2024/08/07 のログ
ご案内:「大時計塔」に雪城 氷架さんが現れました。
雪城 氷架 >  
大時計塔。その階段の踊り場の日陰にて。

「(…此処は涼しいな)」

補修の時間の合間と合間。
普段、夏季休暇でない時期は定番にしているサボりスポットに少女は訪れていた。
日陰に腰を降ろして、ひんやりした壁を背に。

「(教室棟の中も涼しいけど、なんだかんだ人多いんだよな……)」

一々視線が気になると気も休まらない。
そんな少女は一人、時間を潰すためにこうして此処にいる。
尚、危険という理由で本来生徒は立入禁止である。真面目な生徒諸君は立ち入ってはいけない・
だからこそ、人が来ることも少なくのんびりサボれる良い場所なんだけど。

何の気なしに指先で触れるのは、異能抑制用の黒いチョーカー。
どれほど効果があるかは知らないけど、ないよりは良い。
過去に異能の暴走事故を起こした際に、体調が不安な時…要するに、異能の制御に不安がある時はつけると良い…と渡されたもの。
そう、実際体調はそんなによくない。
暑いし、月のアレだし。
…なんかコレつけてるとそうなんじゃ、って思われるのも、やや不名誉な気もするが…仕方なし。

雪城 氷架 >  
実際体調が悪いと異能の制御がうまくいかないことが多い。
昨日少し感情的になって外してしまった時も危なかった。
──もしかしたら自分の周囲ごと、近くにいたあの風紀委員も……凍らせてしまってたかもしれない。

「…よく考えたらとんでもないことした気がする」

風紀委員相手にあんな、下手をしたら…いや下手をしなくても、逮捕・厳重注意案件だったんじゃなかろうか。
当然悪意はないし、少し感情的になって普段は異能でこうできるからいいんだよと見せるだけのつもりだった。
少しだけ周囲を冷やすだけ、のつもりが…まるで真冬のような凍える気温にまで下げてしまった。

黒いチョーカーから指を離す。
異能の制御が拙いのは、ある程度は仕方がない。

「(でもこの短気な性格は、直さないとな………)」

ご案内:「大時計塔」に焔誼迦具楽さんが現れました。
焔誼迦具楽 >  
 ――時計塔の中は、生徒にとってもそうだが、当然、教員にとっても絶賛のサボりスポットである。

 というわけで、講義の合間にのんびり日光浴でもしようと登ってきた迦具楽だったが。

(まいったな、先客がいたかぁ)

