2024/06/11 のログ
ご案内:「常世博物館 中央館」にノーフェイスさんが現れました。
ノーフェイス > 「ここにくるのもひさしぶりだな」

パンフレットは道案内だけにとどめておく。
神に滅されたあの塔になぞらえた、謎掛けのときいらい。
どうやら中央館にあたらしいコーナーができているようで、それを目当てに来た。

地球――……それは、現代を生きる地球人たちが、現在と過去を識るための場所であり。
流れ着いた異世界人が、これから暮らしていく星の歴史を学ぶための場所でもあって。

「なるほど」

たどりついた。
以前に来たときにはべつのものが展示してあったコーナーだ。すっかり様変わりしている。
『変容前をたどる旅路』――すなわち、時代を大きくわけた大変容の『前』と『後』の。
『前』を特集する場所だ。

ノーフェイス >  
なにがあるかは、あえて事前に確認しない。
すべてをじっくりと味わったあとで、パンフレットの解説をみながら、
カフェテリアで珈琲をするのがお気に入りだった。
ここの店員さんは可愛かったので。

「……ン」

しかし、みちびかれるがままの足取りがすこしだけ鈍った。

「あンだよ、日本のじゃないのか」

ずいぶん様変わりしたという日本本土。その前後関係を確認したかったのに。
そう考えていた――だけだろうか。先にすすむことを、わずかにためらったのは。

「……お昼までまだあるし、いいか」

それでも、やはり足をすすめた。
USA(ステイツ)――その過去のなきがらをもとめて。

ノーフェイス >  
「……へぇー」

博物館、資料館。
そんな感じだ。

「ラス・ヴェガス」

立ち止まった。薄闇のなか、光が白い頬を照らす。
宝石をちりばめたような、大都市の夜景がそこにあった。
大陸の西から東にかけ、1999年頃までの様子を再現した、主要都市の立体投射縮尺模型(ホログラフィック・ジオラマ)
まず飛び込んできたのは、ネバダ州に属する大賭博の都。

「ストラトスフィアタワーか」

ひときわ目立つ塔に視線を向けた。
その周囲には様々な展示物がある。
なんでも、その当時のホテルに用意されていた実際のカジノテーブルだとかメダルだとか。
劇場のネオンサインなどは、大変容に直接さらされて、だいぶぼろぼろではあったが。
わかりやすい歴史(・・)が――そこに。

ノーフェイス >  
カリフォルニアをも通り過ぎしばらく、リオグランデ沿いにたどりつく。
そこにはフェンスがはるかながくまで築かれていた。
指をかけようとする――白い指が虚空を切った。すり抜ける。当然だ。にせもの(ホログラフィック)なのだから。

背をむけた。
パンフレットに目を落とす。

「いま、タコスあるんだ……珈琲と合うのカナ……?」

この展示の、特別メニューらしい。テクス・メクス。
人間の国同士の、分かたれた場所がとても大きな意味を持っていた。
入り混じった文明の名残。そのときは、それすら大事件だったのではないか。

「…………、ロケットまで持ち込んでんのか」

見上げる。これは実物か――レプリカか本物かは、わからない。
もはや翔ぶことなく、しかし宇宙にむけてその鼻先を伸ばした、開拓者の魂。

ノーフェイス >   
「クラークスデイル」

綿をたたえた花に包まれた、農業の街。
さまざまな意味合いを持つそんな乾いた土地は。

「……あるワケないか」

マイナーな場所だ。主要都市や名所をつなぐ旅となれば、よりみちだ。
四方向に伸びた通路の交差点にたって、ぼんやりと天井を眺めた。
ハーモニカ(テンホールズ)とアコースティック・ギターの旋律を、幻聴しながら。
肩越しに伺っても、なにもありはしないのに。

