2024/12/07 のログ
■鶴博 波都 >
考えてばかりで手が止まっていた。
口元に差し出されれば、公園の鳩のように咥えて咀嚼。
「それが、心血を注いでいる音楽活動よりも大きいとは思え、わなくて──
──でも、生かされている、というのは、ありえそうな──。」
真意を悩みはすれど、確かな思惑か矜持のいずれかはあるはず。
ここでこうやって考えるのは、どちらかというとじぶんのため。
「あ、冷める前に呑まないと。」
クッキーが口に入って、ようやく意識がエスプレッソに向く。
一口だけ飲んで、ほっと一息。
「どうしてって、言うと。」
その一息も束の間。
自分の事を問われれば、再び思考の海に戻る。
「ニュアンスにも、よりますけど……
そうする環境になかった……からだと思います。」
じぶんのことを考えない。
そのことは、このものにとって色々な意味を持つ。
「ううん、少し違うかもしれません……。
説明が難しいです。」
■橘壱 >
或いは、そう。
「僕等が思うよりも、案外"普通"なのかもね」
凄い奴だったとか、歴史に残る偉人もまた一つの生命。
その人物が行った所業はかくも、人物としては"普通"なんてのもありえなくはない。
公園の鳩が咥えてるような可愛さにくすりと微笑むも、視線は外さない。
「ゆっくりでいいですよ。
僕もちゃんと"返す"つもりなので」
勿論言わせっぱなしにはしない。
思考を纏める時間は幾らでもあるはずだ。
「その環境というと……家庭環境とか?」
その思考整理の手助けだ。
質問を重ねて、景色を鮮明にさせる。
或いはトラウマを刺激することになるかも知れない。
見極めが大事だ。レンズの奥は、その機敏を見逃さないための目だ。
■鶴博 波都 >
「……ううん。」
促されながら、答えようとするものの言葉を詰まらせる。
態度からして、家庭環境に問題がある事は図星らしい。
「そう、なのかも。でも……。」
それだけではない気がする。
ただ、そう言う事にしてしまいたいと思う気持ちはある。
「……どうしでそう思ったか、聞いても良いですか?
『自分のことをそこまで考えない』って。自分より他人を優先する……
あるいは、この前話した自分の幸せ、の話のことを、言っているのかも……。」
終わる事のない思考の渦。
それらがいくつかの内の一つであるか様に、質問の意図に指向を持たせて問い返した。
『自分のことを考えなかった』彼女にとっては、問題を切り分けることすら難儀であるらしい。
■橘壱 >
「んー……」
家庭環境に問題は有りと見た。
けど、それだけなのかと自らも疑問に思う。
綺麗な天井を見上げながら纏め上げる思考。
「単刀直入に言えば、過剰なまでの奉仕精神?
