2024/06/26 のログ
ご案内:「学生通り」に緋夜鳥 子音さんが現れました。
■緋夜鳥 子音 >
「うぅん……どこやろか……」
放課後の学生通りを彷徨う女生徒が一人。
あっちへうろうろ、こっちへうろうろ……しきりに周囲を見回して、何かを探しているように見える。
人の往来の激しい時間帯ということもあり、それ自体は別段珍しい光景ではない。
道行く人々は彼女に目もくれず、寄って声を掛けようにも……といった様子だ。
「こら困ったなあ……」
独特のイントネーションが混じった口調で、女生徒は溜息を吐いた。
ご案内:「学生通り」にヴィシアスさんが現れました。
■ヴィシアス > 「やっ……失礼。君、お困り、かな?」
学生通り、往来の激しい時間帯。
何処へ行くともなくぽつんとしている黒セーラーの彼女。
しばらくしても、誰が声をかけるでもない。
思い切って飛び出して来たのは。
一見してわかるだろう、明らかに人と違う。ツノ2本生えた強面の巨漢だった。
少女と、巨漢。…この島ではさほど珍しい事でもないかもしれんが。
妙に声をかけるには思い切りがいった。
「道に迷ったのなら案内させてもらうよ。或いは、探し物か、尋ね人か。いうだけ言ってみてくれたまえ。」
とりあえず。
生来の世話焼きな気質故だろうか。
誰も声かけないもんだから放っておけんというわけで。
馴れ馴れしく言葉を投げかけた。
■緋夜鳥 子音 >
「うん……?」
不意に声を掛けられ、そちらの方を向いた。
まず目に入るのはその威容。
彼我の身長差は頭ひとつ分を優に超える巨躯を前に、必然と見上げるような構図になる。
すると視界に飛び込んでくる、禍々しいと形容する他ない二本角。
女生徒が気弱な人物であったなら、この時点で悲鳴を上げていたかもしれない。
「あらまあ、助けてくれはるん?
世の中まだまだ捨てたもんやあらへんなあ!」
しかし、彼女は鬼を前にして怯えるどころか、渡りに船といった様子で嬉しそうに手を合わせた。
それから提げていた学生鞄を開き、一枚の紙を取り出して見せる。
「ええ加減に学生手帳の新調せなあかん言われてなあ、お店を探しててん。
なんでも……おもいかね? とかいう新作が出たらしいんやけど……あんさん知っとる?」
その紙には《先端電脳技術研究部》の開発した学生手帳の最新モデル『オモイカネ8』の広告が掲載されていた。
正規の学園生であれば、街の至るところで宣伝を耳にしたことがあるだろう。
異邦人といえど、入学に際して説明くらいは受けているかもしれない。
どうやら、彼女のお目当てはその『オモイカネ8』らしかった。
■ヴィシアス > 「……!」
一瞬。
緊張。
「…ほ。ああ、…怖くなかったのか。良かった…」
やった、怖がられてない。
凄い声かけるのためらったけど声かけて良かった…。
まずそう思った。
叫んで逃げられなかったあたり、この学園ではこうした怖い容姿も日常なのだろうか…?
して。
見せてくれた紙をのぞき込む。
大分かがんで見つめるツノの男。
これは今常世の話題がコレでもちきりのデバイス。
「オモイカネ8…!…これは、実は私も……持ってはいないんだ。古いものでね。
名前だけは、小耳にはさんだ。とても、便利なものだそうだな。
持っていると道に迷わなくなると聞いている。そして、ありとある料理が知れるともな。」
なんだかすごいAIが搭載されていると聞いた。
一番印象的だったのは、高性能なAIの話。
ヴィシアスには機械や技術がよく分からない。が、それは凄い事だという事がよく分かる。
…欲しいが、手に入れるには大きな壁があるのだ。
「そして…これは超人気商品、だ。
案内しようか?そこを歩いていけば恐らく―――すぐに、見つかる。だけどね…。」
…あまりにも。人気。
朝五時に起きても、長蛇の列ができる程の人気。
恐らくすぐに売られている場所は見つかる。
だが。放課後、この時間帯。
学生は皆自由になる。
そこにあるのは長蛇を通り越したような、長い長い大蛇の列。
いやでも目に付く人だかりが…想像できる。
■緋夜鳥 子音 >
「なんや、気にしてはるのん?