足をすすめた――――……、……。

ノーフェイス >  
『だいじょうぶですか?』

ふいに耳をうった。はたと顔をあげる。
施設職員か。周囲に視線を配らせた。十字路(・・・)の中心。
……足が進んでいなかったらしい。

「……うん、すこし――……ちょっと、暑いね」

『空調は、厳密に温度がさだめられていまして』

「そう、だよね。……ん、あ。……喉もかわいた。
 そとにでてみる。ごめんね。ありがと!」

謝罪と心配の意をみせる職員に、苦笑して。
病院とか呼ばれると、面倒だし。さっさとカフェテリアでタコス食べて帰ろう。

ご案内:「常世博物館 中央館」に先生 手紙さんが現れました。
先生 手紙 >  
一方カフェテリア。

バーガーがデカいと思った。リスペクトサイズなのだろうか。

ご一緒にポテトはいかがですかー?いえいえそんなに入りません。

というわけで見慣れた物より聊かキングサイズなUSA流バーガーとホットコーヒーを買い、トレイに乗っけて適当な席に腰を下ろす。

「やーれやれだぜ。タコスにすれば良かったかァー?」

ノーフェイス >  
そのさきにあった都にはたどり着けぬままに。
潮騒も活気も、そこにはあったかもしれないのに。

「――辞め、たんだ?あのコ」

顔をおぼえていてくれたカフェテリアの――図書委員の業務らしい――店員に、そう問うた。
そんな言葉に、卒業(・・)ですよ、と笑って見せる。
本がすきで、グレートブリテン連合王国への就職がかなったのだという。
祝われるべき門出なのだと。

「そりゃイイね」

鼻歌まじりに足をすすめ――おや、先客。

「それも、あっちじゃ名店―――のメニューらしいよ。
 多すぎるって感じるなら共有(シェア)しないか。ボクはタコス頼むから」

ずいぶんとまあ、初対面の相手に馴れ馴れしく。
どこか既視感を与える(・・・)、精巧すぎる面構えが笑いかける。
ナイフをつかえば、包み紙の上からハーフカットもできるだろう。
線の細くみえる青年には、なかなかハードパンチなメニューだ。

「アメリカは、いろいろデカいからね」

先生 手紙 >  
独り言を拾われた――顔を上げる。随分とまァ、美人サンだ。

「マジで?いやァ助かるね。オネーサンに頼んじゃうの心苦しいけど、ついでにナイフも貰ってきてくれない?」

既視感に違和を覚えた素振りも見えず、ついでにいっそ馴れ馴れしく。色々やってきた身だが、バーガーをナイフで食べた経験は無いンだー。などと愛想よく。

「おっとつまりは事情通。アドバイスは要らないとみた」

コーヒーもアメリカンサイズである。スモールがいいよ、なんて言葉は無粋だろう。似合いのサイズを、頼むだろうから。

ノーフェイス >  
「誘惑には抗えないんだよな」

そこらの有名カフェチェーンでも最大サイズみたいなドリンクカップ。
強めにいれられた炭酸がしゅわしゅわと泡を立てていた。
コーヒーではなくコークを選ぶのはやむないことだった。

「貸してみー。こーすんだよ、ほら」

こうな?まだ包み紙に入ったまま待たせたバーガーに、大きめのナイフを――ざくり。

「こうよ」

刃を落とすと、横にずらす。数分たって蒸らされたバーガーは、バンズにパティ、ソース類が渾然一体となり。
ボリュームがあるから、断面にもなんとも蠱惑的な見応えがある――見ろよこのチーズ、トロトロに蕩けてやがるぜ。

