2024/08/28 のログ
ご案内:「常世博物館 中央館 」にノーフェイスさんが現れました。
ご案内:「常世博物館 中央館 」に角鹿建悟さんが現れました。
ノーフェイス >  
建悟(けーんご)

表向きなので、そう呼んだ。
暑さも峠を越えようというある日のことだった。

エントランス付近の日陰に、変装しようが色々隠しきれていない立ち姿。
やってきた待ち人に親しげにほほえみながら、ひらひらと手を振る。

どっち(表も裏)もお忙しいなか、どーも。
 久しぶりだね、こーして顔合わせるのもさ」

なんでも建築物関連でちょっとした特集をやってるとかで、
前日夜にいきなり呼びつけたのだ運びだ。

角鹿建悟 > 「…あぁ、どうも、確かに久々だな…。」

名前を呼ばれればそちらへと振り向き、小さく会釈を返す。
相変わらずの仏頂面。服装も流石に制服や作業着…ではないが、それっぽい私服と飾り気が無い。
元々、何事も実用性や機能性重視…と、いう点では芸術家より矢張り職人気質が伺える。

…とはいえ、この男も色々とあり少しくらいは変化している――例えば今回の待ち合わせもそうだ。

「…”裏側(あっち)”もそうだが…どちらかといえば今は”表側(こっち)”が少々立て込んでいる感じではあるな。」

まぁ、落第街はまた妙な連中が現れたり、紅い怪異がどうのと聞いているがそこは青年には関係ない。
それよりも今回の呼び出しの件――建築物関連の特集ときた。
以前と違い、己の”願い”を自覚したのもあって矢張り興味は惹かれる。

「…恥ずかしながら、こういう場所に来るのは初めてだな。」

どこから見て回っていいかすらいまいち分からない。

ノーフェイス >  
「……なーんか、身の回りに一張羅な連中が増えてきてる気がすんな……?
 ボク相手だからイイけど~……デートに誘われることがあったら、
 ちょーっとは気を使いなよ……?日焼け止めは……キミにはあんまり合わないか」

こういうタイプに入れあげる女の子も、案外珍しくもなかったりする。
とはいえ今回は、そういう色気のある目的ではない。
同行を促し入口をくぐる。冷たい風が吹いた。体に毒だ。

「いまの中央(ココ)のメインディッシュは、エジプト関連の展示みたいなんだケドな。
 ちょっといま、そっち(死生観)は引っ張られそうなのと……
 ……なんか知ってるような気配があって……いまいち足が……向かない……」

あっちな、と白く長い指で示す。
旧い因縁があるような、そうでもないような。虫の知らせは大体当たる。
涼しい風のなかを、声を顰めて歩く。

光学魔術(マギア・オプティカ)で投影された、大変容前の建造物再現を通年やってんだ。
 いまもまだあるものから、もうないものまで。2000年当時を再現してる、とか……
 すこし前までは米国(ステイツ)で、いまは日本のヤツだってさ」

角鹿建悟 > 「…まず、デートとやらに誘われる事が無いから何とも言えないが…。
…日焼け止め?…あぁ、まぁ確かに炎天下でも仕事をしていたから焼けてはいるか。」

今気づいた、とばかりに己の腕を軽く見遣る。派手に、という程でもないが程よく日焼けはしていた。
そして、彼女からごもっともな指摘を受けても男はこの調子だ…本当に女っ気が無い。浮いた話も無い。

「…エジプトか…そちらも興味はある…が。
…上手く言えないが、俺も何かざわざわした妙な感覚があるからパスだな。」

彼女の言葉に、青年も同意するように頷いた。彼女とは別の感覚だが何か感じてはいるらしい。
気乗りしない、という訳ではないが今はそちらに足を運ぶ気は無い。

外の暑さでもそうだが、涼風に身を浸しても青年の表情は全く動かない。
それよりも、視線は矢張り物珍し気に周囲を見渡す――初めて訪れるのは嘘ではないようだ。

「…光学魔術か…それも興味あるが、日本の…2000年代…大変容以前の、か。」

言葉は何時も通り平坦で落ち着いたものだが、その銀色の双眸は興味深そうだ。
特に、日本の建築物…と、なれば矢張り血が騒ぐのだろう。
白い指先が示す方角、そちらへと二人でまずは向かおうかと。

