2024/12/11 のログ
ご案内:「委員会街 風紀委員会本庁 留置場」に『    』さんが現れました。
『    』 >  
留置場には勾留期限がある。
勾留することで被疑者の逃亡や工作を制限しているあいだに、
捜査から起訴の決定などの手続きが進められる。

被疑者xxxx番といえば――特に何か変わったことはしない。
着用するための衣類は指定の弁護人から差し入れられたものだが、
それで過ごすことに強い難色を示したことくらいだ。
地味で余裕のあるスウェットの上下で過ごすことが、
当人からしたらひどく負担であることらしかった。(いわく『なんかサガる』)

健康状態は非常に良好で、食事も問題なく食べている。
留置場は委員会本庁内に存在するため、食事の質はまぁ――悪くない。
選択権はないものの、そこに不満を訴えることはなかった。

『    』 >  
この逮捕勾留において。 
委員会に問い合わせられることはといえば、被疑者の罪状よりは――
被疑者の今後の活動、音源の取り扱いといったものばかり。
当然、解答ができることではなく、面倒な処理が増えるばかりだった。

留置場担当の風紀委員との会話を望むという挙動は目立ったものの、
内外の接見交通は、交友関係を洗いきれていない現状、厳禁だ。
後日、被疑者の希望によって差し入れられた書籍を与えると静かになった。
書籍の冊数は日に日にうず高く積み上げられている。
詩集や歌集を主に、その反面に学術書も多かった。

鼻歌は――……音量を控えることを約束することが精一杯だ。
隣房に影響があるのは明確に規定違反だ。

『    』 >  
『出なさい』

本が閉じられる。
四肢に装着された重たげな封魔具に、首に巻かれた異能制御装置。
化粧をしていないとは思えない貌が上機嫌な表情を浮かべた。

「はぁい。おフロ?」

立ち上がった。
入浴のペースと自由度、時間にも難色は示していたものの。
用件を伝えると、首を傾いだ後に、赤い唇が笑みの形に深まった。

「喉が渇いてるから、先にお水もらえる?」

ご案内:「委員会街 風紀委員会本庁 留置場」から『    』さんが去りました。
ご案内:「風紀委員会本庁 取調室」にネームレスさんが現れました。
ご案内:「風紀委員会本庁 取調室」からネームレスさんが去りました。
ご案内:「風紀委員会本庁 取調室」にネームレスさんが現れました。
ご案内:「風紀委員会本庁 取調室」にレイチェルさんが現れました。
ネームレス >  
名前を奪い番号で呼ぶことも。
この空間が狭く窓が小さいことも。
実務的な必要性と同居するかたちで、心理的な効果を期したものであろう。
古くからの慣習と、蓄積されたノウハウで構成された機構のなかにしかし、
それは変わらず在った。映像や音源に語られた延長の姿は、
そこにいるようでそこにいないような、浮ついた華やかさと存在感。

質量と体温、鼓動をもってそこにいても。
なにひとつ、実在の確かな証明はなされなかった存在は。

「――さいきん観た映画じゃあ」

凡そ十数分。
意外にも恙無く進んでいた取り調べのさなか、ふと緩んだ――
――というよりは担当委員に、意図的に緩ませられた空気を察してか、
被疑者の赤い唇はそんなことを切り出した。

「後ろから殴られたり、硝子張りの壁に叩きつけられたりしてたからな。
 もっとハードなことが起こるもんだと思ってたよ」

名優の演じた悪役のようにはしかし、ならなかったのだと。
当然だ。成したことの重みもなにもかも違った。
頭の上に両手が回った。その手首に、デスクの下の足首には、ごてごてした封魔具。
最新式の小型装置が体質に合わなかったこともあり、古い囚人のような有り様だった。

レイチェル >  
取調室。
簡素な(デザイン)は、そこに訪れるものの色を浮き彫りにする。
あらゆる(ヒト)が訪れるこの空間において、
ここは一瞬のキャンバスとも言えよう。
眼前の女はそういった意味で、鮮やかな色を放つ存在であった。

