2024/09/10 のログ
ご案内:「学生通り」に橘壱さんが現れました。
橘壱 >  
学生通り 某日 某時間。
すっかり日もくれかけた夕暮れ時。
苛立ちを隠せないまま、少年は浮かない表情で歩を進めていた。
よもや、仲良くなった矢先その友人の姉と喧嘩するとは思うまい。
勿論、自らの落ち度があることは理解している。
それでも、少年にだって許せない事がある。

「何が大人の都合だよ、体よく言ってるだけじゃないか……。」

深刻な問題だとはわかっている。
ただ、少年が思うよりも根深いものだった。
人には触れられたくない部分だってある。
少年はそこを理解しきれなかった部分もある。
だとしても、譲れなかった。クソ、と苛立ちに任せて思わず小石を蹴飛ばした。
カツン、と街灯にぶつかり虚しく音が響く。

ご案内:「学生通り」に伊都波 凛霞さんが現れました。
伊都波 凛霞 > 「橘くーん!!」
伊都波 凛霞 >  
学生通りに響く声。
振り返れば、そこには十数分前に言い合いになっていた少女がいる。
否、いるだけじゃない、地を蹴り長いポニーテールを棚引かせ、なかなかの速度で少年へと迫っていた。

両手にはミセスドーナツの凛霞セレクトな下げ袋がダブル。

『自分が悪いんだから、謝らないと』

そう思った少女の行動は、余りにも速かった。

橘壱 > 「は???」
橘壱 >   
思わず素っ頓狂な声が漏れた。
なんか今聞き覚えのある声がしたぞ。
しかも今、一番出会いたくない相手だ
思わずばっと振り返る。何か見える……。

「…………。」

もう一度見る。
おいなんかもうちけーぞ。早すぎない???
思わずぎょっと表情が引きつった。
少年が取った行動は……。

「うわっ。」

うわっ。余りにもドン引きしたような声。
からのもうダッシュだーーーーーッ!!
一般人の走力!一般的見ればまぁまぁ速い。
そう、一般的には……ネ……。

伊都波 凛霞 >  
彼が逃げようとする。
気まずい、その気持はわかる。
──でも都合で話をしたんだ、今更。
自分の都合で、ちゃんと謝罪を───。

より、姿勢を前傾に──

「待って!私、君に謝らないと───」

伊都波 凛霞 > 「いけないんだから──!!」
伊都波 凛霞 >  
神速。
そう形容するのが余りにも正しい。
恐らく彼の知るAFのオーバーブーストよりも疾く、その少女は少年の目の前へと立ちすがった。

「はぁ、はぁ……っ……ごめん!橘くん…私、謝らないと…!!」

橘壱 >  
とにかく撒かなければ行けない。
今は合わせる顔だって無い。
というか、昨日今日じゃなくて本当についさっきの出来事だぞ。
どういう情緒してるんだよ、頭おかしいのか(戦慄)
いや、でも全力で逃げれば大丈夫なはず。
彼女の身体能力の高さのデータは知っている。
最悪、AFを使えばどうということ……チラッ……。

橘壱 > 「うわー!?妖怪ターボババア!?」
橘壱 >  
ノンデリ発言もそりゃ飛び出る。
だってなんか速い。疾いってレベルじゃないぞ。
Fluegel(フリューゲル)の最大速度と同等…いや、それ以上出ている
正しく暴風、疾風、舞い上がる風圧に足を取られそうに成りつつ
両腕で前面をガードしながら足を止めてしまった。

「いやもうなんでさっきまで後ろにいたのに前いるんだよ!
 僕が逃げてる側だったんだけど???どういうこと???」

そりゃまあ追い抜かれたんだけど、突っ込まずにはいられなかった。

伊都波 凛霞 >  
驚かれてる、仕方ない。
妖怪とかババア呼ばわりは…今は置いとく!

