2024/06/22 のログ
ご案内:「風紀本庁-特別演習場」にレイチェルさんが現れました。
青立 武 >  
「――目標は、テンタクロウの捕縛。
目標タイムは25秒だ、持ちこたえてみせろよ、Dチーム!」

レイチェル先輩の声が、本庁の演習施設に響き渡る。

特別演習場、今日もこの場所で、シミュレーションが始まる。
テンタクロウを捕縛する為に、僕達は日夜特訓を行っていた。

この僕。
青立 武(落ちこぼれ)の力なんてたかが知れているけれど……。
でも、うん。
そうだ、決めている。決めたんだ。
このシミュレーションでも駄目なら、僕は……。

「――状況開始ッ!」

先輩の、凛とした、そして荒々しい声が響けば。

僕たちの、首のチョーカー型端末、そのインジケーターが点灯する。
シミュレーション中は、
ダメージに応じて首の端末の光が変わっていく仕組みだ。

今は全員、緑。
ここから、黄色、そして赤へと変わっていくのだ。
赤に変わったということは、
それ以上戦えない――重傷を受けた、或いは命を落としたことを表す。

だから、僕達はこう呼んでいる、死の赤《レッドデッド》と。

青立 武 >  
「うおおおおッ!!!」

開幕、シミュレートされたテンタクロウに食って掛かるのは、
大きな岩――否。同じ一年の、佐渡 宗君だ。

見る者に、一目で強さと健康さを感じさせる体格の持ち主。
太い眉に、ほっそりとした目が特徴だ。

180センチを超えるそのがっしりとした骨格で、
今このチームを引っ張っているのは、彼だ。

「――行くぜ! 巨の力《エンラージ》ッッ!」

その一声と共に、佐渡君の体が微かに震え、筋肉が膨張し始める。
彼の腕や脚、胸や背中の筋肉が一層浮き彫りになり、
衣服の布地がわずかに引き伸ばされた。

自身の体格とパワーを増大させる彼の異能だ。

盛り上がった彼の腕が、テンタクロウの触腕を受け、止める。

しかし、それは一瞬のことだった。
横から乱入してきた別の触腕に、
彼の身体は軽々と吹き飛ばされたのだった。

青立 武 >  
「もう、何やってんの……清華、行くわよ! そっちで引き付けて!」

「あーね?」

石川 まどか。
黒髪でメガネ、真面目タイプ。
このチームが喧嘩すると、しっかり仲裁に入るのが彼女だ。

川井 清華。
金髪でチャラい風紀委員の女子。
適当に見えるが、情に厚い人なのを僕は知っている。

みんな、最高の仲間だ。仲間だけれど――。

「あらよっと」

川井さんは足元にある再現された石を手にとって、テンタクロウの
背後に投げつける。
その瞬間、テンタクロウの近くに転がっていた佐渡君は咄嗟に耳を塞いだ。

刹那。

銃弾や手榴弾の音なんて比じゃない、
凄まじい爆発音が、辺りに響き渡る。

己の異能、
音響増幅《エコーアンプ》を発動し終えた彼女は、
テーザーガンを連射する。

テンタクロウの意識が、一瞬爆発音に向けられる。
向けられるけれど。

駄目だ。タイミングは今じゃない。
それじゃ、駄目だ。
タイミングは完璧でないと、あの男の前には立てない。
回避しなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ……!


「それじゃあ行くわよ! んっ――」

石川さんが気合を入れた後、息を止める。
彼女の異能、断息刃《サイレントエッジ》。

呼吸を止めている間、自身の腕を硬質化させ、
文字通りの刃にする異能。

然し、その動きは僅かに遅れていた。

彼女の()が、テンタクロウの触腕を少し傷つけたところで――
二人は、一本の触腕に同時に弾き飛ばされた――。

青立 武 > 残されたのは僕、一人。

そんな僕の異能(ちから)は――

「うわあああっ!」

迫る触腕。あの時の、恐怖が過る。

前回の出撃。
周りの風紀委員達がテンタクロウに蹴散らされていく、その中で。
隣に居たBチームのコレット――足の速さが自慢だった彼女(おさななじみ)が。

その足を掴まれて、僕の眼の前で――!