確かにおっかない見た目してはりますけど……うち、仕事柄そういうんは慣れとるんよ。
祭祀局は祓除課の、緋夜鳥 子音いいます。あんじょうよろしゅうな、鬼の兄さん」
強面の男がほっと胸を撫で下ろす姿は不思議と愛嬌がある。
口元に手を添えて、くすくすと鈴を鳴らすように笑った。
「そうなんよ。いろいろ便利やいうて、えらい人気らしいやろ?
うちも小難しい機械はよう分からんから、ずっと昔のやつ使うてたんよ。
はいてく社会にいつまでも置いてけぼり喰らっとるわけにもいかんっちゅうわけでなあ」
現代っ子でありながら、こちらも機械には疎い様子。
しかし祭祀局員としての業務にも関わる機能の存在などもあり、いよいよ手を出さざるを得なくなってしまったというわけだ。
眉根を下げて、しょんぼりとした様子でそう語る。
「あ~……行っても買えへんかもっちゅう話?
でも買わへんと困るんも事実なんよなあ……」
そんな最新機種が入手困難であろうことは想像に難くない。
どうしたものか、と肩を落として途方に暮れている。
■ヴィシアス > 「えっ……な、な、な、なにーっ、祭祀局!ふ、祓除……そうだったか。道理で。」
そりゃあ……鬼も悪魔も、慣れっこだろうな。
逆にこっちがちょっと驚いたくらいだ。
「ひよどり、しおん。―――なんとお呼びしよう。子音でいいかい?」
「して。名乗られたなら名乗るが礼儀か。
私はヴィシアス。…鬼ではなく、悪魔。契約の悪魔だ。
まあ、まさに君らがよく知ってるだろう、悪魔の一族というわけだね。
あっ……低級低俗な連中と違って、ちゃんと双方の合意の元契約する悪魔だよ。
病院で働いているんだ…よろしくね。」
あくまで、安全性が保障されてることは言っておこう。
確かあそこは悪魔を祓う凄まじいパワーの持ち主の集まりだったはず。
目の前の黒セーラーの彼女、子音もきっと例外では、なかろう。
「―――奇遇だな。私も実は機械や技術はさっぱりわからん。
そこで映っている…オモイカネ8の宣伝ムービー。あれもどういう仕組みなのか全くわからん。」
ちら、と街中に掲載されている映像モニターに、怪しい色合いの赤黒い目をやりつつ。
「うむむ…」
子音、しょげている。
…正直私も欲しい。
3回くらい行列見て諦めてたんだ。
…よし!
「だが、…最初に声をかけた私は最善を尽くすべきだよね。
……ともに、長蛇の行列に挑むというのはどうだい?
一人では、退屈なうえに行列中に食事や所用も済ませないだろうけど。
二人で交代しながら待てば、多少はマシだし、時間は増える。一体、何時になるかはわからないけど、
流石に明日までかかるとはならないはず。」
……そうあってほしい。
如何に契約の悪魔でも行列には敵わぬ。
■緋夜鳥 子音 >
「んふふ、あんさんのがよっぽど驚いてて面白いわぁ。
緋夜鳥でも子音でも、好きに呼んでくれたらええよ。ヴィシアスはん」
……人名なら横文字でも流暢に発音できるらしい。
それはともかく、悪魔と聞いて一瞬だけスッと目を細めたものの―――
悪意などは感じられないと判断したのか、すぐに温和な雰囲気を取り戻した。
彼女が纏っているのはただの制服ではなく、祓除課の戦闘服としての側面も備えた対穢装束。
敵意を見せれば、いつ牙を剥いてもおかしくはないと言えよう。
「最近の『てれび』はどんどん薄くなってくわりに機能は増えてて、凄いもんやねぇ」
まずテレビで一括りにしてる辺りから時代錯誤が窺える。
きっと仕組みを説明されたところでさっぱり理解できなさそうだ。
「あら、手伝うてくれはるん?
うちとしては、またとない提案やけども……大した礼もできひんよ?」
単純に付き合わせてしまう申し訳無さもあったが、それ以上に。
仮にも契約を軸とする悪魔なので、対価の面も気にしての問いかけ。
■ヴィシアス > 「…詳しくはない。だが、悪魔祓いのエキスパートだと聞いているからな。子音も、そうだよね…?
