2025/02/08 のログ
ご案内:「委員会街 風紀委員会本庁」に青霧 在さんが現れました。
■青霧 在 > 噂話は好かない。
”噂話である”という情報からは何も得られず、何も確定しない為である。
火のない所に煙は立たないなどという癖に、流言蜚語などと軽んじる。
どこの、誰が、何故、いつ流したか。それを辿る事すら困難を極める。
噂に流されてはならないなどと言っている間に噂ではなくなっている事もある。
要するに、見極めが難しい。
それだけの話でこそあれど、噂話は無数に存在する。
かつての超常とは縁遠い世界であれば、荒唐無稽と切り捨てられた噂話もこの現代ではそうはいかない。
広いこの島に集う者の内に特異点が混ざり込み、噂程度の存在として暗躍する可能性は低くない。
故に、噂話は好かない。
しかし、そうではない者も居る。
……
冬の夕暮れ。
夜と昼の挟間、黄昏が空を支配する僅かな時間。
夜間の任務の為に休憩室で待機する青霧の端末からバイブレーションが鳴る。
「エノキテックがどうしたんだ……」
同期から一つの噂話が共有されたという通知。
中身は業務に一切関係のない、単純な噂話。
ただただ面白い話を聞いたと共有されただけの雑談の種。
『エノテの面白い話だから読んでくれ!』
個人メッセージに貼られたリンク。それは聞いた事もない怪しげな……いや、思い出した。
胡乱な話題を専門に取り扱う都市伝説を集めたサイトだ。
名前は『大変容レポート』。それなりに名の知れたサイトであった筈だ。
青霧にとっては縁のないサイトだ。以前同僚に勧められた際も流し読みだけして忘れていた。
「時間があれば読んでおこう」
それだけ返してデイリー消化に戻る。が
『マルモリやってるぐらいなら読めよ!どうせ放置ゲーだしいいだろ?!』
バレているのなら仕方がない。
それに新宮の言い分も一理ある。
溜息を零してリンクを開いた。
■青霧 在 > 『エノテ』もとい『エノキテック』とは、昨年設立したばかりの企業だった筈だ。
にも関わらず、未知の神秘を用いた製品を多数開発し、その名を一気に世界へと広めた企業である。
製品自体は日常生活を支える便利ツール程度のものが多数であり、シェアの拡大は緩やか。既存の大企業には遠く及ばない程度のもの。
それでも名が知れているのは、その神秘が全く新しいものであり、学者や研究者の目に留まっている為である。
「『エノキテックに深い影!未知の神秘に潜む危険性とは?!』……」
未知の神秘自体は全く珍しくもない。
無数の異世界から異邦人が流入し続ける限りその数は増え続ける。
しかし、これが完全に独立したものであればどうだろうか。
「『解明できない神秘に潜む危険性。再現性のない構造に不安の声』」
青霧もエノキテックの製品は一度購入した事がある。
先月末に新製品のマウスを購入した。
結論、普通のマウスと同じだった。
未知の神秘など、この程度かと思った事を覚えている。
不要になったエノテのマウスは、興味を持っていた鉄道委員会の知り合いに譲った。
それ以降どうなったかの話は殆ど聞いていない。しいて言うならば、不思議な構造をしているといった程度。
記事にある通り、再現性のない構造であったという話だ。
「『異邦神秘の専門家によれば、人類には認知出来ない罠が仕込まれている可能性があるとの指摘も』……」
「…胡乱な記事だ」
眉を顰め、読み進める。
■青霧 在 > 青霧はバカではない。
未知の神秘に対する警戒心は当然持ち合わせている。その上で製品を手にしたのには理由がある。
「『一方、エノキテックの製品に危険性は無いとする主張も根強く』……」
エノテの製品を使用した事により被害を受けたという話は聞かない。
体調を崩した、暴走した、突然人柄が変わった、そればかり好むようになった。
