2024/11/27 のログ
■神樹椎苗 >
「馬鹿な子ですね、本当に」
怒りを言葉にして、叫んで、放出すれば。
残るのは後悔と悲しみだろう。
怒りの感情は、どれほど強くても、そう長くはもたない。
人間は心を守るために、そう出来ているのだ。
「『継ぎ接ぎ先生』が受け入れたのは、お前が居たからでしょう。
お前なら、かつての『家族』を止めてくれると、信頼した証拠でしょう。
だからこそ、お前を巻き込まないようにした。
それが先生の出来る、唯一の事だったんでしょう」
それだけ、彼女にとってかつての『家族』は大切なものなのだろう。
けれど彼女に出来る事はなかった、だから自身の信頼できる生徒に託したのだ。
「――さて、尊いかどうかは知りませんが」
椎苗は、片手を軽く振って、少女の目の前に一冊の本を出現させる。
そこには、椎苗がかつて、人によって祀られた神であった記録が絵本のように描かれている。
「人間に都合のいい神を作る、なんてさして珍しい事でもねーんですよ。
規模や程度の違いはありますがね。
それに、道具扱いされている人間未満だって、いくらでもいますよ」
それが許されるかどうかは問題ではないのだ。
現実として、事実として、過去から未来に至るまで。
神を作る行いも、道具扱いされる人間も、存在し続ける。
人間が人間である以上、それは避けられない事だろう。
「頭を冷やしてよく考える事です。
お前のするべき事は、善悪を判断する事ですか?
断罪の刃で復讐する事ですか?
お前は、最期に先生に会って、なにを託されたんですか」
そう問いただすように。
椎苗は悲しさに溺れる後輩に、厳しく問う。
今は優しさを見せる時ではない。
少女がすべきことを、自身の頭で考えさせる時だ。
■緋月 >
「――――――」
促されるように絵本を取り、血の涙を流すままに、その内容に目を通す。
1ページを捲る手が、とても重い。
何と言えばいいのか。
安い同情も、共感も、思い浮かばない。
厳しい言葉と共に突き付けられた事――頭を冷やして、考えて、出て来た言葉は、
「………現実は、優しくはないですね…。」
大声を出したせいか、少し掠れた声だった。
現実は、世界は、決して優しいものではないと、ただそれだけを何とか認めた言葉。
「先生に、最後に、何を――――」
ぱたり、と、やはり重い手で何とか絵本を閉じ、考える。
――皮肉だが、散々叫んだせいで、多少なり冷静さは戻って来ていた。
そして、それが以前の自分の言葉を思い出させる。
「――――「失われた」現実は……戻る事は、ない。
絶対に……ない。それは、もう……失われた、ものだから…。」
■かつての記憶の言葉 >
-キミは、それにけじめをつけられてないだけだ-
■神樹椎苗 >
「――まあ、そんなもんですよ」
世界なんてものは。
「だからこそ、本気で抗いたいのなら、揺らぐ様な覚悟ではならねーんです。
この思い通りにならない物語を、お前の望む姿に変えて見せろ――抗いたいなら、それくらいの事をして見せる強さを持つことです」
いつか聞いた、誰の物かも知れない言葉。
『君の世界を愛してあげて。
どうか君の未来が色鮮やかな願いで溢れていますように。
そして願わくば、その中に君の夢がありますように』
今、ただの道具に過ぎなかった幼子が、人間らしく生きようとしているのは。
椎苗がただ一人、『友人』と呼んだ、消え去った誰かの言葉があったからだ。
「しぃには、未だに法的な人権が存在しません。
理由はいくつかありますが、一番大きい物は、しぃが今も道具として扱われているからです。
ただ、それでもしぃを人間扱いしてくれる人たちのお陰で、しぃは人間らしく、人間のフリをしていられるのですよ」
そんな事実を語る椎苗は、自嘲じみた表情を浮かべているが。
それでも、そうやって人間らしく足掻く事だけが、『友人』の願いに応えられる事。
