2025/01/30 のログ
麝香 廬山 >  
「─────伊都波 凛霞」

席を経とうとした矢先、それを静止するかのように凛然とした声音
先程の悪趣味な微笑みは何処へやら。真面目な表情で、橙の視線が彼女を射抜く。

「まぁそうだね。キミと切ちゃんがより親密になった事は確認出来た。
 このままキミを弄り倒すのも面白いけど、帰られたら"本題"が話せない」

「此れは恐らく、キミも興味がある話題だ。
 キミの妹の異能について、少し話したい事がある」

座り直してくれるかな、と促した。
話題性としては十二分だと自負している。
それがさらなる悪意の一歩であろうと、何であろうと。
廬山自身も一つ、"姉妹"には言っておきたい事もある。

「妹本人だと話にならない可能性もあるからね。
 キミ自身も、その可能性はあるがまぁ、影響力はさしたるものだと思いたい」

「……所でキミは妹……いや、自分たち姉妹の関係を"客観視"してどう思う?」

伊都波 凛霞 >  
「………」

立ち上がろうとした所作は、彼の言葉に静止される。
見やれば、此方を射抜く様な視線に気づく。その雰囲気も、声色も、直前とはまるで違っていて…。

……今度は、深い溜息だ。

「──なんで最初からそういう感じで話してくれないんです?」

とりあえずごもっともな一言は言わせてもらおう。
性分だと返されたらそれまでなので、そう来たらもう深くは突っ込まない。

「…どこで悠薇の異能のことを?」

食いついた。
…というよりも、食いつかざるを得ない話題だった。
それは、少女の中では『終わった話』の筈だったからだ。

「……正しく客観視なんてできないよ。本人だもの。
 何を言ったって、憶測になっちゃう。──憶測でいいの?」

「───、…正反対な姉妹だ。っていうのは、よく言われる」

正直、あまり口にはしたくない。
自分はそう思ってはいないし。内からと外からでは見え方も異なるものだ。
けれど──黶の位置までまるで鏡写し。…そう揶揄されていることは、知らぬ存ぜぬで過ごすことは出来なかった。

麝香 廬山 >  
「言ったろう?趣味だって」

自らが面白いように他人に振る舞う。
それが悪意であろうと善意であろうと関係なしに、だ。
実際、此れもその過程であれどそうした方が"ウケ"が良いからしているだけだ。

「ボクは常世学園(ココ)に来る前には医者でね。
 患者(ヒト)の事を調べるクセが付いてるのさ。
 研究機関にあった資料を、ほんの少し読ませてもらったのさ」

そう、妹自身に興味持った日から色々調べた。
そして、偶然にもその資料は残っていた。単純な話だ。
手に持っていたグラスを置けばじ、と彼女を見やる橙の瞳。
わずかに緩む口元には、先程のような嫌味っぽさは存在しない。

「別に憶測でいいけど、そうだな。ごめん、ちょっと聞き方が悪かった。
 関係性。そう、その関係性をどう思っているか、って聞きたかったんだ」

「例えば仲は良いけど、何か違和感があるとかさ。
 実はこう見えて上っ面だけ……とかね。キミが見るに、妹との関係性はどう見える?」

正反対な姉妹なんてものは、見ればわかる事だ。
大事なのはその関係性の在り方だった。それを本人たちがどう思っているのか。
廬山にとって、特にこの質問の答えで意味合いは変わってくる。
どう答えるのか、口元で両手を合わせて少女を期待するように見ていた。

伊都波 凛霞 >  
趣味、まあ予想通りの答え。
なのでそれ以上の追求も言及もなし。

ただ…真面目な空気感で紡がれる言葉には耳を傾けてしまう。
少女自身が真面目なタイプでもある故、苦手な相手であっても、真摯に向き合ってしまったのは良かったのか、悪かったのか…。

個人情報(プライバシー)とかどうなってるの…っていうのは、一旦置いといて…」

研究機関…?
異能は、消失したって──。

胸中に湧いた疑問を一度諌めつつ、向き直って。

「違和感…?」

どうだろう──妹は、自分を慕ってくれている…と感じているし、思っている。
自分だって、妹を何よりも大事に思っているし…掛け替えのない存在だ。
以前は…、妹が誇れるような、立派なお姉ちゃんにならなきゃと勇んでいた。
でも今はそれもなく、妹は妹として、自分が成長してゆく道を歩んでくれたと思っている。