「──ごめんなさい!」

少年の前に立った少女、凛霞は真っ直ぐに腰を折って、深くその頭を下げる。

「橘くんの気持ち、言いたいこと、ちゃんと理解ってたのに。
 あの件に感情的に踏み入るのは私はどうしてもできなくて……」

頭を下げたまま、そう言葉を続け、そして…。

「それを理解ってもらおうと思って、余計なこと、たくさん言っちゃった…。
 怒るのも無理ないよね…だから、ちゃんと謝らせて──、ごめんなさい…!!」

頭は、上げない。
彼の言葉を待つ…。
…でも彼が逃げたら、追いかける(本気)

橘壱 >  
彼女のことだ。
案の定というべきか、まさか本当に謝りに来るとは思わなかった。
確かに互いに落ち度とする部分はあり、功罪半ば。
お互い様と手打ちにするのがベストなのかもしれない。
しかし、男の子と言うのはヘンに意地っ張りだった。
しかもそれが、昨日一昨日ならまだしも今日の出来事だぞ。

「…………。」

情緒ジェットコースターがすぎる。
どんな顔で、どんな言葉掛ければいいんだよ。
何を今更……いや、今更っていうは今日なんだけど。
本当になんにも言えねぇ、何とも言えない顔してる。
え、どうしよう。行動力の化身ってレベルじゃないよ。
行動力にでっけぇおっぱい生えてるってこれ。

だが事実誠実なのはそうだ。
かといっても、彼女の言葉を忘れたわけじゃない。
あの速度、走っては逃げれない。それなら……。

「……急いでるんで!!」

突き放す言葉を放つと同時に、トランクを放り投げ、"跳ぶ"。
数秒にも満たない一瞬で、トランクがひしゃげその全身を蒼白の装甲が覆い尽くした。
鋼の機人。AFの姿。即座にバーニアが青白い炎を拭き上げ
急加速で夕暮れへと飛んだ。横がダメなら上だ。
流石のあの速力でも、上には昇ってこれまい(フラグ)

伊都波 凛霞 >  
高次予測(Solid Jayroscope)

トランクを手にした瞬間には。

あ…逃げられる。
神速の脳神経伝達がそう教えていた。

さすがに空を飛ばれては追いかけられない。
──そう思ったに違いない!

「なん、って、逃げるのー!!」

「ちゃんと謝って、仲直りしよう!!」

その声は、少年橘壱のすぐ下から聞こえてくる。
──パワードスーツに瞬間、制服の袖から射出したモノフィラメントワイヤーが絡み、飛行するAFにしがみついていた。

落ちたら死ぬかな。
死んだら謝れない…だから落ちない。
行動力の化身。即断即決。
伊都波凛霞の良いところであり、ヤバいところでもある。

橘壱 >  
軍用のAssaultFrame(アサルトフレーム)は通常空戦兵器以上のスピードを持つ。
加速も、最高速も、火力も、並の兵器では太刀打ち出来ない。
正しく次世代に向けた最新鋭の兵器だ。
伊都波凛霞の能力はプロファイルデータ上知っている。
所謂超人に該当するような異能者だ。だが、空は飛べない。
此れが、兵器としての利点。そう考えていた時期が私にもありました。

「えっ!?ちょっ!?」

ガコン、脚部に掛かる重量。
バカな、あの一瞬で反応して引っ掛けたのか。
謝る謝らない以前に怖くないのかよ…もう困惑せざるを得ないし
何よりも此処までされたら折れざるを得なかった。

「わ、わかった!!わかりましたから!!
 幾らなんでも無茶はやめましょうよソレ!!」

全身のバーニアを駆動しながら滞空(ホバリング)
ワイヤーを手繰り寄せて抱きかかえればゆったりと下降。
幾ら超人とは言え生身の人間。丁重に扱う。
とりあえず、人のいない高層ビルの上に着地すれば彼女を下ろした。
そして、程なくしてひもどけるように中から少年の姿も出てきた。

げっそり。凄い疲れた顔。
そういうふうにもなるよ。

「……それで、なんですって?」

とりあえず一旦ね、一旦リセットで。

伊都波 凛霞 >  
真っ直ぐすぎる少女、凛霞にとっては。
このまま彼と亀裂ができたままでいることのほうが…落下するよりも遥かに怖い。
身体全体にかかるG、押し潰されそうになって顔を顰めて、それでも耐える。
こんな気持ちで数日?数週間?過ごすことなんて出来ない。

結果、根負けしたのは…少年のほうだった。

AFに抱きかかえられ、ビルの屋上へと着地。
…さしもの完璧超人と揶揄される彼女も、高速起動のGはさすがに応えたのか、ややふらつきながら片膝をつく。

「──君に、謝らなきゃって思って…気づいたら、身体が動いてて」

これだ。
一度感情的に動こうとすると無茶を平気でする。
それが理解っているからの鉄壁の理性…少年の言葉を突っぱね続けた理由の一つでもある。
その両手に下げられた手提げ袋は彼も見覚えのあるミセドのもの。しかも二つ。