何かにお困りだった君が、まさか…悪魔たる私の方が怯える存在だとは思うまい。」
――あまり意識していなかったが。
よくよく傍へ寄ると、明らかに聖なる何かを纏っているのが分かる。
仮に牙を剥かれたら、どうなるだろう。消えるのだろうか。
少女に怯えるツノの巨漢…傍から見れば少し滑稽かもしれないな。
「…あぁ。この世界のテレビとは、当初は部屋を大量の鉄板で埋め尽くして、漸く動いたと聞いている。
それが――あれほど薄くなり、街中に溢れかえる、とはな。……今では手で持てるサイズが当たり前、か。
魔法じゃないんだろう、しかも。いったいなんなのだろうね。」
首をかしげる悪魔。こちらも、理解はざっくりと、教科書で読んだ程度の事しか知らぬ。
当時の白黒写真のコンピュータールームとカラーの現代式携帯端末の比較写真を思い浮かべている。
「それなんだが。私も…欲しかったんだよね。
3回くらい並んでみようかと思ったんだが、やってられなくなってしまった。
大した礼は、なくてもいいさ。
…ん?
…ああ!悪魔からの施し…契約が気になるなら、書を交わそうか。
後々でつまらぬ言いがかりをつけない、奪わない、という印に。……どうだい?」
この悪魔は契約を重んじる。
それも随分と古臭いやり方―――契約書を書面で作って、だ。
礼を気にするのは、悪魔からの施しを受けた者は、それ以上に奪われる、
なんて基本中の基本の事を知っているから、だろうか?
であれば、やはり対悪魔の知識はダテではないようだ。
■緋夜鳥 子音 >
「んー、まぁ……当たらずとも遠からずって感じやねぇ」
より正確に言えば悪魔に限った話ではないのだが、伝われば何でもいいところはある。
いたずらに怯えさせたいわけでも、力を誇示したいわけでもないので、解釈はお任せとしておこう。
少なくとも危害を及ぼさない限りは攻撃するつもりはないという意志表示として、柔和な笑みを湛えている。
なお往来からは結構な注目を浴びているが、どこ吹く風だ。
「科学の力って凄いんやねぇ……」
全ては近代文明が生み出した科学技術の賜物。
時代が進むにつれ技術も進歩していき、いつか魔術を凌駕する日が来るのかもしれない。
ついて行けるのだろうか、この世界のスピードに。
「なるほど、利害の一致ってことやね。
律儀な悪魔もいたもんやなあ……ほな、それでいこか。
うちからは後で通り沿いの美味い茶店でも教えたるっちゅうことで」
悪魔との契約、なんとも物々しい響きだが……
きちんとした手順を踏めば、契約は己を守る盾にもなりうる。
あくまで対等な協力関係とするために交換条件も付けて、同意した。
■ヴィシアス > 「んっ……ああ。その、行こうか、案内は、する。」
流石に…ちょっと視線が痛くなってきた。
逆に子音は…まるで動じない…肝が据わっている。
柔らかな表情なのに凄い肝が据わっている。
歩きながら話を続けよう。そう思って横に目をやりながら、オモイカネ8を目指す。
すぐそこだ。
ほどなく。…嫌でも、目につく行列が目に入る。
最後尾……何時間待ちだろうか。
ちょっと理解できない。したくない。
人気アトラクションでもこうはならんぞ。
「契約を飛ばして相手からモノを奪う行為は、人であれ、悪魔であれ…天使や勇者であっても、許される事ではない。
私はそう思っているからね。
そうか、茶店か。なじみがないが、この縁だ、礼として有り難く受け取るとするよ。…どういう時に行くんだい?」
くるり、と指先を回す。
今の言葉を書き加えようか。
「……では、子音、君の名を書き給え。
ああ、筆は不要だよ。指を動かし虚空に描けば良い。
それぞれの書面を一つずつ持つ。この書面は後から改竄は出来ぬ。契約を違えることも出来ぬ。」
古臭い手つきで、虚空に浮かべる文字列。
巨漢の前には小さく見える、魔力のみでできた契約の書。
そこに、ちょっと指を動かして、「ヴィシアス」と書かれた横へ名前を連ねてくれるだけで良い。
後は出来上がった魔法の書面をぴらりと持つ。紙のような質感。
書いてくれたらさぁどうぞと手渡そう。
■緋夜鳥 子音 >
「よろしゅう頼んます。
お店の場所が分からへんと、並ぶ以前の話やしなあ」
