2024/07/03 のログ
ご案内:「学生通り」にイヴマリーさんが現れました。
イヴマリー > 七夕の季節、灯篭代わりに学生街を飾り立てる灯り。
安全性や取り回しの良さを理由に太陽光電池を搭載した火を使わない、
メンテナンス不要の吊るすだけの簡単な吊るし提灯。
周囲を明るく照らす事を目的とせず、立てられた笹の周囲の空間を演出するための物。
それらしさを演出するための、飾り(デコレーション)
その一つが、不規則な発光を繰り返した後に機能を果たさなくなったという。

(━━不具合箇所確認、セル内部にホットスポット……焼き切れていますね)

その交換が、式典委員会を通じて与えられた私の仕事。
いっそ生活委員会の方の領分にも思えますが……新人らしくまずは雑事をというのが他の方の言伝。
テスト期間とも重なる時期ですので、適任が他にも居なかったというのも理由の一つかとは思われますが。

いずれにせよ指示されたことをこなすだけです。

イヴマリー > 受光パネルだけを差し替えて回路を繋ぐような煩雑な事をする必要も無く、
交換品と取り替えて破損品を指定回収所に捨てに行く、ただそれだけ。

交換品と一緒に用意されていた脚立は諸藩の事情があって私には使用できませんが、
幸い手を伸ばせば届かない高さでもありません。
道路の脇に伸ばされたワイヤーにかけられた提灯の火袋を外して、
連なる他の物を害さぬように、そっと。

薄く積もった埃をどければ僅かに日に焼けた表面のガラス。
ヒトの肉眼では判別の付かないであろうマイクロクラックだらけの太陽電池。
今年から始まった物でもないそうですし、何年も使いまわされてきたのでしょう。
統一された規格の軽量で入手性の高い材質のボディは、悪く言えば安く量産された使い捨てのライトに他なりません。
動かなくなったガラクタ、用途を果たせぬ要らない無機物。
ただ━━

「……お疲れ様でした」

下校時刻も過ぎた頃。
人通りも少ない通路の端で一人。
その行為が意味為さない事を事を告げるエラー通知と共に、ポツリと発声する。

イヴマリー > ……なぜ?
役目を終えた無機物を処理するだけの事。
単純かつ簡単な指示の中で、思考ルーチンにノイズが混じって、既定外の行動が出てしまった。

(ライブラリにアクセス。
思考ルーチンのベースデータのエラーチェックを実行してください)

無機物を労う事の必要性は━━
役目を終えた道具(私たち)の最期は━━

【現行ver1.03.22に自動変更;オートセーブ@が行われた箇所によりデータベースと齟齬が発生しています】
【変更発声前のメンテナンスログからバックアップが可能です】
【データログ保存日時:6/1】
【━━上書きしますか?】

イヴマリー > (……いいえ)

エラーは無くすべき物とされますが。
私の思考ルーチンは、学園での学習を前提に敢えて前時代的に生成されています。
本来従者型としてリリースされているシリーズよりもずっと。
知らない事が多くて、分からないが多い。
データに無い事をエラーとして認識してしまうのはこの身体の性ですが、
このエラーは、変化はきっと私に望まれていた物かも知れないと。
そう、思うのです。

私たち(道具)の性能は規定されています。
声をかけたとしても稼働寿命やバッテリーの駆動時間が変わるわけではありません。
それでも━━。


取り替えた照明のスイッチを入れて。

「それでは、頑張ってください」

ヒトから述べられた感謝の言葉や労いの言葉で発生したデータの揺れを、私は嬉しく感じたから。
ヒトのようであれと使命を受けた私もまた、それらに倣ってみるのです。
返事は当然ありませんが。

自己満足とは、このような事を指すのでしょう。
えぇ、これはなかなかどうして足りずとも満ちる物がある気がします。

ご案内:「学生通り」からイヴマリーさんが去りました。