死を失った事で生を奪われた椎苗が、生きているふりをし続け、世界に抗う――未来を鮮やかにするための方法だったのだ。
少女が絵本を閉じるのを眺め、苦し気に言葉を零す姿を見守った。
「――――さて、そろそろ見せてもいいですかね」
そう言って、椎苗がまた手を振ると、図書館に大きなスクリーンが現れた。
そしてそこには、研究室めいた場所が映し出されている。
中央に立って声を張り上げる小柄な女医。
その指示に従って走り回る医師や看護師。
そして培養槽の中に浮かぶ、穏やかで静かな顔。
それは、『先生』がまだ生きている証であり、そして生かそうと戦っている人間たちの姿。
そう誰も諦めていない。
誰も、怒りや憎しみでなく――己のすべき事、出来る事を尽くして不条理に抗っているのだ。
「中央の女医が『鳳凰』。
つまり『めーちゃん』とやらです。
お前よりよほど、激情家で短気な女ですが、怒りや憎しみに囚われているように見えますか?」
培養槽の前で指示を飛ばす女は、真剣な表情であっても、怒りに染まってはいない。
手遅れであっても、自分のすべきことに全力で向き合っている。
「もう一度訊きましょう。
――お前は何を託されたのですか」
静かに、淡々とした言葉で改めて、少女に問い直した。
■緋月 >
「椎苗さんに、人権が……。」
その言葉や意味するモノは、幸いにも学園で学んでいた。
――だが、それを「可哀想」とは、思わない。
今、目の前にいる彼女は、とても人間らしくて……書生服姿の少女も、彼女が「人間」だと、思っている。
それでも、法で「人として認められていない」事には…胸がざわつくような、苦しいものは感じる。
そうして、見せられたのは、「先生」を「生かす」為に抗っている人たちの姿。
顔を見るのは…これが初めてだったが、既に先生からも、そして「あのひと」からも、話は聞いている。
「……あのひとが、先生の言ってた…。」
その姿に、赤の中に少しだけ、透明な涙が混じる。
声を張り上げる姿に…今の自分の有様が、ひどく小さなもののような気持ちが感じられて。
「――戦ってる、んですね。
自分も、大変な筈だと…「あのひと」に、聞かされてると、思ったんですけど…。」
血の色の髪の麗人の姿を思い出す。
あのひとから聞いていた話は、恐らくあの女医にも届いている筈。
自身にいつ、何事が起こるのかも分からないのに…今、ああして、必死に「戦っている」。
「わたしが…託された、もの――――。」
ごし、と袖で血の涙を拭い取り、そのまま右の手の人差し指と中指を刀のように構え――斬の念と共に、振るう。
その斬閃の軌跡には…星空が、宿る。
形として、託されたもの。
「大元」を持っているのは別だが、試練を共に乗り越えた事で、己も扱う事を許されたもの。
「――――――私が、」
■緋月 >
『私が、承服できないんです。
顔も知らない誰かの都合で、知人や友人や大事な人…それに大事な先生を、
ただの道具か何かのように扱われて終わるのは。』
思いとして、託されたもの。
きっとそれでいい、と、認められた言葉。
自分の大事なモノを守る為の――エゴを超える為のエゴ。
――その目からは、憤怒の炎も血の悲しみも、既に失われていた。
■神樹椎苗 >
――少女の答えに、苦笑を浮かべながら、ゆっくりと頷いた。
なんて、立派そうな事をやっていても、着ているネコマニャンのきぐるみで、威厳も何もありはしないのだが。
「いいじゃねーですか。
自分が納得いかねーから叩き斬る。
わかりやすくて、お前にちょうどいい」
は、と、欠伸が出そうになって、止まってしまう。
少しだけむず痒いような、珍妙な表情。
「目には目を、歯には歯を。
なら、クソみてーなエゴには、エゴで殴り込むのがお似合いでしょう」
そう言って肩を竦めると、へ、と気力なく笑う。
「そろそろ落ち着いたみてーですね。
なら、今お前がしなくちゃいけねー事も分かってくるんじゃねーんですか?
