2024/09/12 のログ
ご案内:「委員会街 風紀委員会本庁」に伊都波 凛霞さんが現れました。
伊都波 凛霞 >  
病院から風紀委員本庁へ。
帰ってきた自分を迎えてくれたのは同僚達の心配そうな顔だった。
誰も彼も、自分と彼女の関係性を、そして昨夜のことを知っていた。
簡易的な報告と、救急に駆けつけた風紀委員達から伝達された情報で、概ね何があったかは皆把握していたらしい。

「大丈夫、心配ないよ」

笑顔でそう答えて逃げるように早足で刑事課のオフィスへと。

「……ふぅ」

自分のデスクにつけば、お疲れ様という言葉と共に同僚の女性がアイスコーヒーを淹れてくれる。

ありがとう、そう返して、冷たいそれを受け取る。
──お疲れ様以外の言葉は何も言わず、微笑んで背を向けてくれる彼女に心の中で感謝を重ねる。

『伊都波さん。件の、連続殺人事件の捜査チームのほうから後で話が聞きたいって──』

でも、優しいことばかりがやってくるわけじゃない。

「…わかりました。報告事項を纏めてから、向かわせてもらいます」

向き合わなければならないことも沢山だ。

伊都波 凛霞 >  
落第街スラムの警邏中に偶発的な遭遇。
降伏勧告と、仲間を人質にされての、確保の失敗。
風紀委員時代にはなかった異能の覚醒、ギフト騒乱とのつながり。

人質にされ、撃たれた新人風紀委員・遠藤秋穂は重体、一命を取り留めるも入院しての絶対安静。
私、伊都波凛霞も軽度の銃創。

彼女に投降の意思はなく………。

「………」

ペンを持つ手の動きが止まる。
その続きを書き出すまで…時間をかけてしまうのは仕方のないこと。

──風紀委員を人質にとり、銃撃による致命傷を与え…逃走。

一切弁明の余地のない、凶悪犯罪者として…また彼女の名前は事件の記録に刻まれる。

弟切夏輝…大勢の風紀委員が信頼のおける仲間として認知していた筈の名前は、
自分が負傷したことで、更に広い範囲に、連続殺人鬼…そしてギフト騒乱の覚醒者として塗り替えられる。

伊都波 凛霞 >  
──同時に、"人質"という伊都波凛霞という少女の最大の弱点も露呈した。

人質をとられた場合、最も重要なのは、人質の安全を確保するためあらゆる手段を慎重に検討し犯人を無力化すること。

彼女が人質を撃った時点で…彼女をどんな手を使ってでも無力化しなければいけなかった。
致命傷を負わされた風紀委員よりも、そちらを優先することが出来ないことを看破されていた。
彼女にとってどうでもいい命が、自分にとってはどうでもよくはない命。

そう、かつて風紀委員として、落第街のスラムで一人の違反学生を已む無くその生命を奪った。
そのことをずっと悔やんでいる自分を、すぐ近くで彼女はずっと見ていて…知っていたからだ。

デスクに肘をつき、両手で顔を覆う。

突発的な遭遇で彼女を追い詰めようとしてしまったこと。
湧き上がるものに突き動かされ、冷静に応援要請をしてから行動に移ることができなかったこと。
そして、人質をとられ逃亡を許してしまったこと。

──どれも感情的になったが故の失敗ばかりだ。

伊都波 凛霞 >  
声をかける者はいない。

これまで何度か、オチることはあった。
若いなりに、思い悩むことも、落ち込むことも、迷うこともあった。
そのたびに仲間が、友人が、先輩が、引き上げてくれた。
それらの経験をしっかりと血肉にしている筈の少女であるが故の…。

なんとなくに伝わる空気感。
大きな、覆られない後悔と共に誰かを見送る時に感じる感覚。

──恐らく、彼女は風紀委員を辞めるだろう。

そう感じてしまって、誰も声をかけられずにいるのだ。

ご案内:「委員会街 風紀委員会本庁」にレイチェルさんが現れました。
レイチェル >  
 
気に食わねぇな
 
 

レイチェル >  
オフィスの扉が開くなり、
凛霞にそんな言葉が投げられた。

「この世の終わりって(ツラ)してるぜ」

己の椅子を転がし、凛霞の横へ。
クロークを靡かせながら、彼女もまた己のデスクに腰を預ける。
背凭れに腕を回しながら、レイチェルは一息ついた。

「湿気たあいつらの気持ちも、お前の気持ちも……
 まぁ、分からんでは、ないがな」

そうしてゆっくりと言葉を紡げば、
そちらの表情を見やるだろう。

伊都波 凛霞 >  
──声をかけられ、ばっ…と姿勢を正す。

「あ…お疲れ様です!レイチェルさん!」

そう言って笑う顔は、いつもどおりの少女の姿。

「すいません、病院でちょっと時間とられちゃって…
 すぐに報告書のほう、上げますから!」

こちらを見る彼女と視線が交われば…少しだけ、罰の悪そうな色が混じる。
いつも通りに振る舞おうとしているのが痛々しい、そう感じないくらいには、自然に笑えていた筈だけど。