2024/08/22 のログ
ご案内:「常世博物館-中央館-古代エジプト文化展示」に神樹椎苗さんが現れました。
ご案内:「常世博物館-中央館-古代エジプト文化展示」に緋月さんが現れました。
緋月 >  
人気の少ない、古代エジプト文化展示のコーナー。
そこに、こつ、こつ、と、ブーツの足音が響く。

「――――――。」

暗い赤の外套(マント)を羽織った少女が、一人静かに歩を進めて行く。
その顔色は、緊張の為か、はたまた他に何かあるのか…紙のよう、とまでは行かないが少し青白い。

メジャーな展示物にはまるで目もくれず、ただ静かに、奥へと歩を進めていく。
まるで、裁きの場へと向かう咎人のような剣呑さ、だが、同時に覚悟を決めた受難者のように、
ただ前だけを見て、歩を進める――。
 

神樹椎苗 >  
「――だからお前はうるさすぎるんですよ」

 近づけば、いつものようにイラついた声が聞こえてくる。
 それと同時に、展示ケースを打撃する容赦ない音が響く。

『――――――――――――――――――ッ!――!?』

「あーあーあー、だからそれがうるせえってんですよ。
 大人しくしてりゃ使ってやりますから、黙ってろってんです」

 そんな、どこか場違いに賑やかな一画は。
 かつて宗教的祭祀に使われていた祭器の展示されている一画。
 踏み込めば、当たり前のようにロリータ装束の少女が我が物顔で広々とした椅子に鎮座しているのが見えるだろう。

「――ほら、お前がうるさくしてるから、もう客人が来ちまったじゃねーですか」

 そう言って、展示ケースをもう一度殴ると、足音だけで神妙にやってきた人物を、右腕で頬杖をついて出迎えた。

「思ったよりも、来るのが早かったですね、後輩」

 そう声を掛ける少女は、まるでやってくるのが分かっていたかという様子で。
 顔色の悪い少女を、目を細めて微笑むように見上げた。
 

緋月 >  
「――お久しぶり、です。椎苗さん。」

一般人から見たら奇行にしか見えない光景も、ある程度の事情を知った少女には大体の理由が察せられる。
恐らく、御神器のひとつが椅子に座している少女に何かしらを要求して、それを彼女があしらっているのだろう。

「……。」

無言のまま、少女が座する椅子の前まで歩を進め、少女に向き直ると、ゆっくりと片膝をつく。
手にしている刀袋も、音を立てぬよう、そっと床へ。

「……もしや、私が来た理由もご存じなのでしょうか。
それとも、私が自分でお伝えした方がよいでしょうか?」

まるで位の高い者に跪くような姿勢で、小さく顔を上げながら、書生服姿の少女は
椅子に座る少女に問いを向ける。
あるいは、既に知っていても…彼女ならば不思議がない、と心のどこかで思いながらも。
 

神樹椎苗 >  
「――ふむ」

 やけに丁寧に、敬意を払われすぎている気がする。
 とはいえ、相手からすればそう言うものか、とも思うが。

「わからないと言えば嘘になりますね。
 とはいえ――しいはもう全知ではねーですし」

 そう言いながら、椎苗は虚空に手を伸ばし、その手は何もない中空に波紋を立てながら肘までが消えて。
 再び左手を引き戻した時には、一冊の本がそこにあった。

「――お前が遭遇している事態は、すでに記録してあります。
 ただ、お前がどうしたいのかまでは、記されてはいねーですからね」

 その手にあり、広げられたのは、赤と青の表紙の古臭い本だった。
 パラパラとページをめくりながら、跪く少女を見下ろすように。

「迷えるものの話を聞くのも、宗教家の務めですから。
 まずは、お前が思うように話すがいいでしょう。
 とは言え――ここは邪魔が入るとも限らねーですね」

 そう言うと、椎苗は展示ケースに入ったボロボロの古文書に左手を向け――

『――虚空蔵書、万象展開』

 そう短く命じると、展示品の在った空間は、上下左右、あらゆる方向を無数の本棚に囲まれた空間へ変貌する。
 始まりの神器、『虚空蔵書』の能力の一つ、『無限書庫』の空間だ。
 ここでは上も下もなく、あらゆる物理法則は意味を失い、ただ、無数に近い書物が収納されていた。

