2024/06/21 のログ
ご案内:「学生通り」に先生 手紙さんが現れました。
先生 手紙 >  
「ンじゃ、あとはこっちでやっとンで」

正規の手順を踏み、あちらこちらと堅苦しい場所をハシゴし、漸く二枚の『学生手帳』――オモイカネ8の使用許諾が降りたのだった。

いや、まァ一個ありゃ充分なンだけどね。面倒ごとは二つ目に因るところが大きい。……それも今しがた終わった。

「さ、て、と。どっかで息抜きすっかァ」

メインストリートだ。学生であれば何をするにも一通り事欠かない。どこか適当に休める場所を探すとしよう。せっかくなら開拓していない部分を。

新しい靴を履いた時に、通学路以外を選びたくなるような。そういう、気まぐれ全開で、てくてくと歩く。

行き交う人々よりも随分と足は遅い。目的地を定めることすらしていないので、ふらふらクラゲのようだった。

先生 手紙 >  
ピコン。と導入したての端末が通知をする。

……搭載されたAIが気を利かせたらしい。案内に従って歩く。

「……なンだこりゃ」

結界?それともただそう在るだけなのか。メインストリートの通り沿いに、今まで――不覚にも――意識すらしたことが無かった店舗が存在していた。どうやら喫茶店らしい。

艶のある木製のドアを握る。林檎の実を連想させる、硬くも瑞瑞しい感触だった。開く。

ちりん、りん。控えめなカウベルの音に出迎えられたそこは、確かにサ店だった。

二つだけあるテーブル席には窓があり、大通りが見えている。

あまりにも他人事のように――ともすれば膜を一枚隔てた異空間にでも踏み入ってしまったかのような、静かな店内。

内装は『普通』の喫茶店の範囲を出ない。木製の磨かれた床。五つあるカウンター。アンティークカップがカウンターの後ろ、格子状の棚に一つずつ、飾りと実用を兼ねて座っていた。

先生 手紙 >  
端的にいえば。あまりにも堂々とした隠れ家的カフェだった。

客の姿は自分の他にない。マスターと駄弁る感じもしなかったので、四人掛けのテーブルの、片側のソファに座る。と、わずかに身体が沈む感覚――やわらかい。

メニュー表は簡素なプレート一枚に収まっていた。

コーヒーのホットかアイス
カフェオレも同上
紅茶はミルクかレモンかストレート。……いや、銘柄が載っている。値段は少々イカついが、このブランドならむしろ安いくらいだ。よく仕入れたなァ。

それからココアもホットかアイス。
ついでとばかりにオレンジジュース。炭酸の類は置いてないようだ。

それからレモンゼリーとコーヒーゼリー。メニューに書かれているのは、それで全部だった。


「えー、ホットコーヒーを」

水を出されたついでに注文する。

……なにか、マヨヒガめいているが。その辺は普通のコミュニケーションだった。

先生 手紙 >  
――既視感。この店に訪れたことがあるか、ではなく。同じようなヤツに心当たりがあった。まあ、関係のないハナシだろう。

一般客として来ている。ここが違反部活の営業でないことを祈るばかりです。

『おまたせしました』

かちゃん、と棚から出勤したカップにコーヒーが入って届けられる。……いい香り。

ほんの一口だけ手を付けて、あらためて『生徒手帳』――オモイカネ8くんのカスタマイズをしよう。

基本的な面倒事は事前に済ませてある。後は自分の使い勝手がいいように。スマホを弄るようなものだった。

先生 手紙 >  
「……WWか。いいの使ってンなァ」

作業はひと段落。ボーンチャイナのカップを傾ける。

味は不可もなく、と言ったところ。どこまで行ってもこれは嗜好の話で、喫茶店はトータルコーディネートだ。コーヒーの味がドンピシャでなくとも、この雰囲気はいい。独りで居るということに、空間が咎めない。

『仕様書』の頁をぺらぺら捲りながら、取り留めのない考え事。

(――はッ。恋する思春期じゃあ、あるまいし。)

ええ。この機種こんな機能デフォで入ってンの?おっかねえ。

ああ祭祀局にも一回顔を出しとくべきか。

先生 手紙 >  
――まあ、ささやかなポイントとして。

「どこも狭いってのは、時代だなァ」

上着の内側から取り出すような場所ではなかった。

健全な店だ。潔癖と言ってもいいかもしれない。

…………そのくせ、いくつもの秘密を内包する。

それがこの喫茶店に対する所感だった。

ご案内:「学生通り」から先生 手紙さんが去りました。