 と、どことなく気まずそうな顔をしつつも。
 視線の先に居る、超が付く美少女の名前に見当がつくと、思い切って顔を出した。

「――や、おさぼり中にお邪魔するよ」

 そう声を掛けつつ、少女に笑いかけながら手を振って挨拶した。
 

雪城 氷架 >  
…げ、誰か来たよ。
しょうがないか、自分だけの場所…ってわけでもない。
過去に此処でサボってる時も、何人かと鉢合わせしたりはしたし…。

「……」

とりあえず、小さく溜息。

「別にサボりじゃないよ。
 次の補修の時間まで、間が空いただけだ……」

顔立ちは完璧なものの、愛想が悪く言葉もぶっきらぼう。
もうずっと相変わらずのアンバランス。
こちらに笑いかけながらちゃんと挨拶までする彼女とは正反対だ。

「…邪魔だと思うなら帰ってくれてもいいけど」

どこかで聞いたようなやりとりをしつつ、ツンツンである。

焔誼迦具楽 >  
「あらま、補修の子かぁ。
 こんな暑い中大変だねえ」

 そう言いながら、遠慮なく少女のいる踊り場の日陰――でなく、丁度日が差し込むところに陣取って座ると、大きく背伸びをした。

「んん~!
 いやあ、悪いとは思わないわけじゃないけど、私もここは結構お気に入りでさー。
 ああ、っと。
 アナタは涼しいの苦手?」

 そう言いながら、細く鋭い日差しを浴びながら気持ちよさそうにしている。
 少女にツンツンされても、さして堪えた様子もなさそうだ。
 

雪城 氷架 > 「(暑い中と言いつつ日向にいくのか)」

また変なやつな気がする…。
いやこの学園はヘンじゃないやつはいないのかもしれないけど。

「別に、私が占領してる場所ってワケでもないし…」

立入禁止のはずだけどな。と付け加え。

「むしろ暑いのが苦手だよ。だから此処で涼んでるんだ。
 教室棟の中にいると、夏季休暇だってのに結構人がいて、鬱陶しいし……」

特に帰る様子もなさそうだと見れば、座り込んで脚も崩す。

焔誼迦具楽 >  
「立ち入り禁止、って言ったって封鎖もされてないしね。
 まあ自己責任って感じじゃないかなー。
 ――あ、ヘンなやつって思ったでしょ」

 そういう顔された、と感じる。
 とはいえ、迦具楽の表情は楽し気に笑っているのだが。

「あ、そうなんだ?
 それならよかった。
 じゃあ――これからかなり涼しくなるけど、勘弁してね」

 そう言った宣言通り。
 それまで真夏日の気温だった空間が、体感で5℃、もしくはそれ以上、明らかに涼しくなる。
 特別何かをした様子は迦具楽には見られないが、なにかをしたのは明らかだろう。
 

雪城 氷架 >  
「大丈夫。この学園ではヘンなヤツにしか会ったことない」

淡々と肯定の言葉を返す。
ヘンなヤツだということに笑っているのだから、まぁ‥ヘンなヤツだ。
悪いヘンなヤツでないなら、それでいいけどとも思う。

「…? ───、!」

急激に、寒さを感じるほどの気温。
その場が唐突に、真冬の朝のような──

自分と同じような異能の持ち主?それとも魔術?
よくはわからないけど、涼しいという次元を越えてる。

焔誼迦具楽 >  
「あっはは、それもそっかぁ」

 そう、明るく笑って同意する。
 むしろヘンじゃない方が珍しいくらいだと思う。
 それがまた、この学園のいいところだとは思っているが。

「――んや、ごめんごめん、寒かった?」

 少女のどことなく驚いたような反応に、頭を掻きつつ苦笑した。
 すると、ほんのりと気温が戻り、春先程度の温かさとなるだろう。

「んー、やっぱり湿度だけは邪魔だねえ。
 えっとアイツはどうやってたかな――こうか」

 パチン、と指を鳴らすと。
 周囲からべたつくような湿気が突然、消え去った。
 秋も深いころのように爽やかな湿度に変わってしまうだろう。
 

雪城 氷架 >  
「…驚いたな。異能か魔法かわからないけど」

時計塔の中とあひえ決して狭くはない。
二人がいる場の環境を一瞬で変えて見せる様子にただただ驚く。

自分の異能で同じことをやろうと思ったら…。
多分、調子の良い時でもダメだろう。
これだけ精密に効果範囲を広げて異能を行使するのは、きっと身体が持たない。

「……で、アンタ誰。
 私のことは、知ってる風だな」

なんとなくそう感じて、問いかける。
一瞬にして過ごしやすい環境になった踊り場で、二人。

焔誼迦具楽 >  
「涼しくしたのは私の生態特性、って言えばいいのかな。
 で、湿度を消し飛ばしたのは、親友の破壊魔法の真似って感じ。
 まあ、私自身は魔法と相性悪いから、現象だけ真似して引き起こした、ってところだけど」

