2024/06/19 のログ
ご案内:「風紀委員本庁-刑事課オフィスの一室」に黒條 紬さんが現れました。
黒條 紬 > 風紀委員本庁、その廊下。
忙しなく行き交うのは、風紀委員の腕章と話し声。
誰もが忙しそうに、何処かを目指して歩を進めている。

何処か無機質にも思える靴音が響き渡る中に一つだけ、
軽やかな足音が混ざっていた。

その少女は右手に紙袋を持ちながら、
まるで初めて見る高層ビル群(コンクリートジャングル)を眺める子どものように
左右を見回していた。

そうして一点に視線を定めれば、少女は口を開く。

「あのっ! すみませんっ! お伺いしたいことがありまして!」

少女は、つかつかと歩み寄って、行き交う一つの弱々しい靴音を止めた。

窓から差し込む光がぽう、と柔らかく彼女の輪郭を描き出す。

その光景は、その冴えない靴音の主――メガネをかけた風紀委員、山田一郎――の視界の8割を占めていた。

要するに、近付き過ぎである。

目と鼻の先とはよく言ったもので、実際二人の距離はその程度だった。

「凛霞さんのお部屋って、何処ですかっ……?」

色に例えるのであれば『暖色』に――彩られるに違いないその透き通った朗らかな声色は、
廊下を快く通り抜けていく。

『えっ!? え、っと……すぐそこ、左に曲がったところです……!
 今は……凛霞さん居ると思いますよ、ハイ……』

しどろもどろの山田に、満面の笑みを向ける少女。

「おおー! ありがとうございますっ」

陽の光を受けて艷やかに輝く紫色の髪を踊らせながら、軽くお辞儀をして。
黒條 紬は、廊下を足早に、軽やかに歩いていくのであった。

一方、廊下で立ち話をしていた風紀の男子グループは、
彼女が去っていった廊下を見つめ続けていた。

『あいつか……』

『ああ、渋谷分署で地味~に話題になってる……ぽんこつ黒條。
 この前のバーベキューでも、張り切りすぎて倒れてたって聞いたけど……』

『凛霞さんに迷惑かけなきゃいいけどな……てか何? あのでかい紙袋……』

『さ、さぁ……』

黒條 紬 >  

「お、お邪魔しまーす」

おずおず、と。ドアの向こうへ声をかける。
さて、事前に連絡は入れている訳で、この向こうにお目当ての人物は居る筈。
そう信じて、紬は少し冷たい紙袋をきゅっと握りしめた。

ご案内:「風紀委員本庁-刑事課オフィスの一室」に伊都波 凛霞さんが現れました。
伊都波 凛霞 >  
機界魔人(テンタクロウ)による連続した事件。
報告書だけでかなりの数になりつつあるそれを一人、静かなオフィスでまとめていた。
珈琲を机の横に、そろそろ小休止しようかな、と時計をみた。
そんなタイミング。

