2025/01/25 のログ
ご案内:「風紀委員会本庁 第三会議室」に追影切人さんが現れました。
ご案内:「風紀委員会本庁 第三会議室」にレイチェルさんが現れました。
追影切人 > ――ある日の昼下がり。風紀委員会本庁に幾つもある会議室――その一つである【第三会議室】。
予め、わざわざ面倒な手続きも律義にこなして一定時間この会議室を使う予約は取り付けている。
【腐れ縁】の彼女にも待ち合わせの場所と時間の連絡は入れているので、ぼちぼち来る頃合だろうか。

「……さーて…。」

【鞘】(凛霞)との話は一先ず纏まったので、もう一人――【銃】(レイチェル)にも話は最低限通しておきたい。

(――白崎の野郎とか夏輝の件もあったし、アイツも思う所はまぁあるかもしれんが。)

今回は”数”が多い為、単独で全部討伐は理想ではあるが少々骨が折れる。
いざという時の事も考えて、信用できる奴に事情を話しておきたいのだ。

(…真琴にも話しておくべきかもしれんが、アイツは今は教師だしな。)

なので、彼女に話す気は無い。アイツはアイツでマイペースに教師をやっていて貰おう。
そんな事を考えつつ、ちらりと会議室の時計を隻眼で見上げる。…ぼちぼちか。

レイチェル >  
定刻よりも少し前に第三会議室に現れたのは、ツーサイドアップの金髪を靡かせる女。
手には書類の束を二、三抱えている。おそらくは、会議の合間にここを訪れたのであろう。
既に殆ど前線を退いている彼女の主戦場は、後輩達を育てる為の訓練場と――机の上だ。

それでも、その瞳の奥には、前線に居た頃と変わらぬ芯の通った輝きを秘めている。

「待たせちまったか?」

ふっ、と。軽い息を吐いた後に時計を見やるレイチェル。
まだ、定刻には少々余裕がある。

「わざわざ会議室まで取って話をするなんざ、珍しいこともあったもんだ」

彼の対面にある椅子を引くと、普段の様子で遠慮をせずに、どかっと座る。
見目の優れた女ではあるが、その所作は――追影にとってはいつもの如くパワフルかつ無造作だ。
他の部署や委員会も絡めたミーティングであれば形を整えるところもあるが、
今回は相手が相手だ。

「で、話ってのは?」

手にしていた資料を机の上に置けば、レイチェルは胸の下で腕を組む。
いつもの姿勢である。
そうして、深みを持つ宝石の如き紫色を細めて、追影の方を見やるのだった。

追影切人 > 「…おぅ、お疲れ――悪ぃな、後輩連中の育成とか事務仕事とか色々忙しいだろうによ。」

と、以前ならまず無かったであろう詫び交じりの挨拶を交わしつつ、相変わらずの相手にちょっと安心。
…安心?やっぱり感情を自覚すると自分のそういう些細な変化に戸惑う事が多い。

「…あと、そんな待ってねぇからそこは問題ねぇよ。用件も出来るだけ手短に済ませる。」

そう言ってから、一息…この男は相変わらず不器用なので、筋道をきっちり立てた説明や会話が苦手だ。
なので、なるべく必要な情報だけを取捨選択して余計な事を省く必要がある。

「――監視対象絡みの件でな。俺にまぁ何時もの”お仕事”が凛霞を通さずに直接来た。
…そこは、先日凛霞とも話し合って俺も色々掛け合ったから、解決済みとして省く。

――元・第一級監視対象…今の俺達『5人』より前…時期はそれぞれ開きがあるが、合計で『7人』の一級の連中が居た。
そいつらはもう全員くたばってて、風紀本庁にもおそらくデータとかは残ってねぇだろうが…。

…そいつらが”復活”した。……あー、正確にはちょいと違うんだが。
…そうだな、『呪い』みてぇなもんと思ってくれりゃいい。”上”の連中は【残滓】と呼称してて俺も一応奴らをそう呼んでる。

…『呪い』って評したのは、そいつらは生前の記憶や自我、姿を今は保ってねぇからだ。」

一気に全部話しても情報の整理とか彼女からの質問もあるかもなので、そこで一度区切って一息。


レイチェル >  
そんな詫びの言葉を耳にすれば、長耳がぴくりと動いて、細めていた目が一瞬、ぱっと開く。

「泣かせてくれるぜ。お前からそんな言葉が飛び出してくるとはな」

以前に少し顔を合わせた時も、
彼にしては珍しい――人を気遣うような発言は、多少あったと記憶している。
それにしても、開口一番から態度の軟化を見せられれば――
――レイチェルとしては、そんな言葉の一つも言いたくなるものだった。