「──どうなんだろう。
 あの子も今は成長の過渡期だもの。姉としても妹としても、
 少しずつ流動的に、変わっていっているとは思ってる、けど…」

答えに窮する。
当たり前の、ありきたりな姉妹…そう思っているだけに。

「……それと、あの子の異能と何か関係が…?」

麝香 廬山 >  
「成る程。ある意味で"らしい"回答だ」

その日をきっかけに共に変わっていこうと決めた姉妹。
生憎と、当時の彼女たちを知らないのでおいそれと物を言う事は出来ない。
幾ら廬山でも曖昧な事に対して何かを言及するような真似はしない。
軽く手を開いて閉じて、思案を巡らせていた。

「……此れは所感だから、怒らないで聞いてほしいな。
 ボクから見れば、それこそ"信奉者と神"のような関係性に見えるな。
 信奉者(いもうと)(あね)を崇拝し、(あね)信奉者(いもうと)に慈悲を与える」

「その間には、決定的な搾取関係が存在しているのにね。
 キミ達自身が望んだ関係性だとしても、ボクから見れば歪な姉妹だな、とは」

此れは"見た者"だからこそ言える言葉だった。
境界線の遥かに向こう側。終わったはずのモノがそこにある。
故に成り立ってしまっている関係性。廬山は言葉を選ばない。
否、患者相手なら尚の事、言葉に偽りを付けるはずもなかった。

「単刀直入に言おうか。悠薇ちゃんの異能は、まだ機能している。
 直接この目で見たからね。自分の意志か、天秤の作用かはきっちりと傾いていた」

「それこそ、平行にはなるまいと一方向に……そうだな。
 "違和感"を感じたことはないかい?例えば……そうだね」

一呼吸おいて、人差し指を立てる。

「本来なら姉妹揃って覚えているような事を、どちらかは忘れている。
 お互いの趣味趣向はおいておいて、何故か同じ人物を同時に仲良くなれない。……まぁ、重要なのは……」

キミがこの手の違和感に気づけているかどうか、なんだけどね

それこそ彼女にどれだけ作用しているかの証明になるのだ。
さて、どう答えるか。出来れば気づいてくれていたほうが早いのだけれど……。

伊都波 凛霞 >  
じっと、言葉を聞く。

……悠薇の異能が、機能してる?

挙げる例え──そのどれもに覚えがある。

自分と親しい人を、あまり好きではないということ。
夏輝のこと、知っている筈なのに覚えてすらいなかったこと──。

「……そう、だとしたら──」

口をついて出る、そんな呟くような言葉は、
その"違和感"を、指摘によって初めて気づいた。
そう肯定するに足る、反応。

「…悠薇は、そのことを?」

"天秤"が機能していることを、知っているのか──それとも。

麝香 廬山 >  
どうやらの今の今までその違和感にさえ気付けなかったらしい。
その表情と呟きを見る限り、そういうことなんだろう。
廬山が浮かべたのは、苦笑い。但し、彼女を嘲るものでは無い。

「……末恐ろしい異能だとは思うよ。
 家族と言えど、他者にも強い影響力を及ぼす異能だ。
 意識せずとも、そうでなくてもね。ある意味、お姉ちゃんっ子で良かったのかもね」

被害が広がらない、という意味ではそうだ。
この異能が進化したらどうなるか、興味はあるが本題ではない。

「……ボクの異能も結構なものでね。
 今は大部分を制限されてるけど、ある程度の"境界線の向こう側"を見ることが出来る。
 有り体に言えば、他人の中身や心情、異能状況も見えるし弄る事も不可能じゃないかな」

だからこそ、この双眸はその景色を覚えている。

「─────秤の上には、何も無い
 けれど、ずっと片方に傾き続けている。
 悠薇ちゃん自身の言葉を借りるなら、そう……」

「"そんな事はどうでも良くて、それでも良い"……って、事らしい」

「と言っても、それさえも本人の意思か"天秤"の影響かは判断しかねるな。
 それだけの意識無意識に影響するタイプの異能疾患だからね。
 ……ともかく、ありのままに伝えはしたよ。彼女の言葉を、容態をね」

