2025/01/20 のログ
ご案内:「大時計塔」にギジンさんが現れました。
ご案内:「大時計塔」に伊都波 悠薇さんが現れました。
伊都波 悠薇 >  
今日は見回り、ではなく。

ひっそりと個人練習のために来たつもり。

軽く手提げに荷物を詰めて。
ここなら人がいないことがおおいし。

そんな風に考えて。

「よっと」

ーーやってきた。

ギジン >  
「──また来たんですか」

そこにいたのは、煙草を吸っている女。
クリスマスイブにも同じシチュエーションで会っている。

「見回りですか? それとも別の理由?」

紫煙を深く吐き出して、彼女の前に問を並べて見せた。

「僕は悠薇さんのことが嫌いではありませんが」
「お説教が来る前に煙草の火を消さなければならないのは勿体なく感じますね」

伊都波 悠薇 >  
「あぽ?」

人がいると思っていなかったから、そちらを見てぴしり、と固まる。
そして、ようやく状況を把握したのか。

「あ! え、えと? ご、ごごごご、ごきげんよう!?」

挨拶。

「あ、いや、えとぉ、そのぉ」

あまり、強く言えない。
身体に良くはないのだけど、吸いたい理由を少し触れたのもあって。

「い、いっぽんは、目をつむりますので、ど、どうぞ!」

妥協するとする。

ギジン >  
「あぽ?」

相手の言葉を聞き返してから、慌てていることに気づく。
どうして煙草を吸っている状況を見つけたほうが慌てているのか。

「ふふ、ごきげんよう」

笑ってから携帯灰皿に火を押し付けて。
火が消えてからゆったりとした動きで手すりを撫でるのだ。

「お気になさらず、不良娘はたった今更生いたしましたので」

冗談めかしてその言葉を口にし、甘い匂いが今も漂う時計塔から街を見下ろした。

伊都波 悠薇 >  
「あ、あはは。えと。今日は見回りではなかったので」

誤魔化し笑い。
そのあとの言葉を聞くと。

「不良、だったんです?」

はて。そんな認識ではなかったために、首をかしげた。

そして、香る甘い匂い。

「……甘いですね」

ギジン >  
「じゃあ奇遇ということで」
「僕の詭弁に付き合っていってください」

クスクス笑って振り返る。
本当に面白い女の子だ。

「時計塔に勝手に入って煙草を吸っているのは不良行為の範疇では」

香りに言及されると、鼻の頭を一度擦って。

「僕が大好きだった人はメンソールの煙草を吸っていたのですが」
「僕の個人的好みは甘い香りの煙草というわけです」

「今でも時々、メンソールを試しては『二度とわかり合えないのだな』と感慨に浸ったりしていますよ」

伊都波 悠薇 >  
「あ、はい。それはもちろん」

付き合ってと言われると嫌な顔せずすんなり。

「……まぁ、そのいつもならそうかもしれないですけど。今日だけなら、なんかあったのかなって、思うじゃないですか」

自分の中では不良認定はしていなかった。

「そうなん……?」

なんか、引っ掛かる。

「もう二度と?」

ギジン >  
「その人の良さ、気苦労が絶えないと見ました」
「今日だけなんて理屈で煙草を吸っている人なんていませんよ」

白い息を吐く。
1月はまだ冷える。

「死んだんですよ」
「貴女と同じ風紀委員でした」

「手が少しゴツゴツしてて、気弱そうに笑ってて」
「私に秘密を山程持っていた……そんな男性(ヒト)でしたよ」

手に息を吹きかけて、それでも足りない温もりを想った。

「悠薇さん」

ふと、彼女に視線を向けて。

「好きな人には好きだと伝えておいたほうがいいですよ」

伊都波 悠薇 >  
「え、いや、そんなことは。私よりも姉のほうが絶えないと思います」

あはは、と笑いつつ、前髪を整えて視線を隠し。
そのあと、の言葉に笑みは消えた。

「あ、え、と……」

言葉が、続かない。

「……え、と」

なにか言おうとしても詰まったあと。

「センパイのこと、私、好きですよ。ミステリアスで」

なんて、気休めにもならないだろうけれど。
後輩なりの、LIKEを告げた。

「センパイは、言いそびれちゃったんですか?」

ギジン >  
「お姉さんのことが本当に好きなんですね」
「僕にも姉や妹がいたら何か変わっていたのでしょうか」

再び重く白い息を吐いた。
この体が呼吸を欲していることが疎ましかった。
そして、続く彼女からの慰めの言葉に。

「ありがとうございます」

と、表情をくしゃりと歪めて返した。

「伝えたはずです、ちゃんと大好きだって言ったはず」
「なのに……どうしてでしょう」

「その人生のシーン(Scènes de vie)が」

「どうしても思い出せないんですよ……」

伊都波 悠薇 >  
「……どうでしょう。もし、はないものですから」

ここでは、気休めを言っても仕方ないから。
言葉を選びつつ。

「お、思い出せない、ですか」

それは。

「その、言いすぎて、とかではなく。全く?」

ギジン >  
「そうですね、貴女の言う通りです」

結局のところ、頼るものも縋るものも持てなかった。
それが終わってしまった女という結果を齎した。
それだけなのかも知れない。

「彼のことを思い出そうとすると」
「彼が死んだことを告げられた日につながっていくんです」

「今はその悲しみが私という女の形を切り出しています」
「彼との思い出を忘れながら、彼との思い出に縋り付いている」

「弱くてどうしようもない、私はそんな女です」

伊都波 悠薇 >  
難しい話だ。
死した人が。なくなったという事実が。
今、目の前のセンパイの全てなのだろう。
その悲しみに、なにも色を感じない。
感じてたものすら、覆い尽くしている。
そんな、ものなのだろうかと。