僕は人のためっていうのはわかるよ。多分、そう。
凡そ社会に生きてるっていうか、大抵はそういう善意で始まると思ってるからね」
物事の凡そは善意で始まっている。
そこに人の思考や自我が交わり、
何時しか現役を止めなかったり、形が変わることもある。
指先をくるりと回し、再び彼女を見やる。
「けど、波都先輩は行き過ぎだよ。
冷静に考えても、徹夜を何度も挟むのってやり過ぎだよ。
いやまぁ、僕もやってたからあんまり言えないけど、そうだね」
「正直何処か機械めいてる。
頼まれたことをこなすけど、停止命令がないと止まらない印象。
これは本当に印象の話になっちゃうけどね。ズバリ、自我が薄いって感じかな」
「土壇場の決断力は凄かったよ。
あの時の列車の運転だってそうだ。
……ただ、それを差し引いても、ね。少なくとも、僕はそう思った」
自我、自発さの薄さ。
遠慮の無さはもとよりデリカシーの無さ。
さて、これに彼女はどう思うだろうか。
■鶴博 波都 >
自我のなさ。行き過ぎた奉仕精神。
はっきりと告げられれば、迷うことなく肯いた。
デリカシーのなさも、感じていなさそうだ。
「その通りだと思います。そう言う環境で育ちました。
身の上の話は、好きじゃないですけれど……大分変わった家庭で不自由なく暮らしていました。
けれでもその温室育ちも終わりました。新興国のひとつから、亡命に近い形で、この島に来てます。」
淀みなく、身の上を白状する。
話題を避けて事実を認めながらも、態度の中に『恐怖』はない。
「ここで、今まで受けていた教育が……間違っていたことを突きつけられました。
昔は『そういうものだと』と、漠然と教えられていました。
壱さんが指摘していることは、もっともだと思います。」
明言は避けているが、その手の出身らしい。
「常世学園に入学して貰った恩義は、あります。
なので恩を返そう、とは思っています。……奉仕精神に見えるのは、だからだと思います。
だから、自分のことを考えないのは、教育と恩義の両面です。」
鶴博波都は、橘壱の見立ての通りであるらしい。
だけれども、肝心な『恐怖』がない。
「明確に、幸せになるのが怖い、と思うようになったのは最近の話です。
たしか……考えない様にしていたけれど、異能に目覚めたころと、重なります。」
──幸福を恐怖する素地は積み上がっていたかもしれない。
だが、異能に目覚めるまではそこまで思い詰める事はなかったと告げた。
■橘壱 >
ずっと黙って傾聴している。
やはり環境であることも間違いではないらしい。
だからなんだろうか。あの時の列車の一連の出来事。
あの時の決断力は、恐らく──────……。
「……自覚していたから、ならいいんだけど、なんていうかな」
んー、少し困った思案顔。
チョコレートモカを一口含んで、気持ちを整える。
「僕は結構"デリカシーがない"とか良く言われます。
人から見たらそう思うらしい……かな。まぁ、その、
ちょっと無遠慮な感じの自覚はあったりなかったりー……」
良くも悪くもお口も態度も素直。
最近ちょっと自覚も出てきたが言われるともんにょりする。
自分が悪いこととは言え、はいそうですとハッキリとは言えまい。
「思ったよりもそういうのの重なりなのかも知れないけれど……」
じ、と碧が彼女を射抜く。
「そういうちょっとした恐怖というか……、……
怖いとか、負の感情をあんまり感じない。
確かに列車の玉砕覚悟は凄いと思うけど……、……豪胆さ?
とはちょっと違う気がするんだ。勘、ではあるけど」
「僕にはやっぱり、そういうのの欠落した機械にしか見えないこともあるんだ」
■鶴博 波都 >
「繊細な話になるので、避けていました。
……今はその教育が間違っていたと学んだからこそ、なやみます。
前と思考が違うのに、同じ考えになりました。……考えることって、難しいです。」
陰ながら、自分を変えようとする意図はあるらしい。
その結果として同じところにたどり着いてしまった辺り、
教育ではなく性分でもあるかもしれない。
「確かに壱さんは、私でもちょっとノンデリって思う所はあります。
ただ、法に抵触するものじゃないし、個性の範囲だと思いますけど……」
負い目に感じたり、問題視する様には思えない。
ノンデリは、ルールそのものには抵触しない。
けれど、ルールに抵触しなくても気分を害すことに配慮する。
それが主流である考えであることも学んではいるが、感性としては薄い。
仕込まれていた教養と礼節が、そう言うもののセーフティであることの自覚が薄い。
「その通りだと思います。……で、終わっちゃダメだから、
壱さんはなにかを、伝えようとしてくれているんですよね。」
負の感情が欠落した機械にしか見えないことで、誰かが困ることはない。
そういうものが欠落しているかもしれないけど、誰かを害することはない。
自我を消したまま、全てを肯定して他の自我を否定をしない。
そうしていれば他の自我を侵害することはない。
そうすれば間違えることはない。けど、それではダメらしい。
またひとつ、なやむことが増えた。
「……なやむことが、また一つ増えました。」
どうすればいいか分からない。
新たな課題を提示されれば、その重さを示す様に項垂れた。
■橘壱 >
「……だからこそ、アイツも言ったんだと思うよ。
『考えててくれ。自分のことも、ボクのことも』……だっけ?
