2024/10/02 のログ
武知一実 >  
デッキブラシで届く範囲を磨いていると、どうしてもちょっと無理をしなきゃ届かない様な場所の汚れが気になってくる。
だがしかし、この仕事を受けるにあたって作業前にキッチリ念書まで書かされているのだ。
落ちて死んでも自己責任、と。
つまり、下手を打てば死ぬという事。いや、そりゃ死ぬわこの高さから落ちたら。
……が、気になる。ちょっと身を乗り出して腕を伸ばせば届きそうな気もするが、そのちょっとで命を落としかねない……うーん

「……あ?」

そんな葛藤の最中だった。
唐突に上がって来た女子生徒が一人。バイトの監視役……とかじゃないよな、だとしたら風紀の警邏?
いや、警邏の目を掻い潜れる時間帯の筈だ。……じゃあ、誰?

「こんな場所に何の用だ? あぶねえから入っちゃいけねえらしいぞ、ここ」

もしかしたら立ち入り禁止を知らない生徒か?と思って確認だけしてみる。
別に用が無くともどうこう言うつもりは無い。オレだって人の事言えねえし。

雪城 氷架 >  
「知ってるよ。
 サボるのに人こなくて丁度いいから利用してたんだけど」

きっぱりそう返す少女。
声色もどこか冷たげでいまいち愛想のない印象を与える。

「…清掃中ならしょうがないか。何、生活委員…?」

じ…と薄氷のような視線が少年を見る。
随分でっかいなと思いつつ…年上か?
目つきも悪いし…なんか愛想も良くないぞ。
そう思って、なんだか自分のことのようにも思えてちょっと鬱。

武知一実 > 「何だ、知ってて来てんなら良いや」

向こうの口ぶりからすると、迷い込んだわけでも、限りなくグレーなバイトを窘めに来たわけでも無いらしい。
だったら特に警戒もする必要はねえな。サボりに来たってんなら自由にサボって行って貰えばいい。
オレはオレのバイトを続けるだけ―――

「あん? 別に、どこの委員にも入っちゃいねえよ。
 バイトだバイト、生活委員あたりの人手が足りてねえんじゃねえの」

求人が出た理由までは知らねえし、詮索する気も無かった。
まあ念書は書かされたし、風紀に見つからない様にと指示があった手前、正規バイトかは怪しいところだが、オレとしちゃバイト代が入るならどうだって良い。

「水撒いたりはしねえから、サボりってんなら適当にその辺でサボってくれてて良いぜ。
 埃は舞ってくかもしれねえから、風向きだけは気を付けろよな」

雪城 氷架 >  
「バイト…? こんなとこの掃除のバイトあんのか…」

危なくないのか…と思いつつ、まぁバイトというならそうなんだろう。
…さて、正直近くで清掃中だとサボってのんびり惰眠をってわけにもいかなさそうだが…。
でもここまで階段上がってきてこのまま引き返すのもなんか癪に障る。

まぁいいか…と秋風に髪を揺らしつつ日陰に寄れば、座り込んで。

「…いくらもらえんの、それで」

高所だし、結構危なそうにも思える。
若い身空で飛びつくくらいには割がいいのか。

武知一実 >  
「大体時給換算で2万ちょい
 ただし生きて帰れれば、って注釈が付いてたけどな」

別にバイト代目的で飛びついた訳じゃねえから割が良いのかまでは気にしてなかった。
けど、無茶しなきゃ危険じゃねえんだし、それで貰うバイト代にしてはかなり割が良い方なんじゃねえだろうか。
風紀に説教喰らう可能性も、まあ、喧嘩する時と同じ(いつもどおり)と言っちまえばそれまでだしな、オレにとっては。