それは大事な姉妹であるからこそ伝えなければいけない事だ。
腐っても元医者だ。此れを疾患と見るなら、大事な家族だからこそ話しておかねばならない。
少なくとも此処までで廬山は嘘を吐くことはしない。
この性悪には、確かに誠実たり得る部分、矜持は存在しうるらしい。

伊都波 凛霞 >  
天秤が機能しているのなら。
妹が知っているそれを、姉である自分が知ることは…気づくことはない。
───けれど。

秤に何も乗っていないのに、傾いている?
彼が何をどう知覚し、視たのか、言葉から全てを探ることは出来ないまでも。
そこはきっと、重要ではない。

す、と。小さく頭を下げる。
きっと彼の異能でなければ視覚できることではなく、
きっと彼でなければこうまで踏み込んだことを口にはしてくれなかっただろうから。

「ガサツなんて言って、ごめんなさい。
 ──貴方が教えてくれなかったら、私…、きっと、ずっと気付けないままだった…」

それが天秤の影響だったとしても。
この世で最も、ある意味では自分よりも大事に思っている存在の変化に気づけていなかったなんて。

「でも、どうして……?」

姉妹に興味がある、と彼は言った。
でも、それだけで──?
普段の言動だけでは計り知れない部分がある、それくらいは、解っていたけど…。

麝香 廬山 >  
ふ、と表情を崩したのは何時もの微笑みだ。
人当たりの良さそうな笑みとその裏に隠された悪意か、或いは────……。
何にせよ、どことなく堅苦しい雰囲気は消えていた。

「ガサツかはともかく、謝ることでも礼を言われるような事でもないよ。
 キミのボクの評価は間違いではないからね。言ったろ?ボクは悪趣味だって」

机に頬杖を付き、じ、と凛霞を見る視線は楽しげだ。
もし冷静さがあるのであれば気づけるかもしれない。
軽薄で、悪意を以て人と接する男ではあるが、視線は真っ直ぐであり、
そこにはキチンと個人と向き合う意思が存在している。

「……ボクはね、ヒトが輝く瞬間が好きなんだ
 人生の決意、転換期、或いは人生の何か重要な瞬間。
 それはヒトにとっては些細な事の可能性だってある」

「そういう瞬間を見たいんだよ、ボクは。
 物語の語り手(Story teller)っていうのは、ボクの理想像だ」

ヒトの人生は膨大だ。
その物語の瞬間に一切の無駄なものなどありえない。
どれも尊ぶべき瞬間であり、そんな人々の物語を観測する存在でありたい。
そう語る廬山は純粋で、屈託もなく、そして────……。

「だから、震えるヒトの背中は押すし、必要なら敵にだってなる
 ボク程度の悪意で折れるなら、所詮はその程度のつまらない事だって思ってる。
 まぁ、勿論その過程でボク自身が殺されることだって別にどうだっていいことなのさ」

そう、楽しいものが、面白いものがみたい。それだけなのさ

同時に確かに歪んだ悪意もそこには同居している。
ある意味では究極の享楽主義者。自らの生命も勘定にしか過ぎない。
本音であるからこそ、これは"廬山なりの警告、線引きでもある"。
彼女のような善意ある少女が、この程度で絆されないように、ということだ。

「……これは、キミ達姉妹の問題だ。
 見てみたいんだ。この"天秤"をどうするか。
 キミ達姉妹の物語を、ね。だから興味を持ったんだ」

「それで、これからの事は少しは考えれそうかい?」

伊都波 凛霞 >  
「──、飽くまで『今回は』そうしたほうが楽しそうだから───」

「‥本当にそれだけで動く人なんですね。
 ──監視役の人に同情を禁じ得ないですよ」

思わず自分の額に手をあてて溜息が漏れてしまう。
善意もあり、悪意もあり…。
確かにこんな人が野放しでは、秩序や風紀なんてあったものじゃない。
監視対象、その一級に名を連ねているのだから当然だろうけれど…。