ノーフェイス >  
「オバケ嫌い?」

ざわざわする、と言われると、すこし可笑しそうに笑った。
ことさらに深く突っ込むつもりもない。

……しかし、そこからの。
自分の"仕事"にのみ没頭するような彼が、いつにない反応を見せていることを、
燃える黄金の双眸は、横目でじっと見つめていた。
そこで、不意――ぴたり。
彼の真横で立ち止まった。

角鹿建悟 > 「…いや、身内にそういうのが普通に見えたり感じ取れる人も居たから、特には。」

ざわついた感覚は、エジプト関連の展示コーナーから距離を離す度に落ち着いていく。
それがどういう感覚なのか、というと口で説明するのは難しいし今は置いておこう。

彼女の”視線”にすら気付かぬまま、件のコーナーを遠目に見る距離からでも何故かじーっとそちらを眺めている。
…と、不意に…彼女が己の真横で立ち止まった。
危うくこちらがスタスタと歩いて行く所だったので、ハッ…と、我に返り足を止めた。

「……どうした?ノーフェイス。」

我に返れば何時もの青年の仏頂面ではあるが、不意に立ち止まったので不思議そうに尋ねて。

ノーフェイス >  
しばらく。
じー、と無言のまま、麗貌は先をいってしまった彼を眺めている。
つくりもの――展示物のような。彫像のような有り様で。
それが動き出して生物であることを証明したのは。

「腕でも組む?」

ほら、と軽くもたげた、袖口から覗く白い膚。
対策しているのか焼けないのか、血管の透けるような腕。
引き締まった前腕、女性の曲線を宿すの大きな手指が誘いをかけるように虚空を撫でた。

角鹿建悟 > 「………は?」

青年にしては珍しく、間の抜けた声が思わず漏れた。
銀色の双眸が、意味が分からないとばかりに瞬きを数度。
――一瞬、こちらが声を掛ける直前の…彫像のような美麗は直ぐに生物のそれへと戻っていた。

「……構わないが、歩き難くならないか?それは。」

以前だったら淡々と容赦なく断っていただろうが、今の彼は昔とは少々違う。
だが、不器用で女慣れしていない事は変わらないので返答も相まって色々ぎこちない。

…とはいえ。先ほどの、何かに没頭するような銀の眼差しは今は平静と、彼女の唐突な言葉による動揺が色濃い。

ノーフェイス >  
「へえ……?思ったよりナマっぽい反応するんだな」

ぱっと眉が上がり、自分の顎に手を添えてしげしげと観察。
いかにも展示品を吟味するような仕草だ。
赤い唇はにやついている。明らかにからかったのだ。うまくいってしまった

「冗談だよ。予行演習なら、キミとボクの誼だから付き合ってもイイが。
 こんな真面目なとこでイチャついてたら注意されちゃうかも」

楽しそうに、今度はこちらが彼の横を通り過ぎていく。

「――エジプトな。ピラミッド、神殿……ああいう大昔のヤツもイイけど。
 気になるのは……デカい礼拝堂(モスク)なんかは、めちゃくちゃ荘厳だって言うぜ。
 人々の信仰が集まる場所。どんだけ強烈な霊性を帯びてるか想像もつかない。
 さすがに内装まで楽しむとなると、やっぱり現地に行きたくなるよな――お」

やがて、展示物のエリアが見えてくる。
どうやら本丸の日本文化物のコーナーは奥のほうで、
普段飾られている各国の展示物は、今はそれぞれめぼしいものがまばらに、手前側に置かれているらしい。
ちょっとものさみしくはあるが、その腕を今度は薄闇に投影されている建物に向けた。

「メトロポリタン歌劇場」

長方体の、絢爛なる建物。
浮かび上がるものは光学魔術(マギア・オプティカ)による虚構のミニチュアだが、
前面の硝子から覗けるエントランスの奥の活気までもが、現代に蘇ったようでもある。

角鹿建悟 > 「…別に俺は機械でも何でもないんだがな…。」

昔なら”そう”だったかもしれないが、良くも悪くも今は”こう”だ。
しかし、何やら吟味というか品評されているような居心地の悪さを感じる。
彼女のにやついた様子からして、単にからかったのは明白だろう。
簡単にそれに引っ掛かる程度にはマシになった…と、言えなくも無いのだろうが。