「まあでも、高いところがダメって奴にとっちゃ頼まれてもやりたくねえだろうし
 金目当てで来る奴は大抵まともに掃除しねえだろうし?」

オレみたいなのがやるのが丁度良いんじゃなかろうか、と思う。
万一落ちて死んだところで悲しむ家族とかも居ねえし。

雪城 氷架 >  
「……よくそんな仕事受けるな…」

へえ割高じゃん、と思いきや物騒な注釈がついた。
そして言う通り、高いところがダメだったら、きっと話しにもならんだろう

「ふーん‥」

両手を頭の後ろに組んで、肝っ玉がすごそうな少年を見やる。
パッと見、不良っぽくも見えたが意外に真面目そうなヤツだ。

「パッと見、不良ぽく見えたけど意外に真面目なんだな」

思ったことをそのまま口にしていた。
見た目こそ少女だが、まるで同じ様な年頃のやんちゃな少年と喋っている様な、雰囲気。

武知一実 >  
「やれると思ったから受けただけだしな。
 まあ本来どっかの委員会の奴がしっかり安全を保障された状態でやる仕事だとは思うけどよ」

たまたま高所作業に向いた人員が居なかった、とかそういう事なんだろう。
まあこれも一つの適材適所って奴だ、多分。そう思う事にしてる。

「真面目はそうでもねえが、不良っぽいとはよく言われる……が、言うほど不良っぽいかあ?
 髪は地毛だし、服だって校則から大きく逸脱してるわけじゃねえしよ。
 まあ、人相でそう思われるのは最近諦められるようになってきたけどな」

結局、汚れがどうしても気になって柵から身を乗り出して腕を伸ばす。
あー……この高さは落ちたら死ぬよな……、と再実感。
どうしてもやらんといけない所じゃないから、今後は多少汚れが目に付いても無視するか。

「オレなんかよりよっぽど制服として大丈夫かって言いたくなる格好の奴とか居るじゃねえの」

主に女子。もうちょっと着崩しをどうにか出来ねえのかと思う奴も居る。

雪城 氷架 >  
「なんか、喋り方もぶっきらぼうだし愛想ないし、目つきも悪いし」

人のことはあまり言えない気もするが。
そんな言葉の羅列。

「あとデカいから怖いとか?
 ……あ、集中したほうがいいときは集中してくれよな…落ちるトコ見たくないし」

一応、注釈。
こっちが話しかけて集中できずに事故が起こるとか簡便願いたい。

「着こなしはまぁ…個性みたいなもんなんじゃないの」

確かに、あんまり着崩さないほうがいいような体型のヤツに限って着崩している気がする…。
自分は?そもそもの体型がアレだ、問題ない。

武知一実 >  
「このツラで丁寧な言葉遣いの方が怖がられんだろ
 ……目つきはもう15年も地でやってんだ、今更どうこう出来ねえし……はぁ」

ま、不良っぽく見られたところで困る事なんざそんなにねえが。
オレ自身にそのつもりが更々無くても不良っぽいと思われるのは釈然としねえ。 ただ顔が怖いってだけの方が納得がいく。

「デカいのもオレにはどうしようもねえな……
 これくらいでミスるほど散漫な集中力してねえよ……っと」

会話はしつつも意識自体は体のバランスを保つことに重点を置いてる。
とはいえ変に不安を煽るのも何だし、乗り出していた身を早々に引っ込めて。

「個性ねえ……どういう個性なんだかな」

胸や足見せるのが個性の範疇にどう納まるのか分らん。
まあ、多分見せてる奴らはそこまで考えちゃいねえとは思う。思うが……ちったぁ周りの目を気にしろと言いたくはなる。

「まあ、その点で言っちゃアンタはわざわざ服着崩さなくとも、って感じだな」

雪城 氷架 >  
「ふーん………15年?」

15…?
まさかの年下か…?
いやいやこの風貌でそれはないな。
そう思ったので深い言及は避けた。

「集中できてるならそれは何より。
 服で個性出さないと、無個性は大変なんだろー。
 …まぁ、なんか寝れそうもないし、邪魔しちゃ悪いし戻るかな……」

よいしょと立ち上がってスカートのお尻をぱんぱんとはたく。

「褒め言葉、と受け取っとくよ」

外見を褒められるのは言われ慣れてる。とどこかあっさりめの返しをしつつ──。

「──、と…」

ぶわ…ッ、と秋風によくある、突風…。
スカートが捲れて…とかそういう感じの風じゃない。
座った状態から立ち上がったばっかり、なのも手伝って…、
見た目にも軽そうな、華奢な少女の身体は普通に、風に煽られてたたらを踏んだ。

バランスを崩して数歩、転びそうになった先───。

やば、落ち、る……?