「――慌てて動くとひっくり返りますよ。
 自分の足元が下、頭が上、そう強くイメージする事です」

 そういう椎苗は、床すら消えた場所で、悠然と椅子に座り、頬杖をついたまま本のページを眺めている。
 少女からしてみれば突然、床も天井もなく、重力もなく、空中に放り出されたようだろう。
 それでもどこに落ちるでもなく、不可思議に書庫の中に浮かんでいる。

 そして、その書庫の中には、展示されていたいくつもの祭器たちが。
 ――本来の姿となって、椎苗と少女の周りに浮かんでいた。
 

緋月 >  
「……!?」

突然の事。さっきまでの博物館の面影はまるで存在しない、奇妙な空間。
敢えて言うなら、旅の中で一時休む為に、屋根を借りた図書館――その、書物が収められた場所を
限りなく大きく、広くしたような空間、と言えば良いのだろうか。

(っ――足元が下、頭が上、足元が下、頭が上――!)

大きく呼吸をして、焦る心を落ち着けつつ、イメージを固める。
幸い、ぐるんと回転したりする事はなく、最初にいくらか体がブレるように揺れただけで済んだ。
安定した事に安堵の息を吐きながら頭を改めて上げ直すと、

「――――あ。」

…良く分かる。椅子に座る少女の周囲に浮かぶそれらが、先程までケースに収められていたものだ、と。
まるで、それらに見定められているような感覚を覚えながら、書生服姿の少女は改めて口を開く。

「……私には、まだ…分かりません。
私を幾度も連れ出してくれたあのひとが、生きているのか、死んでいるのか。
もし――死んでいるのなら、何の理由で、私の前に現れたのか。

何故、私と……まるで、友達のように、色々な場所を巡って、遊んでくれたのか。

……真実を知る事は、恐ろしいです。

ですが――もし、もしも、彼女が…あの、紅い色をした、屍人と……「同じモノ」だったというのなら――」


「――傲慢だ、と言われても、申し開きも出来ません。
でも……曲りなりにも、「友達」だと思ったひとが…あのような、死の尊厳を踏み躙られた、おぞましくて、
そして悲しいモノに成り果てているのなら――――

罪は、私が背負います。私以外に、背負わせる事は出来ない、したくない…!

あのひとが紅い屍人に堕ちて、罪を犯す前に――――」
 

緋月 >  

「――――せめて私が、黄泉へと送りたい。」

 

神樹椎苗 >  
「――いい覚悟です」

 椎苗は、まるでこの無限書庫の主のように、横柄に頬杖をついたまま笑う。
 死を背負う――少女の覚悟は、重々しくも、清々しい。

「お前が求めに来たのは、あれを――ん、やめましょう。
 お前はあの『紅い雪』を、正しき安寧へと送る方法を求めに来た。
 ――そう言う事ですね」

 そう言うと、椎苗は少し考えるように瞳を閉じ。
 僅かの間をおいて、大きく息を吐いた。

「『紅い雪』は確かに、生と死を歪められた者です。
 とはいえ、おそらくお前がその刀で斬れば――偽りの命を終わらせる事は出来るはずですが。
 お前が欲しいのは、こういう返答ではねーのでしょう?」

 そう言って、椎苗は左手を振って、周囲に浮かぶ神器たちを少女の前に並べた。
 それはどれも、展示されていた時のような朽ちた姿ではなく。
 本来の祭器としての姿をしていた。

「死という安寧、あの穏やかな丘へと送ってやりたいというのなら。
 好きな物を持っていけば良いでしょう。
 いずれも、『黒き神』の断片が宿っていますから、冥界へ送るだけであれば可能です」