そして何処か柔らかな空気から一転。
続く話題には、真剣な表情そのもので耳を傾ける。

「ったく、可愛い後輩を軽視するのもいい加減にしてほしいところだぜ」

後輩――凛霞の顔を思い浮かべて、内心ため息をつくレイチェル。
一度ならず二度までも、というのは流石に横暴が過ぎる。

とはいえ。
凛霞のことは気にかかるが、彼女が変に思い詰めている様子をまだ見せていないのは、
想像以上に軟化したこの眼前の男が、
想定よりもずっと上手にコンビとして関係を築き始めている可能性もある。
そんな考えに至るほどに、近頃のこの男の態度や姿勢には、目を見張るものがあったのだ。

「残滓、か。死人が生き返るなり思念が現世に現れるなり、その程度で驚きはしねぇが。
 まぁ話を聞いてる限り、お友達になれそうな連中じゃねぇな。
 そいつらの対処について……少なくとも委員会内じゃ下りて来てねぇが」

肩を竦めるように少しだけ顔を下げ、息を吐く。
声色は変わらない。ただ、思うところがあるらしいのは確かだった。それを隠す素振りもない。

「監視対象――それも一部にだけ共有されてる情報って訳か?」

追影切人 > 「…うるせぇ、俺自身も正直戸惑ってるっつぅか自分でよくわかんねーんだよ。感情ってのは厄介だなホント…。」

溜息交じりに。だが以前なら”面倒”と切り捨てるような言い草だったそれを。
”厄介”と言いつつも許容しているのは、それと向き合っていくと明確に定めたからだろう。

「――そこは俺が”ペナルティー”とか織り込み済みで強引に話を通した。
正直、そのくらいはしねぇと”上”も一枚岩じゃねぇとはいえ話がこじれるばかりだからな。」

今後、この男に面倒な個人指令が来るとしても、それは必ず凛霞を通されると言う事だ、

「…ついでに、俺の【異能抑制装置】の制御管理権も”上”から凛霞に譲渡させた。アイツが管理してくれる方が全然マシだからな。」

【異能抑制装置】――正直ブラックボックスが矢鱈と多い謎の装置だ。
ただ、形状は様々で…首輪型、腕輪型、髪飾りや義肢に一体化させるタイプもある。

男の場合少々特殊で、体内組織に同化させる形で24分割されて仕込まれている
いわゆる微小機械(ナノマシン)に近いと男は思っているが、そもそも謎技術なのでそこはサッパリだ。

――まぁ、そこは置いておく。話の本題はそっちじゃない。

「…だろうな。専ら監視対象――特に二級以上に通達されてるだろうし、全員じゃねぇ。
が、連中を始末しろと”上”からご指名されたのはどうも俺だけらしいな。」

【残滓】の連中――については、他の監視対象も知っている者は居るが始末を押し付けられたのはこの男のみ。
そこに何らかの意図がある――かはさて置き、これが流石に面倒だ。

「”【凶刃】が【七廻】を確実に始末しろ”…あー【残滓】の7人にそういうコード付けてるらしい。
で、その【七廻】討伐が今回のつまんねー汚れ仕事って訳だ。これは勿論凛霞にもきちんと共有してる。」

そこで軽く目元を揉む仕草。柄にもなく色々と調べたりしてるせいで微妙に寝不足らしい。

「――ちなみに、生前の連中は俺と【無間山脈】…あと【陰翳礼賛】…この3人が当時それぞれ”始末”した。」

そこは隠さずにさらりと口にする。”毒を以て毒を制す”…一級の扱いは特にそれが顕著だ。

「…7人の中に、浸食系の呪いみてぇな使い手が居てな。そいつが具体的には分からんが他の6人に干渉したらしい。
本人も気付かない間に、思考や感情が”暴走”するような仕掛け…だったらしい。

…で、時期は違うが6人が暴走しかけて俺らが手を下した…ってのが、生前の連中の末路。

…ちなみに、その『元凶』の奴は俺らとは別の監視対象が始末したらしい。誰かまでは伏せられてたけどな。」

レイチェル >  
話を静かに聞きながら、レイチェルは顎に己の白い指をやった。

思うところはある。
本来であれば更生の為のシステムだった筈の監視対象制度。
本人と周囲・社会への悪影響を防ぐ為の制度だった筈が、
いつからイリーガルな私兵としての側面を持つに至ったのか。