武知一実 >  
「言うほど無個性な奴、そうそう居ねえと思うんだけどな
 ……おう、別に邪魔になんかなっちゃいねえが――」

まあ、サボりに来た先で掃除なんてされてたら落ち着かねえわな。
サボるのにはまた日を改めて来て貰うとして、オレもちゃっちゃと掃除済ませてくか。
時計塔の屋根、届く範囲で磨いてしまおうと思った矢先、ひと際強い風が吹いて――

「チッ、たまに風が強いから参るな……
 ってオイっ! 危ねえッ!!」

今の風に煽られたか、女子生徒がふらふらとふらついて行くのが見えた。
……見えたと同時に、オレの脚と腕は、
あわや宙に身を投げ出しかけていた細い腕を掴み、無理矢理引き寄せようと動いていた。

代わりに可哀そうなデッキブラシくんがその身を宙に投げ出されていたけれど。

雪城 氷架 >  
まぁ、伊達に立ち入り禁止、ってわけでもない。
手摺がついていない場所だってたくさんあるし、この季節よくある突風に煽られれば、まぁ…。
ただ地上で吹かれる風と違って、高いところの風ってこんなに強いのか…。
みたいな、そんなどうでも良いことが数瞬の間に頭の中を駆け巡った。
案外…そういう時ってこういうものなのかもな。
妙に落ち着いてる、不思議な感覚で身体が浮く、そんな感覚を感じた、瞬間。

「──、っわ…」

ぐん、ッッ!
腕を捕まれ、すごい勢いで引き寄せられる。
びっくりするぐらいに、強い力だった。
ものすごい小さな頃は、男の子に混じって遊んでた記憶があるけど、そんなの比でもない…。

勢いのまま、相手に倒れかかるような姿勢になってしまって。
とても遠く、下の方でカーン…ッ、なんていう、何かが落ちた音が響いて…我に帰った。

「は…、あ、…あぶ…。
 ほ、本気で墜ちるかと思った……」

聞いたこともない速度で胸が脈打っているのを感じる…。

「わ、悪い……ありがとう。…助かった」

つっけんどんで無愛想なさっきまでとはさすがに違う、申し訳なさげな声色…。

武知一実 >  
腕を掴んだ勢いで引き寄せたが、そんなに力を掛けたつもりは無かった……と思う。
存外相手の体が軽く、引き留める程度のつもりが思った以上に乱暴になってしまった事は反省。
けれどまあ、何事も命にゃ代えられねえだろ。ヒト型の染みを地面に作るくらいなら、腕の脱臼とか安い安い……と思って頂きたい。
 
「――ったく、間に合って良かったァ。
 オメー人に落ちるとこ見せんなっつっといて、自分が落ちかけてたら世話ねえだろ」

腕を引き寄せた勢いで倒れ掛かって来た相手を半ば抱き留める形で受け止める。
うわ、ちっせぇしほっそい。そりゃ風に吹かれて飛びそうにもなるわ。

「気ぃ付けろよ、アンタが死んだら悲しむ家族とかも居んだろ?」

居なかったらごめんだけど、まあそうそう天涯孤独が一か所に集まる事なんて無いと信じたい。
信じたいが……現にオレ自身がお独り様なのでとやかく言えねえ。

雪城 氷架 >  
──腕は、案外大丈夫。掴まれたところだけが、妙に熱を感じるくらいで。
自分の体重をそのまま引き寄せられるような力で触れられたのはほんとに久しぶり。
父親も、成長してからは遠慮して触れなくなったような少し遠い記憶がある。