 と、自分がやったことをさっくりと話して。

「異邦人で怪異で、嘱託体育講師の焔誼迦具楽(ほむらぎかぐら)
 アナタの事はまあ――結構前から知ってるかな。
 私にとってはちょっとした恩人だからね」

 そう言いつつ、少しだけ迷うような様子を見せて。

「んー――ヒョーカ、で良いかな?
 私の事もカグラでいいからさ」

 なんて、非常に気安い調子で尋ねた。
 

雪城 氷架 >  
せいたいとくせい、はかいまほう、げんしょうだけまね
成程ね。なにもわからない。

まぁいいか、現実にお気に入りスポットは過ごしやすい環境に変わったのだから。

「異邦人は珍しくないけど、怪異……。
 一言にそう言われても、普通の女の子にしか見えないけどな」

でも、そういうものなのかもしれない。
あまり交友関係を広げるタイプでもないから知らないだけで、学園にはそういった生徒も多いのかも。

相手が名乗り、こちらの名前を確認する。
まぁ、見た目じゃそんなに年も離れていなさそうだし、呼び方についてはいいんだけど…。
その前に、言われたことがどうにも引っかかった。

「恩人…?」

「悪いけど、この学園にきてから誰かのためになることなんて、何もした記憶ないよ」

人違いじゃ?と…。

焔誼迦具楽 >  
「まあ、分類するなら怪異って事。
 私の場合、今はまあ四割くらいは人間と変わらないけど」

 そもそも生き物として色々と、人間とは異なっているのだから、出自からも怪異と言わざるを得ない。
 とはいえ、そこまで説明しても困惑させるだろうから言わないが――

「――そ、恩人」

 無自覚なその様子を見れば、当然だろうなとも思う。

「私は、ヒョーカの異能のお陰で産まれたんだ。
 詳細は――ヒョーカもあまり思い出したくない事だとは思うけど」

 そうぼかして伝えるが。
 ぼかした時点で、美少女が中心にあったあの事件(・・・・)が関わっている事は直ぐに察せられてしまうだろう。
 

雪城 氷架 >  
…なんだって?

眼の前の彼女が、分類上は怪異で。
私の異能のおかげで、生まれた…?

思いもしない情報にただただぽかんとしてしまう。
でも、ああ…続いた言葉で理解した。理解できてしまった。

「そう、か」

総毛立つ…とは少し違う、ジーン…とした感覚が全身を走った。
冷静に言葉を返したけど、…思いも寄らない言葉だったし、そうだっていうなら…。

「……ごめん。私、あの事件のことは…殆ど何も覚えてないんだよ。
 何があったのか、とか…後から聞いて、教えられただけでさ」

恩人…あの時の事件で生まれた、と聞いても……ピンと来ない。
そうだとして、そんなことが本当に在り得るのか…とも。

焔誼迦具楽 >  
「ごめんごめん、急にこんなこと言われても困るよね」

 苦笑しつつ、とは言え、どこか懐かしむような様子で、静かに話しだす。

「いいんだよ、私もあの事件の事は後から知ったけど。
 その時を覚えていない方がいい事、っていうのはあると思う」

 ほぼ、完全記憶に近い能力を持つ迦具楽からすれば、あれもこれもと覚えていても、それほど良い事はないと思うのだ。
 特に、自分が大きな事件の当事者――被害者だったなんて記憶は、覚えていない方が楽に決まってる、そう思う。

「ただ、まあ――経緯はちょっと複雑なんだけど。
 ヒョーカがいなかったら、私この世界に存在する事はなかった。
 ――そういう意味で、私が生きてきたこれまでの全て。
 いい事も悪い事も、嫌な事も嬉しかった事も全部、ヒョーカがいてくれたおかげなの。
 だからその、会えたら伝えたかった事があるにはあって、えーっと」

 そう言いながら、照れ臭そうに頬を掻きながら。
 赤い瞳で真っすぐ、己の『母』を見つめ。

「――ありがとう、ヒョーカ。
 あなたがいてくれたから、私は今を思い切り生きてられてるよ」

 そう恥ずかしそうに言った。
 

雪城 氷架 >  
「………」

ただただ、その透き通る氷のような蒼い眼を丸くしていた。
突然といえば突然だったし。
そんな相手と偶然こんな場所で出会ったことも不思議でならなかった。
たまたま補修でやってきている…つまり前期試験の結果が良ければ彼女とは出会えていなかった。
たまたま、すれ違わずに今日ここで出会った…にしても。

