2024/08/01 のログ
ご案内:「委員会総合庁舎 会議室」にレイチェルさんが現れました。
ご案内:「委員会総合庁舎 会議室」にエルピス・シズメさんが現れました。
■レイチェル >
「それじゃ、今回のミーティングはこんなところか。
引き続き、風紀と公安メンバーで協力して
動向を確認していくとしよう。議事はオレから上に報告しとく。
皆、お疲れ様だ」
会議室の長机に座っている数名の男女は、
レイチェルの発した終わりの合図に従い、
各々の手荷物を纏めて立ち上がり始めた。
端末に登録してある会議室のカレンダーを確認する。
この会議は30分弱で終了したが、予約したのは1時間枠だ。
次のミーティングが始まるまでの30分程度の空き時間中に、
此処で会う約束をしている人物が居た。
時間まではまだ少し余裕がある。
久方ぶりにコンタクトをとってきたその人物が訪れるまで、
レイチェルは一人、足を組みながら暫しの休息を取ることとした。
休息と言っても、頭の方は先の会議の内容を受けて、
回転させっぱなしであるが。
それでも、身体を強張らせる必要は既にない。
今から来る相手は、旧知の仲だ。
■エルピス・シズメ >
(委員会街の会議室。)
(ここに足を踏み入れるのも久しぶりだ。)
エルピスの旧知の仲として、伝えたいことがある。
その想いで風紀委員であるレイチェルに連絡を取り、約束を取りつけた。
これが彼がここにいる理由だ。
「失礼します。『エルピス』です。」
『エルピス』。
元公安委員の『公安カーテン』にして、委員を辞職し落第街で『便利屋』──違反活動活動を務めていた少年。
そして、生死不明として扱われていた存在。
その名前を告げて、会議室の扉を叩く。
■レイチェル >
「肩肘張んな、中にはオレしか居ねぇんだ。
適当に入れよ」
場所が場所だ、変に緊張させてしまっている可能性もある。
レイチェルは、穏やかかつ軽い声色で、扉の向こうの人物に声をかけた。
そう、此度の会話の相手は旧知の仲。しかし、特別だ。
もう随分と連絡を取っていない。
それもその筈だ、
今の今まで『生死不明』扱いだった人物なのだから。
故に、コンタクトが入った時には驚き、
まずは情報の真偽を疑ったものだが。
■エルピス・シズメ >
「ん、ありがとう。スイーツキングダムぶりだね。」
何せ生死不明の人物だ。
『エルピス』を証明することに少し時間が掛かった。
二人しか知らないような細かいエピソードの幾つかを挙げ、どうにか約束を取り付けるに至った。
姿かたちも、レイチェルのよく知る『エルピス』と同一だ。
雰囲気は大分、様変わりしているが。
「あの、えっと……レイチェルは元気にしてた? 結構な時間、経っちゃったけど。」
ひとまず、差し障りのない話題を切り出す。
『エルピス』の旧友との 距離感を思い出しつつ、計りながら。
■レイチェル >
「ああ、そうなるな」
レイチェルは静かに、そう返した。
レイチェルが『エルピス』を名乗る人物を敢えて
委員会街に呼んだのは、
無論スケジュール上の都合によるものだけではない。
丁寧に質問を重ねた上で、
更にレイチェルがこの場を選んできた経緯の内に
作為的な思考があったことは、
『エルピス』であれば察しているだろう。
レイチェルもまた、質問を重ねていた時から、
その姿勢を隠してはいない。
しかしそんな彼女も、その顔と声色を聞けば、
今度こそ穏やかな声を放った。
「ま、それなりには元気だぜ。
……しかしそりゃ、こっちの台詞だぜ。
完全に姿くらましやがって、一体何処に居たんだよ?」
口にして、両腕を己の後頭部へと伸ばす。
肩から腰まで、ピシッとした線を描く制服が、ぐっと伸びた。
レイチェルの普段の姿勢だ。
■エルピス・シズメ >
飯処や立ち話で済む話でもない。
それなりに真面目な場所でやり取りする必要がある。
エルピスもそのつもりで、覚悟を決めてここに来ている。
とは言え、穏やかな声色を聞けば一瞬だけ緊張を解く。
「なら良かった。僕、ううん。エルピスの方は……えっとね……。
当初はそこそこ上手くやっていたん、だけど……」
解かれた緊張は少しの間だけ。
何処にいた、どうしていた──と聞かれてしまえば、隠すことは出来ない。
レイチェルとは対照的に──俯いて、口を開く。
「『エルピスは死んだ。』……公安を辞めて、落第街で活動していたエルピスは死んだ。
僕、エルピス・シズメは……異能によってそのカタチを継いだ……ドッペルゲンガーのようなもの。」