自分よりも随分でかい身体に抱き留められれば、より強い風も吹いたがビクともしない。
冗談抜きでこの場に独りだったら、危なかった。

「…いや、ほんと、お前いてくれて助かった…っていうか…」

今際の際を味わってしまった。心臓のバクバクが止まらない。

「そ、それはお前も同じだろ…違うのか?」

流石に密着したままは…と、呼吸を落ち着けるようにして、離れる。
違うのか、とまで言っておいてなんだが…そうだからこそそんな言葉を言ったのかも…とも、口にしてから思ってしまった。

「と、とにかく! 助かったよありがと…あー、ビビった……本当に堕ちたかと思った…」

へなり、何度目かのお礼を言いつつ、膝が笑ってその場にぺたんと座り込んだ。

武知一実 >  
「悲しむ家族は居ねえが、まあダチの何人かは惜しんでくれる……と思いたい」

学園に来てから出来たダチはそれなりに気の良い奴らだから。
オレが急に死んだら、悲しんではくれるだろう。ちょっと自信無いが。
けど、まあこの島ではよくある事の一つとして風化していく、そんな気もする。結局、他人ではあるんだから。
……まあ、こればかりはその時になってみねえと分らんもんだ。

「おう、次からサボる場所はもうちょっと慎重に選べよ」

離れた女子生徒がその場にへたり込む。
まあ、あの高さからガチで落ちるかもって経験したら誰だって立ってられんわな。
それよか仕事道具、下に行っちまったな……取りに降りんのが面倒だ。降りるのっつか、取ってまた上がって来んのが面倒だ。

「ま、礼は受け取っとくが変に恩を感じたりしなくて良いからな。
 今回はたまたまだ、アンタの運が良かったってだけの話だし」

女子に貸しなんて作りたくはねえから、ひとまず気にすんなと言っておく。
にしても、以前先輩を抱き留めた時も思ったが、ちっさくて軽いんだな、女子って。

「立てる様になったら言えよ、生まれたての小鹿みてえな状態で階段で転ばれても敵わねえ。
 念の為、下までは送ってってやるからさ、デッキブラシ拾いに行くついでに」

雪城 氷架 >  
家族はいない、という。
…家族はいるが、ダチはいない自分とはまるで真逆だ。
どちらにしても、惜しんでくれる人がいる、その重さは変わらないんだろうけれど。

「そうする。階段の途中の踊り場あたりだな」

結局時計塔は時計塔らしかった。

「いやいや…恩に感じないのもなんかヘンだろ…。
 たまたまって言うけど、お前がいなかったら多分死んでる……」

あんなにデカくて強いんだな、男子って。
ようやく落ち着いて、壁に手をつきつつゆっくりと立ち上がる。

「ていうか、結局仕事の邪魔しちゃったな…。
 ──えーと、名前は?」

お前、お前、って言ってるのも命の恩人に対してやや失礼に思えてきた…、

「って…先に名乗らないと失礼なんだっけ……私は、雪城。雪城氷架」

とりあえず下まで、よろしくな。と。
そんな時計塔への一幕は無事一階に降りて、さすがに立入禁止の場所…今日あったことはとりあえず秘密に…なんて口裏を合わせつつ、別れ過ぎてゆくのだろう──

武知一実 >  
「面倒だろ、恩だなんだって貸し借りみてえで。
 オレが居た事含めてアンタがラッキーだったんだよ、そういう事にしとけって」

助けた側がそう言うんだから素直に受け取っとけば良いんだよ。
それに場所が場所だけに、あまり表立って感謝し難い事でもあるだろうし。

「名前?……ああ、そういやオレもアンタの名前知らなかったな。
 雪城か、オレは1年の武知一実。かずみんとでも呼んでくれ」

まあ現状見たら確かにバイトの邪魔にはなってる……な。
と言っても粗方届く範囲は掃除し終えたし、十分仕事は果たしたと言えなくもない。いや、言える。

だからもう雪城を下まで送り届けたらそのまま完了報告をしに行こう。
その後時計塔の下で今日の事は秘密に、という事になったが、わざわざ話題に上げる事でも無くねえか?とオレは首を傾げつつ、雪城と別れたのだった。