 そう、八個の祭器が少女を囲むように浮かぶ。
 そのどれもが、少女の意思を認めているのか、少女を拒絶するような意思は感じられないだろう。

「ただ、お前がこれらを扱えるかは別の話ですがね。
 神器共は、お前をすでに認めています。
 好きな物を持っていく分には、しいも、『黒き神』も許しますが、それからに関してはお前次第です」

 そう言って、試すような視線を少女に向ける。
 それは『使徒』として、『黒き神』に仕えるだけの資格を持った少女を、見定めるような視線だっただろう。
 

緋月 >  
「なれば、」

ゆらりと立ち上がり、す、と書生服姿の少女が手を伸ばした先にあるのは――黒い獣の仮面。
初めて此処を訪れた際に、己を呼んだもの。

「この仮面を。最初に私を最も強く呼んだ、かのモノ()を、共に。」

そして、手を伸ばしはすれども、まだそれを手には取らない。
訊ねるように、視線を座する少女に向ける。

「――私次第、という事は。
他に、何かしらの手立てで、より深く、御神器の力を引き出す術が…死のカタチを、捻じ曲げられてしまった者に、
善き「最期」を迎えられる手立てを、得る事が可能だと…そういう事、でしょうか?」

軽く俯き、目を伏せる。

「……私は、神という存在に、畏敬の念は抱けども、信仰を捧げる、という事はしませんでした。
己の路は、斬って拓くもの。そうであるのだと、信じて。

――ですが。
あのひとだけではない、あのような哀れな姿となってしまった、死を踏み躙られた者や、己の死に気づけぬ
悲しい人々を――正しき安らぎに送れるならば――」


「――私の信仰をかの御方にお捧げ致します。」


試すような、見定めるような視線に対し、間は取れども、迷う事はなく。
そう、言葉を伝える。

神樹椎苗 >  
「まったく、どいつもこいつも、どうしてそう性格が悪いやつを選ぶんですかねえ」

 少女が手を伸ばした仮面は、少女に選ばれた事を、当然の事のように思っているようだ。
 そのような意思が、少女にも感じられるだろう。
 しかし、その後の少女の言葉に、椎苗は眉間を抑えながらため息を吐いた。

「――はあ。
 ほんとになんでこう、極端なやつに限って素養があるんですかねえ」

 少女は恐らく、『歪な死』に触れた事で、より『死』というものを意識する事になったのだろう。
 本来なら人間は、『死』ではなく『生』という概念に重きを置く。
 しかし少女は――すでに『死』の在り方がどれだけ重いモノかを知ってしまった。

「もう一度、問いましょう」

 そして少女は、以前よりも遥かに、『使徒』となるだけの精神性を獲得していた。
 ――少しばかり、生き急いでいるようにも感じられるが。

「お前は、『死』というものをどう考えますか」

 それは、端的すぎる問いであり。
 多様な解釈が出来る問いである。
 決して正答のない――生命の、生と死の在り方についての問いだ。
 

緋月 >  
「――確か、此処に初めて来たときにも、質問されましたね。」

ふ、と、少しだけ、無邪気そうな笑顔を座っている少女に向ける。
あの時は、自分の「死」を答えるだけで、精一杯だった気がする。

あるひとは言った。
死とは、「痛みのない場所」なのだ、と。

その影響が、多少なりある事は否めない。
それでも、自分の言葉で、口に出す。


「『死』は、『生』という喜び・怒り・悲しみ・楽しみ――幸福と、苦難の果てに待つ、最期の友。
等しく「安らぎ」を以て迎えてくれる、誰しもに寄り添ってくれるもの。
痛みのない、苦しみのない、安らげるところ。

――私は、そう考えます。あるいは、そうあって欲しいのだ、と願うのかも知れませんが。」

理想を求めすぎでしょうか、と、小さく苦笑する。