2026/02/16 のログ
ご案内:「大時計塔」に牛丸 瑞璃さんが現れました。
■牛丸 瑞璃 >
濃いブラウンのVネックセーターの上に厚手のコートを羽織った少女は、一人時計塔へ訪れていた。
夜風が、編んだ三つ編みを撫でていく。
「……ん。流石に、まだまだ寒いな」
一人呟いた少女――瑞璃は、空を見上げた。
海を思わせる鮮やかな瞳は、夜闇に散らばった星々を取り込んでしまったかのように、静かに煌めきを湛えている。
ここは、彼女のお気に入りの場所だった。
保健委員会の仕事が終わった後、動画の撮影が終わった後。夜空を眺めて休息を取る為に活用することもあるし、
作品作りのインスピレーションが欲しい時も、よく利用している。
そして今日は、アスクレピオスとしての仕事を終えた後の休息だった。
落第街の一区画に突如として現れた無数の鎌鼬――その怪異被害の対処に追われていたのだ。
走り回って、祭祀と協力して交戦もして――なかなかヘビーな一日だった。
「ま、言われた仕事はこなしてるし……今日もお咎めナシ、か」
袖を少しだけ捲る。そこにはブレスレットにも似た、小型の手枷があった。
彼女を監視する風紀委員会から渡されたものだ。
何か重大な違反があったり、こちらの異変を感じたりすれば赤く点滅する筈だが、時計塔でこの装置が反応したことは一度もない。
ここを訪れて星を眺めることについて、監視チームは黙認をしてくれているのだろう。
アスクレピオスへの従事。それが、牛丸 瑞璃という怪物がヒトとして生きる為の綱だ。
■牛丸 瑞璃 >
「ん」
オモイカネの通知音。
鞄から学生手帳を取り出せば、そこには友人の名前が表示されていた。
タップすれば、友人が宙空に現れる。
ホログラムを投影しているのだ。
『牛丸! もう試験終わったよね? 遊びに行こうよ!』
ショートボブの少女――四奈川 瑠夏は、瑞璃の方に向けて手を振っている。
「ん、試験おつかれー! それにしても、わざわざホログラム通信なんて、どうしたの~?」
瑞璃は呆れた顔を宙空に向けながら、顎に手をやって考え込む仕草を見せた。
『知りたい? 知りたいよね――』
宙空に浮かぶ少女は、待ってましたとばかりに、後ろ手に隠していたチケットを見せびらかした。
『――ほらほら、見てっ! 商店街全店、1日限定無料食べ放題チケット!
商店街のくじで当たったんだよっ! それで、牛丸に一緒に来てもらおうと思って!』
目を輝かせる友人に、肩を竦めてみせる瑞璃。
「え、すごっ……!
……けどそれって確か、食べ放題の対象、一人だけじゃなかった?
あたしは自腹……だよねぇ~?」
対して、瑠夏は両腰に手をやって小さな胸を張る。
『……そ、その……一人で行っても良いんだけど、最近色々と物騒じゃない?
ふらっと商店街に行って、カタストロアなんかと出くわしちゃったら怖いし……?
ついてきてよ~! 牛丸が居ればちょっと安心だから~!」
両手を組んで、涙目で訴えかけてくる友人を見て、竦めていた肩を落とす牛丸。
「ちょっとの安心を提供できるだけのあたしなんかより、風紀を頼りにしてほしいところだけどな~。
ほら、あそこ。強い人いっぱい居るからさ。
……ま、でも良いよ。付き合うよ、半額出してくれるならね~」
■牛丸 瑞璃 >
『さっすが話が分かる~!
いつも課題のサポートしてくれてるし、半額ならお金出すからさ~!』
「はいはい」
そのまま他愛もない話を少しだけした後、オモイカネを閉じて、鞄にしまい込んだ。
ふぅ、と一息つく。
寒空の中、眼下に広がる学園の町並み。
見下ろし、瑞璃は目を細める。
時計塔から見下ろす町並みは、平穏そのもの。
しかし、その中にも闇は巣食っているものだ。
かつての少女のように。
そして――
「――カタストロア、か」
喉から漏れたのは、何処か、焦がれるような声色。
「一体、どんなヒトなんだろう……ね?」
小型の手錠が数度、震えるのを感じながら、
少しだけ軽やかな足取りで、少女は時計塔を去っていった。
ご案内:「大時計塔」から牛丸 瑞璃さんが去りました。