ご案内:「大時計塔」から雪城 氷架さんが去りました。
ご案内:「大時計塔」から武知一実さんが去りました。
ご案内:「大時計塔」に伊都波 悠薇さんが現れました。
伊都波 悠薇 >  
とあるショッピングと、友達との邂逅。
そして、プレゼント……

まだ、旅行の前。
プレゼントは、旅行が終わってからでも良いかなと思って、ふらり。

今日は静かに曲を聴きながら、本を読みたい気分だった。

ーー1冊、読み終わって、イヤホンをしながら空を見る。

大音量で、イヤホンから音が漏れる、曲はノーフェイスの曲。
あれから、いろいろ聞いていて、今日も。

空を見上げながら聞いていたら。

「あ」

お小遣いをケチって有線にしたのが、仇となった。
端末操作していたら、落としてしまいイヤホンが外れて。

大音量、曲が流れた。

伊都波 悠薇 >  
「わ、あ!?」

がシャンと嫌な音がした。
端末を、慌てて、取り。

ヤバイヤバイヤバイ、うるさいうるさいうるさい

ひとりでよかった。これが公園とかだったりしたら大変だった。

主に視線とか、視線とか、視線とか。
ぼっちに耐えられない針の筵だったに違いない。

「あ、あれ? あれ?」

ぽちぽち。
音が止まらない!?

どうしようどうしようどうしよう。

混乱して気付かない。
そう、イヤホンを差せばなんとかなる。

のに、そこに気付くことなく、慌てる。

大音量の曲ががんがん、流れる。

「とまれーとまれー」

念仏。止まるわけもなく。

ご案内:「大時計塔」に古鐘 瑠璃さんが現れました。
古鐘 瑠璃 > 大時計塔に響き渡る大音量。
同時に念じる念仏。
眠たげな瞳をこすりながらベンチから起き上がれば。

「……。…………」

慌てふためく娘の方に寄っていき。
す、と目線に入るように指を立ててからそっとそれで虚空をなぞり。

指した先はイヤホンとイヤホンジャック。

「抜けてるなのです、おねーさん」

伊都波 悠薇 >  
「はっ!?」

指摘を受けて、気付く。
イヤホン、つければ音量はどうにかなる!

「…………ふぅ」

音はイヤホンからしか聞こえなくなり漏れでる程度に。
助かった……

「ありがと、ござ……」

視線に入った手、お礼を言おうとして。
はて、指摘、手。
ということはつまり、誰かいたというわけで。

「ぽぇ?」

変な声が出た。ぎぎぎ、とロボットのように首をそちらに。見覚えのない、人がいて。

つまり、迷惑をかけたというわけで。

「すすす、すみませんでしたあ!!?」

慌てて、距離を取り頭を下げた。

古鐘 瑠璃 > 「……。…………?」

錆びに錆びたブリキ人形のような動き。
それにはて、と首を傾げてから。
ぽぇ、なる変な声音に再度、逆に釘をかしげる。
大きなアホ毛もゆらん、と左右に揺れる。

「謝罪は不要、なのです。……と言うか何故謝られてるなのですか、瑠璃は」

心底怪訝そうに声をあげて、娘を金色の眼で見上げて。

伊都波 悠薇 >  
「あ、いえ、あの、大音量で、ご迷惑を、ばおかけしましゅたので」

あまりに動転し、噛んだ。
そして、漸く、目の前の人物を直視、する。
洋の姿、綺麗なくすみない、輝く銀髪。
それに判する金色の瞳。どうみても、和ではない。
姉とはちがう、美の造形。
けれど。その美しさは、小柄であることと、身の丈合わない白衣のチャーミングさで、近寄りがたい、とまではいかず。

それでも。綺麗だと眼を奪われても、おかしくはなくて。

「えと、その」

うまく言葉がでない。いつものこと、なのだけれど。
なんだか、いつも以上に。

だから前髪を整えて視線を隠すことで落ちつこうとした。

古鐘 瑠璃 > 「……ん。迷惑ではなかったなのです」

ベンチで無防備に寝こけていた娘を起こすきっかけとはなったが。
どうせそろそろ起きようかと微睡んでいた所なので良いところでもあった。
動転する娘を落ち着けようとどうどう、と手で制しつつ。