「───あ。はぁい」

丁度時間通り。
事前に連絡は受けていたので誰かがやってくるかは知っている。

椅子から立ち、部屋のドアへと向かって。

「お疲れさま黒條さん。どうぞどうぞ」

ドアを開けながら。そn向こうにいるだろう彼女を部屋の中へと迎え入れた。

黒條 紬 >  
「どうも、お邪魔しまーすっ」

声色も足取りも軽やかに、刑事課の一室へ。
同時に、さっと壁の時計を見る。時間はぴったりだ。

事前に、他のメンバーが居ない二人きりの時間であることは、凛霞を通すまでもなく確認済だった。

「いきなり無理言ってしまって、すみませんっ」

ぺこぺこと頭を下げる紬。

「風紀本庁のアイドル! パーフェクト風紀委員! 渋谷分署でも噂はよく聞いてますっ!
 そんな凛霞先輩の貴重なお時間を、こんな私なんかがいただいてしまって……!」

そう口にして、両手で恭しく紙袋を差し出す。

「これ、バーベキューの時はありがとうございましたっ」

バーベキューの時、暑さでやられていた時に差し入れをくれた事に対するお礼だった。

「ほんの気持ちばかりのものですが、良かったら……」

袋の中に入った箱の中身はケーキだ。
ショートケーキとチョコレートケーキが1つずつ入っている。

黒條 紬 > ――それから、紙束が挟まった、ファイルも。 
 

伊都波 凛霞 >  
どうぞお構いなくと迎え入れて、椅子どうぞーと促して。
ぺこりと頭を下げたと思えば並べ立てられる言葉に思わず苦笑い。

「そ、そんな風に言われてるの…?
 そんなの気にしなくていいから、頭あげて~」

恥ずかしさも手伝って、ほらほらと頭をあげてもらう。

さて事前に要件は聞いている。
お礼なんて構わないのに、と言いながらもそれは彼女からの気持ちだ。
当然、無碍にするわけにはいかない。
ありがたく紙袋を受け取って──。

「ふふ、ありがと♪──それで、これが?」

続いて渡される、ファイル。
こちらが本命。わざわざ人がいない時間をしっかり下調べした上で来ている。
そこから展開される話は──内々にしなければいけないものということ。

黒條 紬 >  
「いや、気にするなって言っても……
 うちの渋谷分署の山川なんて、凛霞さんのファン過ぎて!
 今日本庁でケーキ渡しに行くって言ったら、
 『じゃあサイン貰って来てくれ! 家宝にする!』ってごねだして、大変でしたよ……」

困ったように柳眉を下げながら笑いつつ、お辞儀の姿勢で頭のみを上げて。
ほらほら、と促されれば漸く、立ち姿に戻る。

そうして窓の方へと視線を向けて、誰も居ないことを確認した上で、
改めて語を継いでいく。


「……ええ。それが。渋谷分署の方で捜査を進めていたものになります」

紬の声色が変わった。
軽やかではありつつ、明るい色が消える程度ではあるが。
何か言い辛そうに、少しの沈黙の後に言葉を紡いでいく。

「そのファイルを開く前に、凛霞さんの見解を、伺えればと思っていますけれど……」

そう口にして、促された椅子へと座る。
そう、お礼を渡すことも確かに大切ではあるのだが、枝葉に過ぎない。

本命。それは、情報交換。

「……機界魔人(テンタクロウ)の」

伊都波 凛霞 >  
「そんな大袈裟な」

苦笑しながら、彼女を椅子へと促せば。
部屋の入口にいくつかある連番スイッチを順に押てゆく。
彼女の視線の先、窓の電動カーテンが閉じ、照明が点灯する。
そして部屋の入口には、ロックがかかった。
刑事課という特性上、オフィスにもこのような仕様が設けられている。

「分署のほうでも調べが進んでるって話は聞いてなかったな。
 貴女が一度交戦した報告はこっちにも入ってきてたけど」

話の焦点は言わずもがな。

「…そうだね。そちらがこのファイルを渡してきた以上、こっちも色々と出さないと」

ふと、ポケットの中の端末が振動する。
…重要な話は、多分30分程度で片付くかな。そう思って、一度端末の通知を切った。
招集がかかるような事件が起こったならば、風紀委員本部に連絡が来る。
個人的な連絡は、一端シャットアウト。こちらの話に集中しよう。

「生活委員の先生から提示されたデータも含めて、お話させてもらうね」

そう言うと、刑事課の机の上に一つ、また一つとまとめられた資料を並べてゆく。
ライトの角度を調整し、それらがよく彼女にも見える様に。

「そこに至った経緯は後々として」

「私は、(機界魔人)は内々の人間。あるいは元々そうだった誰か、だと思ってる」

「風紀委員への怨嗟が強い。私のサイコメトリーで読み取れないぐらいの強い感情。
 それだけならただの負の感情に満たされた人間…で済むけれど…彼は"手頃な獲物"を選ばない。
 落第街とスラムで得た情報だと、あっちで被害や事件は一切起こていなかった。
 ……骨を折りたい、拷問をしたいだけなら、不本意ながら表沙汰にならない標的が沢山いるのに」