自分のこともそうだし、アイツ自身自分のことを覚えて欲しい性分なのかもね」
そう行き着いてしまったからこその歪。
薄々感づいていた気もするが、やはり根底として欠落している。
行き着いたと言うが当然だ。それしか知らないならそうならざるを得ない。
性分にあっているとは言え、違うならもっと別の形になっているはずだ。
尚オタク、声真似上手の為例え顔無しでも再現度は高い。
「め、面と言われるとやっぱりちょっとこう、"ク"るな……。
……、……僕が言うのも何だけど法に触れなきゃいい、ってワケじゃないかも……」
多分、そういうところだ。
ハハ……と思わず漏れてしまった笑みは引きつっていた。
「その通り、で終わっちゃったら本当に機械だよ。
別に機械がダメってワケじゃないけど、波都先輩は人間なんだ。
だったらさ、もっとそれらしく生きないと……って、事だと思うよ?」
かなり噛み砕いた雰囲気になってしまったが、
アイツだったらもうちょっと面白い例えでもしたんだろうか。
ともあれ、人としてみれば"不健全"な形になってしまっているのも良くわかった。
チョコレートモカを飲み干し、席を立てばぽふ、と項垂れる頭に手を置いた。
「そのために僕もいるんだからさ、思い悩む必要はないよ。
確かに人が楽しければ楽しい……は、わかるけど、自分だけの楽しさってのはさ。
きっと、誰もが持ち得るものだと思うよ。きっと、それを見つけてないだけさ」
深く受け止め過ぎなだけだ。
きっと思うよりもそれは簡単で、もっと気兼ねないなものかもしれない。
そういう壱の表情は柔く、はにかんでいた。
「そのためにはそうだなぁ、やっぱ遊び?
プライベートにそういう潤いが必要かも。
……あ、ごめん。そろそろ僕行かないとね」
「機体のメンテも丁度終わるから、様子を見ないと。それじゃあね、先輩」
「必ず一緒に遊びに行きましょう」
それだけを告げ、自らの翼の元へと向かう。
人に寄り添いはせど、待ちはしない。
追いかけてこい、追ってやる。
鋼鉄の翼で世界へ羽ばたくために、今日も自らの戦場へと向かうのだ。
■鶴博 波都 >
「みんな、どこかで自分のことを知ってほしい──
──あるいは、そうする必要があるから、そうしている──」
鶴博 波都は、自我を出さずとも生きていける環境で過ごしていた。
鶴博 波都は、自我を出せずとも仕事が出来る環境に身を置いていた。
ひとつの解として、自我を出す必要がなかったことを意味する。
分かり易く言えば、心身の負荷を感じなかったことを意味する。
特定の環境下でしか生きていなかったため、
本来あるべきものが欠落していても問題なく過ごせていた。
機械の耐水性に欠陥があれど、欠陥が露呈しない環境なら正常に動くのと同様の理屈。
実際にその環境にに身を置かなければ、欠陥による問題は発生しない。
そもそも、鶴博 波都は人間だ。無理をすれば歪みが出る。
「……そう言われても……。」
少なくとも、今の鶴博 波都は心身の負荷を抱えている。
そして、それを伝えることが出来なかった。
項垂れた頭に、人の手が乗る。
父親程無骨ではないが、母親程柔らかくもない、少年の手。
それらほどではなくとも、覚えのある感触にほんの僅かな安らぎを得た。
「わかりました。あんまり悩み過ぎないようにします。
言っていることは、むずかしいですけれど……。」
自発的に考えることをしなかった彼女にとっては、むずかしいこと。
悩み過ぎない、という言葉に縋って思考を切り上げた。