さて、そんなネームレス(赤色)の対面に座する女。
椅子の上で腕を組んでいるレイチェル(金色)は、
赤色の言葉を聞いて、ふ、と。
口元を緩めるのだった。

無機質で、システマチックな取り調べ。
風紀委員が握っている彼についての情報と照らし合わせながら、
彼自身の口から境遇や動機を聞き取る段階は既に終えていた。
調書で求められているような内容は、既にほぼ埋まっている段階だ。
それでもレイチェルにしてみれば、
現状では半分といったところなのだが。

映画(フィクション)の見過ぎだな。
 そりゃ、被疑者(お前)がいきなり暴れ出せば話は別だが。
 そういう訳でもねぇなら、こんなもんだろ」

やや足を崩し、レイチェルは静かに笑う。

「楽にしろよ。
 ま、そんな大層なもんついてちゃ、
 完全にリラックスって訳にもいかねぇだろうがよ」

目を細めて、封魔具を見つつ、レイチェルはそう口にした。

レイチェル・ラムレイ。
彼女は涼し気な顔で、緩やかな空気を纏っている。
しかしその穏やかに細められた瞳の奥側で走らせている思考。
穏やかに見えるがしかし、隙らしい隙は何処にもないように見えるだろうか。

「被疑者だってヒトだ。尊重されるべき権利はある。
 それはオレも同じ。オレはオレの職務を全うするが……
 ここからは、オレなりのやり方ってもんでやらせて貰うぜ。
 最低限、望まれる情報は揃ったんでな」

必要な情報はあらかた揃った。
機械的なそれでなく、彼女なりのやり方に切り替える、という宣言である。

ネームレス >  
「多少は重たいケド……雰囲気は出るだろ。
 あとは縞々(ストライプ)かオレンジのツナギ(ジャンプスーツ)があれば満点かな」

まだ留置の段階であり、受刑者ではないのだけれど。
振り回せば鈍器にもなりそうな封魔具は枷だ。
魔力も身体能力も十二分に凶器になり得る、生き馬を目を抜く落第街で自由を謳歌していた存在。
それは一切の抵抗もなく――ここにいた(不平不満はわりと漏らしている)。
過剰な憔悴や反省の演技(パフォーマンス)も、そこには付随していないけれど。

「おかげで貴重な経験をさせてもらってるよ。
 なにせ毎朝同じ時間に起きなきゃいけないからな。また世界移動(ジャンプ)をした気分だ」

内心は退屈を募らせていることは、言うまでもないが――
続いた言葉には、頬杖をついて、不思議そうに視線を送る。

「おなじ、ヒト……」

その言葉が気にかかって、反唱しながら。
燃える炎のような黄金瞳が、隻眼の風貌をまじまじと見遣る。
一度はその外形を模した色んな意味での有名人。
見てて飽きない面立ちと、歴戦を感じさせる風格。
地球上にはそういなかった瞳色もさることながら、最も特徴的といえるのは。
飛び出すような、尖った耳だ――ヒト。かつての規格から、飛び出している部分。

レイチェル >  
「……間違っても風紀の処遇に点数つけられる立場じゃねぇだろ。
 最新型をつけられなかったんだ、諦めな」

雰囲気を緩めながらも、発言を戒めはする。
職務を放棄している訳ではない。
寧ろ、全うしつつ深堀りをするつもりなのだから。

「証言が正しけりゃ、お前も門による世界移動(ジャンプ)の経験者だったな」

必要最低限の事項を埋める取り調べは、決して面白いものではなかったろう。
取り調べは娯楽(エンターテイメント)ではない。当然だ。

「引っかかるか? 長い耳と短い耳。
 それを、一概にヒトとして括る考え方が」

レイチェルは、ヴァンパイアの男と、ハーフエルフの女の間に生まれた。
ネームレスの視線の先にある長耳は、母親譲りのものだ。

どうやら引っかかったらしいその言葉を、摘み上げる。
彼女の顔に残された一つの宝石(ひとみ)が、赤色の風貌をゆったりと見遣る。
音楽界隈では結構名を馳せているらしい、有名人。
どこか中性的でありながら整った面立ちと、飄々とした雰囲気を持つその人物を。