ある程度まで調べはついているが――そこで、レイチェルは思考を抑制する。
今あたるべき問題は、歴史ではない。
建設的意見と行動を構築する為の前提知識として、過去のことを探ることは必要だ。
だが、そればかりに囚われていても仕方がない。
肝要なのは、そのような扱いを受けている犯罪者と、今後どのように向き合っていくか、だ。
加えて今回の件で言えば、監視対象だけでなく、その裏に居る者と、どう対話を進めるか、だ。

無論、対話すれば全てを解決できる訳もない。
それでも、相手が人である以上は――言葉を交わしていきたい。
少なくとも、レイチェルはそう考えている。
一人の少女を救えなかった、あの日から。

「意外と風通しは良いらしいな。ま、一枚岩じゃねぇってのが効いてるか」

意外そうに目を細めるも、どうやら凛霞への権利譲渡については、肯定的らしかった。
静かに目を閉じて頷く様子を見れば、それがわかるだろう。
長い話を聞きながら、
レイチェルは資料の束の上に置いてあった端末を開けば、メモを取っていく。

「色々と情報は受け取った。
 要点はこうだな。
 監視対象が持つ過去の因縁、残滓の処理を、お前一人が背負わされている。
 で、お前だけが厄介事を押し付けられてるこの現状――オレに共有してる意図は?」

追影もこの複雑な状況に置かれ、こちらに伝えたいことが多いのだろう。
いつもの調子で軽く言葉は投げるが、
アクティブリスニングの形で、しっかり話を聞いていることを伝える。

さて、眼前の男の意図は。
直接的な助力を求めているのか、或いは上に掛け合ってほしいのか、或いは――。
思考を走らせながら、レイチェルは変わらぬ口調でその疑問を投げて渡すだろう。

追影切人 > (――まぁ、コイツの事だから…。)

”対話”を前提とした思考を巡らせてそうだな…と。
顎に指をあてて思考に沈む腐れ縁を眺めつつ思う。
その程度には彼女の気質や性格は理解しているつもりだ。

――例え”対話”で全てがどうにかならずとも、それでも手を伸ばし続けるのがコイツだ。
…だからこそ、凛霞と並んでコイツは信用できる。それに過去に本気でぶつかりあった相手だ。

「”上”の連中が一枚岩だったら…とっくに俺なんて使い潰されてるか”コレ”だろうよ。」

と、片手で己の首を掻っ切るジェスチャー。つまり内々で密かに始末されていた、という感じ。
そもそも、何をどう取り繕うと――この男は立派な罪人である事に変わりは無い。
男もそれは否定しないし、碌な死に方も絶対にしないだろうと常に思っている。

レイチェルがこちらの話の要点をメモに纏めていくのを見遣りつつ、残りの情報の取捨選択を頭の中でしていく。
本当なら全部ぶっちゃけてしまいたいが、今のレイチェルには色々と背負うモノがあるだろう。

「――簡単に言えば協力要請…なんだが、オマエを直接引っ張る事はしねぇよ。
かといって、オマエの育ててる後進の連中を撒き込む気もねぇ。

…頼みたいのは後詰め…つぅか根回しだな。俺がやられた場合、あるいは俺自身がやらかした場合。
これは凛霞にも当てはまるけど、【残滓】の連中の討伐…は、無理でもお前の人脈で手を回して欲しい。可能な範囲で。」

本当ならコイツにも同行して貰って何体かは一気に片付けたいが…。
それをしないのは、今の彼女の立場や何やらを男なりに理解しているからだ。

(――今の風紀の柱の一人は間違いなくコイツだし、”こっち”の都合で前線に引っ張り出す訳にもいかねぇわな。)

正直複雑だが、その辺りの折り合いみたいなものは学びつつあった。

「正直、【残滓】だから生前の奴らよりは明確に”弱い”。けど一般の風紀の連中を回す訳にもいかねぇ。
…かといって、風紀の精鋭を借り受ける程に人員に余裕がある訳でもねぇしな…ただ、話は通しておいた方が即応は少なくとも出来るだろ?」

レイチェル >  
「要するに、どうにもならなかった時の為の後始末だな。
 そんな事態が起きる前に対策は打ちたいところだが……。
 ……ま、事件解決の為の根回し。バックアップ(支援)
 そういった仕事は、こっちによく回って来るからな」

