2024/08/20 のログ
ご案内:「風紀委員会本庁-刑事課の一室」にレイチェルさんが現れました。
■レイチェル >
風紀委員本庁にある、刑事課の一オフィス。
伊都波 凛霞、園刃 華霧、そしてレイチェル・ラムレイ。
この3名をはじめとした、数名の刑事課がここで常日頃デスクワークを行っている場所だ。
時刻は、既に20時を廻っている。
他の刑事課の面々は既に退勤、或いは本日は出勤日ではなく。
レイチェルただ一人が、このオフィスに残っていた。
「ったく、いつまで経っても騒ぎは消えねぇな、この島は」
椅子の背もたれに身体を預けながら、
レイチェルは大きく伸びをする。
かつては現場でリボルバーを片手に大立ち回りしていた彼女も、
今や書類の山と向き合うことが多くなっている。
書類や人の話づてになってはいるが、この島で起きている様々の異変や事件については、
いつだって目を通している。
近頃も、とにかく多忙だった。
祭祀に関わる事件が少々増えているため、魔狩人として活動を行っていたレイチェルは、
祭祀との会議の参加者として任命されることが多いのだ。
「……でも、ま。皆よくやってくれてるよな」
新入りの風紀委員達も、よく頑張っている。
現場で会うことはそうそうなく、
訓練施設で手解きをする形で関わることが殆どだが――爛々とした目でひたむきに頑張っている者達が多い。
頼もしい限りだ。
電子端末に届いていた新たな報告書に目を通してから、
いよいよ眼前の部品群に目を移す。
オフィスでも、書類の山ばかり見ていては、気が滅入る。
有事の際に備えておくことも含め、こういった時間は必要だ。
■レイチェル >
広がっているのは、レイチェルの愛銃の一丁だ。
学園に来る前から使い込んでいた今はなき愛銃に続く、
二代目のりボルバー。
メンテナンスが面倒だし、色々とパーツを揃えるのも
苦労させられる。
照準も己で合わせる必要があるため、日々のトレーニングも
欠かせない。
それでも、電子制御タイプの銃よりも、レイチェルは
こちらを好んでいた。現場でハッキングでも受けて制御を
奪われれば、目も当てられない。
「こいつにも大分世話になったな……」
シリンダー。銃の心臓部と言っても良い。
それを、レイチェルは白い指で静かに持ち上げた。
冷たい鉄の感触が、指に伝わる。
光に透かすようにして中を覗き込み、
溝の奥に詰まった煤や汚れが僅かに光るのを確認する。
そうそう現場には出ないが、またいつ使うとも分からない。
このような状態では、十全な活躍は難しい。
有事に備え、常に完璧を目指しておく。
それがレイチェルの信条だ。
新人風紀委員への訓練で、
彼女自身がよく口にしている言葉でもある。
レイチェルが手に取ったのは細長いブラシ。
ブラシの毛先が、シリンダーの各薬室に
無理なく入り込むように。
慎重に角度を調整しながら、ゆっくりと回し始める。
こうして銃のメンテナンスをしていると、
常日頃業務の中にあっても常に片隅で頭に置いていることや、
逆に普段あまり思い浮かべないようなことまで、
浮かび上がってくるものだ。
銃のメンテナンスは心のメンテナンス。
そんなことを、師匠が言っていたことを思い出した。
■レイチェル >
近頃衝撃を受けたのは、やはりエルピスの件だろう。
互いに変わってしまった、などということを伝えあったのも、
もう随分と前のように感じる。
久々に会った彼は、既に死んでいた。
新たな存在としての一歩を、踏み出し始めていた。
「死、か」
魔狩人として幼い頃から銃を手にして来たレイチェルにとって、
それはごく普通に存在する、隣人のようなものであった。
家族に誕生日を祝って貰ったあの日。
異形の魔に身体を乗っ取られた父親を
己の小さな手で撃ち殺した日。
師匠に拾われた日。
あの日から、命のやり取りを当たり前の様に行ってきた
彼女にとって、死を特別なものと思うようなこともなかった。
変わったのは、学園に来てからだ。
幼い頃から、憧れていた学校での生活。
日常に触れる中で随分と、認識が変わってきた。
――良し悪し、だな。
シリンダーを回す。
薬室一つひとつに、己の、そして他人の命を預けることになる。
適当な仕事はできない。
■レイチェル >
無論、学園に来てからも身近な者の死は経験していたし、
死が傍になかったとは言わない。
それでも、かつてに比べればその距離は離れていて。
だからこそ、不意打ちのように受けたあの話には胸を抉られたのだ。
――随分とまぁ、変わっちまったもんだが。
己の心だけではない、身体もだ。
学園において呼び名ともなっていた異能、
時空圧壊は、既に使えない。
強大な異能のバックファイアで
己の身を焼きながら使用していた、その結果。
まともな休息もちゃんとした吸血も行っていなかった
自身の身体は生きているのが不思議、と言われるまでに傷ついていた。
――あん時は、本当に皆に世話かけちまったなぁ。
そのことが分かったのも、それなりに前のことになる。
そこから、華霧の血を一度だけ貰ったことで、
何とか少し回復し、今日を生きている。
最悪なのは、自身が名を連ねる吸血鬼の血筋、その制約で。
身体が、想い人の血しか受け付けなくなっていることだ。
皮肉なものだ。誰よりも傷つけたくない者の一人を傷つけなければ、
生きていけない身体だ、などと。
――華霧、元気にしてっかな。
空いている机をちら、と見やる。
多忙なこともあり、なかなか顔を合わせられていない。
シリンダーを、回す。
■レイチェル >
――悪かねぇ。
磨ききった、相棒のシリンダーを光に翳す。
十二分だ。使い込んだリボルバーとは思えない程に綺麗にしてやった。
シリンダーは一旦置いておいて、次は細い棒を手に取る。
その先端には、小さな螺旋状のパーツが取り付けられている。
清掃用のクリーニングロッドだ。
それを銃口に差し込み、前後に動かすことで綺麗にしていく。
脳裏を過るのは他にも、この学園で起きていた、
或いは起きている様々なこと。
特に近頃は落第街に動きがあり、厄介事の種が蒔かれているのは
間違いない。
警邏を行う後輩風紀委員達への訓練・指導にもより一層力を入れねば
ならないだろう。
それから、労いも必要だ。
心配な後輩達に声をかけて、
また食事に誘ってみるのも悪くないかもしれない。
これまできちんと食事したことがなかった人間に
誘いをかけてみるのも、悪くない。
暫しの間、作業に集中。秒針の音を耳に入れながら、抜かりなく
作業を進めていく。
「こんだけ綺麗にしてやりゃ、お前も文句ねぇだろ」
銃のメンテナンスを終え、最後にリボルバーを手に取る。
使い古したリボルバーは光を受け、新品同様の輝きを見せていた。
それを自身の次元外套の内にしまうと、
改めて大きく、伸びをした。
■レイチェル >
「くぁ、眠ぃ……」
机上の片付けをすれば、、
少しだけ個人用のオモイカネを操作した後に、帰り支度をする。
明日は明日で、新人風紀の訓練と、書類の山との戦いが待っている。
「無理はせず、でもやることはコツコツと、だな」
今の己にできる限りのことをやっていくしかない。
それに、銃が紙に変わっただけだ。やるべきことは、何も変わらない。
後輩の死が記された報告書を、もう見たくはない。
風紀の皆が、学園の皆が、少しでも安心して過ごせるように努めたい。
故に、彼女は彼女なりの信条で以て、明日も戦うのだろう。
ご案内:「風紀委員会本庁-刑事課の一室」からレイチェルさんが去りました。