「そうですね。災害が収束するまでは、壱さんは戦い続ける気がしますから……」
整備が終わり、再び鉄火場の汚染区域に向かう橘壱の姿。
それが自由な翼のように思えて、ほんの少しだけ羨ましく思う。
「未開拓地区の汚染災害が終わったら……─緒に遊びに行きましょう。」
座ったまま、自らの戦場へと向かう彼を見送った。
ご案内:「委員会総合庁舎 カフェ」から鶴博 波都さんが去りました。
ご案内:「委員会総合庁舎 カフェ」から橘壱さんが去りました。
ご案内:「委員会総合庁舎 ロビー・総合案内」に十七夜月 一縷さんが現れました。
■十七夜月 一縷 > 今日も様々な委員会の人員、或いはそこに手続きなどで訪れる一般学生や異邦人達で賑わう庁舎。
ロビーの一角にあるソファーで、ほぼ黒ずくめに近い色彩で統一した女が静かに腰を下ろして佇んでいる。
「……相変わらず、こちらの世界の文字は難しい…まだまだ慣れるのは時間が掛かるかな。」
サングラスで隠れた目元が見るのは、例の汚染区域に関わる出向任務の辞令書。
本来、鉄道委員会の中でも鉄道公安局――鉄道警備隊に彼女は所属している。
鉄道委員会の管轄下に於ける、風紀委員会のような業務を担当する部署だ。
最も、仮に犯罪者を確保しても、概ね風紀或いは公安に引き渡すのが通例である。
(…封鎖ゲートへの物資輸送の補助…成程、中には一切関わらない感じ、か。)
汚染区域の中も興味はあれど、そこまで強者でもない自覚はあり、ならば上の判断は適格かと判断。
■十七夜月 一縷 > 物資輸送の補助――『運輸部』の管轄下だから、あちらの生徒の指示に基本従えばいいだろう。
補助とはいっても、輸送関連の知識や技能は自信が無い。せいぜい、輸送中の襲撃に備えた護衛役か。
「…まぁ、妥当だろうね…何せ新米だし。」
一息。辞令書を折り畳んで懐に戻しながら、片手に持っていた缶コーヒーを口に運ぶ。
元々、女が居た世界にはコーヒーという飲料は無かった…が、この苦みの利いた味はそんなに嫌いじゃない。
「…同じ鉄道委員会とはいえ、あちらの迷惑や足手纏いにはならないようにしないとね…うん。」
自分に軽く言い聞かせる独り言。人によっては何というか…そう、縄張り意識みたいなのもあるみたいだから。
女にはそういうものは特に無いけれど、そういう感じの人は元居た世界にも居たから、変な話だが共通点なのだろう。
■十七夜月 一縷 > まぁ、余所者の自分があまりそこを気にしても仕方ない。
上からのお達しなので、こちらは粛々と従って仕事を出来る限りこなすだけ。
(…支度はもう済んでるし、辞令も受けたしやり残しは無い…筈だけど。)
強いて言うなら、未だにこちらの世界の文字の読み書きに苦戦していて、成績がいまいちな所か。
この前も追試を受ける羽目になったし、委員会の業務よりもそちらの方が苦心する。
缶コーヒーを飲みながら、ロビーから周囲をサングラス越しに見渡した。
時々、同じ鉄道委員会の者と目線が合ったりすれば、小さく会釈を返す礼儀は怠らず。
■十七夜月 一縷 > 取り敢えず、用は済んだし小腹も空いたので庁舎をそろそろお暇する事にした。
ソファーから立ち上がり、傍らに置いていた2本のそれぞれ刀と太刀くらいの長さがある機械仕掛けの刀剣を手に取る。
腰の後ろにそれを斜めに差せば、外套を颯爽と翻してそのままここを後にする。
ご案内:「委員会総合庁舎 ロビー・総合案内」から十七夜月 一縷さんが去りました。