2024/09/07 のログ
緋月 >  
「…………。」

落ち着いて状況判断を行おう。

突然の怒声。とても聞き覚えがある。
飛んできた、というか蹴りを放ってきたのは赤い装束の少女。
やっぱり見覚えがある。

それが、明らかに人体が立てては良くない音を立てて、血飛沫が舞っている。
ついでに身体も宙を舞って、ぐしゃっと、頭から壁にいった。

――普通であれば即死ものの惨状である。


「……………。」
ランダム指名 > 神樹椎苗
緋月 >  

「し、椎苗さーーーーん!?」

 

神樹椎苗 >  
「――はい、椎苗ですが。
 どーしやがりました、後輩」

 なんて。
 当たり前のように壁の薔薇になった体と反対側。
 後輩の後ろから声がかかる。

「はあ、最近運動不足が過ぎましたね。
 力加減間違えたみてーです」

 振り返れば、まるで直前のスプラッタが嘘のように、神樹椎苗はそこに立って赤いキャップを整えている。
 そこら中に散らばっていた血や、肉は――まるで最初から何もなかったかのように、塵になって消えていた。

「はあ――クッソうるせえやつのせいで酷い目に遭いました」

 ため息を吐きつつ、腰に右手を、キャップに左手を当ててピシッとキメている。
 まあ中身はともかく、外見だけは美少女なので、様にはなっていた。
 

緋月 >  
「え…あ、あれ…あの、今、壁――。」

反射的に声に振り向けば、其処には五体満足な「先輩」の御姿。
慌てて振り向けば――凄惨な有様になっていた筈の壁の周囲は、塵が舞うばかり。

「………私の見間違いでしょうか?」

ちょっと情けない表情を晒す書生服姿の少女。
しかし、はっとここに来た目的…と言う程のものでもないかも知れないが…を思い出すと、
一つ息を吐いて椅子に座り直す。

「どうした、と、言われると…何と言えばいいんでしょうね…。
敢えて言うなら、反省会、でしょうか。

――御神の使徒として認められて、仮面の力を引き出す為に、私なりに試行錯誤をして…。」

す、と仮面をつけるような仕草を見せれば、両の瞳に蒼く燃える炎の如き光。
必要な分だけを絞って発現させた埋葬の仮面の力――死者観測の能力である。

「――そうして、紅き屍人や、死した場所に留まって動けぬ死者の魂に、慈悲と祝福を以て、
刃を振るって来たつもり、です。

でも、後から思ってしまう事があるのです。
果たして、私は彼等をしっかりと送れたのか――きちんと、祝福を授け、あの平原へと
送り出せたのだろうか――と…。」

ふぅ、と、気が塞ぐようなため息。

「……仮面の「代償」の影響でしょうか。
力を強く使っている分には、不安などを感じる事も、そんな暇もないのですけど…
こうして落ち着いて見ると、どうにも……。」
 

神樹椎苗 >  
「いや別に――」
 

??? >  
「別に見間違いじゃあないさ。
 彼女は、死の循環から外れているからね」

 そう、神器の中で最も騒がしい黄金の祭器は、二人の前に姿を現す。

「やぁ、僕の敬愛する神と、その愛しき使徒たち。
 僕は『虚空蔵書(こくうぞうしょ)』。
 気軽に司書と呼んでくれて構わないよ」

 長い金糸のような髪を靡かせた長身の男性は、二人の継承者の前で、優雅に頭を下げ、非常に胡散臭い笑みを浮かべた。
 

神樹椎苗 >  
「――チッ」

 そんな男の登場に、椎苗は露骨に不愉快そうな舌打ちをするのだった。
 

緋月 >  
「――――!?」

何と言うか、今回は驚く事ばかりである。
ただの意思だけと思っていたものが、明確な声を発し、のみならず人の形を取っている。
間違いない、無視し続けていた意思のそれと、長身の男が語る声は――何処か、一致するモノだ。

「えっ、あの、これ…どういう事ですか…?

いえ、椎苗さんが死から外れている、というのも聞き逃せない事ですけど…
何で御神器が、人の形に…!?