子音ひとりではスタートラインにも立てやしない。
大柄な男の後に続く少女の図だが、奇異の視線を感じると……
なにか? とにっこり微笑みかけるだけで蜘蛛の子を散らすように捌けていった。
「皆あんさんくらい聞き分けのええ子やったら、うちらの仕事も楽なんやけど。
茶店いうんは文字通り、お茶と茶菓子が買えるところで……
疲れた時は甘ぁいお菓子でも食べて、のんびりするのがええんよ」
和を重んじる雰囲気も心を落ち着けるには最適だ。
なんて話をしながら歩いていくと、行く手に見えるは長蛇の列。
果てが見えない……肝心の店は屋根すら見えてこない。
そんな無間地獄にも似た光景に、これから共に挑んでくれる相手との契約。
受け取った書面にきちんと目を通し、問題が無ければ白く細い人差し指を走らせて。
宙に描くには勿体ないほどの達筆で「緋夜鳥 子音」と書き記すだろう。
■ヴィシアス > 「……子音。君は強いね。
君のような子と相対する悪魔がいっそ哀れに思えてきた。」
この肝の据わりぶり。
にこやかに微笑みかけてくれるだけで道を開ける。
優しく、柔らかなのに明確に強さを感じられる。
おかげでとても、歩きやすい。
「低俗な悪魔は血の気が多く、聞き分けも悪いだろうからね。
……疲れた時。のんびりしたい時……なるほど。参考にしよう。
……ん?茶だけ売ってるわけではないのか。茶菓子…ははあ。そういうのもあるのか…」
名前の響きから、色んなお茶が並んでるコーナーみたいなのを想像していたようだ。
そこからか、となるくらい疎いらしい。
「―――契約は成った。緋夜鳥 子音。悪魔ヴィシアスの名において契約を違えぬことを誓おう。」
虚空に書いた文字は、どういうわけかしっかりとその綺麗な筆跡が具現化する。
手渡される書面も、質量を感じられよう。
契約内容は、たったの2つ。
・ヴィシアスは、オモイカネ8を手にいるまで付き添う。
・緋夜鳥 子音は、美味い茶屋を教える。
以上。
これだけの内容だが…最後まで問題がないか、契約書を見ているな…?
悪魔の扱いとしては正しい。
「やっぱ、強いね…?子音。」
油断ならない子だ、本当に。
「……さて。見てくれ。あちらの札が、3時間待ちだね。
3時間―――辿りつく頃には、夜になるな。」
祭祀の少女と、悪魔の巨漢。
挑むは人で形成された無数の大蛇。行列の折り返しが幾つあろうか。
最後尾へ付く。
「では…軽食と、立ち疲れへの用意をしておくといい。長い戦いになるぞ。」
■緋夜鳥 子音 >
「うちらの仕事、ナメられたら終いやしな?」
人ならざるもの―――時には神霊をも相手取るのが祭祀局。
そんな隙の無さが立ち居振る舞いから滲み出ているのだろう。
「うちのお気にの店、紹介したりますから。
きっとヴィシアスはんも気に入ると思いますわ」
美味い茶店を教える、の文面を指先でなぞりながら上機嫌に。
そうして契約は成立し、ここに祓使と悪魔の数奇な縁が結ばれた。
だいぶ日も傾いてきたとはいえ、まだ少し暑い西日を避けるように番傘を差してくるくると回す。
「ほな、ちょいと近くのコンビニ寄ってこか。
先駆け頼むで、ヴィシアスはん。あ、なんか食べる?」
小さく首を傾げて、傘の陰から笑顔を覗かせるのだった。
■ヴィシアス > 「ああ……道理で。」
悪魔って聞いて、ぎらついた眼したのだってそうだ。
契約書見るのだってそう。
……悪意はないけど、悪意への警戒はしっかりしてる。
つけ入られないようにしてるんだってのが、よく分かる。
…いっそ美しくすら見えてしまう。
「私も美味い物は好みだからな。楽しみにしている。」
夕暮れから、夜にかけていく、日没の時刻。
「ん、ああ。―――何にしよう。
軽く食べるなら、ええと。茶屋の話をしていたら抹茶味のクリームパンが食べたくなってきた。
……では、並んで位置をキープしておこうか……?」
さっきまで、最後尾だと思ってたけど。すぐに人だかりが後ろからくる。
だいだいいろの空が、未だに照り付けよう。
傘に翳った笑みが眩しくすら、あった。
「あぁ……いやしかし子音にだけ買い物にいかせるのもよくないような…」
悪魔の癖に、妙にまごまごしている。