少し息を上がった呼吸を落ち着けるようにして、立ち上がり。

「…本当にごめんなさい」

あらためて、深く深く、頭を下げる。

橘壱 >  
機械を通してでもGに耐えられないというのに
幾ら超人とは言え生身の人間。流石に応えるものがあったらしい。
こうなるなんて、火を見るより明らかだったろうに。
気まずさと何とも言えなさと、そして呆れ。
あらゆる感情が綯い交ぜとなった何とも言えなさ。

「いや、それでも限度ってものが……まぁ、そう、そうか。
 そういうことでもあったんですね……まぁ、はい……。」

嘘だろ、と思わずにはいられない。
本当に行動力の化身だった。
思い立ったら吉日なんて言葉もあるけど、早すぎる。
これじゃあ福の神は過労で死んでしまうよ。

まぁでも、敢えてそう振る舞った理由はわかった。
こうなるんだろう。多分、あそこで頷いたら
弟切 夏輝をそりゃもう虱潰しどころか穴つぶしレベルで探すんだろう。
だから抑え込んでいた。大変なことになるのは、目に見えていたから。
ともかく、理由はわかった。そこは納得しよう。

「……頭を上げてくださいよ。謝る理由もないんじゃないですか?
 確かに不用意に踏み込んだ僕が悪いんです。
 僕の言葉は必要でもないし、対等でも無いんでしょう?」

確かに不用意なのは自分だった。
だが、それが必要ないならそこまでの話だ。
だから、話を打ち切った。謝る必要だってなにもない。
顔をしかめたまま、じとりとその頭を見やる。

伊都波 凛霞 >  
──頭をあげる。
少し眼が潤んでいるが、涙は見せるわけにいけない。
こんなところで、女の武器とも揶揄されるものを見せるのは唯の卑怯な行為。
自分への情けなさ、彼を傷つけたことへの悔い。
色々な感情が織り交ぜになって、それを発露させようとするけれど。
誰に何を言われようと、此処は我慢をする。

「──説明するのが難しくて、君が優しいから。
 心配したら、絶対に私の力になろうとする…っていうことが伝わってきて。
 でもそれは出来ないことで──、私は大丈夫だって思ってもらうしかないと思っちゃったから」

ごめん。と言葉を続ける。

「だから、君の言葉を封じるために対等という言葉を使ったわけじゃないの。
 少し君の言葉が強引にも思えて、私以外の人にも同じように…って思ったら、不安だった。
 だから、ごめんなさい」

今更言い訳にしかならないけれど、弁明としてはそんな程度のもの。
これで彼が聞き入れてくれなければ、聞き入れてくれるまで頭を下げる。
そう、今もまた立場は対等じゃない。
聞き入れて欲しいのが私で、それを許す立場が、彼だ。

断られれば、受け入れ大人しく身を引くべき。
それが大人の対応だと理解しているから。
彼にもそれを伝えたかっただけだったが、彼はそう取ってはくれなかった。
今度は、伝わるだろうか。

「…許してもらえるなら、何でもする」

比喩じゃない、彼の言葉に従う意思がある。
そうして、目尻を拭い、真っ直ぐに鈍色の視線が交差する。

橘壱 >  
無遠慮に言葉をぶつけた自覚はある。
感情的になって、一切の遠慮はしなかった。
今思えば売り言葉に買い言葉ではあっただろう。
だからって、そこまで傷ついていたのか

「(今にも泣きそうじゃないか。それに……。)」

潤んでいても、視線は真っ直ぐ。
おまけに言葉には強い意志がある。ハッタリじゃない。
なんでも、と来たか。昨今のエロゲですら聞かないぞ。
余りの勢い、実直さ、優しさにはたじろがざるを得なかった。
いや、実際に困った。困り果てていた。
何とも言えない不貞腐れた表情。
いやだって、初めてだよ。
喧嘩したその日どころか数分後位に仲直りしに来る人。
気持ちの整理がつかないどころの話じゃない。