さっきまで、言葉にならない、意思しか感じていなかったのに…!」

混乱の為か、目に宿る蒼い炎が大きく揺れる。
…虚空蔵書を名乗る男に、露骨に不愉快そうな雰囲気の「先輩」も気になる所だったが。

虚空蔵書 >  
「ハハハ、そんなに驚く事はないさ、誇り高き狼の継承者。
 僕は元々、継承者を必要としない神器だからね。
 この姿は以前、僕を使っていた友人の姿を借りているんだ。
 どうかな、ぼくはとても気に入っているんだ。
 ああ――でもそうだね、確かに僕ほど明確に人格を持っている神器は他にはない。
 僕の愛しい紅の継承者でさえ、心を通わせても彼女と感情を伝えあうのが限界だからさ。
 ああ、紅の継承者、そんな風に睨まないでおくれ。
 今日は狼の継承者に、僕なりの祝辞を伝えに来たのだから。
 それくらいは許していただけないかい?
 それに、我らが御神も、今は心ここにあらずと言った様子だろう?
 僕以上に、狼の継承者の疑問に、迷いに、葛藤に、答えられる存在はいない。
 そうとは思わないかい、紅の継承者?」

 などという、長口上を、朗々と述べる男は。
 大げさに両腕を広げて、その長身から二人の継承者を微笑んで見下ろしている。
 

神樹椎苗 >  
「――チッ。
 お前がしぃ以上の理解を持っている事は認めます。
 ですが、余計な事を言えばたたっ斬るから、覚悟しときやがれってんです」

 そう言って、自らの横に愛剣――死と飢餓の赤剣を呼び出して、互いに寄り添い合うように並んだ。

 困ったことに。
 この『司書(・・)』の言う通り、椎苗の敬愛する黒き神が、ふらふらと博物館の陰に漂って行ったのもわかる。
 心地よい気配――月の友を感じて、そちらに向かっていったのだろう。

「はあ――。
 心配しなくていいです。
 このクソ野郎は見るからに胡散臭ぇですが、継承者に対しては真摯である事は事実です。
 そして、しぃ以上に、あらゆる問いに答えられるだけの蔵書と歴史、経験があります。
 まあ――しいのプライベートはともかく。
 さっきの疑問を問いてもいいでしょうね。
 ――バカな事を言いだしたら問答無用で斬りますから」

 ふんっ、と鼻を鳴らしつつ。
 それでも『司書』の能力は確かだと後輩に保証した。
 

緋月 >  
「は、はぁ………。」

ちょっと落ち着きなく、視線を蔵書の男と赤い剣と共にある少女の間で彷徨わせ…とりあえず、
大人しくお話を聞く決断を下した書生服姿の少女。

「……もしかして、あの仮面を継承した時に、椎苗さんが私の事情を知っていたのも…。」

あの時は色々一杯一杯だった事もあり、訊ねはしなかったが、この「蔵書」の力を借りたものだったか。
そう思い至る所はある。それに、少女の言葉がその思いを確信に近づけるものはある。

「しかし……祝辞、ですか?」

疑問や迷いに対する答えは兎も角、そのようなものを受け取るような事はあっただろうか。
少々疑問。「先輩」の、あからさまに苛立つ態度も、少し心配。


――魂の内で、小さく唸るような思念。
それが「相方」の思念だとは、すぐに分かった。

(……仲、良くないんですか?
お願いですから落ち着いて下さいね……。)

そう念じてから、改めて姿勢を正す。

虚空蔵書 >  
「ああ、紅の継承者とはよく話しているからね。
 狼の継承者、君の事もよく知っているよ。
 君自身が知らない事も――少なからず」

 ふっ、と笑い、新たに継承者となった少女に視線を向ける。

「まずはおめでとう、狼の継承者。
 君は死を想う者として十分な資質を見せ、また行動で示した。
 我らが御神にとっても、それは誇らしい事に違いないだろう。
 君が得た力も代償も、君こそが得るに相応しい。
 彼はとても、君の事が気に入っているようだしね」

 そう言って笑うが、恐らく新たな継承者の中では、不機嫌そうな思念が漂うだろう。
 かと言って、それ以上の事はないのだが――継承者として日の浅い少女からすれば、冷や汗ものかもしれないが。