「わあああああっ!! あああああああっ!!!!」

無我夢中でテーザーガンを連射する。
既に弾が残っていないのに、それでも人差し指を無様に動かして。

当然。自明の理。
僕は、玩具のように触腕に吹き飛ばされた。

――僕には異能(ちから)が、ない。
僕だけがこのチームの中で、ただの、そして本当の、異能非覚醒者(おちこぼれ)だ。

テーザーガンでの抵抗も虚しく、
僕のインジケーターは一瞬で無価値色(レッドデッド)に染められた。

起き上がり始める皆の向こう側、壁に表示されている経過時間は――09:03

9秒。たったの、9秒?
4人であれだけ全力を尽くして、たったのそれだけ。

そう。それが、僕たち落ちこぼれ(D)チームの全力だった。

「……状況終了(そこまで)
休憩にしようぜ。オレは控室に居るから、用がありゃ入ってきな」

レイチェル先輩の声が静かに響いた。

そうだ。今だ、今しかない。

控室に向かおうとするレイチェル先輩に駆け寄り、
僕は一言、声をかけた。

拳をぐっと握りしめながら。震える足で。

「レイチェル先輩」

レイチェル先輩が、こちらの方を見た。
その瞳が鋭く、細められた。

「話したいことが……お時間、いただけますか?」

レイチェル >  
控室。

無機質な色に彩られた灰色の一室は、
どこか肌寒さを感じる。

こいつは、どう感じているんだろうか。
椅子に座っているオレの前で、
青立はぶるぶる震えながら立っていた。

――おいおい、今にもぶん殴られるかも、って顔じゃねぇか。

ま、もうちっと若けりゃ、そうしたかもしれねぇが。


こいつの短くも、か細い要求を全て聞き届けるのに、数分を要した。


「要するに、だ。風紀委員を辞めたいと」

結局はそれだろ、と。
オレは青立にそう返した。

「ええ、もう……限界なんです」

青立は、まるで生まれたての子鹿だった。
自尊心は地の底で、もう立つことすら限界のようにも見える。


「話は理解した。が、行かせられねぇな……」

オレは、椅子から立ち上がった。
その瞬間、青立からヒッ、と声が漏れる。
そんなにビビることねぇだろ、と言いたいが。
まぁ、普段の言動なら仕方ねぇか。
こちとら、戦場(前線)に出ない分、
オレなりのやり方で、マジでお前ら(風紀)に向き合ってんだ。

「そいつは無理な相談だ」

一歩、彼に近寄る。
それだけで、青立は小さな悲鳴をあげた。
そう、こいつに決定的に足りていないもの。

「――しっ……――」

青立が、何かを声に出した。
しかしそれは、声にならないか細い音でしかない。

そこで、ため息を一つ。

「あぁ? 聞こえねーよ。
言いたいことがあるならはっきり言いやがれ。
じゃなきゃ、伝わんねーよ」

控室の扉の向こうに気配がある。その数、3つ。
あいつら、こっちの会話を聞こうとしてやがるな。

レイチェル >  
「どうしてっ……!」

そちらの気配に気を向けた瞬間、
声でなかった声が、正しく音になった。

「まだ僕に……立ち向かえって言うんですか!」

それはもう、十分過ぎるほどの声で。

「もう十分怖い思いはしてきたんですよっ! 
 僕には何も守れない、守れないんですッ!
 大事な人も! 島の人達も!」

止まらない。
溢れ出す思いが、遂にこいつの音となったんだ。
上出来、じゃねぇの。

「異能もない! 身体能力も! 武器の扱いの才能もない!
 足の速さも! 操縦の技術も! 何にもないっ!
 やれるだけやったんですっ! 
 恵まれた才能も、力も! 一つだって……僕には何もないのにっ!」

オレはただ、その言葉を受け止めていた。
静かに、受け止めていた。

「それでもここまでやって来た!
 立ち止まるのが怖かったから……!
 追いていかれたくなかったから!
 でもッ!!」

勢いのある音は、そこまでだった。
竜頭蛇尾、ってやつだ。声は次第にまた、か細い音に戻っていく。

「もう駄目なんです……@あの音;@が忘れられない……。
 Dチームの足をこれ以上……引っ張りたくない……。
 現場で次に足を引っ張って……
 佐渡君が、川井さんが、石川さんが! どうかなってしまったら……
 