「ちなみにその悪趣味、直す気あります…?」

打って変わって、向けるのは少々怪訝な顔。
勿論、慰安旅行での一件もあり、前回の一件もあり、
彼が面白そうだと思えば悪意をも平気で向けられる人物であることは理解している。
更生プログラムを前進とする監視対象制度は、構成の見込みがまるでなさそうだと判ずれば───。
…少し、迂闊な質問だったかな、と思い直す。

「…ごめん。この質問には答えなくて大丈夫」

簡素な答えでも、何か重要な掛け違いに発展する可能性を危惧した。

「追影くんとのこともそうだけど…、悪い方向に煽らないで欲しいっていうのは本心ですからね…?
 やっと彼も…少しずつ、人間らしい感情を持ち始めたところ…やっとこれからなんですから」

「今日のことはお礼をいいますけど。余計なことはしないようにしてください」

お願いしますね、と年を押す。
……これで素直に聞いてくれる相手なら、首輪はつけていないのだろうけど。

ストーリーテリングの過程で自身の死を厭わないストーリーテラーなどいない。
それを本心で思っているのなら、やはり目の前の彼は───

立ち上がる。
席の椅子を、几帳面に元に戻して。

「そうですね。…私達姉妹だけの問題で済むならいいんですけど

「…きょ、今日はありがとうございました。まずは…妹と話してみようと思います」

彼にお礼を言って頭を下げる。
…ちょっと言い淀んだのは、きっとまだ蟠りがそれを邪魔していないわけではないからだろう。

麝香 廬山 >  
「そうだよ?今までそうやって生きてきたしね。
 監視対象(コレ)でいるのも、今はその方が楽しいからさ。
 ……まぁ、でも最近は少しつまらないな。何か新しい刺激が欲しい所だね」

自由奔放、まさに好き勝手生きてきた。
その危険性と邪智の証が制御装置(コレ)
それさえも楽しみに変えてしまうような男なのだ。
自身の制御装置(アクセサリー)を軽く撫でれば、首を傾けて思案仕草。

「……天邪鬼の自覚はあるけどそうだな。
 そうした方が良い、その方が楽しいと思える人、或いはきっかけばあれば、かな」

「ああ、ごめん。答えなくても良かったね」

なんて、わざとらしく肩を竦めた。
確かに廬山は現状自ら更生する気概は見受けられない。
事実、その結果が"留年"という形で現れている。
但し、廬山自身も変わろうとする意思は一応存在するのだ。
後はきっかけ次第ではあるが、果たして────……。

「ふふ、切ちゃんね。大丈夫だよ。ボクは彼を応援してる。
 その証拠に、ホラ。さっきも言ったでしょう?ケツは叩いてあげた、ってね」

勿論それは、飽く迄その方が面白いからというだけに過ぎない。
第一級監視対象。何故彼がその席に治まり続けているかを知るべきだ。
その監視員が何故入れ替わりが激しいのかは、その性質を知ったからなのかもしれない。

「そうならないなら、それでもいいさ。
 面白くなるなら、なんでもね。必要なら手を貸してあげるよ」

その方が面白くなら、是非にでも。
橙の双眸を細めればうん、と頷いた。

「お礼は結構さ。診察料は、その内結果として見れるだろうしね」

お大事に、と軽く片手を振ってみせた。

伊都波 凛霞 >  
彼の悪意ばかりを目にしていたけれど、こういう一面もある。
そういったことが続いたとはいえ、判ずるに早計ではあったのかもしれない。
…なんて考えていると、また前のようなこともあったりしそうなので、隙は見せないようにしなければ。

そんなことを考えつつ、手を振る彼にもう一度浅く頭を下げて。

個室から出て、ドアを閉める。
流石に仲良くお食事、なんて気分にまではなれなかったけれど、彼の印象は少しばかり和らいだ…のかもしれない。

──とは、いえ。

「(悠薇と話さないと…かぁ)」

どう切り出したものか。
ヘンに聞き出そうとしても…な感じもする。
悩み多きもまた若者の特権。向き合うべくして、歩を前へと進めよう。

ご案内:「委員会総合庁舎 バー「御諸山」」から伊都波 凛霞さんが去りました。
ご案内:「委員会総合庁舎 バー「御諸山」」から麝香 廬山さんが去りました。