「さて――それではまず君の疑問に答えよう――と言いたいが。
 一つ、僕から先に問わせてもらおうかな」

 そして大仰な振りつけで少女へと手を向け、どこか愉し気に笑った。

「狼の継承者よ、君のこれまでの行動は、私欲か、使命か。
 それとも逃避かい?」

 その問いは、静かな博物館にやけに大きく響いた。
 

緋月 >  
「私が、知らない事………。」

……何となく、紅の剣と共にある少女がこの蔵書の男に対してやたら辛辣な理由の一つが分かったような気がする。
自分自身の知らない自分の事を知られるというのは、確かに、何かこう、もやっとしたものを感じる。

「は……そうであるなら、恐縮です。
まだ、本当に彼のモノの力を引き出せているかは、自信がありませんが…。

――しかし、私が背負う代償までご存じとは…本当に何でも知っておられるのですね…。」

――これでもかという位、不機嫌そうな思念が伝わって来る。
内心必死で宥めつつ、蔵書の男の言葉に耳を傾ける。
ちょっと、首の後ろで冷や汗が流れた。

「これまでの……行動、ですか。」

指摘を受け、目を瞑る。
これに関しては、嘘は言いたくない。
己の内を見直し――結論を出す。

「……使命である、と言い切れれば良かったでしょう。
実際には、私欲が少なからず混じっている事は、否定できません。

――安らぎであるべき死を迎えられず、死したまま現世に囚われ、苦しみ続ける事は、耐え難いものです。
其処から解き放ち、安らぎある処へと送り届けたいという思いは……
私欲と指差されても、弁明は出来ません。

――いつか、向かい合うべきモノとの対峙を、後回しにしていると言われても。
…向かい合った時、平常を少しでも保てるよう…「死」の有様を見る為に、屍人や縛られた霊を
見続けている事は、否定できません。」

正直に、総てを話す。

虚空蔵書 >  
「ふふふ、そんなに畏まらないでおくれ、愛しき継承者。
 なんでも知る事は僕にも出来ないさ。
 僕が知る事は、ただ、記録と歴史と、いくつかの物語と言った所さ」

 にやり、と男は笑う。
 それは神器として本来敬うべき継承者へ向けるには、不遜と言ってもいいだろう。
 ――つまり、仮面の彼と仲が悪いのはそういうところなのだった。

「あっはははは――!
 ああ、とてもいい答えだ。
 自分をよく理解している。
 そして自省をし続けている。
 何事にも真摯であろうとしている。
 ああ間違いなく、それは一つの――美徳だろうね」

 す、と手を挙げて。
 男はパチン、と指を鳴らす。

 その瞬間、展示場だった場所は――薄暗い路地裏に。
 そしてそこには――蠢く数多の紅。

「簡潔に行こう。
 それは継承者、君の美徳ではあるが――ただそれは正しさではない。
 そして、君の抱いた疑問や疑念、戸惑いや葛藤の答えでもある。
 さあ、継承者――」

 現世の地獄とも言えるような光景の中、金色の男は両腕を広げて笑いかける。

「――信仰における正しさとは、如何に?」

 