椅子の背に凭れかかって、軽く笑いを飛ばすレイチェル。

 「ただ……別に、お前一人で挑ませたい訳じゃねぇけどよ。
 
 今回の件は、公的に風紀委員会の業務として正式に下りてきてる訳じゃねぇ。
 あくまで、監視対象内を起点として――少なくともお前の上司は――監視対象内で完結させようとしてる問題だ」

淀みなく、淡々とした口調。それでも何処か、声色に柔らかさは含まれているように感じられるだろう。
歴戦の眼差しは鋭く、眼前の男を捉えている。
 
「勿論、監視対象は風紀委員会をはじめとした複数の委員会の管理下にある。
 それに、島内の風紀を守るのはこちらの仕事でもあるのは、間違いねぇ。
 
 だから、な。
 お前との個人的な因縁の如何以前に、オレとしては協力の義務がある。
 だが、それは秘密裏に行わないという前提の下で初めて成立するもんだ。

 そうだろ?
 こそこそ動き回って対抗する戦力を用意するなんざ、向こうさんとやってることが一緒だからな」

追影の上に立つ男について思考を巡らせ――レイチェルは頭を振る。

「人手は手配できるように掛け合っておく。
 忙しい連中は多いが、可能な限り都合がつけられるように働きかけてやる。
 
 だが、今回の件は、きっちり上へ報告と相談を行った上での協力とさせて貰う。
 それが、委員会に身を置く一委員としての務めだからな。
 
 構わねぇな? そいつが、オレの提示できる、お前の言う可能な範囲の協力だ」

捕縛した者(レイチェル)と、捕縛された者(追影)
長らく続くこの腐れ縁の中で――個人間の中で終わらせるつもりはないと、レイチェルは釘を差した。

追影切人 > 「――だろうな…オマエならそう言うとは思ってたがよ…。」

小さく吐息を零す。元々単独で始末する事が前提の指令だ。
凛霞にも、近接戦が主体の【残滓】が居るから、協力は頼んだが…本音を言えば、だ。

(――【残滓】の”二の舞”にされる危険性がある以上、被害は最小限になる方がいい。)

とはいえ、頼らないのはそれはアイツを信用していない事になる…難しい。
【異能抑制装置】の管理権限を無理を通して彼女に任せたのだから、素直に手を借りるべきだ。
一度隻眼を閉じてから、彼女の言葉を自分の中で反芻してから、さっきよりも大きな嘆息を一つ。

「――あぁ、それで構わねぇよ。最悪…支援の許可が下りなかったら、それはそれで仕方ねぇ。
その場合はこっちで何とかする――最悪、他の監視対象の連中の手も借りる。」

勿論、それもおそらく許可申請だの”上”と揉めることになりかねない…いや、なる。
つまり、男の”ペナルティー”が積み重なっていく訳だが…。

「――どのみち、俺自身が討伐しねぇと任務達成になりゃしねぇからな。
支援が受けられたら討伐が格段に楽にはなるが、単独でもまぁ…勝算はあるにはある。」

だからこそ、【残滓】が生前使っていた封印武器の一つを貸与して貰っている。
まぁ、肝心の使い方がさっぱり分からないので”上”はやっぱり俺を始末したいだけでは?とも思う。

「取り敢えず、オマエの方で上に報告と相談だけ頼むわ。結果がどう転ぼうが不満も文句もねぇからよ。
…そもそも、無茶振りなクソ指令なんざ今に始まった事でもねぇからな。」

なんて、皮肉気に笑って肩を竦める。そもそもの話、今回はレイチェルに大まかに話を通すのが目的だ。
結果云々がどうなろうと、当初の予定はきちんと達成出来たので御の字。

「…ま、元・一級監視対象の”成れの果て”なんて厄ネタには関わらない方がいいっちゃいいしな。」

レイチェル >  
「任務だの何だのは知らねぇが……な――」

さて、そこまで淀みなく真剣な表情で語っていたレイチェルであったが、
ここに来て表情を崩せば、年相応の笑顔がその顔に現れる。

「――まぁ、監視役として凛霞がついていれば、ある程度問題はないだろ。
 近くに居る奴を贔屓して語るつもりはねぇが、あいつはとびきり優秀な後輩だからな。
 
 それにお前自身も……どうやら変わってきているようだし。
 以前に比べたら、ある程度は信頼できるってもんだ」

そこまで口にすれば、壁の時計を見やる。
そろそろ次のミーティングが始まる時間だ。

「じゃ、気をつけろよ。
 お前が死んだら、悲しむ奴が居るってことを忘れんな」

そうして資料を手にすれば、失敗したらどうこう、なんてことをしれっと語る相手に対し、
それだけ口にして席を立つのだった。