。そもそも完全感染者とは死んでいる……。
元来は完全感染者には効力がない治療薬だが、蒼き少女は正気を保っている。
なら、殺害欲を一時的に弱めるぐらいはできるかもしれない。
■蒼き春雪の治癒姫 > 「ッ!!それッ!」
殺害欲を抑えられる。
その言葉を聞いて
奪うようにして
その注射器を
刺した
…疑う?
いや。
もうそんな余裕、なかった。
「……ありがと」
ただのプラセボかもしれない。
ただの位置ししのぎかもしれない。
だけど
何故か…抑え込もうとしていた殺害欲が、
霧散した。
否
一時的なものだ。だが、確実に効果はあった。
「ああもう。治癒姫の名が泣くね」
「こっちが癒してもらうなんて。……ちゆき、って呼んで。」
あの人の前で名乗った名とは違う。
本当の名前。
「Dr.イーリス」
「紅き屍骸の最優先撃破目標、だよね?」
呼びかける。
「少なからず知っているよ」
「あの馬鹿げた王熊とやりあった、大馬鹿者の命知らず―――」
「でも。」
「凄いよ、貴女は。」
「あれは貴女にしかできない事だ。」
「Dr.イーリス……貴女は素晴らしいね。」
ひとたび冷たくきつい言葉を投げたかと思えば、
憧憬のような言葉をつぶやいた。
そう
この子にしかできない事を成し遂げた
それはなんて素晴らしい事なんだろう
「さて」
「封鎖エリアの外に居る理由だっけ」
「簡単だよ」
「私には見ての通り…」
「こうして擬態する能力がある。だから、踏み入れる。」
「活動範囲が広がったわけじゃない。筈。」
「そして、次に貴女は"どうして学園内に紅き屍骸の私が来ているか?"を問うよね?」
先回りして、言葉を続ける。
彼女の真意は知らないけれど。
「……どうしても、」
「会いたかった人がいたんだ」
「友達になりたかった人がいたんだ」
「終わりを迎えるまでに、ね……」
聞いてほしかったのかもしれない。
■Dr.イーリス > 紅き屍骸なら疑う要素はある。
なぜならイーリスは、屍骸が二度と蘇らぬよう倒した後に屍骸を溶かしてしまう薬品も使っているからだ。
イーリスが今持っているのは嘘偽りなく治療薬の方。
正気を保つ紅き屍骸なら、なんとか正気を保ち続けてほしい……。
今の彼女は危ない状態だ。ひとまずの応急処置としての治療薬。
「では今から注射器を刺し……あ……」
注射器を打とうと思った時にはイーリスの手にはなく、雪のような少女が自らにうっていた。
「ちゆきさん、でございますね。殺害欲を押さえられたようでよかったです。私が紅き屍骸について研究していたというだけの事ですよ。あなたが正気を保っていられたから、治療薬の効果がありました。しかし、これは応急処置……。殺害欲を押さえられるのは、一時的です……」
治癒姫の名が泣く、そんな言葉から彼女が優れた治療術師であると推測し、イーリスは医療に精通しているがあくまで紅き屍骸を研究した成果だとフォローを入れる。
「そうですね、紅き屍骸の研究を進めつつを駆逐し、不完全感染者を治療する活動をしていますので、随分と紅き屍骸に狙われています。王熊は、紅き屍骸の王。あの“王”を討滅しなければ、紅き屍骸の悪夢は終わりませんからね。個人的な因縁も随分とありました」
だが、王熊については過去の話。何度も苦しめられ、幾度もの苦難を乗り越えた末、決着はついた。
……ついてたらいいな。切実に。
「ちゆきさん、ありがとうございます。私一人では成し遂げられなかった事です。私に力を貸してくださった方々がいたから、王熊の相手をできました」
目を細めて、微笑んでみせる。
「擬態する能力。なるほど、そういう事でございましたか。紅き屍骸の活動エリアが広がったと思い焦りましたよ」
続けて問うてみる。
「どうして学園内にあなたが来て──」
問う前に、言い当てられてしまった。
「まさしくそう問おうとしていました」
紅き屍骸の情報網は、イーリスの思考回路まで情報共有している!?
