2025/05/31 のログ
鶴博 波都 >
「うーん……もっと良い人が居ると思います。」

 冗談交じりの口説き文句。
 そう判断すればやんわりとあしらう。

「海産物も美味しいですね……。
 でも……満たされる、と言うのはやっぱりまだよく分からないです。」

 飢える。
 彼女にとって、あまり縁のなかった感覚。

 かつては常に満たされるよう注がれていたのだろうし、
 今だって飢えることはないし、欲するものも浮かばない。

 空腹を感じれば食事を取るし、眠い時は睡眠を取る。
 それらが取れなければ……きっとそれまで

「テイクアウトはともかく……
 えっと……あの事故、まだ何かあったんですか?
 無事に解決した話しか聞いていませんでしたけれど……。」

 彼が個人的に調査に行った。と言う段階で疑問符が付く。
 ただの事故ではなかったのだろうか?

 疎い彼女でも強い違和感を抱かざるを得なかった。
 彼が欲するものがあるようにも思えない。 
 

ネームレス >  
「……あれ、口説かれてると思った?」

きょとん、と一瞬、面食らってから。
得心したように笑って、そう問うた。違うらしい。

「不特定多数と扱われたくない、ってコト。
 多くの"誰か"でなく、特別に想われたい。
 そのうえでキミになにか落ち度があるワケでもない。
 ボクの頑張りが足りてない、ってハナシ」

波都という個人にとって、"誰か"以上ではない。
――という現状に対しての、"不満"だった。
楽しそうにしている。やりがいを感じているように。

「肉も野菜も好きだケド、港町の生まれだからかな。
 どれがっていわれるとボクは海鮮が好きかも」

視線を向ける。キミは?とは訊かない。

「餓えているから、満たされるんだ」

因果関係の問題。
空白に何かが注がれるから生まれる感触。

自分が何に餓えているか

窓の外に視線をむけながら、アップルジュースを一口。
家でも搾ってもいいかも――なんて思わせてくれる味だ。

「それは、他人が教えてくれるコトじゃない。
 気づかないまま、一生を終えてく人たちのほうが、
 きっと多いんじゃないかなあ……とも、思うケド」

飽食の時代だ。大変容が起こっても。
食べるに困る者は、少数派だ。

「どうせなら、知った上で選んでほしいと思うかな」

視線を向けた。
感謝を述べて終わった筈の関係。
――が、続くのなら、それに纏わる感情は、こちらからは"興味"となる。

「――……ん、」

不意に学生手帳を取り出した。

「話してもいいケド……時間、大丈夫?」
 
いつも忙しそうにしている彼女だ。
食事休憩が終われば、すぐに発つスケジューリングをしていそう。
――……建前だった。その前に、視線を一瞬、周囲にすべらせた。
ここでは話せない/話したくない。そういう事情。

「こんどプライベートで逢おうよ。そのときいろいろ話そ?
 もう、おおっぴらに連絡先は交換できるようになったからさ」

どうする?そう言いたげに、首を傾ぐ。
ほんのワンタッチで、データ上は繋がれる、そんな時代である。

鶴博 波都 >   
「うーん、『特別』……。
 ……『特別』って、家族か恋人()に使うものだと思ってました。
 特別の形にも、たぶん色々あるんですね。」

 そうでないと、社会が回らないから。
 そもそも……それですら『特別』なのだろうか、とも思う。

「哲学みたいな話です。あるいは……」

 科学なのだろうか?
 過去は不可分のものだったと聞くものの、いまいちよくわからない。
 定義の話と、属性の話でまた変わってくる気がする。

「……あんまり得意じゃないですけれど、少し考えてみますね。
 でも……定義だけ(デジタル)の話なら、そんなに悩まない気がします。」

 0と1、陰と陽。
 そういう区分であるなら、多分こんなには考えていなかったと思う。

「あっ、もうこんな時間……。
 そうですね。連絡先を交換したら、私も行かないと。」

 腹芸は得意ではないが、意図は読み取れる。
 そして──どっちにしても時間は大丈夫じゃない気がする。
 自然体で受け答えつつ、連絡先を交換する。

「じゃあ、私はこれで。どたばたしちゃってすみません。」

 残りを平らげて席を立ち、少し駆け足で場を立ち去る。
 

ご案内:「委員会街 鉄道委員会庁舎」から鶴博 波都さんが去りました。
ネームレス >  
「構わないよ。こっちこそ、楽しいランチをありがとう!」

用事は済んだ。まだ、腹八分め。
――この件に関わる人間のサポート。それは、いつか妖精のような女性に依頼された仕事(コト)
鶴博波都には知る権利があり、知らない自由がある。
だが、そこに何かがあることは示すのは、確かに――彼女が言う通り、意地が悪いのかも。
困難なほうに引きずり込んでいく。渦のよう。

「考えてみる……」

らしくない。
彼女の言葉を復唱して、そう思った。悪くない。
誰でもいいわけではない。興味と期待がある。
とどのつまりは、自分に何をくれるのか、だけれど。

「――……」

少しお腹をさする。
フルサイズ一本。野菜たっぷり。具も申し分ない。美味しかった。
……………。

「なんか買ってってやるか。話だけだと羨みそうだし……」

フルサイズで。ハーフサイズを分け合おう。
自分が食べたいのが目的なのは言うまでもない。まだ満たされきっていないから。

ご案内:「委員会街 鉄道委員会庁舎」からネームレスさんが去りました。