ま、少なくとも血気にはやって暴れるのは違う、って理解できたでしょうが」
■緋月 >
「――はい、ようやく思い出しました。」
それを思い出すのに回り道をし過ぎた、と自嘲するように。
書生服姿の少女は、軽く苦笑を浮かべる。
「今は――「契約」を、しっかりと護る事を。
それだけを、考える事にします。
これを知られたら、またあのひとに怒られるかも知れませんが。」
その言葉で、「契約」の相手は想像がつく所だろう。
あるいは既にそれも察しているのか。
いずれにしても不思議はない気がする。
「……朔も、ごめんなさい。それと、ありがとう。
私が、間違った方向に向かわないように…今まで、眠らせてくれてたんですよね…。」
軽く胸に手を当て、共にある友人に謝罪と感謝を。
眠っているのか、反応はごく小さなものだった。
人間で言うなら、寝言か寝返り程度のもの。
■神樹椎苗 >
「ん、いいでしょう。
まぁ――ふふんっ、さっきのままだったら、あの紅い女に捨てられてたかもしれませんね。
そしたら、こんどは後輩から、捨て犬にランクアップしちまいますね」
くくっとおかしそうに笑っている。
いくらクソ女でも少女を捨てるとは思えないが。
それでも、あの女は少なからず失望したかもしれない。
「ああ、その駄犬ですが、あんまり寝かせっぱなしも、起こしっぱなしも良くねーですよ。
神器としての力は無くなってますが、それでもマジックアイテムに変わりはありません。
寝かせといたら宝の持ち腐れでしかねーです」
そう言って、椎苗は指を一本立てた。
「二人同時に起きて、意識を同調させる。
最初はバランスが難しいでしょうが、上手くいけば、脳のリソースを最大限に使って、あらゆるパフォーマンスを上げられる――かもしれません。
前例が無いから推測ですけどね。
駄犬の力を発揮しつつ、お前の意識で体をコントロールして、二人で頭を使う。
駄犬ほどに自我が育っていれば、不可能な技でねーでしょう。
まあ、訓練次第ですが、上手くいけば比較的負担の軽い手札になるでしょうね」
いわゆる、意識の同期と、並列思考だ。
脳の処理速度を上げ、肉体に最大のパフォーマンスを発揮させる。
それが出来れば、思考に反射、適応力を大幅に押し上げる事が出来るだろう。
「――まあ、今のは余談です。
すぐに出来るもんでもないでしょうし、駄犬との付き合い方の一つくらいに思っておきゃいいです」
そう言いながら、片手を振ると、幻のように図書館は消えて、元の博物館に戻る。
椎苗はまた、長椅子の上で猫のようにだらけていた。
「はあ。
まったく、お前らはまだまだ、二人して半人前ですね。
さっさと駄犬と力を合わせて、一人前になりやがれ、です――んぁぁ、んが」
そう言うと、大きな大きな欠伸がでた。
うっかり顎が外れそうだった。
■緋月 >
「す、捨て犬……。」
思わずショックを受けた表情。
どう考えてもランクアップどころか下がっている。
と、そこで先輩からの有難いアドバイス。
「同時に起きて、意識を同調……。
……前に、怒られる事になった、あの時みたいな感じでしょうか。」
かつて、大目玉を喰らって友人を一時返却する事になったあの事件。
その原因となった事を起こした時、確かにあの時は明確にふたつの意識が起きていて、会話をしていた。
ちょっと気まずい気持ちになるが……あの時の出来事の応用、と考えれば飲み込みも早い。
「分かりました。ご教授、助かります。
……今は、私を眠らせてる間、「代わり」をしてくれてた為か…随分寝てますから。
起き出した時に、少し話をして、練習してみます。」
思わぬ所で新しい手札の手掛かりが見つかった。
手札は多いほどいい。多すぎて困る事はそうそうないが、逆の事で困るのはよくある事だ。
「あ……もしかして、お休み中でしたか。
それは…色々と、すみませんでした。」
妙な格好だな、とは思っていたけど、まさか就寝中とは思わなかった。間が悪い。
兎も角、有難いアドバイスも貰ってしまったので、頭が下がりっぱなしである。
「……今日は、本当にありがとうございました。
朔が起きたら、お話の事、伝えておきます。
――では、私はそろそろ暇乞いを。
今度は、もっと平和的な話題を持って来られるようにします。」
元の博物館の風景へと戻れば、一つ頭を下げて暇乞いの挨拶。
そうして、書生服姿の少女は改めて往くべき場所へ帰っていく。
とりあえずは、自身が寝ていた間の事の把握と諸々の対応。
それに頭を悩ます事になるのは、また別のお話だろう。
■神樹椎苗 >
「別に、ちょっとした昼寝です。
気にする事でもねーですよ。
もともと、しいは、寝なくても本来は問題ねーですし」
寝るのは純粋に心地がいいからである。
とはいえ、最近は体が自由にならないことも多く、休む事もかなり増えはしたが。
「ん、駄犬にはまあ、お前にしては上手くやった、とでも言っといてやればいいですよ。
別に話題なんてなんでもかまわねーです。
ただ、こんどは手土産の一つでも持ってこねーと蹴り出してやりますが」
ぷすー、と鼻息を吐いて。
少女に向けて、人差し指と親指を立てた。
「精々、抗って、お前のエゴを叩きつけて。
この不条理だらけの物語を、お前の望む姿に変えてきやがれ。
結局たかが家族喧嘩。
ちゃぶ台を蹴り飛ばして笑ってくる事ですね」
そんなふうに、『先輩』なりの激励を送り。
椎苗はまた長椅子の上で丸くなるのだろう。
夜の面倒な仕事に引っ張り出されるまで。
ご案内:「常世博物館-中央館-古代エジプト文化展示」から緋月さんが去りました。
ご案内:「常世博物館-中央館-古代エジプト文化展示」から神樹椎苗さんが去りました。