「友達になりたい、会いたい人……。それで先程、涙を……」
イーリスはちゆきさんの手をそっと取り、近くにあるソファまで歩いていく。
ちゆきさんに座るよう促して、イーリスも座った。
「ここの方がゆっくりとお話できると思います。会いたかった人というのはどのような方なのですか?」
ゆっくりとお話。一時的に殺害欲を押さえると言っても、そんなすぐにまた殺害欲がまた復活するわけではない。ゆっくりお話できるぐらいの余裕はある。
イーリスは柔らかく微笑みながら小首を傾げる。
■蒼き春雪の治癒姫 > 「……ああ、一時的、でしょうね。」
死んだ人を生き返らせるような薬があるのなら、
この世に死者なんていない。
一時的だというフォローは、さもありなんと思いながらも、
少し物憂げだった。
「―――貴女だから、出来たんだよ。あのバカ熊を……。」
"倒した"、か。
……否。何も、言うまい。
皆の力で、と。
嬉しそうにしている少女に残酷な真実を突き付けることは、
出来なかった。
私は知っている。
アレはまだ生きている。
生きていて、貴女を殺す気でいる。
「―――ん。」
手を取られる。
大丈夫
大丈夫
まだ時間がある。
そう確信しながら―――ソファへ腰かける。
■蒼き春雪の治癒姫 >
―――閑話休題―――
■蒼き春雪の治癒姫 > 「―――まあ、貴女に隠す必要もないか」
「かの邪悪なる機界魔神、テンタクロウ」
「それを討ち、斬り、救った、」
「美しき剣士様、だよ。」
「憧れていたんだ」
「絶対なる自己を持ったあの人に」
ソファに隣り合って座りながら、
その問いかけに緩やかに答える。
「――終わる前に」
「殺害欲に飲まれる前に」
「紅き屍骸と化す前に」
「やりたいことをやり切りたかった」
切実に、
吐露していく、
想い。
■Dr.イーリス > 死者の蘇生。イーリスにとってはとても興味深い分野だ。
ただし同時に、死者蘇生など“不可能”だと現時点では結論付けたい。
色んな可能性を信じている科学者、イーリスが不可能だと結論づけるものは、そう多くはない。
蘇生させるという方法での完全感染の治療は無理だ……。
「ありがとうございます、ちゆきさん。あなたにそう仰っていただけるのは、私にとって誇りに思えます」
イーリスだから出来た。
紅き屍骸の殺害欲を耐え抜いているちゆきさんにそう言っていただけるのは、とても誇り。
「機界魔人さんを破った美しき剣士さん……。緋月さんの事でございますか……!」
テンタクロウさんが逮捕されたニュースはイーリスも見ていた。当時のイーリスは不良少女で、風紀委員ではなかった。
誰がテンタクロウさんを捕まえる決めてになったかは当時分からなかったけど、後になって調べている内に緋月さんに辿り着いた。
緋月さんとは二度会った事がある。風紀委員が主催する懇親会、そして納涼氷柱割り。
テンタクロウさんが逮捕されたのは夏の始まりだ。その後に、ちゆきさんと緋月さんは出会ったのだろう。
やりたいことをやりきりたかった。その言葉から察するに、きっと、この夏……ちゆきさんは緋月さんとやりたいこと、いっぱい楽しんだのだろう。そして、楽しい事をやりきる事ができなかったのだろう……。
イーリスは目を細めて微笑みながら、ちゆきさんの両手をそっと包み込むように自身の両手で掴んだ。
「ならやりたい事、やりきってしまいましょうよ! こんなところで終わってしまうなんてとても悲しいです……」
それが出来ないからちゆきさんは悲しんでいる。それは百も承知。
何の根拠もなく願望のみで述べているわけではない。イーリスには考えがある。
■蒼き春雪の治癒姫 > 「そ、緋月様。」
緩く頷いた。
「フフッ。おばけは―――」
そ、っと。
触れてくれた手を
拒むように
柔らかく
雪が解けるように
するりと抜ける
(それに身を委ねたら)
(どれだけ楽だろうね)
(温かい…)
(でもそれを受け入れてはいけない)
でも。
そうすることは出来ない。
自分のしたい事に身を委ねてしまえば。
取り返しのつかない事になってしまう。
そうならないためにここに来たんだ。
「おばけは、触れないって約束になってるんだよ。」
もう終わりなんだ。
終わらせなきゃ、いけないんだ。
おばけとして、終わらせるんだ。
「ありがとう。」
「でも、もうダメなんだよ」
「これ以上、これ以上と望んではいけない」
「私は」
「十分すぎる程に、得られたんだ」
「だからもう良いんだ」
「誰かを」
「緋月様を」
「傷つける前に―――」
■蒼き春雪の治癒姫 >
「永遠なる、眠りを―――」
■Dr.イーリス > ちゆきさんに触れようとした。
だが、その手はすりりと抜ける。
「おばけは触れられない……? あなたは、緋月さんに触れたのではないですか…? あなたが緋月さんと友達になりたいと思ったから、触れたのでしょう……!」
イーリスは、悲し気に眉尻をさげる。
「あなたはここに来る時、泣いていました……。緋月さんと、もっと一緒にいたいと願ったからでしょう……? 本当はこんなところで終わりたくないからでしょう……? あなたは今日まで、必死に、殺害欲に支配されないよう耐えてきたのでしょう……?」
緋月さんとの想い出を思い出させるように、そう柔らかく告げる。
イーリスは二人の想い出について何も知らない。だけど、きっと凄くぽかぽかと温かい気持ちになる想い出が二人にはあるのだろう。
「私は紅き屍骸を研究し続けているDr.イーリス! どうすれば完全に感染した人を治療できるかも研究し続けました……!」
凛とちゆきさんを見る。
イーリスには医療の知識と技術がある。Drは、博士と医者その両方の意味を持つ。
「死者の蘇生はできません。しかし、紅き感染源を取り除くという方法で、治療できる可能性があります! 感染源を取り除けばアンデッドではなくなり死に至ると思いますが、一度アンデッドになった肉体ですから代わりになる殺害欲を生み出さない感染源を注入するという方法で維持できます……!」
イーリスの治療法。それはつまり死者を蘇生させるのではなく、感染源だけを取り除き普通のアンデッドにしてしまうというものだ。
殺害欲を生み出さない感染源は、《紅き機械ノ女王》の技術の応用でおそらく可能だ。イーリスは紅き屍骸研究の末、疑似的ながら自らを屍骸化する事に成功した。屍骸化した際に殺害欲が出るわけでもない。