「ちょっとまだ受け止めきれてないけど…。
 なんか、嘘を言ってるわけじゃないんだな…ってコトは、伝わるよ」

そう言って、首元のチョーカーに触れる。

異能を暴走させたのは、実はあの事件が初めてじゃない。
それよりももっと前、島に来る以前……その時は、自分の母親が犠牲となって、死んだ。
だから二度目の暴走事故になった『炎の巨人事件』は…余計に深く傷ついた。
いっそ、こんな異能の力なんかないほうが良かったと思うことも、当然あったから。

「……どういたしまして、って言っていいのか、わかんないな」

そう言って、苦笑する。

そうか。
自分の異能の力を否定することは、目の前のこの子を否定にすることになるんだ。

焔誼迦具楽 >  
「あはは、だよね――」

 頭を掻いて、ちょっと情けない顔で苦笑する。
 あんまりに唐突な事だった。
 とはいえ――ずっと伝えたかった事だった。

「どういたしまして、って思ってほしい――って我儘だね。
 でも、そのね。
 ヒョーカがいてくれたから、今の私がいるのは間違いないんだ」

 苦笑する美少女に、目を細めて、どこかこの瞬間をかみしめるようにしながら。

「――それに、驚く事なら、まだまだあるよ?」

 そしてちょっとだけ、悪戯っ子のように笑い。

「今の私には、妻が居て、娘がいて、悪友のような家族がいるの。
 しかも、つい最近なんとか学籍も手に入れて、講師なんて真っ当な仕事も出来るようになった。
 それに、マイナースポーツだけど、本気で頑張りたいものがあって、ワールドレコードで二位まで駆け上れた。
 ――全部が全部、ヒョーカが切っ掛け、ヒョーカが居てくれたから」

 『なんていうと重すぎるよねえ』なんて続けて笑いつつ。
 それでも、その言葉は本当に、ずっと伝えたかったことだった。

「その、さ。
 一応私は多分、熱操作の能力に関してはそれなりの物だと思うんだ。
 それに今は講師だし。
 ヒョーカがもし、前向きにとらえてくれるなら、その異能の練習も手伝いたいし、困ったり苦しい事があったら、いつでも助けてあげたいって、思ってる。
 だから、なんていうんだろ――え~っと、あ~」

 言葉に困りながら、自分の、彼女とは対照的な色の黒髪を弄りつつ、また気恥ずかしそうに、べ、と舌をだす。

「よかったら、仲良くできたら嬉しい、です。
 その――ヒョーカ母さん」

 最後は、本気混じりの、冗談交じり。
 けれど、口にした後、迦具楽は顔を赤くしていた。
 

雪城 氷架 >  
「ちょ、ちょっと待って…情報の洪水すぎる…」

整理しなきゃ、整理しなきゃいけない。
公安委員の引き起こした、異能の暴走事故『炎の巨人事件』
自分は、ただ異能の力を利用されただけで、気を失っている間に全てははじまり、終わっていた。
そこの事件…自分の異能の力を切欠に、今目の前にいる彼女が生まれて、そして…。

「………」

家族を得て、立派に職を得て。
本気で打ち込めるものを見つけて、それに邁進して。
それが全部、自分のおかげ?

