2026/03/04 のログ
ご案内:「委員会街 風紀委員会本庁」に牛丸 瑞璃さんが現れました。
牛丸 瑞璃 >  
風紀委員本庁、その会議室の一室。
無機質で、規律の取れた白一面の壁に囲まれた空間には、
張り詰めた緊張感が漂っていた。

複数人の生徒達――風紀委員の特殊監視チームの面々だ――が壁際に控え、
鋭い視線を部屋の中央に注いでいる。

その視線の先では、一人の少女と一人の男が机を挟んで向き合っていた。

少女の名は、牛丸瑞璃。
職人がその手を加えたかの如く整った輪郭と、透き通るような金髪。

華奢な、少女だ。

彼女の過去を知らぬ者が見れば、あまりに過剰な監視にも思えるだろう。

「――というわけで、計画性なんかなーんにもなくって。
 あたしはただ、たまたま……友達の買い物に付き合ってただけ」

人形は、困ったように肩を竦めた。

『四奈川 瑠夏君の証言もある。私も、その言葉は信じよう』

応じたのは、対面に座る青年だ。
切り揃えられた黒髪の短髪に、意志の強さを感じさせる勇ましい眉。
山下は、いかにも真面目な好青年といった風体で、瑞璃の瞳を真っ向から見据えていた。

「じゃ、これでもう解散かな?
  聞きそびれてることとかない? なければ、あたしは失礼するよ。
 忙しい風紀委員の先輩たちの時間を奪うのも、本意じゃないしね」

瑞璃が席を立とうと身を乗り出した瞬間、
山下の隣に控えていた白い髪の女性が、静かに資料をめくった。

『貴女が風紀委員会へ提供したデータにあった、
 低温への脆弱性――そちらを踏まえて配備した凍結弾。
 先日、カタストロアにより無力化されました』

彼女――七瀬の声は、凍てつくように冷徹であり、そこには何の色もなかった。
責める様子も、馬鹿にする様子もなかった。ただ、事実だけを伝えていた。

牛丸 瑞璃 >  
「ふぅん」

瑞璃は動きを止め、再び椅子に深く腰を下ろす。

「……分かってるでしょ。
元より、薄氷の論理だよ。

爬虫類はあくまで爬虫類。
リザードマンはリザードマン。
カタストロアは、ニューギニアのトカゲじゃない。

駄目で元々の博打論理(机上の空論)
確かに、あの緑色の血はビリベルジン由来のものに見えたけど……。

データが不足している中で、たまたま試したら上手~い具合に常識が通じただけ。
何かのきっかけで、それがひっくり返ることなんて、あり得るでしょ?
ここは、常世学園なんだから

瑞璃は冷静そのものといった表情で、小首を傾げて見せる。
たったそれだけで好意を抱いてしまう男子も居ることであろうが、山下は動じない。
生来生真面目なことに加え――彼は、この女の裏の顔をよく知っているからだ。

『それはそうだが……その変化に心当たりは?』

山下の問いに、瑞璃はうっすらとした笑みを浮かべた。

「ん。あの時に風紀には伝えた筈だけどさ。
 学園に居るじゃん、ひっくり返せる存在が――」

牛丸 瑞璃 >  
「――常世神(ルールブレイカー)

その言葉が出た瞬間、七瀬が指先でメガネのブリッジをスッと押し上げた。
レンズの奥で、彼女の目が細められ、瞳が鋭く光る。

『その件については、報告を受けています。
 
 常世神(とこよのかみ)
 己の大切なものを捧げることで、願いを叶える……という怪異。

 呪いを受けた者は、常世神の分霊が魂に取り憑き《異能》が暴走。
 或いは、新たな異能が付与されるそうですね。

 祭祀局中心に、分霊の祓を執り行っているとは聞いていますが、
 未だ解決には至っていない……と』

その言葉には、淀みがない。
まるで資料に書かれている文言を、一言一句漏らさずに暗唱しているかのようだった。

Exactamente(その通り)
 でも、やっぱり祭祀が動いてくれてたんだ。それは初耳だなぁ。
 流石、掴んでる情報の質が違うなぁ」

どこか嬉しそうに母語を交え、瑞璃は七瀬に称賛の笑みを向けた。
それは無論、風紀委員会や祭祀局への称賛でもある。

牛丸 瑞璃 >
『常世神が関与する事件は、以前にも何度か発生しています。
 貴女の情報も踏まえ、改めて情報の精査は行っている最中です』

対する七瀬はといえば、人形の笑顔には何ら反応を示すことなく、資料に目を落とした。

「重要参考人、いや……重要参考神に召喚状を送る訳にもいかないだろうし。
 結局本人に聞くしかないんだろうけど……。
 それでも常世神の関与は、この事件の解決の……或いは少なくとも、事件解決した後の、
 後処理の方向性を決める糸口にはなるんじゃないかとは思うんだよねぇ」