「タコス、とりあえずワカモレとサルサ。あとライム搾ってもいいみたい。
 キミはなんだ、フレンチフライなしで満足できちゃうタイプか――ちゃんと食べてる?」

テクス・メクス。マサを練って焼いたハードタイプのタコ・シェルに、ぎっしりと肉がつめてある。
好みは分かれるトコロだが、ぱりぱりしたハードなやつは食感もたのしい。

先生 手紙 >  
「イイね。ダイエットに気ィ使ってない子は心配しないで済む」

軽口。そして切られた半バーガー……たまらねえな。さっきまでしり込みしていた食欲が掌返して早く食えと超囃す。

「さーんくす。タコス食べ慣れてないからチョイスしなかったンだ。半分こできるならすーげえ助かる。えっ食細そう?ワリと健啖家よおれ」

「それじゃあ、いただきます」
両手を合わせるのは日本人の作法。国外料理にだって通じるのです。

ノーフェイス >  
「しばらくは、ね――もちろんコイツはシュガーインだぜ?
 ま、もうちょっとしたらまた徹底管理だな。いまはシーズン・オフみたいなもん」

開発から時代が経ち、ケミカルな味わいがだいぶ抜けきってきたのだが、
やはり合成甘味料(ゼロシュガー)では味わえない快楽がそこにはある。

「これこーやって乗せてさ、ライムしぼって食べんの」

ワカモレ(アボカドディップ)サルサ・ロハ(トマトの辛味ソース)かいずれかお好みで。
酸味をしぼっていただくのだ――白い歯がバリッ、と小気味よい音を立てる。
チーズもタコミートの味もなかなかに刺激的だ。

「キミ、日本人か。……本土から?」

先生 手紙 >  
「ますますイイね。ゼロカロ飲むくらいなら大人しく水を飲めってハナシ」

美味いもンは美味いのだ。見えもしない数十年後の負債など知ったものかが身上である。

「じゃ、アボガドの方もらおっかな。辛いの嫌いじゃないけど辛さが予想を超えてると君のコークも貰いかねない」

というわけで先ずこちらは半バーガー。ぞぶり、と豪快に一口。
もぐもぐ。

もぐもぐ。

「ン? そだよ。あァ――」

親指で口に付いたケチャップを拭ってから。

名乗ってなかったね。センジョーテガミ。漢字で書くなら先生お手紙ー!」

わかりやすく。そして既視を持たせる相手には警戒心を希釈されたような、とっつきやすいアンちゃんの印象を与えるのだろう。

ノーフェイス >  
「せんじょう……先生(せんじょう)って珍しい名字(ファミリーネーム)だな」

下の名前(ファースト)は多岐にわたるけれども。
聞き覚えのない名前。アンケート用紙を手元に引っ張ると、綺麗な筆致でさらりと言われたままに書いてみる。
こうか?――漢字はわかるらしい。
警戒した様子は、ない――効いた、というよりは、最初から警戒をしていないようだった。

Alphlyla Azatho Alshua(アルフライラ・アザトゥ・アルシュヤ)AAA(トリプルエー)って名乗ってる。
 ――イカした愛称だろ?気に入ってんだけどね」

名乗った。どうやら、センスが悪い(・・・・・・)らしい――なんて苦笑しながら、自分もハンバーガーの包み紙。

「ね、ね。本土って、どんなトコ?手紙(テガミ)のいたとこだけでイイんだ」

先生 手紙 >  
「ンン。元を辿るとどっかの指南役に付いた(うじ)だったかな。本土でも被ったことはないから珍しいとは思うよ。その漢字で合ってる。学生だから紛らわしいってよく言われる」

なのでイントネーションの方を変えて名乗ってるンだ、と。

「トリプルエー? ふっは。じゃあ面倒くさがりか、古風か、それとも超一流ってところかな。どのAさんにしよっかなァ」

などと言いつつコーヒーを飲む。……まあインスタントよりはマシ。不味くはないがリピる程でもないか。

「おや、行ったことないンだ? えっとねー。世界からするとそうでもないけど、本土で一番デカい山が見える。色々あったから、どうかな。此処と同じように季節が四つ。おれは……」