『故エルピスの学生証』をテーブルに置き、客観的な事実を告げる。
自分がどう思っていようが、周囲の目や登記上はそうもいかない。
■レイチェル >
「おいおい。そんな荒唐無稽――」
白い手を、顎にやるレイチェル。
僅かばかり横に傾けられた、白く瑞々しい彼女の頬。
そこに、艷やかな金色の糸がかかる。
そうして、彼に向けた紫色の宝石――相貌を若干細くして、
レイチェルはエルピスの顔を見やる。
続く言葉が紡がれるのに、数秒を要した。
「――ま、この島なら何が起きても不思議じゃねぇ。
オレもこの島に来てそこそこ時間が経ってるから、
そこんとこはある程度知ってるつもりだぜ」
続けられた言葉は、吸血鬼の浮かべる微笑と共に。
俯く彼に対して、顔を上げな、と言わんばかりに渡された。
「だから、お前の言うことは実際に起きであろうこととして、
オレ個人は一旦受け入れるぜ。
しかし、何だってそんなことになってんだよ……。
もうちょっと詳しく経緯を説明してくれねぇか」
異能によってそのカタチを継いだ別人が、
今こうして『エルピス』として振る舞い、立っている。
――まるで、哲学者の思考実験だな。
傍目から見れば、ひどく落ち着いているように見えるだろう。
エルピスからも、伝えたことを簡単に受け入れすぎていると、思われるかもしれない。
しかし、実のところは筆舌に尽くしがたい感情が、
胸の内に去来してはいる。
それをただ、レイチェルは冷静に切り離しているだけだ。
レイチェルが放った言葉は、紛れもない彼女の心で、事実の一つであるからだ。
故に、要らぬ疑問や疑念は一旦、胸の湖に沈めておくものとして。
レイチェルは、まずは眼前の『エルピス』に
問いかけてみることとしたのだった。
かつての彼にそうしたように、自然に。
今、レイチェルは彼女の知る『エルピス』と話しているのだ。
■エルピス・シズメ >
「ありがとう。受け入れてくれて。」
自分でも荒唐無稽だと理解している。
相手が知己でない風紀委員であったのならば、一笑に付されてもおかしくない。
「分かる範囲で、説明するね。……『故エルピス』は、ある違反組織のプロジェクトを邪魔しようとしたんだ。」
本当に違反組織であるかどうかの裏取りはしていない。
ただ、記憶を辿る限りはそう言って差し支えのない組織だ。
「どうしても、見ていられなかったんだ。だから"その成果物"を横取りして──」
「追い詰められて、黄泉の穴に落ちて死んだ。」
ありふれた話だ。
正義感を拗らせた個人が違反組織に手を出して殺される。
末路としては、よくある話の一つ。
「で、その成果物が『僕』。意志の継承を通じて、人間の完全再現をし続ける異能群。」
「夥しい数の犠牲の上に実現した、完全な英雄の無尽再現を成立させる複合異能AF。」
詳細な、自分の在り方を告げる。
どう解釈するかは聞き手次第だ。
哲学的な話と言うのも過言ではない。
「それが僕。だから、僕は『エルピス』と同義でもあるんだけど、そうしたくない理由があって。……ここまではいい?」
■レイチェル >
「お前なら、そうするんだろう。
いや、そうしたんだろうよ、実際にな」
エルピス(公安のカーテン)も、それなりに腕の立つ人物だった筈だ。
それでもやはり、個人では無理があったのだろう。
――オレに相談してくれりゃ良かったのによ。
その言葉は、胸の内にしまっておいて。
「完全な英雄の無尽再現、か――」
エルピスや、その周辺の情報を徹底的に追っていた訳ではない。
故に、詳しい内容は知らない。
それでも、膨大な情報の波の何処かで、その言葉だけは断片的に拾った記憶があった。
故に、レイチェルはこう口にした。
「――なるほどな。オレが知る情報は断片的なものでしかねぇが、
それでもお前の語る情報とは整合性が取れてるし、
お前の存在の仔細についても、ある程度納得はした。続けてくれ」
真剣な面持ちで、そのように促す。
■エルピス・シズメ >
「うん。僕はそうしてしまったんだ。実際に。」
既視感を辿る。
独りでどうにかしようとしたのだろう。
風紀委員や公安委員を頼ることを避けていたのだろう。
知己や友人はあれど、根本的には孤独だっただろう。
『エルピス』の義腕や義足も、英雄開発プロジェクトによるものだ。
完全な英雄の無尽再現はまた別のプロジェクトだが、『エルピス』の情報を辿ると英雄の言葉が度々付随する。
レイチェルの持ち合わせている断片的な情報は、彼の言っている事が事実だと裏付けるに十二分。
「うん。だから僕は碌でもない悪い子。
