2025/01/17 のログ
ご案内:「委員会街 風紀委員会本庁」に大神 璃士さんが現れました。
■大神 璃士 >
風紀委員会本庁、事務室にて。
人気のあまり多くない中、事務室の片隅で書類に向き合う黒いレザージャケットの男が一人。
いつも身に着けているジャケットに、妙な目を向けられる事もあるが、
ジャケットの下にはきっちりと風紀委員の制服を着ている為、特に文句は言われない。
「……。」
事務処理と書類の選り分けの傍ら、「個人業務」として少しずつ集めた書類に目を通していく。
数は多い方ではなかったが、それでも幾らか集まった事は助かった。
集めた書類はいずれも、ある一人の委員の事についてであった。
■大神 璃士 >
以前に、総合庁舎の資料室での資料集めの際に、資料室で遭遇した委員の名が「浜野宗一郎」と
いう名前であるというのは、資料管理を主業務とする委員から聞いた情報だった。
資料室が仕事場だというのに刀を差していたのが妙だと思い、訊ねてみたら然程の苦労もなく、名前が出て来た。
「…………。」
其処から、少しずつ、少しずつ。
仕事の合間を縫う形で、「浜野宗一郎」についての情報を集め始めた。
個人業務範疇としてなので、他の委員には漏れていない。
元々、可能ならば「安心」を求めての調べ物だったので、他には漏らしたくないというのもあった。
必要ないと判断した時点で、総ての資料の写しなどは廃棄の予定だった。
――しかし、そうともいかない事情が、少しであったが見えて来た。
(……9月14日。)
風紀委員の連絡網の作成申請。
名目上は「緊急の場合における適切な連絡先の選定」。
だが、その後に続いているものに問題がある。
「各風紀委員の簡易プロフィール・特技・能力の同時記入」。
一見すると、確かに役には立ちそうに見える。
が、こんなものに馬鹿正直に記入した上、「外部」に流出してしまったらどうなるか。
(正気を疑いたくなる。)
本人が其処まで考えていなかった、という可能性もある。
しかし、情報など何処から漏れるか分からないもの。
「意図的」であるなら――これは見逃す事が出来ない、潜在的危険行為だ。
■大神 璃士 >
(……9月18日。)
データベースへのアクセス履歴。
――「裏切者」の事件が起こっていた時期の出来事だった。
あの件に、黒いジャケットの男は関わらなかったが…苦いもののある事件だった、とは思っている。
思考を本筋に戻す。
その事件の際、件の委員のデータベースにアクセスの履歴がある。
――資料の纏めの為ならば、真っ当な行動には見える。
が、同時に更に二人のデータベースにもアクセス履歴。
刑事部でも有名な女子と、「一級監視対象」のデータへのアクセスが確認できた。
……関連人物、として調べるには…少々下世話な真似である気がする。
更に妙なのが、戦闘データ部分へのアクセス履歴もある。
資料を纏める為にそんなものが必要になるものか?
単純な「結果」のみを出力し、紙資料とすればいいだけの事。
(……前線に縁遠い人間には、必要のない筈のデータだ。)
疑念は、強まる。
■大神 璃士 >
(……8月31日、未明。)
これが、確認できる限り最も怪しいと思えるデータであった。
どういう訳か、こんな時間帯に態々とデータベースにアクセスした履歴がある。
秩序維持を仕事とする風紀委員である。
当然、データベースにアクセスするには風紀委員である必要がある。
これは「浜野宗一郎」名義での「正当なアクセス」として認められてはいる。
……問題は、このような誰も居ない筈の時間に、何故アクセスしているのか。
そしてもう一つ。何故、「殉職者リスト」と「行方不明者リスト」へのアクセスであったのか。
――変更点は残念ながら確認出来ない。
だが、幾らか記録を辿り――
(…9月5日。)
刑事部からの、データ管理及びセキュリティ方面の強化進言があった事を確認した。
生憎、詳しい内容は確認できなかったが…日付があまり離れていないのが引っ掛かる。
(……何らかの改竄が為された?)