タコスを拝借。もぐもぐ。ン。これはなかなかどうして、歯ごたえがしっかりしてらっしゃる。

「短い季節の、秋が好きだった。退屈なド田舎以上都会未満の、一番多い分布だよ」

自然と人工が隣り合う、便利と不便の共存した土地だった、と。

ノーフェイス >  
「ああ、だから」

先生(・・)。なるほど。

「これでキミが教師じゃなくって生徒だと、なかなかジョークが効いてるが……そうなんだろ?」

くっくっ、と笑った。オチを先に読むのはいじわるかもしれないが。

「これから知って(・・・)くれりゃイイ――解釈はひとそれぞれだ。
 キミがAAAに意味を与えてくれよ。じぶんではどんなつもりでも、相手にとってはちがう。
 ボクにだって、相手によってみせる(かお)はちがうしな――キミも、そうだろう。手紙?」

単なるイニシャル遊びだけでもなく、寓意を含んだその通称。
カップを密閉するフィルムにストローを突き刺して、ひとくちすすった。

「インドと北欧と――父親が日本人。雑種(ミックス)だから。日本はあんまり……秋か」

ずず、ず。と、つよめにすすって。

()がひいてく――――……すこしさみしい季節だ。
 そのあとの冬のが、何倍もきつい環境だってのにね、なんかそう感じる」

ぼんやり。考え込む横顔を晒しながら、まっすぐ前をみていた。手紙のほうは見ず。

懐郷病(ホームシック)とかは」

こっからでも、結構遠いっちゃ遠いはず。おなじ四季でも、みあげた空や感じる風はちがうはずだ。

先生 手紙 > 「……フフ。言わなくてもわかるだろ、成績がさ……」

瞳に哀愁を乗せる。これでテガミという名前が作文(サクフミ)あたりだったら目も当てられない。同情されるよち勉強しろ、と言われてしまいそうだ、とおどけて。

「……いまンところはアルフライラ、から取ってアルフって呼ぼうかな。いい? 君の名前に意味が乗っかるとしたら、やっぱり後のハナシでしょ。おれの分のバーガーとタコスとドリンク、全部食べたらフードファイターAAAにするけど。おっと、余暇にしたって失礼が過ぎた」

「そうだねェ。感性は似てる……かな?秋は冷たくて寒々しい冬より、寂しいンだ。だからすき」

ぞぶ、ぞぶ、ごくん。実は結構な早さでバーガーを消していくのである。

「……望郷を、」

ぽつり、とこぼした。

この島に覚えた。本土に居て疎外感を覚えたりはしなかったンだけどね? 此処を懐かしい、と思ったのさ。君は? 土地と血は必ずしも一致しないと思うンだけど。おれはね」

訊き返す。此処以外の土地に、思う所は無いのかと。

ノーフェイス >  
「ものを教えるのも、向き・不向きもあるもんなァ」

名が体を表すとは限らず、まして名字ともなれば。

「どぉぞ――なに?食べてイイならイーけどな。16の胃袋ナメんなよ。
 じわじわ油がキツくなってきてる手紙と違ってこれくらい余裕でイケちゃう」

なんて、切り分けたもう半分のバーガーを食べる。
タコスよりは、いくぶんかじっくりと味わった。もぐ、もぐ。

「…………」

視線を横に向けて。
そして、前をむいた。手紙の言葉の意味とともに、アメリカの味をゆっくりと咀嚼。

「ここが肌に馴染むのかな。案外、ご先祖さまが常世島(ここ)出身なのかもしれないぜ」

そのおおむかし、ここになにがあったかは、識らないけど。

「故郷とはなにか、って感じか。土地と血の不一致――いちばん落ち着く場所。
 還るべき場所、とじぶんが無自覚に定義した場所だったりするのかな」

どこか夢想するように語りながら。

「……ここに感じるのは、窮屈……というより、狭小さかなあ」

島、というにはかなり大きい場所ではあるけれど。

「ボクには、ちょっとせまい。そう感じるようになってきた。おっきく育ってるからな」

先生 手紙 >  
「一代貴族的な使い道だったのかもしれない。でもま、インパクトあるって思ってるからこれはこれで気に入ってるンだ」

いつ気に入ったか、はそれこそ忘れてしまった。望郷の彼方というヤツだ。

「ウソですぅーきちんと出された分は食べるンですぅー。16って牛より多いじゃん。いや歳か。も少し大人びで見えたよ」軽く笑った

……自分のルーツ。今の現状。何に起因したのか、その能――

「少なくとも退屈を愛せるくらいには色々起こる島だからね。……狭い? 狭小……ふむ。おれはこの島を踏破してないから物理的な狭さは感じてないかな。とすると精神面……や、アルフの場合は体制、かな?」