「――流石にそういう注意を受けるのは御免被りたいな…。」

今度は彼女が楽し気にこちらの横を通り過ぎ、青年は吐息と共にその後を追う。
それでも、矢張り展示物が迫れば自然と銀の双眸には仕事と向き合う時とは違う”色”が灯る。

「――建築物には古今東西、関わった奴の”魂”や”色”が少なからず宿ると聞いてる。
…特に、信仰などの”一つの所に集まる念”は強烈だろう。
…感受性が強い奴や、独特の感性を持つ奴は多分ダイレクトに感じるだろうな。」

自身の家系が、神社仏閣の補習や建築を担う宮大工だったのもあり、そういうのは何となく分かる。
…もっとも、彼の場合は落ちこぼれとされて家を勘当された身だ。それでもその血筋と感性はきちんと生きている。

彼女の腕の先に視線を彷徨わせ、薄闇に浮かび上がるソレを見て目を細めた。

「…確か、この当時のアメリカ随一のオペラハウス…だったか?
…外観の白さはトラバーチン大理石によるものか。」

しばしば【MET】とも言われるらしい。多少の知識は青年にもあったようだ。
確か、一度火災の被害に遭って大規模な修復の後の姿がこの投影された物だった気がする。

「…このガラスの配置とか参考になるな…俺だったらどう配置するか…。」

無意識に呟く。まだまだ駆け出しの小僧。いきなりこんな物が創れるわけもないが。

ノーフェイス >  
「そ。比較的近代に建てられたモンだけど……え、わかんの?スゲーな」

偽装された黒髪を揺すって、さらりと口にされた単語に思わず振り向いた。
瞠った眼鏡の奥の瞳を向けてみるものの。
ちら……と自分の側からは覗けるプレートを盗み見ると、
確かに並列するアーチ含めてそうであるらしい。――視ただけで。

「……当時の歌劇場(ここ)には、どんな"色"が満ちていたんだろうな。
 眼の前のおおきな噴水を中心に、隣り合うようにして、
 コーチシアターやエイブリーホールがあって。
 そこまで行くのにも、いろんなシアターとか、わくわくする建物がたくさんあってさ。
 ライトアップされると、行き交うひとたちも含めてさ、
 世界がまるでひとつの芸術品みたいに調和してた」

腰に片手をあてて、また違った視点でそれを観る。
どこか懐かしむように、穏やかな表情はさっきとはまた違った上機嫌だ。

「優れたヤツは、そこにポンと湧くようにあるんじゃなくて……周りの風景。
 ……太陽の角度とか……季節の移ろいも計算されてるんだって?
 いったいどんだけ綿密に考えて、うち建てられたんだろう」

あまりにもハードルが高すぎる芸術。
尻を蹴っ飛ばして創る側に押し込んだものの、実際に考えると途方もない。

角鹿建悟 > 「…凄いかは分からないが、投影された物とはいえ見れば何となくは分かる。」

細部の材質とかになると、流石にこうやって見ただけでは無理だが…メインで使われてる材質ならばある程度は読める。
観察眼に優れているのか、そういうのを見極める眼力でもあるのか。

「――俺はオペラとかは正直全然分からないが…。
…少なくとも、活気があって…ここでしか体感出来ない”熱”があったのは確かだと思う。
…アンタの言うように、その当時の人達を含めて一個の芸術作品なのかもしれないな。」

じっ、と改めて歌劇場を見る。先ほどの見極めるような観察し、探る視線とは違う。
…ただ、純粋にその情景を思い浮かべるようにこの”作品”を見る。

(…成程、こういう見方は”楽しい”な…。)

どちらかといえば、つい職人的な目線で見てしまう傾向が強いから、尚更新鮮に感じる。

「…ただそこに建てるだけではなく、場所、気候、日照、四季…それも全て含めてとなると。
…成程、今の俺では指先に掠りもしないな…まだまだ精進が必要だ。」

ハードルが高すぎるのは確かで、下手すれば一生掛けてもその階に手が届くかどうか。
”それでも”挑戦する、創ると決めた以上は。尻を蹴っ飛ばされたなら走るまでだ。我武者羅にでも。

ノーフェイス >  
光学魔術(マギア・オプティカ)の凄さなのか、キミの能力の証明なのかは、
 門外漢(ボク)には判断つきかねるケド――」

黒髪をいじった。
材質――実物を視て、膚で感じてならわかるが。
一聴で和音やトラックを分解するのとはわけが違うものではあると思う。
我ながらとんでもない逸材を見つけたものである、と肩を竦めて落としたが。