「……落ち着くなのです。そなのですね。
 深呼吸とか数度するといいなのです。
 吸い込みすぎとかでむせないようにゆっくりと、なのです」

そう言ってから金色に輝く眼に気を取られているのに気づいて。
はて、その眼の呪いじみた力は制御できてるはずだが、とまた首を傾げてしまい。

伊都波 悠薇 >  
「あ、そ、そうですか」

深呼吸を促されると、ひっひっふー、と何度か深呼吸をして。

「ど、どうも。お世話をかけました」

首をかしげられると、こほんと咳払い。

「あ、すみません。あまり、見覚えのない髪色と瞳だったもので、その。綺麗、ですね」

ぽそぽそ、徐々に声が小さくなる。
目の前の少女はなんとも、なさそうであるが、最初から失態しての、会話はぼっちに難易度が高かった。

「あ、えと、あなたは、なぜここに?」

ゆーはなにしに、の流れの質問になってしまった。

古鐘 瑠璃 > 「……ん。落ち着けたなら幸いなのです」

アホ毛を揺らしながら頷いて。
白衣も一緒に揺れる。
小柄な割に大きいそれも揺れた。

「……ん。ん? 見覚えのない、と言われればそうなのです。
 瑠璃は異世界生まれの流れ人なのです。
 なので一般的なカラーリングからは外れてると思うなのです。
 ……眼の色は、ちょこっと自慢の色なのです」

えっへん、と大きな胸をはって。
綺麗と褒められれば嬉しくもなり。

「……この大きな時計塔が気になったからなのです。
 あちら側では時計と言う装置自体なかったなのです。
 なのでそれを制御できる構造と言うのは実に気になるものなのでして。
 それも大掛かりなものともなれば、なのです。
 無論、腕時計などの小さな構造ながら機能を有してるのもすごいと思うなのですけど」

伊都波 悠薇 >  
おっきいな……

少し落ち着くと、視線が今度はそちらに。
姉ほどではないけれど、大きい。
身長もあいまって、より大きく感じる。

「あ、異世界……異邦人……」

なるほど、と頷く。こうして間近で接するのは初めてだ。

「はい。カラコンにはない、綺麗な色だと思います」

自慢と言われれば頷いたあと。

「異世界には、時計がないんですか?」

ないんだ、と意外そうに。

古鐘 瑠璃 > 「?」

視線からずれたのには首を傾げて怪訝そうに。
体躯からして明らかに不釣り合い。

「瑠璃の世界でも金色と言うのはレアカラーなのです。
 他の世界では……どうなのでしょう。
 瑠璃はまだまだこの世界の事も他の世界の事も知らなさ過ぎるので」

ふふん、と自慢げに笑ってから。
首を傾げればアホ毛も大きく揺れた。

「瑠璃の世界では時間は点鐘で管理されてたのです。
 夜明けの三点鐘、真昼の五点鐘、日の入りの三点鐘。
 なのでここまで厳密に管理された時間と言う法則は瑠璃の世界ではなかったのです。
 ここまで厳密に管理されてるのに、しっかりと動く。
 しっかりと動くのにずれを許さない。
 ずれることなく時を刻み続ける……すごい技術だと瑠璃は思うなのです」

伊都波 悠薇 >  
「金も銀も、私には珍しく感じます」

少なくとも自分の周りにはいない。
首をかしげられると、視線を隠すようにさらに前髪を下ろして、俯いた。
あまり見たら失礼だから。

「金はなにかの意味があったりするんですか?」

ファンタジーにはよくある話だけれど、適用されるか興味が湧いて。

「鐘、なんですね。もう。時計なんて当たり前だと思っていましたけど、科学、はそんなに発展していないところなんですね」

古鐘 瑠璃 > 「銀の髪もなかなかにレアなのです。
 瑠璃の世界では髪色でその人の持ってる魔術属性などがわかるぐらいには色々関係してるのです。
 ついでに属性が多いほど白に近づいていく、と瑠璃の世界では言われてるなのです。
 それが真実かどうかはさておいて、なのです」