緋月 >  
「――――!?」

蔵書の男が指を鳴らした瞬間。
周囲の景色が一変する。

静謐なる展示場は、薄暗い路地裏に。
路地裏には、視界から溢れんばかりの紅の――屍骸。

「信仰に、おける…正しさ……。」

――歪んだ死に囚われた、紅いモノ達が、蠢く。
それは――放置すれば、更なる歪んだ死をもたらすもの。
それは、即ち――――


「……許されよ。許されよ。
あなた方は――――この世にあってはいけないモノだ!」

死は最期の友、心安らげる場所。
其処に辿り着けず、のみならず同じ歪みを増やしてゆくモノ。
それは――在ってはならないモノだ。


――かけまくも 畏き 黒き御神――
――畏み 畏みも 白す――

――諸々の 禍事・禍魂・禍人 有らんをば――
――祓え給へ 清め給へと 白す事を――

――聞こし食せと 畏み畏みも 白す――


――我 黒き御神の 使徒なれば――
 

緋月 >  
劫、と音を立て、書生服姿の少女の顔を、黒き狼の面が隠す。
その双眸に、怒れるかのように蒼き炎を燃え上がらせ。

されど、其処に怒りはなく、憎悪もなく、憐みも、歓喜も――私心はなく。

ただ、死せる者が往く先の安息を願う心と――それを慈悲として与えんとする信念だけが、ある。
 

虚空蔵書 >  
「――それだ」

 男は再び指を鳴らす。
 すると世界は、無限に連なる書庫へと変わった。

「信仰における正しさとは、信ずる教えに背くか否か。
 そして我らが神の教えは――」
 

神樹椎苗 >  
「死を想え――ただそれ一つです」

 椎苗が紅き剣を振るう。
 周囲を薙ぎ払うように、舞うような一閃。

 その直後、無限の書庫は切り裂かれ、博物館の光景へと戻った。
 

虚空蔵書 >  
「おや――紅の継承者、もう少し優しくしてくれてもいいじゃないか。
 僕は、彼女の在り様を否定するつもりはないのだから」

 そして司書は仮面を身に着けた継承者へと、大仰なお辞儀をして見せる。

「狼の継承者、君はまだとても幼い。
 信仰も教えの本質も、まだ実感として身についてはいないだろう。
 だが、君の行いは――正しい」

 男は口元を妖しく歪める。

「だが、正しいだけではいけないよ。
 それはただ『正しい』だけでしかないのだから。
 そして君が討たんとしている紅は――本当に使命として討つべき者かな?
 確かにアレらは歪な死と言えるだろう。
 だが――あれらは病に過ぎない。
 病人を葬る事は果たして、僕らの御神の教えと矛盾しないのだろうか?
 病であるならば、それは、自然に朽ちるのを待つことこそ正しいのではないだろうか?
 ――ああ、これ以上は紅の継承者に斬られてしまいそうだ。
 ふふ――それでは、狼の継承者。
 僕からの問いかけはこれまでとしよう。
 答えは急がなくていいよ。
 君はまだ、迷って葛藤するべきだ。
 我らが神の教えは唯一であるがゆえに――とても難しい物だからね」

 そう男が言い終えるとほぼ同時に、紅い剣閃が奔った。

 

神樹椎苗 >  
「――チッ、切り損ないましたか」

 そう言って、椎苗は愛する神器をその身に戻す。

「あのクソ野郎の言葉を、必要以上に考える必要はねーですよ。
 ――ただ」

 椎苗はまた、大変に不愉快そうに舌打ちをする。

「アレの言葉も問いも、お前が向き合うべき命題です。
 使徒として生きると選んだ以上――お前は己自身で、教えの意味を見出さなければなりませんから」

 そう言って、椎苗は一つ、大きくため息を吐いた。
 

緋月 >  
「――――っ!」

紅い、一閃。
幻――なのだろう――の、紅い屍人達とは異なる、血のような、命の紅。
それが奔った瞬間、景色は元の博物館の展示場へと戻っていた。

「……正しいだけでは、いけない…。」

噛み締めるように蔵書の男の言葉を反復する少女とは対照的に、再度の紅い一閃が奔るまで、
黒い狼の仮面…その蒼く燃える双眸は睨みつけるように蔵書の男に向いている。

再度の一閃と共に蔵書の男が姿を消せば、狼の仮面はその焔の眼を紅の剣に――継承者たる少女の身に
戻る前の僅かな時間に向け、少しだけ勢いを弱めた。
まるで「よくやった」とでも言わんばかりに。

「――己自身で、教えの意味を…ですか…。」

「先輩」から改めて科された、課題のような言葉に、悩みながらも書生服姿の少女は自身も仮面を身に戻す。
蒼い焔が焼き消すように仮面はするりと消え去り、下から現れるのは考え込むような表情のの少女の顔。

「……教えて欲しい、などと情けない事は言いません。
椎苗さんも、自分で悩んで…意味を、見出したのですか?」

あるいは、彼女もまたそれを探している最中なのか。
そう問いかけるように。

「……何となく、あの御神器がぞんざいな扱いをされる理由が、分かった気はします。」

そんな言葉を付け加えつつ。
言ってる事は正しいが、何と言うか、鼻につくものは、少し感じる。
 

神樹椎苗 >  
「しぃは――」

 自分で見出したのかと聞かれればそれは――

「違いますね。
 しぃには、はじめから『ソレ』しかなかったのですよ」

 くす、と笑いながら、新たな課題に向き合う後輩に目を細める。

「死を想う事だけが――しぃが辛うじて、人間でいられる、人間らしさを繋ぎとめていてくれるのです」

 そう、後輩には答えた。
 事実は、もう、かつてとは異なっている。
 椎苗はもう、『死を想う』以外にも、人間らしくいられる繋がりを得ていた。
 それを最初に気づかせてくれた『友人(そんざいしないひと)』は、ほんとに僅かな形見しか残してくれなかったが。