「タッパあるもんね。おれと同じくらいか。まだ伸びそう?おれはそろそろ打ち止めで、記入が変わらなくて楽なもんですよ。ひひ」

ノーフェイス > 「日本語ってすげーややこしいもんな。一発目で覚えられるの大事かも。
 すくなくとも、ボクにとっちゃ忘れられそうもない名前だ――え。まあ、食いかけだもんな」

なんだァ、と手をひく。愉快そうに笑いながらも。
だいぶ、咀嚼に時間がかかった。嚥下して、

「じゅうろく、コドモかな」

はむり。もうひとくち――味わう。今度も、ゆっくりと。

「……不良生徒に見える?こうみえても真面目なんだぜ、ボクは」

肩を竦めて、おどけてみせた。

「風紀の不祥事(・・・)――なんてニュースはさ、枚挙に暇がないケド。
 ここって、コドモが警察やってるだろ。不完全であたりまえだ。
 できれば、そうやって。だめなことを、だめだ(・・・)――って言い合える風紀委員会(ひとたち)であってほしいとは、おもう。
 一般島民としては、ね――でも平和だよなとも思ってる。それは、真面目にがんばってるひとがいるから。
 尊敬してるよ。そもそも、ある程度の平和を体制が敷いてくれてなきゃ、娯楽を楽しむ余裕だってでてきやしない」

今目の前に死のうとする命に、手を伸ばすものも――そうでないものだって。
風紀委員だから、と警戒したり、逆に賞賛することもない。
腕章があれば風紀委員になれるのではなく、いい風紀委員と悪い風紀委員がいて。
それを決めるのは、ソト側からみたもの――自認と他認、どちらがより解像度の高い本人なのだろう。

「物理的面積。でも、ないんだろうな。
 なんだろ。 それこそ、背が伸びて服が入らなくなったってカンジ――……みんな、そう(・・)なんじゃない?」 

ここ、学校なんだから。

先生 手紙 >  
「間違っても次遭った時、センセーって呼ばないでね。1フレームでツッコミ入れっから」

タコスを半分。そして半バーガーも飲み込んだ。

「どっち方面に真面目かってハナシかなァ。あァでもインテリタイプ。優等生であるかはコメントを控えさせていただきます。ごちそうさまでした」

というわけでコーヒーを飲みつつ。

「うン。子どもに自治が務まるか――果たしてそれは、どこまでか。穿った見方すると実験場の側面あるからねこの島。このミュージアムみたいに『きちんとした』場所と、落第街みたいに『ごちゃっとした』場所、どっちも生まれてる。っつーか本土も外国も、大人が回してるのに上手に均衡取れてねえあたりニンゲンの性なンじゃない?」

「んー……おっと全館禁煙だったわ」

「じゃあ、16歳ながらアルフは大きくなったのかもね。袖が短く感じるくらい。えー、うーん。物理ではなく……手の届く場所が増えた、みたいな?」

ノーフェイス >  
「モデルケースって、実際、公然の実験場じゃないカナ……
 いやなんかこう、ボクの時分からしたら。実験ってきくとさ……
 ボコボコ泡が浮く水槽に詰め込まれたり、おなかひらかれたり――なんてのだけど。
 そゆんじゃないだろから」

あらゆる例示(サンプル)が欲しい――というのは、いやというほどわかる。
常世島(ここ)がうまくいくかいかないかで、要するに、新時代にある地球のいきかたが、変わりかねない。