ならば白に限りなく近い銀であるこの少女の魔術属性とやらは。
なんか知りたがりなのか聞かれてしまうと答えてしまって。
魔術の深奥なんかも聞かれたら語ってしまいそうだ。

「金色の瞳は上位の魔眼などとも言われてるのです。
 最上位の魔眼は虹光に輝くとか言われてるのですが金はその次に高位なのですよ。
 あ、今はその力は封じてあるので見られたからと言ってなにか起こるわけじゃないのでそこは安心して欲しいのです。
 瑠璃は誰彼構わず魔眼を発射する悪い子ではないのですから」

ふふん、と偉そうにする童女。
ファンタジー世界の原則(あくまで彼女の世界における)を語りながら。

「時間がわかりやすく観測されるようになった分、この世界の人たちは何かと追われてるような感覚を受けるのです。
 時間にルーズじゃないと言うか、時間にきっちり厳しいと言うか。
 瑠璃の世界だと待ち合わせとかざらに数時間ずれたりすることも多いのですから。
 厳密に時間管理が出来ると言うのは時間を有意義に生み出せもするけれど、時間に管理されてるとも思っちゃうなのですかも。
 科学は発達してなかったので科学ってすごいって思うのですけど魔術も色々とすごいのです。
 科学ではできないことは魔術で出来るけれど、魔術でできないことは科学で出来る……って言う例はあんまり見ないのですね」

伊都波 悠薇 >  
すごい。本の中の世界が今目の前の少女にぎゅっと詰まっている。
感嘆する。その、知識の深さに。目の前の少女には当たり前かもしれないけれど。

「……魔眼。どんな効果なんですか?」

聞いていいのか分からないけれど、初対面で失礼かなと思いながらも気になったのできいてみた。

興味が勝り、いつもの自分で会話できて。

「確かにきっちりしている人が多いかもですね。正確なことが多いですから、その正確に当てはめて動きがちです。

……魔術に追い付く、神秘に、奇跡に、追い付くためにつけた知識、なのかもと私は考えてます。だから、かもしれないですね」

古鐘 瑠璃 > 「金色の魔眼は色々種類があるのです。
 魅了だったりとか、呪いだったりとか。
 瑠璃のは捉えたものを砕く破砕の魔眼なんて言われたりしてるのです。
 見た瞬間に相手を打ち砕けるけれど見れないと意味がなかったり……なんてことはざらにあるので使いづらい部類なのですね。
 例えば剣の達人相手だと剣の動きが見えないとかあったりすると、もうだめなのです。
 まぁ御本人が見えれば御本人を見ればいいだけなのですけど……得てしてそういう人は視界にも捉えられないことが多いわけなのでして。
 瑠璃は錬金術師なのでどうしても肉体派の人には追いつけないので実はあまり役立ってなかったりするのです」

なので、聞かれてもあっさりげろってしまう。
だってそんなものを使うよりも便利な代物がいっぱいあるからである。

「あ、でも鉄道とか航空機は純粋にすごいなって思うのですよ。
 あれだけのモノや人を同時に高速で運ぶのは瑠璃の世界ではなかなかに高度な芸当なのです。
 それを習えば誰でも出来る技術にまで落とし込んだのはとてもとてもすごいのです。
 汎用性・多様性では圧倒的に科学のほうが瑠璃の世界の技術よりは上なのですね」

伊都波 悠薇 >  
本当に本の世界のようで、すごいと思ってしまった。

「やっぱり、眼、というだけあって弱点もちゃんとその機能に準じてるんですね」

それにしても、頭がいいんだなとおもう。
錬金術師といっていた。
結構錬金術と、科学って似ているところが多いような気がしていたが厳密にはいろいろちがうんだなと、勉強になる。