『というと?』

山下が少しだけ身を乗り出し、先を促す。
瑞璃は、自分の手首を繋ぐ冷たい黒の手枷を、振って見せつける。

「んー、ほぼフラッシュアイデア(思いつき)
 この手枷外してくれたら、も~ちょっとロジカルに頭が働くんだけどなぁ」

『馬鹿野郎……! そんなこと……許可するわけねぇだろうが……!』

壁際に控えていた監視員の一人、長谷宮が激昂し、一歩前へ出ようと肩を揺らす。
だが、その隣にいた大柄な監視メンバーの女が、即座に彼の肩をがっしりと掴んで制止する。

『よせ、長谷宮。お前の気持ちは分かる。
 ……だが、私情を挟むな。彼女の言葉遊びに乗るのも職務怠慢だぞ』

低く、たしなめるような同僚の声に、長谷宮は忌々しげに舌打ちをして足を止める。

「ごめんねぇ。
 でも、今はキミ達に協力する立場だから、あたしとしてはただ、提案しただけ。
 それに長谷宮クンはちゃんと、仕事してると思うよ」

瑞璃は視線を山下に向けたまま、言葉を渡し。

続く語を紡ぐ。
その背後では再び静止の音が聞こえたが、それは既に意識の外へ追いやっていた。

牛丸 瑞璃 >  
「――いや、真面目な話。
 あたしなんかより、祭祀や風紀の方が詳しい筈だよ。
 常世神への願いって、呪いを生み出すんでしょ――」

真面目な顔で、山下の方を見やる瑞璃。

『――呪いであれば、それを解くことができれば、
 この事件も解決できるのではないか、と。
 
 そう言いたいのかな、牛丸 瑞璃君』

バトンを受け取ったかのように続きを告げた山下の言葉に、
瑞璃は満足げに目を細めた。

「その通りだよ、山下先輩。
 じゃなきゃ、今回みたいにいたちごっこかもって。
 低温を克服したところに、更に別の奇策をぶつけたところで……ね。
 
 常世神の力には代償が伴うんでしょ?
 逆にいえば、代償を払い続ければ、願いは叶い続けるんじゃないの?
 たとえばこう、『風紀に負けない力がほしい~!』とかさ。 分かんないけど。
 
 もし、カタストロアがその常世神の類型に当てはまるなら、
 代償を払う為に――生贄を捧げる為に、もっと犠牲者が増えるかもだし。

 だから、あの力が本当に常世神由来の呪いなら……それを取り除ければ。
 少なくとも被害者が出続ける状況は何とかなるし、
 話を聞くこともできるかもしれないでしょ?」

『やはり、祭祀との連携も必要になってくる、か……』

山下が思案に耽る。
その隣で、七瀬はすでに次の行動を予測するように、
手元の端末に情報を入力し始めていた。

牛丸 瑞璃 >  
『先程もお伝えした通り、調査自体は進めています。
 ですが、一方で……その言説に反論するエビデンスもあります。
 祭祀の記録でも、風紀の記録でも、
 今のところ常世神の呪いを受けた者に見られる特有の現象――
 ――偽神域の発生が確認されていません。
 
 私個人としましては、本当に常世神の関与があるのか、疑わしいところです。
 そもそもが、カタストロアの言葉を信じるなど――』

そこまで言って、七瀬は言葉を止める。
白の壁を眩く照らす部屋の灯が、メガネの下の表情を隠していた。

「七瀬先輩の指摘は、筋が通ってる。
 確かに、あたしも含めて犯罪者の言葉なんて信じられないだろうし~?

 ……でも、何事にも例外はある。
 見えているものがあれば、まずはそこを詰めてみることは無駄じゃない。
 
 実際の所……手札が少なすぎて、なかなか掴みきれないところはあるんだよ。
 でも、配られたカード(情報)で戦うしかないわけじゃん?

 あたしの知る限り、手元にある情報は、本人が口走っただけのワード。
 溺れる者の藁だとは思うよ。
 
 でも、異能を本人から引き剥がせる可能性、
 そうして、そうなった時の本人をどう扱うか……
 今のうちに検討くらいはしておいても良いかもなって。

 他に、有力な可能性があれば、そちらを優先して貰えば良いけど、何かある?」

そこまで口にした後に、会議室に暫しの沈黙が流れる。
沈黙を正面からじっくりと受け止めた後、瑞璃は1つ息を吐いた。

「そんなものはない。
 或いは、あるとしてもここじゃ言えないかな。
 
 それじゃ――」

今度こそ、牛丸 瑞璃は席を立った。

「――当事者として情報は伝えたことだし。

 後は頼んだよ。あたしは風紀を信頼してるんだから」

それだけ口にして、手枷がついた方の手をひらひらと振ると、
人形は監視チームと共に去っていった。

ご案内:「委員会街 風紀委員会本庁」から牛丸 瑞璃さんが去りました。
ご案内:「委員会街 風紀委員会本庁」に牛丸 瑞璃さんが現れました。
ご案内:「委員会街 風紀委員会本庁」から牛丸 瑞璃さんが去りました。