それなのに彼はいたすら表に現れた。
…風紀委員への激しい感情を吐露しながら。

「──そんなのもあって、薄々と…ではある。けどね」

黒條 紬 >  
分署での捜査に関して言及があれば、紬はがっくりと肩を落とす。
 
「……ぶっちゃけますけど、渋谷分署(向こう)じゃ私の評判あんまり良くなくて……
 お騒がせ黒條、ぽんこつ風紀、なんて言われてる私の資料や話なんてまともに聞いてくれる人、
 少ないですからね」

紬は、はぁ、と。
深くため息を吐く素振りを見せる。

「だからこそ、はるばる本庁(こっち)まで来た訳なんです。
 そして、凛霞さんの所までやって来た……。

 サイコメトリーの使い手、超常頭脳の持ち主、ズバッと解決お姉ちゃん――
 数多の異名を持ち、直近で彼と交戦した記録の残っている、貴女に」

真剣な眼差しを向ける紬。それは、紛うことなき、嘘偽りのない信頼の眼差しだ。
 
「……私、ぽんこつって言われてますけど、調べ物だけは結構自信あると思ってるんですよっ」

そうしてその眼差しはそのままに。
小声のまま、ほんの少しだけ声の圧を増してそう口にする紬。
凛霞の動作を見れば、ハッと気付いたようにポケットの中に手を入れて、同様に端末を操作し。

「……凛霞さんのサイコメトリーでも、読み取れないことってあるんですか!?」

その言葉を受ければ意外そうに、紬は椅子を引く。
本気で驚いた様子だった。

「やっぱり、凛霞さんもそう思いますか。
 そこに関しては、私も他の風紀委員の皆さんの戦闘データや証言を受けた
 プロファイリングの結果、やはり同じような所に注目してまして」

目を少し逸らしながら話す紬。
しかしここで、拳を握って話しだす。
 
「表舞台でここまで暴れられて……凛霞さんも皆も、すごく頑張って、
 それで風紀が追いつけないなんて……普通じゃないですっ。

 逃走経路の熟知、私達の動きをよく知っているとしか思えない彼の動向、
 私としても……やはり同じ考えに至るしかありませんでした」

ちら、とファイルの方を見やって、紬はそう口にする。

「それでその、生活委員の方のデータというのは?」

伊都波 凛霞 >  
「黒街にも彼は出没したけど、渋谷分署は扱う事件が多いからね」

それは捨て置けないにしても、割かれる人員・労力etcetc。
そういった部分でやっぱり違いは出てくるものなんだろうなと。

「そんな異名はないと思います。けど──」

そんな言葉を向ける彼女の目は真剣。
こちらの能力を信頼して、己の成果をこうやって手渡したのだ。

「あるよ。例えば情報の洪水。何十人もの残留思念なんかが残る現場なんかは無理だし。
 ──そんな思念に匹敵するくらいの強い感情が残っていても、それに塗りつぶされちゃう」

声のトーンを落とし、言外にそれが機界魔人が該当することだと伝える。

「逃走経路と、風紀委員が逃げた犯人を追うだろうルートまで熟知してる。
 落第街やスラムの住人じゃなかなか出来ない芸当。向こうでの情報も含めて、彼は表側の人間。
 少なくともそれは間違いないと思う」

その正体が風紀委員かその関係者である…とまでにするにはやや飛躍があるけれど。

「──どうぞ、見ての通り」

生活委員の視点からまとめられた、情報の羅列。
"事件のあった時間"に学園内に居た生徒と、居なかった生徒。
委員会の把握できる範疇での、生徒達の行動範囲、そして病院や保健室の利用の履歴。
更には島内交通の利用履歴、異邦人の技能や能力のリスト。
そして鉄道委員会から提供された該当時刻の電車の利用状況に至るまで──。

これを一人の先生から提供されたのだと思うと頭が下がる。

「──黒條さんのプロファイリングの角度を大きく上げることが出来ると思う」