しかし、身を挺してまで謝りに来たのなら受け止めざるを得ない。
少年はそこまで冷酷にはなれなかった。
何せ、喧嘩の発端は結局のところ善意が始まりなのだから。

「……まず、その"何でもする"っていうのは、幾らなんでも言わないほうがいい。
 僕ならともかく、ちょっとでも魔が差したら、何されるかわからない。」

「いかなる場合でもあっても、安売りするような真似はよしてください。」

漸くと合わせた碧の視線。
まずはそこを訂正しよう。
彼女ほどの女性、下手をすると何されるかわかったものではない。
気まずそうな表情のまま、とりあえず冷静に
なんとか言葉を一つ一つ、紡ごうとした。

「仮に僕が変なこと要求したらどうするんですか、全く。
 ……落ち着いてください。さっきほど怒ってないです。」

「でも、まだ腑に落ちたわけじゃない。
 確かに僕が不必要だったんでしょう。
 それは別にいい。そんなにいけないことでしょうか?」

「人を助けようと、力になろうとするのは。」

その通り、誰にだって言う。
少年の根っこは善性だ。
取り繕うものがない今、本来の行動規範が表に出ているだけ。
余計なお世話。それならもうそこまででいいじゃないか。
なのに、わざわざ謝りに来て。こう問いただされることだってわかっていただろうに。

伊都波 凛霞 >  
「あ…ご、ごめん…。
 ……でも橘くんはそういうこと、言わないでしょ?」

何でもする。
その言葉を誰にも使うわけでなく。
或る意味目の前の相手を信用した上で使ったのだと、伝える。
信頼、しているのだと。

安売りしてはいけない…というのはその通りかもしれない…肝に銘じよう。

「違うよ。不必要だった、なんてことない。
 私はまだ、…彼女の起こした事件を受け止めきれていないから。
 ……どういう感情で処理していいのか、わからなくて…」

「…自分の中でまだ答えが出ていない。
 そんなことに、君みたいに優しい後輩を絡ませるわけにはいかないと思った」

言葉のトーンは落ち、視線もまた、下へと下がる。
彼女が殺人鬼として追われている現実が受け止めきれていない。

「まだ、誰かの力を借りる段階じゃない…そう思ったから…」

感情のブレがあったのは確か、我慢しているのも確か
でもそれくらいなら、"私は大丈夫だから"そう伝えた。
余計なお世話なんて言葉は…棘が過ぎる。
遠回しに伝えたことが、きれいな言葉を並べ立てはぐらかすように聞こえたのは明らかだ。
彼は、余りにも真っ直ぐすぎる。

橘壱 >  
それには確かな信頼があった。
彼女とは何度か邂逅したうえで思うところがある。
距離感の近さ、他人を不用意過ぎるくらいに信頼する節。
そして、感情と計算の二律背反。行動力。
不本意ではあるが、伊都波凛霞という少女がどんな人物かより知れてしまった。

「…………。」

掌で額を抑えて、深い溜め息が漏れた。
かなりデカい。我ながら相当呆れているようだ。

「結局そういうことじゃないですか。
 だから言ったんですよ、僕は……、……いや、そうだな……。」

そうだな、対等じゃない
さっきと立場が逆になっただけだ。
それこそ今更彼女を責め立てて何になる。
そんなものはただ憂さ晴らし。それこそ自己満足だ。
それこそ言いたいことは数あれど、それこそ口に出すだけ野暮だ
何より、自分が不用意であったことには違いない。
それもそうだ。友人が殺人鬼かもしれない。
そのショックは計り知れないだろう。
だから、取り繕っていたんだ。
それを感情的になった上でさんざん傷つけたのは、自分だ。
気まずさに唇を噛んだが、それでも目を逸らすわけにはいかない。

「……いえ、先輩の気持ちを無視していいたい放題言ったのは僕だ。
 それに、初めに無遠慮に踏み込んだのも僕だし、謝る事じゃないです。」

「謝るなら、僕から先なのに、謝らせに来てしまった。
 本当に申し訳ないとは思っています。まぁ、頼りないのは事実でしたので……。」

この謝罪は絶対だ。
だからまずは、頭を下げた。
そのうえで、聞かねばならない事もある。
じっと、碧の双眸が鈍色を見据える。

「……僕が頼りないのはさておき、先輩ってこういう時どうしてるんです?
 それこそ、相談する相手とかいないんですか?もしかして全部、一人で抱え込んでるんですか?」

伊都波 凛霞 >  
頭を下げる、彼。
慌てて静止しようとしたけれど、彼が謝りたいという気持ちを無碍にするのも、違う。
彼は私の謝罪を受け入れてくれた。
私も、受け入れなければ"対等"じゃない。