「館内に入れてたら、もうすこし気の利いた印象を提供できたんだケド。
 ボクは外観しか視たことないから、この程度で勘弁な。
 ――建てる場所のことを熟知してる必要があるってコトだからな。
 それこそいまのキミだったら、落第街(あっち)でいいモン建てられるんじゃない?」

もの好きな直し屋は、それなりにあの街を知っているはず。
そして空白はいくらでもある。あとは、どんなものを建てたいか。

「そういや……」

腰を折り、黒髪が肩から滑り落ちた。
隣から彼の顔を、低い位置から見上げるようにして。

「キミの出身、本土(にほん)のどこなんだ?
 いくら島国とはいえ、結構広いんだろ?」

角鹿建悟 > 「…俺個人としては、材質が特定できるくらいに精巧で鮮明な投影を可能とする光学魔術の方が凄いと思うが。」

彼にとってそれは普通の感覚に近いので、凄いのかどうかも本当に実感が無い。
むしろ、光学魔術による再現の高さの方が凄いと思っている。

「――いや、外観だけでも色々と参考というか…勉強になるから助かる。
…どうせなら、周りが呆れたりいっそ笑い話にするくらいの奴を建ててみたいけどな。」

何処の誰だ?落第街にこんなバカな物を建てたのは?と、聞かれたら、迷わず「俺だが?」と答えられる。
そのくらい、荒唐無稽であってもいいだろう。今はまだまだ足りないものが多いが。

「――一度、とことん自己満足の極みで一人で建ててみようかとは思ってる。」

具体的なプランとか、緻密さだとか、芸術性とか。一回全部放り投げて熱の赴くままに一つ、建ててみたい。
そうして、また別の何かが見えて来るかもしれないから。

「―――俺の出身地か?」

意外な質問に僅かに言葉が止まった。もう二度と戻る気も無い実家の事を僅かに思い返す。
だが、8年も前に家を出てから一度も、便りすらお互いに寄越していない。
既に断絶したに等しい故郷の事を思い出そうとしても、思い出せる事は少ないが。

「――父方が『新潟県』で母方が『京都府』だな。俺自身が生まれたのは新潟の方。
新潟は昔から仏教の信仰が盛んで、その関係で寺院とかも多かった。
その関係で、神社仏閣の修繕や建築を担う【宮大工】も数多く居る。
…俺の角鹿家もそんな宮大工の一族の一つだ。歴史はかなり古いとは聞いてるが。
母方の方は――よく分からないが、霊的なものに携わる家系だった、とは一度だけ聞いた事がある。」

自分の家系について、なんて話す事が殆ど無いから逆に新鮮だな、と何処か他人事のように思いつつも語り。

ノーフェイス >  
「この前、ガルニエ宮を再現したホールで芝居を観たケド。
 あのときも魔力を使った視野でさえ、シャガールの絵画が虚構かどうか怪しいくらいだったからなあ。
 そういや、MET(メト)にもあるんだぜ、シャガール」

魔術と科学の融合は、そうしてかつては夢物語に過ぎなかった奇跡を現実のものとする。
ファンタジー、SF、そういったものに追いつき、追い越していく時代だった。

「サイコーじゃんか。まあ、最近もバタバタしてるし土地には事欠かないだろう。
 そういう"やりたい"が先走る欲望……キミが言ったように、"熱"か。
 ボクも好きなコトバ。落成したらぜひ一報くれよ。
 きっととんでもないモノが出来上がるんだろうから――行こうぜ」

話しながら、本丸を目指す。
世界各地の名物が、しかしやはり虚構のまま通り過ぎる、和洋折衷の町並みを。

京都(キョート)はいくらか知ってる」

歴史建築の本場であり、陰陽術の大家であり。
古都であり。何かと現代史においては話題(トピック)に事欠かない土地。
両手の指を組んで、ぐっと伸びをしながら。

「みやだいく……。
 なるほど、生まれながらにして信仰と芸術を負っているワケか、――」

じゃあなんで創る側に頭を向けてなかったんだ?
と、率直な疑問は飲み込んだ。プライバシーだ。

「ママのほーの力はあんまり発現してない感じか。
 異能には遺伝して、血を継げば継ぐほど力を増すものもあるんだってな。
 ……案外混ざってフシギな開花をするのかも――おっ」