そういう話は一切なく、世界はエノキテックを公平に評している。
少なくとも、青霧はそう判断し使用した上で確信した。
「『使用者が重大な損害を受けたという報告は一切無く、何か変化が生じたという報告も無い』」
そこまで読んで、記事を読むのをやめた。
都市伝説の域を出ない半端な話だ。
「ただの都市伝説だった」
同僚へクレームを送信した所、数秒で返事があった。
『そういうと思ったぞ』
『著者と引用文献をよく見ろ』
『専門家の名前も調べてみろ』
正直、しつこいと感じた。
故に既読無視のまま改めてサイトを読む。
著者と引用文献、専門家の名前…
「ん?」
同僚の言いたい事が分かった気がする。
「このサイトは都市伝説のサイトだよな?」
「いつからマジのニュースサイトになった?」
『気づいたか!』
同僚からの返信を見た青霧の眉間に、僅かな皺が寄せられた。
■青霧 在 > 『そうなんだ。題材は噂の癖に他が全部ガチなんだよ』
『普通に報道されててもおかしくないレベルなのにこんな風にまとめられてんだ』
青霧は噂話が嫌いだ。
だが、それは根も葉もない話が嫌いだからではない。
『妙だろ?主張も都市伝説らしくなくて客観的に双方から評してる』
『おかげでサイト内での評価は低い』
『これは都市伝説じゃないってな』
根も葉もない話は捨て置ける。
では何が嫌いか。
それは、何の確証も得られない噂話。
『本当に危険なんじゃないかってやつも出てきてる』
『こんなまじめな記事がこんなサイトに載ってる事自体が注目を浴びてんだ』
「それがどうしたんだ。買わなければ俺たちには関係ないだろう」
正直、忘れてしまいたい。
こんな頭の痛い話題の種だけ撒かれてはたまったものではない。
関係のない話だと、記憶の片隅に追いやってしまえれば楽だろう。
『それがな』
『うちにエノテの関係者が招かれたって話は聞いてるか?』
青霧の眉間の皺が深くなった。
「常世学園にってことか?」
『そうそう。いつかは知らんが、偉いのが来るらしいぞ』
二度目の溜息が零れた。
無関係ではなくなる、と言う事だ。
■青霧 在 > よく考えれば十分あり得る話だ。
エノテの扱う神秘は完全に未知の神秘。
学者や研究者の注目を浴びているのであれば、その最先端を担う常世が見逃すとは考えづらい。
『まあこっちも噂だけどな』
『読んでおいてよかっただろ?』
したり顔が文面越しに見て取れる。
確かに、早いうちに聞いておいて損はない話題だ。
…とはいえだ。
「せめてもう少し具体的な話を持ってこい」
「これじゃ何も分らんだろうが」
記事から読み取れる情報が無さ過ぎる。
これでは何も精査出来ない。問題提起にすらならない示唆の段階。
『バレたか?』
『まあ来るらしいってのが言いたかっただけだから』
『あ、そうそう』
『そろそろ出動だからよろしく~』
『俺別のだから、んじゃまた』
「さっさと行け」
吐き捨てるように短文を送信し、三度目の溜息が零れる。
任務前に聞く話ではなかった。
これだから噂話は嫌いだ。
信憑性や話題性が強いほど、無駄に思考と記憶のリソースを割いていく。
そして結局何かの役に立つ事は稀。
話している方は面白いかもしれないが、噂話が苦手な身としては苦痛だ。
「災難だな」
このような噂話の対象とされてしまったエノテがだ。
どうなろうとどうでもいいし、ただの世界の流れの一部。
それでも、わずかばかりの同情を抱かずにはいられなかった。
噂話は嫌いだ。
気付けば姿を変えて陰謀となり、学園の首を絞めている。
気付けば姿を変えて世論となり、社会情勢を歪めている。
気付けば水面下で進行し、数多の犠牲を出す。
「そうならないといいが」
噂話が唯の噂話としてその生涯を終える事を切実に願った。
ご案内:「委員会街 風紀委員会本庁」から青霧 在さんが去りました。