 僕はもう……」

全てを吐き出した青立は、数度荒い呼吸を置いた後に、

弱々しく、こう口にした。

「……怖がり(おちこぼれ)の悪あがきは、ここまでですよ」

レイチェル > 暫しの沈黙。
扉の向こうの呼吸から、あいつらも緊張しているのが分かる。

対して、オレはといえば。ひどく落ち着いていた。
この後にすべきことは、全て分かっていた。

この時を待っていたからだ。

「上出来。声、出せんじゃねーか。
 こっち来いよ、青立。見せたいもんがある」

そう口にして、青立を通り過ぎて、壁際の端末へ。
さっと端末を操作すれば、壁に同時に現れる8つの映像。

「これまでのシミュレーションを俯瞰視点で
 同時に比較できる映像資料だ。見てみな」

青立は、震えたままだった。
しかしそれでも、仲間達と頑張ってきた証――
映像資料に向かって、一歩、また一歩と歩き出した。

だが、すぐに歩みが止まった。
青立から出てくる言葉はこうだ。

「いつも逃げようとしてるのは、僕だけです……やっぱり……」

確かにどの映像でも、脅威に対して真っ先にびくついているのは、
こいつだ。


「この場合とこの場合、それからこのパターンも。
 正しいのは、どちらか」

映像の横に立って、それぞれの録画データを指し示す。
どの映像でも、みんなの一番後ろに居るこいつが、誰よりも先に――

「オレに言わせりゃ、お前だ」

――適切な判断を下していた。

レイチェル >  
「佐渡は声がでけぇからな。皆、そっちに引っ張られてる。
結果、敗北……チームは全滅だ。奴は前線張る力はすげぇよ。
お前より力もあれば、根性もある。
だが――状況判断能力はお前の方がずっと上だ」

「そんな、僕は……」

青立は、混乱しているようだった。

これまで褒められたことなんて、今まで一度もなかったのに、と。
そんなことを言いたげな顔だった。

実際、学園に入ってからこいつの良い噂は聞いたことが殆どない。

オレに言わせりゃ、こいつをこのままにしとくのは、
宝の持ち腐れだ。

先週からDチームの指導に入って初めてこいつと会話をしたが、
こいつの観察力の高さには驚かされたものだ。

だから、敢えてこのチームには具体的な指導を入れなかった。
全てはこの日の為だ。

「お前ら、次のシミュレーションはこいつに指示を
 出させてやってくれねぇか」

少しばかり声を大きくして、扉に向けて声をあげる。

相談ごとのような囁きが3つほど聞こえてから、静かにドアが開いた。
Dチームの3人が、そこに立っていた。
全員、ばつが悪そうに視線を泳がせている。

「作戦会議といこう。
 青立。お前から見たチームの改善点を挙げてやってくれ」

その言葉に、青立は身体を震わせた。
僕なんかが、とでも言いたげな目線を必死にこちらへ向けてくる。

「青立、勝負どころだぜ」

もう一度、その名を呼んで、励ましてやる。
そして3人を見やれば――3人とも、青立の方をしっかり見ていた。

レイチェル >  
「……僕は。僕は、落ちこぼれだ。
 けど、レイチェル先輩の言う通り、ずっと後ろからみんなを見てきた。
 だから、間違ってるかもしれないけど……僕の考えていたことを、
 ちゃんと伝えようと思う。
 
 いつも頼もしい佐渡君。凄い力だけど、だからこそ……」

青立の言葉が止まった。
オレは、青立つの肩に手を乗せてやる。
背中を押すように。びく、と震える青立の身体。

佐渡は、青立の言葉を真剣に聞く姿勢をとっていた。

「……ただ真正面から受け止めるだけじゃなくて、
 たとえば少し距離をとって相手の攻撃を回避することに集中、
 できる……?
 受け止めるのは最後の手段が良いかも……って……」

暫しの沈黙。
佐渡は、壁の映像を見ながら、
顎に手をやって何かを考えているようだった。

自分の中で何かを反芻しているようだった。

「分かった、やってみよう」

にこり、と佐渡は微笑んでみせた。
ああ、それでこそ。こいつはそういう男だ。

レイチェル >  
「……その、川井さんと石川さんは……
 いつだって、コンビネーションが最高だ。本当に頼りにしてる。
けど、仕掛けるタイミングが少し、ずれてるかもしれない……
その、もし良かったら後ろから見てる僕が相手を見ながら、
指示を出してみるよ……良いかな……?
さっきのシミュレーション、多分石川さんの動きがちょっと遅れてた。
あれも、僕たちで声をかけあえば、何とかなるかもって……」