ネームレス >  
「上下とも無地のスウェットじゃ格好(カッコ)がつかないってハナシさ。
 ボクの扱いについてはむしろ良い待遇だと思ってるよ。
 暴力的な取り調べは映画(フィクション)?そうでもないだろ。
 担当がキミじゃなきゃそれも有り得た話だ。風紀委員も多様性に富んでるからな」

外から。落第街から。
風紀委員会を見てきた目は、幸運(ラッキー)だと――愉快そうに微笑んだ。
敵として、ではなく。個人としての風紀委員のいくらかとも、接触をはかった記録がある。

「ボクも常世島(ここ)はそれなりにいるから、もう慣れはしたケド……」

取り調べの最中は、ここに至るまで、すべての返答は淀みなかった。
思考の明瞭さもそうだし、迷うということを知らないような言動のなかで、
問われた概念に対しては、はじめて思案の色を見せる。

権利

市民権も、そうだ。
少し前まで、この存在が持っていなかったもののひとつ。

「肌感覚としては移民(イミグラント)を見てる気持ち。
 まァ、ボクの出身国はそもそも新興だし、故郷もイングランドからの入植地。
 ……ましてや、いまのボクも似たようなモンだし。どのクチがって感じだケド」

森妖精(エルフ)も吸血鬼も、古くから地球に在ったとして、
多く地球人民からすれば長らく「いないことになっていたもの」。
なにからなにまで突然の融和であったはずなのだ。

「キミは帰化を?」

いまは正式な地球人類であるのかと、首を傾いだ。
異世界からの来訪者。ワールドジャンパー。
でありながら、彼我の立ち位置は微妙に異なる。

もとの世界や自分の出自を堅持する、
あくまで「異世界の存在」であることを望むものもいれば。
この世界からの自発的な世界移動が困難であることも含め、
様々な事情で「地球人類」になることを選ぶものもいる。
積極であったり、消極であったり。


視線の先にいるダンピール(ヒト)は――少しばかり、特別。
間接的に、縁がある。席と部隊という仕切りのなかで、視線を交わした。
つくりもの(ラケル)は、本物(レイチェル)をまじまじと眺めた。
観察するようでもある。確かめるようでもある。

レイチェル >  
「……ま。正直なところ、絶対に起き得ないと断言はできねぇ。
 無論、オレ達も十人十色で、各々の個性と価値観を持ってる。
 画一化された機械(システム)じゃねぇからな。
 
 ただ――この場において、一個人の判断でお前の罪を軽視する訳じゃねぇが――
 罪状とお前の態度を鑑みれば――そういう展開になる可能性は、
 限りなくフィクション(ゼロ)に近いだろう。
 そいつが、オレなりの見立てってこった」

落第街に住む者が風紀委員をどう見ているか。
無論、その感情や見方とて多様であろうが、
快く思わないものが多いことは、火を見るより明らか;自明の理だろう。

そしてそういった物差しで話を聞くことは、もう慣れきっている。
故に、愉快そうなネームレスの笑顔を、レイチェルは涼しげに受けつつ、
己の考えを述べるのだった。

「歴史上、権利や移民の問題は普遍的に扱われるテーマだよな。
 オレの世界もそうだったし、多くの問題が起きてた。
 こっちじゃ、そこに異邦人の出現――まさに社会の大変容

 繰り返される軋轢の中で、日常として受け入れているヤツも居れば、
 まだ受け入れられずに居る人間も居るだろうよ。この学園においても、な。
 そう考えれば、お前の感覚は柔らかい方。
 生来の環境、この学園での経験がそうさせてるんだろうが。
 だから、遺憾とも不快とも思わねぇさ。移動してきたのは事実だからな」

白い指を顎にやりつつ、レイチェルはそう語る。
瞳は細められたままだ。

「ああ。帰る場所も、方法も、何もかもないんでな。
 それにオレは今の居場所に生き甲斐を感じてる」

脳裏に浮かぶのは、学園で縁を結んだ数々の人々。

そうして、眼前に視線をやれば――あの劇場で交わした視線。
そう、一夜の劇場で、確かに交わした視線がそこにあった。
自らを模したこの人物は、何を思って自らを演じたのか。
その目的は何なのか。
調書に書く必要性の薄いそのポイントは、この後に問いかけることになるだろう。