だとするなら、その内容は――
(……殉職者を、行方不明者扱いとして処理しようとした…。)
――飽くまでも仮説に過ぎない。
だが、これが事実だとしたならば…データ改竄・文書偽造の疑惑がつく。
■大神 璃士 >
そして――――
(…………1月初頭。)
あの、違反組織群に対する強襲作戦が決行されてから間もない日の、会議のデータ。
特務広報部、及び特別攻撃課に対する30%もの予算削減。
――そして治安維持方面への人員再配属。
確かに大規模作戦には金がかかる。それは認める所だ。
だが、このタイミングで…このような配置。
これでは違反行為の早期発見は高まっても、制圧力が低下する。
その結果、笑うのは何処だ? 言うまでもない、大きな力でなければ叩く事の出来ない
規模の大きい違反部活・違反組織だ。
更に、まるで取って付けたような組織Hに対する脅威度測定終了とランク引き下げ。
その会議の参加者の中に、「浜野宗一郎」の名前がしっかりと記載されている。
(……偶然、にしては組織Hに対して都合が良すぎる展開だ。)
■大神 璃士 >
「………………。」
各種の書類を収めたバインダーを、小さく息を吐きながらぱたりと閉じる。
こうして洗い出してみれば…「浜野宗一郎」には怪しい面が多い。
単なる汚職委員であれば、監察課の出番だ。
このバインダーを渡して調査をさせればいい。
(………だが。)
黒いジャケットの男が、それを躊躇う理由。
あの男の口調と、携帯している武器。
そして何より――――「匂い」が、幾度か殺し合いとなった「要注意人物」のそれを思わせる。
(……奴に買収されている委員が居ないとも限らない。
一番良いのは…科学捜査所に送ったデータの照合の完了だが……。)
それが間に合うか…そして、もし黒と出たとして、それを突き付けても素直に認めるか。
(――馬鹿らしい。)
もしも「あの男」であるなら、またのらりくらりと言い逃れようとする事だろう。
そうなったら、買収された委員が横槍を入れて来るかも知れない。
「……………。」
無表情のまま、傍らのマグカップに入った緑茶を一口。
すっかり温くなっていた。
■大神 璃士 >
「――――守れる総量は、決まっている…か…。」
先日の、公園で交わした会話を思い出す。
善や悪など、関係があるのか。
守れるものは…手の届く所は、決まっている。
ならば、守りたい人を守ればいい――。
そんな事を言われたのは、初めてだった。
ヒトの群の中で、少しでも「ヒト」らしく在る為に。
風紀…ヒトの世の秩序を守るために、ただその拳を振るい続けて来た。
だから――「守りたい相手」というのは、考えた事が殆どなかった。
閉じたバインダーを自分の鞄にしまい込み、暫し思考に向かう。
己にとって――守りたい者とは何なのか、を。
■大神 璃士 >
「………。」
暫く考えて。大きく息を吐く。
――脳裏に漠然と浮かんだ、金髪の少女の面影を打ち消して。
(もしもデータ照合が間に合わない内に、またぞろ風紀委員会の中で這い回るつもりなら…。)
それを考え――出た結論は、シンプルだった。
(他の風紀委員の連中は、咎めるだろうか。
あるいは――失望して、俺を「風紀に反する者」として、捕えに来るだろうか?)
それを考え、軽く頭を振る。
放って置いたら、その風紀委員の面々が…真面目に、この島の秩序を守り、
平和にあってほしいと願う者達が、知らぬ方向からの危機と苦難に晒されるかもしれない。
そんな事になる位なら――――
(……ただでくれてやるつもりはないが、俺の此処での立場や首の一つや二つ…安いものだ。)
鞄を手に、黒いジャケットの男はデスクから立ち上がり、業務終了と共に去っていく。
その内部に――漆黒の意志を燃やしながら。
ご案内:「委員会街 風紀委員会本庁」から大神 璃士さんが去りました。