2025/01/22 のログ
ご案内:「委員会街 風紀委員会本庁」に大神 璃士さんが現れました。
大神 璃士 >  
「…………。」

今日も今日とて、書類仕事中の黒いジャケットの男。
回って来た書類は、異邦人街でのいざこざについての一次報告だった。
いちいちこちらに回さずとも、刑事部辺りに回せば、と思わないでもないが、
それでも回って来たものは仕方がないので処理に当たっている。

「…………。」

関係者の名前を見て、思わず軽く顔を顰める。
公安委員を務める教師の名前。

――あまり、よろしくない報告やら噂が時々入って来るのが記憶にある。
元二級学生だった学生に何やら絡んでいただの、異邦人や人外の生徒から嫌味を言われただの。

……直接に顔を合わせた事はない。ない、のだが。
立場としては兎も角、黒いジャケットの男にとって個人的にはあまり良い印象のない相手だった。

大神 璃士 >  
犯罪を行った犯罪者を捕らえるのは、風紀委員の仕事。
では捕まった者はどうなるのか。

この島に渡り…勉強や実務の中で知った事であるが。
罪人に対し、その罪の有無を量り、罰を下すのは、専門の学習を受けて専門の資格を取った者が、
専門の機関で行う、という事である。

それが、この島においては「公安委員会」という組織が一部を担っており、
島の外では「裁判所」と呼ばれる施設であるという事だった。

様々な法を学び、法を犯した者に対する適切な刑罰を下す則を学び、
そうしていざ「裁判」が起これば、罪を明らかにする側と罪人の情状を酌んで弁護を行う側に別れ、
その議論の果てに、有罪か無罪か、如何なる罪を下すのかを、その役目を担った者が下す。

それが、裁判――というもの、だという。
人の罪を、人の世の法で裁くシステム。

「――――――」

大神 璃士 >  
「――――――は。」

思わず、失笑が漏れてしまう。
少し離れたデスクの同僚に届いたようで、視線を向けられれば、こちらも
軽く視線を返して軽く咳払いし、場を誤魔化す。


……何とも「お優しい」システムだ、と、思わざるを得ない。
普通であるなら、即報復で殺されかねない重罪人であっても、裁きの時間の間は
司法という権力に守られ、審判が下るまでを待つ事が出来るのだから。
それがヒトの世界の法。ヒトが定めた法。

人が犯した罪は、人の世の法に則って、法を学んだ人が裁く。

ならば――――――その裁きに関わる全ての者に、問い質さずにはいられなくなる。


――「ヒト」が犯した罪は。
ヒトが「見ないふり」をして、境界を侵し、奪い、踏み躙り、殺した罪は。

《大変容》が起こるまで、ヒトに追われ続け、ヒトから隠れ続け、ヒトから奪われたモノ達に、
己を「霊長」などと宣い、己の世だと言わんばかりに、ヒトが犯した罪は、


(――――一体何処の誰が裁いてくれるんだ?)
 

大神 璃士 >  
(………くだらない。只の、八つ当たりだろう。)

理性が、そう制止の声を放ち、頭が少し冷える。
……詰まる所、件の教師に黒いジャケットの男があまり良い印象を持たないのは、
相手が「司法に関わっていた者」だから、という点が大きい。

ヒトの犯した「過去の罪業」に対して、恐らくは何もしないだろうし、どうにもできないだろう、という失望と
僅かばかりの怨嗟に寄る所。
言葉を選ばないなら、それこそ「八つ当たり」が最も適切な表現。
それも、個人に対してではなく、「司法」に関わる者に対しては無意識に湧き上がってしまうものだ。

だから、別に「どうもしない」。
便宜を図る事もないし、不当な行いを押し付ける事もしない。
「何も出来ない」相手に当たった所で、ただ不毛なだけだ。
直接関わらない人間相手なら、尚更である。

機械的に書類を確かめ、不備がないかの確認を行い、問題がなければ
次の手続きを行うべき場所へ、引き継ぎを行う。
それでこの仕事は終わり。

私情を挟むような事ではない。
――追われ続け、殺され続け、隠れ続けるしかなかった、亡き先祖達の無念など、
適当に心の底で燻らせておけばいい。

どうせ誰にもどうにもできないのだから

時折襲い掛かって来る、風紀委員としてはよろしくない心情を、いつものようにそうして流し。
黒いジャケットの男は、次の引き継ぎ先へと書類を持っていく。

いつもの、何処にでもある光景だった。

ご案内:「委員会街 風紀委員会本庁」から大神 璃士さんが去りました。