「弱いのは悪いこと、ですか?」

でも。

「弱いのは、悪くないですよ。弱いのが悪いなら、私も、どうしようもない妹です」

ギジン >  
「悠薇さん、弱いことは決して悪いことではありません」
「僕は少し感傷的になりすぎているようです、申し訳ありません」

そこまで言ってから、手のひらを見た。
少し荒れた、一人きりの手を。

「伊都波凛霞さんにコンプレックスを抱いているのですか?」

その言葉を、慎重に放って見せる。
僕にとっての弱さなんて、こうして吐き出して終わりだ。
だけど、まだ終わってない彼女は違う。

伊都波 悠薇 >  
仕草を見たあと。
ちょっと迷う。勇気のいることだし。 なんなら緊張もする。
でしゃばっているのではないかともおもうけれど。

嫌がらなければと、センパイが見つめている手を、自分の両手で、包んでみた。

「いいえ? 姉にそれを抱いたことはほとんどありません。

姉を尊敬していますし、姉はいつまでも、私の自慢です」

言いきり。

「謝ることなんてないですよ、センパイ。そうして、振り返ったりできるのは生きているからです。大事、だと思えるのは生きている人の特権です」

ギジン >  
手を包まれる。2人分の温もり。
何時振りだろう。そんなことを考えたりもした。

「そうですか……」

迷いなく言い切る彼女を、少し眩しく感じていた。
正しく誰かを信頼できる自分が、遥か遠くに見える。

「大事だと思えることが生きている人の特権なら」
「死んだ人の特権とはなんでしょうね?」

「永遠であることでしょうか」

自分がまた詭弁を弄していることに気付いて、視線を外した。
自分が傷つかないために、どんな言葉でも使う自分が嫌だった。

伊都波 悠薇 >  
「死人に、特権はないと思います」

ぴしゃり、と。
自分の考えを告げる。
そも、死人にはなにもないのだ。
死んだ時点で、なにも。

その事象に、なにかを。
思うのは、生きている人だけ。

特権は、生きている人にだけ。

「永遠も、ないですよ。あるとしたら。センパイが、永遠にしてあげてるだけです。

……そうしてあげるのは、センパイの優しさだと思いますけど。でも、永遠にせずに、となってほしいと私は勝手ながらに思います」

ギジン >  
「僕はそうは思いません」

彼女の手を離して、夢想する。
もうどこにもいない“大切”のことを。

「光があれば、影があるんだなと誰でも想像ができます」
「雨が降ったら水たまりができますし」
「青空を見れば雲の一つだって」

少し躊躇して、言葉を選んだ。
自分のウェットな感情に彼女を巻き込んでいる。
そういう自覚はあった。

「死んだ人に永遠がないのであれば、僕という影や水たまりや雲も存在しないと同義」
「死者にも尊厳や、尊重されるべき遺志はあるべきで」

「そう願うことでしか真っ直ぐ二本の足で立てない女もいるんです」

「悠薇さん、今日はもう帰ったほうがいいです」
「ろくでもない会話に巻き込まれていますよ」

伊都波 悠薇 >  
少し、悩んだ。
でも。

「はい。あくまで、これは私の考えです。現実に出てこず、思い出の中でじっとしていてほしいという、私の考え

世の中不思議なことがあって、妖怪とかそういうのもありますから。

一概に、私の言葉が正しいとは思っていないんです」

でも伝えるのは自由だから。

「いいですよ。巻き込んでくれても。今日はこのあと予定はないので。

センパイが話してくれるならご一緒します」

ギジン >  
「僕は」

言葉を選んだ。
どんな詭弁を弄しても、眼の前の存在は拒絶したりはしないだろう。

だからこそ、僕は彼女に対して真摯である必要があるんだ。

「寂しいよ」

顔の一部が剥がれて落ちたら、こんな言葉にもなろうという。
無価値で無遠慮で無意味で、ついでに無計画で無定見な言葉だった。

「何をどうしてももう彼には会えない」

いっそ泣き喚けば良かったのだろうか。
そんな自意識があれば、僕にも可愛げというものがあったのかも知れない。

伊都波 悠薇 >  
「はい」

さみしい。
ひとりでいることが、その人に会えないということが。

自分が経験したことのない感情がきっとセンパイの胸のなかでじくじくと、痛んでいるのかもしれない。

「……私も悲しいです。センパイが、そんな、気持ちでいることが」

ひとつひとつ。

その感情に、返していく。
今センパイの気持ちを聞いているのは自分なんだから。

ギジン >  
「悠薇さん」
「僕のことを悲しいと思うのなら」

「決して僕みたいにならないでください」

諭すように言葉を使った。

これ以上、傷つきたくなかったから。

「冷えますね、そろそろ帰りましょうか」

伊都波 悠薇 >  
「どうでしょう」

ならないで、と言われると。

「……センパイが、死んじゃったらなっちゃうかもしれません」

なんて、遠回しに。

「はい。帰りましょう。送りますよ、センパイ」

ギジン >  
「そういうのは正しく生きている存在に言ってあげてください」

拒絶の色と共に、少女と共に時計塔を降りていく。
死を拒絶する絶対の輝き。
闇から光への移行。
神の存在の証明。


人はそれをエランプシスとも呼んだ。

ご案内:「大時計塔」から伊都波 悠薇さんが去りました。
ご案内:「大時計塔」からギジンさんが去りました。