「学費も安くて、犯罪者からの社会復帰だって、よっぽどヤバいことやってなきゃゆるいんだろ。
 これは、要するに、ただしいことをしましょう、わるいことをしてはいけません、ってだけじゃなくて。
 新しくなった世界に、適応(・・)できる人間かどうか――ってのを、みられてるんだと思ってる。
 要するに、ソト側……より広い単位の世界における、価値(・・)というか」

個人単位では。
どうにか、うまく成り立っている、コドモたちだけの街で、審査されるものは、
シンプルに数字で示される能力だけではなく、卒業できるか否かは、そこも肝要なのではないか。

「……あー、」

タバコ。大人の証。16では、吸えないもの。
彼が不良でないのなら、おそらくは成人なのだろう。
その彼が言語化してみせた時分の感情に、思わず、ぱん、と膝を打って立ち上がった。

「いや案外、向いてるんじゃない?先生(せんせー)
 ずばり言語化されると、しっくり来るもんだな。……そうだね、ちょっとすっきりしたわ。
 気分悪かったから、話しやすいキミがいてくれただけで、助かってたけどさ」

そのまま、ぐっと伸びをした。

「ありがとね、手紙」

先生 手紙 >  
「や、そこはモルモットの意地ってコトで。どうせ計測されるンなら、観測してる連中が腹を括るか――或いは腹を抱えて笑っちまうような結末にしたい」

なんて、言葉遊びだった。

「……そ?ならちょっと良かった。センジョーが先生向きかはわからンけども、先輩風は吹かせられたってとことで」

立ち上がる姿を見上げる。トレイに指を置いた。

「片づけはやっとくよ。こちらこそアリガト。実のない話はバカになれて好きだけど、頭回す会話も好きなンだ。やっぱインテリだぜ、AAA?」

ノーフェイス >  
「結末か。 キミは、ここに骨を埋めるのか。
 キミの――故郷。常世島に。……やっぱ先生になるしかないんじゃないか?」

学校――コドモにとっては、通過点となる場所。
そこが、巣箱になることもある。そこで新たな親鳥になるものもいるのだろう。

「頭、まわしてた? ……使わなさすぎじゃね?」

くっくっ、と笑って、こめかみに指をぐりぐりとあててみた。
アカデミックな話題なら、むしろもっと真面目に臨みたい。
流石にバーガーかじりながらするには、適していない話でもあった。

「あァ、ところで、」

ぐーっ、と伸びをした。天井が近い。
向き合わねば。そうして振り向いた。

「ウソはいくつあったと思う」

なんて、ひとこと言い残して。

「ごちそーさま、手紙。また会えるとイイね」

手をひらりと振った。会話で楽しんでくれたなら、きっとギブアンドテイクのビジネスは成立しているはず。
足りなければ、また後日に請求してくれればよかった。

ご案内:「常世博物館 中央館」からノーフェイスさんが去りました。
先生 手紙 >  
「教鞭を振るう自分がさっぱり見えねェよ」

肩を揺らして笑った。此処は箱庭だ。居心地よく作られて、当然のように廃棄された。

「……嘘?嘘、嘘ねェ。出生あたりと名前かな。名乗ってる、だから嘘にならンのかもだけど」

「あいあい、どっかでまた会った時はきちんとそう呼んでくれよ、アルフ」

見送る。残ったのは自分と、食べ尽くされたUSAなジャンクフードの残骸。

さて……

先生 手紙 >  
立ち上がって、二枚のトレイを重ねる。フードコートのゴミ箱に、

「……いやあ、アレを現行で捕るのは無理筋でしょ。ひとまず様子見。実際、会話は弾むンだよなァ……」

自分の分だけゴミを捨てた。残りの彼女――彼――の分は何食わぬ顔でポケットに突っ込む。何かしらのデータが取れればそれで良し。無いならないで、まァいいでしょう。

「――届くようになっちまったか。こっち側まで」

やれやれですよ。外出て煙草を吸いましょう。

ネクタイを緩めて、そのまま行き交う雑踏の一人に紛れ込む。

ご案内:「常世博物館 中央館」から先生 手紙さんが去りました。