「――まあ、アレだけ自我があれば蹴り飛ばしたくもなるってんです。
 ただ、アレが何者かは忘れるんじゃねーですよ。
 あれこそが最も古く、比肩する者無き神器。
 過去現在未来、そして永劫を記録し貯蔵し続ける、無限の書庫なのですから」

 そう言って――。

「――それで。
 また歩き出せそうですか?」

 後輩を慮るように、優しい声音で訊ねた。
 

緋月 >  
「――――そう、ですか。」

短く、そう答える。
それ以上は訊ねなかったし、訊ねる気も起きなかった。
情けない事は言わないと言った以上、あまり弱音は吐きたくなかったし、
何より「先輩」の言葉は、自分には踏み込みがたい「何か」が籠っている気がした。

「過去、現在、未来……だから、ですか。
私が背負う「代償」まで、理解していたような口調は。」

誰に話した訳でもなかった。
はっきりと自覚したのは比較的最近、それも「ひとつの形」ではない。
それを見通すような言葉は…「知っている」からこそ、だったのか。
ぞくり、と、畏怖の感情と、魂の内からまた不機嫌そうな意思。

「――はい、考える事は増えましたが、今は兎に角…目に見える所から、歩いていく事にします。」

優しい言葉には、軽く微笑みを返しながらそう一言。
 

神樹椎苗 >  
「ふふん、しぃのプライベートは、そうですね。
 お前が何かしらの答えを得たら、ゆっくりと語らいましょう。
 今はまだ、お前の重荷にしかなりません」

 そう、小さく笑い。

「お前の代償については、まだ深く考えずとも大丈夫でしょう。
 記憶を失うに比べれば、それほど深刻な物ではねーですし。
 ただ、力を使い過ぎるんじゃねーですよ。
 ソイツは随分とお前を気に入ってますが――代償を無限に肩代わりする事はできませんからね。
 限界以上にのめり込めば――相応の代価を支払う事になっちまいます」

 そう、やれやれ、と肩を竦めれば。
 後輩の中で僅かに動揺するモノが居たかもしれない。

「ん、あのクソ野郎じゃねーですが。
 大いに悩んで葛藤するがいいです。
 ただ、決して自分の芯だけは忘れるな、ですね。
 教えは絶対ではねーです。
 教えを理解した上で、己を貫く事もまた必要でしょう。
 ――目に見える一歩ずつを、どうか大切に」

 そう、普段よりも少しばかり饒舌に。
 少しだけ、親愛を込めて。
 椎苗は後輩が己だけの確かな道を、見出せる事に期待するのだった。
 

緋月 >  
「はい、分かりました。
答えを見つけて…お互い、余裕のある時に、ですね。」

そう、穏やかに返す。
代償について触れられれば、軽く眉間に手をやる。

「――確かに、深刻ではないと思います。今の段階では。
気に入って貰えているなら嬉しいですが…そうですね、無理はさせないよう、気を付ける事にします。
限界を超えれば…どうなるか、予想すらつきませんし。」

もしかしたら、薄々と見当は付けているのかも知れない。
そう思いながら、僅かに動揺する魂の内の意思には、小さく宥めるような意思をこちらも投げる。

「自分の芯を…。

ありがとうございます。その言葉が、充分な道標になってくれます。
『死を想う』事……私なりに考えて、悩みながら、答えを探す事にします。

今日は、ありがとうございました。
代償の方は――また後日、改めてお話に来ます。」

折り目正しく、ひとつ礼。
先輩の視線に背を押されるように、書生服姿の少女は背を伸ばして展示場から歩いて去っていく――。
 

ご案内:「常世博物館-中央館-古代エジプト文化展示」から緋月さんが去りました。
ご案内:「常世博物館-中央館-古代エジプト文化展示」から神樹椎苗さんが去りました。