「『誰でも』、が科学の良いところでもあり、悪いところでもありますからね。

あ、なんか、すみません。いろいろきいてしまって……」

古鐘 瑠璃 > 「どうしても反射神経とか動体視力は才能に依存するのですね……。
 瑠璃の魔眼はもっぱら錬金術の素材を粉末にしたりするのに用いられてるのです」

良いのか上位の魔眼。
使い方が雑い。

「瑠璃の錬金術は魔力も用いるので誰にでもってわけではないのですよね。
 あ、大丈夫なのです、瑠璃も色々と聞きたいことが聞けたのです。
 これお礼なのです」

とぷん、と言う音と共に虚空に手を突っ込めば。
その手が何かに飲まれたように見えなくなり、そしてそこから手を引き抜けば。
あら不思議、さっきまで持ってなかった瓶を手にしているではありませんか。
赤色の液体がなみなみと注がれ、封がされたそれを差し出す。

「治癒のポーションなのです。
 飲んでも塗っても効き目があるのですよ」

ファンタジー薬品を造作もなく取り出した。

伊都波 悠薇 >  
「なんか、勿体ない気もしますが、使われないよりはですかね」

素材を砕くと聞くと、やはりその眼の力自体はすごいものだと感じる。
持っている者が者なら、稀代の殺人者だったのかもしれない。
目の前の少女が、持っていることに感謝しながら。

「そう、ですか? 聞いていただけなき、も!?」

腕が消えた。
魔術? それとも錬金術?

渡された薬品。思わず受け取ったあと、挙動不審になる。

「えぇぇえ? ぽ、ポーション? い、いいんですか、というか、け、結構ですよ?! いただくようなこと、してないです」

古鐘 瑠璃 > 「何故瑠璃は魔眼を持って生まれたのでしょうね。
 母も確かに魔眼を持ってたのですがこんな魔眼ではなかったのですけど」

見るだけで何事も砕ける破砕の魔眼。
確かに、持つ者が持てば稀代の殺戮者となれただろう。
なる素養もあっただろう。
だけど、この童女は自身の趣味に用いる事にした。
あるいはこの童女の趣味が殺戮だったのならば――――。
僅かなボタンのかけちがえでこの娘はあるいは人類の敵になり得たかもしれない。

「あ、これは収納魔術なのです。
 色々詰め込めるのですよ。結構な量を。
 これは科学で再現できるのでしょうか。
 できてる世界もあるのでしょうか、少し気になるのですね。」

そして治癒のポーションを差し出したまま。

「瑠璃は話を聞いてもらえて嬉しかったのです。
 瑠璃にとっては量産の効くもんなのでどうぞご気持ち程度に。
 腕が生えるほど、なんては言わないけれど、骨が見える程度なら治せるのですよ」

ぐいぐい、と押し付けてしまえば。
白衣をぱんぱんとはたいて。

「それでは瑠璃はそろそろ失礼するのです。
 時計塔の構造解析もできましたので。
 それではまたの機会があればお話してくださなのです」

ぺこり、と頭を下げてから。
押し付けたまま童女は去っていこうと。

伊都波 悠薇 >  
……でも、今はのお話。
これから彼女がどう、なっていくかはわからない。
だから、そのまま、歳を重ねてほしいと思いながら。

「あ、え? えぇ……」

押し付けられると、そのまま何処かへ行ってしまいそうに。
だから、いつもなら『こんなことしないのに』

「いとわ、はるかです! 学園、2年、です。お話、なら、いつ、でも」

友達100人。その一歩。
この間あった快活な後輩を真似して、去る背中にそう、告げた。

古鐘 瑠璃 > 「瑠璃は古鐘 瑠璃なのです。どうぞよろしくなのですよー!」

手をぱたぱたアホ毛をゆらゆら。
最後に名乗って銀色の童女は学園のどこかに去っていった。

ところでどこに向かったのであろう。
それを知り得るものはあまりにも少なかった。

伊都波 悠薇 >  
「……行っちゃった」

ぽつんと、残されて。
手元にある薬品をみて、バックの中に。

「私も帰ろ」

名前を覚えながら、イヤホンを耳につけて。
帰路につく。

ご案内:「大時計塔」から伊都波 悠薇さんが去りました。
ご案内:「大時計塔」から古鐘 瑠璃さんが去りました。