納得してくれたなら、続けるね。……えっとね。理由なんだけど……」
居住まいを正す。
揺れた栗色の髪を両手で整えてから、レイチェルの目を見据え──。
「僕としての、想い人が出来た。」
「だから、『エルピス』としては死ぬ道を選んだ。」
『エルピス』が死ぬ理由を、告げた。
表情は真剣そのもの。身体も、震えている。
彼にとっては、自分の我儘のために『エルピス』を殺したと同義。
想い人に背中を押されても、燻り続けていた罪悪感。
「身勝手な話だと思う。だから、僕は、エルピスを、殺した。」
「何を言っているのか、分からないと思うけど……ごめん、なさい。」
大きく頭を下げる。
旧友に対する『僕』としての贖罪。
彼がここに来た真意は、ここに在る。
■レイチェル >
「成程。お前は『エルピス』という存在を受け継いだ存在だ。
その上で、お前にとって大切な奴ができちまって。
結果として、今の自分の心の在り方を信じることに決めた訳だ。
今までのエルピスであって、エルピスでない、新たな自由意志を持つ存在として、
過去の『エルピス』とは訣別して生きていきたいって訳か。
この認識で合ってるか? 謝罪への返答は、確認の後だぜ」
レイチェルは、敢えて自由意志という言葉を用いた。
しかし、今の彼の心の在り方も含めて、
それは何処まで保証されたものなのだろうか。
今、己と相対する彼自身の気持ちの行方は何処にあるのか。
そもそも、独立した感情自体、存在するのか。
眼前の異能群は、『エルピス』を受け継いだものである以上、
その心の在り方、恋心が依拠するところもまた『エルピス』であるのではなかろうか、と。
彼が『エルピス』のカタチを執る以上、
『エルピス』であることから逃れられないのではないか、と。、
レイチェルは、そのように思考したのである。
ならば、そのように甘い言葉を放つべきではないのかもしれない。
そう考えもしたが、敢えて放ったのは――レイチェルなりの祝福のカタチであった。
■エルピス・シズメ >
「うん。僕の自由意志で決断した。……『エルピス』としては、最大の裏切りになる事も覚悟で。」
レイチェルの確認に対し、相違はないと肯定する。
そうで在りたいと信じる自我を認めて、択んだのだと。
とは言え、これも『エルピス』ならそうする。
彼の決断も、レイチェルが内心で抱く思考通りと言えばそうだ。
「だけど、それでも。……そう思いたい。皇帝が先帝の無念を晴らすように、親から子へと継がれるように。」
言い聞かせるように呟く。
彼も未だ、レイチェルが抱くような認識を払拭しきれてないのだろう。
「僕はエルピスを継いだけど、僕でありたい……。」
■レイチェル >
「だってんなら、『エルピス』には冷たく聞こえちまうし、悪ぃ気もするが……
敢えて言うぜ。
良いんじゃねぇのか、別に。
今この世界に立ってるお前自身が、正しいと信じる道を進んでいけよ。
それでもし自分が歩いている道が本当に正しいのか、不安になっちまったら。
その道を、正しいと思える為に努力をしろよ。
自分が選んだ道を正解にする為の努力をな。
簡単なことじゃねぇがな。
オレだって何度も自分の道を疑って来たし、
苦しんでも来た。今だってそうさ。
それでも、胸の内に置いておくだけで立ち上がる力くらいはくれるだろうさ。
……この話、さわりはオレから『エルピス』に話したことだ。
なら、お前の記憶にもあるだろ?」
かつて、生存の『エルピス』と食事をした時のことだ。
今でもはっきり覚えている。
「『エルピス』が死んじまったことは当然オレだって、悲しいさ。
言葉じゃ言い表せねぇほどにな。正直ヘコむぜ。
でも。そのカタチを受け継いだお前が、
無理をして『エルピス』を続ける必要はねぇだろうよ。
ましてや、謝罪なんざ、オレに言わせりゃお門違いも甚だしいぜ。
そもそも恋なんてもんは、そう簡単に止まるもんじゃねぇだろ。
それが誰の気持ちだって関係ねぇ。理屈も要らねぇ。
オレが思うに必要なのは、だ。
オレへの謝罪なんかでも、『エルピス』への謝罪なんかでも贖罪なんかでもなく。
今、お前がそいつのことを好きだと感じていて、一緒に居たいって願うなら。
『エルピス』じゃない、お前自身のことを信じてやることだろうがよ」
レイチェルもまた、恋心を抱く中で、変化してきた。
弱くなったこともあれば、逆に強くなったこともある。
色々悩んで悩み抜いて、得た答えの一つを、今一歩を歩もうとする彼に手渡した。
赦しですらなく、祝福として。
「……ま、オレ個人の考えだがな。どう受け取るかは当然、お前次第だ」