違う…自分がちゃんと知らなきゃいけない異能の授業も座学が苦手だからって、サボって。
面倒なことから逃げて、なんとなく周りが勝手に変わっていけばいいなんて消極的に考えてる。
本気で打ち込めることもない、探してもいない…。
でも、学生なんてそんな生徒が大半だと思って、自分に檄を飛ばすこともない。
───私なんかより、私から生まれたなんて言うこの子のほうがよっぽど………。

「私は…」

仲良くしよう、なんて…言う前に。

「異能の力で、誰かを傷つけることしかしてこなかったんだ。
 ……こんな力なくなったほうがいい、ってそれなりに思ったこともあるし」

沢山並べられた感謝の言葉。
でも、もう一度確かめたくて。

「…カグラは、生まれてきて良かった?」

俯きながら、言葉をを絞り出す。
それから、顔色を伺うように、視線をあげて、彼女を見た。

焔誼迦具楽 >  
「あははっ、ごめんごめんっ!
 うん、まあ、そうだよね」

 いくら迦具楽にとって産みの親のような相手でも、若干十代の女の子なのだ。
 そんな子が、人間の人生を圧縮したような時間を過ごしてきた迦具楽の話を聞いても、困惑してしまうだろう。

「ふふ――」

 それでも、ようやく伝えたい事を伝えられた事に、笑みが漏れてしまう。
 美少女が戸惑うように考えている間も、同じ空間に居られる事が嬉しくてたまらない――そんなふうに感じて。

「――よかった」

 それは即答だっただろう。

「死ぬほど苦しい思いもしたし、なんなら、比喩じゃなくて殺されたりもしたし。
 ――怪異として人を殺したりもしたし、傷つけたりもした。
 それでも」

 一度大きく頷いて、はっきりと断言するだろう。

「産まれてこれてよかった。
 生きてきてよかった――今は、心からそう思う」

 償う罪もあるし、守るべきものもあるし、清算しなくちゃならない因縁もある。
 けれど、その全てをひっくるめて――よかったと断言できた。

「だから、ヒョーカの力は誰かを傷つけただけじゃない。
 何かを失わせて、壊して、悲しませてきただけじゃない。
 偶然でも事故だったとしても、私を産んでくれた事実は、無くなったりしない」

 そう力づよく言って、今度はとても大人びたような穏やかな笑みを浮かべた。
 ジャージのポケットから学生手帳を取り出して、立体映像の投影機能を動かす。

「――ほら、見て。
 この子が私の娘で、輝夜(かぐや)っていうの」

 その映像の中では、巫女装束の女性と、無邪気に戯れる小さな黒髪の女の子の映像が保存されていた。
 年のころは小学生くらいだろうか。
 怪異の娘だからか、成長速度が人とは違うのかもしれない。

「ヒョーカが居なかったら、私だけじゃない。
 この子も産まれてこなかった。
 ね、ヒョーカ。
 この子の、楽しそうな笑顔を見て、どう思う?」

 投影された映像では、女の子が心から楽しそうに、無邪気な声を上げて優し気な女性と遊んでいる。
 女性もまた、とても穏やかで幸せそうな笑顔を浮かべていた。
 そして、それを見せる迦具楽もまた、本当に幸せそうな微笑みを浮かべている事だろう。
 

雪城 氷架 >  
「───!」

即答。断言…。

彼女自身が言う、怪異としての生誕と、歩んできた道は。
きっと一般生徒に過ぎない自分には想像できるようなものでもない。
彼女の口から漏れる言葉には、少女にとっての非日常も多分に含まれている。
それでも幸せだと笑う顔にはどこにも嘘がなくて───

首のチョーカーにかかる指の力が、少し強くなる。

なんだよ。
ただの厄介なだけの、傍迷惑な力だと思ってた。

ただの結果論なのかもしれない。
ただその結果として、今の彼女や、彼女の見せる子供の笑顔があるなら…。

「…私の力から、カグラやこんな子が…?」

なんだ、案外。

「悪くないじゃん」

異能抑制装置から指を放して、笑顔を見せる。

「こんな素行の悪いママでよけりゃ、どーぞよろしく。
 …でもヒョーカ母さんはちょっと、人前ではやめてほしいな…‥」

あらぬ誤解を生み出そうだ。

焔誼迦具楽 >  
「――へへへ」

 ようやく見れた、『母』の笑顔に嬉しくなる。

「素行不良はな~、私もちゃらんぽらんな講師だし、お互い様?
 んへへ、ヒョーカ母さん、は、流石に人前じゃ言えないって」

 そう嬉しそうに笑いながら、一緒に娘の映像が止まるまで眺め。

「――うちの娘、凄いお転婆だからすーぐにお留守番中に大脱走するんだあ。
 だから、もしどこかで見かけたら、叱ってやって。
 きっと、うん、この子もヒョーカ母さんの事、好きになると思うからさ」