ネームレス >  
「委員会も実験場である――ってのも、肌感覚としてはわかるよ。
 入会へのハードルも、おそらくボクが幼い頃から育んでいた、
 "警察官(おまわりさん)になる"ということに対しての認識より、
 おそらくはずっと低く……曖昧なものなんだろう。
 だからこそ、そこに生まれ得る個々人の違いを、ボクは楽しんでもいたよ」

公にされていることである。
学生といえる年齢に、行政や警察を任せていることも。
常世島にいるということはそうした不安定・不完全の許諾は必須だ。
完璧な組織などどこにもない。少なくとも、常世島には。この地球上には。

「居場所……ホーム。
 対義語がアウェーになるようなニュアンスの」

興味をそそられたのはそちらもだった。

「レイチェル」

さっきまでは刑事さん、とだけ呼んでいた、その輝くような声が呼ばわる。

「キミはどこからどう始まったんだ?
 ボクとおなじ、あの枯れた荒野の門から?
 ずいぶんとまあ、ハードなあたり方もされたみたいだケド……」

柔らかいと表された自分がいる。ならば固い連中もいたはずだ。
どちらかといえばそう、ここは異世界からの来訪者、まして。
一般的なホモサピエンスと特徴を大きく異なる耳目の持ち主からすれば、アウェーだ。

「さいしょから、そこがキミの居場所だったワケじゃないんだろ?」

この世界における、ゼロ地点。
異世界人の風紀委員は、いかにして居場所と生き甲斐を得るに至ったのか。

レイチェル >  
「昔話を語るには味気ねぇ場所と立場だが、
 まぁ……対話は望むところだ。話してやるよ」

引き出されるように言葉を話すレイチェル。
前提として、端的に言えば。
これは、名無し(ネームレス)との信頼関係を構築する為である。
相手の問いかけに答えることで、場の心理的安全性を担保。
対話を進めることで、調書上にある必要最低限の事項(インク)に留まらぬものが
見えてくる可能性もある。
そういった打算的側面も確かに持ちつつ、それでも――
レイチェルの内に、
眼前の相手に可能性を感じ始めている節があったからこその、返答だ。
罪状とその動機、出頭の経緯――そこから、彼が社会に復帰する可能性を。

「オレが門に来たのは、そう。お前と同じ荒野だった。
 異邦人を受け入れるシステムは既にあったし、
 ぞんざいに扱われることはなかったさ。
 ただ、勿論……よくねぇ目でオレを見てくる奴も居たわけだ。
 
 じゃあ、どうすべきか。
 ある者は人柄でそいつらの氷を溶かすだろうし、
 ある者は手練手管でそいつらの心を己がものにするだろう。
 やり方はヒトそれぞれだろうぜ。
 
 オレの場合はまぁ、そいつらが属する社会に、持てる価値を示すことにした。
 ガキの頃から叩き込まれてきた、戦闘技術。銃の腕。
 ちょいとした荒事を解決した次の日には、風紀委員からのスカウトだ。
 
 そこから、風紀(ここ)がオレの居場所になった。
 今じゃ、受け入れてもらう為に価値を示す、なんて考えじゃやってねぇけどな。
 最初のオレには、格好悪いことに差し出せるもんがそれしかなかった、って。
 それだけの話だ」

そこまで話して、レイチェルは改めて名無し(ネームレス)の方を見やった。

「さて、お話がてら――
 風紀としてのオレじゃなく、オレ自身の本題に入るとするか。
 いや何、あの夜の劇場の話だ」

積み上がるタスクの中で取り調べを買って出たのは、
そうした理由もあってのことだ。
突如渡された招待状。
向かってみれば、己に扮した人物による演劇が行われていたのだ。
ある程度腑に落ちたところもあるにはあるが、気にならないと言えば、嘘になる。