佐渡の表情を見て安心したのか、青立が続きを語りだした。
やるじゃねぇか、青立。

「あーね? 確かにずれてたかも~。ね、まどにゃん」

「……ま、そうね。
 分かった、きちんと指示出してよね。信じてあげるから」

「それじゃ、次のシミュレーションは30分後!
身体をしっかり休めつつ、
青立の視点を軸に全員で協力して動きを考えろ。良いな!」

元気よく返事をする4人を見ながら、
オレは、昔のことを思い出していた。

まだ風紀の新入りだった頃。
オレもこうして、同級生達とチームを組んでいたことがあったっけ。

藤井、石田、シオン、そしてオレ。
何だか懐かしくなって、笑っちまった。
オレ、あの時の先輩みたいに、ちゃんとやれてるかな。


30分後に、演習場に現われた4人。
疲労はまだ少し見られたが、それでも全員目が輝いていた。

話は、まとまったみてぇだな。

「それじゃお前ら、準備は良いか?
 目標タイムは25秒だ。青立、声出していけよ。
 状況開始――!」


さあ、Dチーム(おちこぼれ)の反撃だぜ――! 
 

レイチェル >   
――そうして。
 
「ああ、レイチェルだ。任されたDチーム、仕上がったぜ」

オレは控室の窓越しに、彼らの様子を見た。

全員が、その場に立っていた。
息を切らしながらも、そこに齧りついていた。

全てのインジケーターは、イエロー(セーフ)

全員が駆け寄って、笑い合っている。
お互いを、称え合っている。

あと数秒でも続けていたら、恐らく何人かアウトだったろうが、

問題ない。上出来だ。

端末――オモイカネを手に取り、オレは風紀委員本庁へ連絡を入れる。


「ああ、そうだ。改めてオレから推薦したい。
あぁ? 聞き間違いじゃねぇよ、青立だ。
 
 馬鹿野郎、オレの言うことが信じられねーってのか?
 ……だろ? じゃ、よろしく頼むぜ」

通話をオフにする。
そしてオレは窓越しにもう一度、あいつらを見た。

「――頼んだぜ、青立 武(リーダー)

三人から肩を叩かれているその、元落ちこぼれを、

しっかりと見守った後。

レイチェル >  
 
――風紀委員(オレ達)を、舐めてくれるなよ。


絶対にとっ捕まえて、テメェから話を聞いてやるからな。


待ってやがれ、テンタクロウ。 
 

ご案内:「風紀本庁-特別演習場」からレイチェルさんが去りました。
ご案内:「風紀本庁 特別演習場」に能守 重高さんが現れました。
能守 重高 > カチ ボッ   ちゅいん    ぼす

火鋏に差し込まれている火縄から火皿にくべられた火薬に引火し
銃口から飛び出す鉄砲玉が射程50ないし100m先の小さな的目掛けて飛ぶ。
空気を切り裂く小さな音が左から右へ やがてすぐに小さな的に突き刺さる音。
銃口の先から僅かな硝煙の煙が仄かに上がり、火皿に落ちた火縄は役目を終えたようにぽとりと地面に落ちた。

「あれは、的中には遠い気がしています」

目を細めて火縄銃を構えた体勢を崩さず的へと視線を向け結果を見ようとした。
的中はしておらずぎりぎり端に弾痕が抉ったような具合。

息を深く吐いてから熱を帯びた火縄銃を下ろして暫く考える。

能守 重高 > 暫く考えたが実弾は手間がかかるので高いし体には悪い成分でできている。
魔力を凝縮して弾状にして打ち出すのはどうかと考えた後、
物は試しとばかりに手慣れた様子で火をつけていない火縄を火ばさみに挟み、
上薬を火皿に乗せず、火ぶたを切らずに玉と火薬を銃口から入れないで代わりに魔力を濃縮した何かを詰め、
銃底を軽く地面で踏み固めるように1,2回どんどんと音を鳴らし銃底に玉変わりが落ち着いたのを見計らうと、
ゆっくりと火縄銃(見た目)を構える。

かち  ちゅいん ダァン

先ほどとは違う 火種が火皿に落ちる音もない、銃口から飛び出た何かは 
空気を切り裂きながら飛び やがて 的を根元から捩じり飛ばしていった。
それを撃った本人として首を横に振りながら一言ぼやく。

「人に向けちゃいけない何かが出てしまった これはダメです」

なにこれ 的が飛んだとかあり得ない。スナイパーライフルじゃあるまいに。
威力は火縄銃のそれより凌駕した、狙撃銃より対物ライフルか何かの間違いだ。
スコープはついていない分使い手の腕が結果を左右するものの 当たったら結果がモザイクはいかがなものか。

悩んだ末 女は独り言をこぼした。

「委員会、仲間達に要相談ということで」

良い弾が見つかることを祈りながら暫くは演習場で訓練を続けたという。

ご案内:「風紀本庁 特別演習場」から能守 重高さんが去りました。