そこで、出迎えたのは、巨大な提灯がぶら下がった門である。
先までのミニチュアとは違い実寸を再現された、左右を守護する風神と雷神。
――雷門。浅草寺へ続く総門である。

角鹿建悟 > 「…シャガール…マルク・シャガールの事か?確か【愛の画家】とか【色彩の魔術師】とか言われていた画家…だったような。」

流石に芸術方面は本当に疎いのだが、合っているだろうか?
青年は建築物などはそこそこ強いかもしれないが、絵画とか美術品となると少々弱い。
適性と興味の問題もあるのだろうが、青年の得意分野は矢張り建築方面なのは血筋なのだろう。

「――昔の日本の芸術家?だったか。名前は忘れたが【太陽の塔】とかいう珍妙な芸術作品を建てた人が居たんだが。
その塔みたいに、訳の分からない、だけど存在感がある建造物とか一つ、建ててみたら”面白そう”だと思う。
――そうだな、完成したら一報と画像は送ろう。」

青年にしては前向きというかやる気の姿勢なのは、矢張り根底は直すより創る人材だからだろうか。

――さて、青年にとっては少なくともここからが”本番”だ。
世界各地の名物も勉強になるし興味深いが、一番見たいものは一番奥にこそある。

「…普通の大工と違って専門的な技術、あと知識が必要だから今の日本では殆ど居ないだろうな。
後継者の問題もあるし…俺も、宮大工の道は諦めたから実家ではあるがそっちの勉強はしてない。」

一族と縁を切ったからには、宮大工ではなく別の道を目指す。今もその途上だ。
そんな青年が、何故創るではなく直す事にご執心だったのかは――さて。

「…まぁ、父方の血の方が濃いのだとは思う。とはいえ、俺の直す異能は突然変異みたいなものだな。
他の一族も全員では無いが異能持ちは何人か居て、どれも建築方面に特化した力だった気がする。

…母方の方は未知数だな。もし、何かしら開花すると霊的な――…ん?」

彼女の声に視線をそちらに向けて。銀色の双眸の目付きがまた変わる。

「…あれは浅草の雷門か――!しかも実際のサイズかこれは。…左右の風神と雷神も良いな…。」

はっきりとはしゃいだりはしないが、明らかにテンションが上がっていた。

ノーフェイス >  
「よく知って……ステンドグラスもやってるからか……
 教会の修繕とかやってたら、行き当たっててもおかしかないかもな。
 いわく、それぞれの人生にはそれぞれ固有の色があり、その色こそが()の色なのだと」

色。
さっき、彼が口にしたコトバでもある。霊性を視覚化した言語に、芸術を感じた。
ここに新たに出てきた愛というワードには、どこか自嘲気味に笑いながら。

「太陽の塔…………、……。
 ――――あの怪獣みたいなヤツ?」

資料で見たことがある気がする。
思わず声をあげて笑いそうになり、口元に手を当てて肩を震わせる。

「イイね。突拍子もない。立体のストリート・アートみたいだ。落第街(あそこ)らしい」

怖くてうっかり壊せないような、奇怪な存在感。
そんなもんがポッと湧くデカダンスの空気に、かつては心を踊らせていたものだった。

「―――、」

諦めたって割りには。
ちらりとプレートを見て情報を探ると、なるほど寺社仏閣、それも有名なものらしい。
テンションの上がりっぷりに、思わず微笑ましげに口元が緩んだ。
好きなもの、心踊るもの。そんなものに与えられるふるえ。
連れてきた甲斐もある。

「風神雷神。カミナリマンの一号と二号じゃないの……?
 ……こっから奥は、さすがに実寸じゃないみたいだけど、……色々あるみたいだ。
 日本各地の、寺社仏閣の特集みたい。お城とかよりは、コッチのがよさそうだね」

さすがに参道やらなにやらを再現したわけではなく、この奥にあるのは寺院のミニチュアたち。
とはいえ、先のMET(メト)の再現度を考えるに、
おそらくは情報の宝庫――洪水に気絶しなきゃいいが、と若干心配になりつつ。
彼が満足するまで待ってから、門をくぐった。雷と風に阻まれることはなく。

「おー……さすがに、って感じだな」

見上げた。出迎えた本堂、更に遠くに望める五重塔の幻影。
美しい朱の塗りに、思わず声が上がる。悪くない。