 そう言って、今度は手帳からアドレス帳を呼び出して。

「私がどれだけ役に立てるかわかんないけど、何かあったらいつでも呼んで。
 ヒョーカ母さんが困った時は、絶対に助けに行くからっ」

 そう力いっぱいに言いながら、自分の連絡先を表示して見せた。
 

雪城 氷架 >  
「お互い様じゃ困ったもんだな」

そう、肩を竦めて見せて。

「あんまり子供とか叱ったことないんだけどな…」

そもそも自分が子供の頃のことを思い返してみる。
家族が全力で見た目だけで超美少女に仕立て上げたくらいには、男勝りでやんちゃだった。
お転婆くらい、可愛らしいものかもしれない。

「そんな困るようなこと、もうごめんっちゃごめんだけどなぁ。
 まぁ、それはそれ…今日は会えて良かったよ」

制服のポケットから手帳を取り出して、連絡先を交換する。
教師、実家族以外ではめったに増えないアドレス帳。
そこに、新たな名前が付け加えられた。

そして、タイミングを告げる様に、時計塔が鐘を鳴らす───。

焔誼迦具楽 >  
「あはは、怒られない程度にはちゃんとやってる――つもりだよ?」

 ちょっとだけ肩を竦めつつ、誤魔化すようにチロっと舌を出して。

「まあねえ、世はこともなし恙なく。
 穏やかな日々である事に、越したことはないもんね。
 ――私こそ、話せてすごく嬉しかった」

 そう伝えている間に鐘がなれば――

「――っと、そろそろ講義の準備しないと。
 いやぁ、体育講師って聞いてたけど、解剖学とか生理学とか運動学とかさあ、思いのほか座学が多くてびっくりだよ。
 ヒョーカ母さんは、補習の方は?」

 そう言いながら、ゆっくりと迦具楽は立ち上がる。
 

雪城 氷架 >  
「私も、起こられない程度にはちゃんとしようって改めて思えた」

こんな子が自分を見ていると思ったら、あんまりみっともない格好を見せられない。
そんな今まで意識したこともないようなことを、考えるようになってしまった。

「世の中何があるかわかんないもんだなっていうのも改めて思ったよ。
 私は───、異能の講義だけ、座学だから、寝ないように気をつけないとな」

他の科目も良くはないが、補修がある程ではない。
異能の講義に関しては人以上に習熟する必要があるとして、ハードルが高めにされている。
少女の持つ異能の危険性を鑑みれば、仕方のないところもあるのだろうが。

合わせる様に立ち上がってスカートについた埃を軽く払えば、丁度鐘も鳴り終わる頃。

思わぬ出会いがあった───、なんか、この時計塔はそういうことが起こりやすい気がする。

「それじゃ、またな。カグラ」

色々、夢物語のようなことを聞いてしまった。
未だに現実の話なのか、どこかふわふわとしているけれど。
彼女と別れ、教室棟で補習を終えて、学生手帳を開いた時。

滅多に追加されないそのアドレス帳に新しい名前が増えている。
あー、夢じゃない、現実だ、と。
一夏の出会いは少女にはひとときの衝撃…、怪異の彼女にとっては、長い時を経ての再会だったのだろうか。

ご案内:「大時計塔」から焔誼迦具楽さんが去りました。
ご案内:「大時計塔」から雪城 氷架さんが去りました。