「…難しいね。言葉って」

こんなにも意思疎通に便利なツールは他の動物にはない筈なのに。
でもこうやって、衝突して、互いのことをより知れるのは…結果論であるが良いことだった。
怒りもまた感情の発露。
それを知ることは、相手の理解に繋がってゆく。

「頭、あげて」

声色は優しげ、いつもの彼女だ。
そして顔をあげると、目の前に差し出されているドーナツの手提げ袋×2

「甘いもの、好きなんだよね?
 あのチョイス、すごく良かったから。
 今度のは私のセレクトで、お家に帰ったらみんなで食べて」

確か寮住みだったはず。にこりと笑って手渡そう。
しっかしコーヒーに入れたクリープの量なんかも見ているのだ。
彼が甘党というなら、より理解し合える筈の仲間である。

「───…以前はそういうこともあったかな。
 最近は一人で無理そうな時はちゃんと周りを頼ってる。
 一人でできることは、一人でするけど、無茶はしない。そんな感じにしてるよ」

「でも、自分自身で悩んで答えを出すことを忘れちゃダメだとも思う。
 周りに頼り切りっていうのも、少し格好悪いしね」

苦笑を浮かべ、頬をかく。
極論で片付けることは出来ない。ケースバイケース…。
一概には言えない、難しい問題なのだ。

橘壱 >  
静かに頭を上げた。
言いたいことは色々ある。
けど、それを直接言ってはいけない。
それこそ彼女を傷つけてしまった後出し
同じ轍を踏んでしまっては意味がない。

「……思ったことが口に出てしまう僕にも問題があります。
 別方向とは言え、悠薇先輩にも言われたばかりなんですけどね。」

良くも悪くも性根は素直で実直であり、嘘は吐けない。
それが結果として悪い方向に、ノンデリ気質も相まって運ばれる事もある。
今回もそういうことになる。ともかく、先ずは好意であるなら受け取ろう。
なんか自分の時よりもやたら多い気もする。倍返し理論か?
まぁ、此れこそ無碍に拒否はできない。ぺこりとお辞儀し、両手に受け取る。

「どうも……えっと、まぁ、はい。頭使うんで。
 寮のルームメイトも喜ぶと思います。」

特にイヴ辺りは喜びそうな気もする。
一人で食べきるのも勿体ないし、皆にもシェアしよう。

もう一つの懸念点は解消された。
そこまで頭でっかちでもないらしい。
だからこそ、悔しさを覚えた
出会って日も浅いのは当然だが、頼りにされるような人間ではない。
そう言われたんだ。色々言ってはいるが、結局はそこ。

でも、今更感情的になることはない。
もっと雄弁にそれを訴える方法を知っている。

「……それなら別にいいですけど、何とか言って僕はそう思われているわけだ。
 先輩には悪いですけど、余り気分がいいものじゃない。何より、"気に入らない"。」

そう、負けん気の強さは変わっていない。
今も昔も、かつて玉座にいたもの。努力で勝ち得し者。
碧の双眸に、初めてあった時のギラついた色が混じった。

「僕はアナタからすれば"何も出来ない非異能者(ぼんじん)"だ。
 周りと比べても劣る自覚はある。……ですので、最初に言ったことは有効ですよね?」

何でもする。ほかでもない彼女がそういった。
なら、頼むべきことは一つだ。

橘壱 >  
「……全部が落ち着いてからいいです。
 事が落ち着いたら、僕と戦ってください。
 但し、実戦形式。殺すつもりで来ていただきます。」

その実力はわずかでも身を以て体験した。
だからこそ、受けてもらわなければ無い。
自らの有用性。同時に、今の自分が"どの位置"にいるか、見定める必要がある。
レンズ越しのギラついた目線のままだが、笑み自体は今のように柔らかい。
それは同時に、有無を言わせないような"圧"を生み出した。

「……何でもしてくれるんでしたよね
 自分で言ってくれたことなら、守っていただかないと。」

伊都波 凛霞 >  
眼を丸くする。
思わぬ提案だったからだ。

恐らく、本気だろう。
少し、驚いた顔をしていたが、きゅ…と唇を結び、表情が真面目なものへと変わる。

「…引き受けるよ。ただ……」

一拍を置いて、改めて向き直る。
あくまで真剣に、少年と向き合う。

「橘くんと戦う上での、本気。
 それ以上は出さない…それでいい?」

言葉の意味は、伝わるだろうか。
…伝わらないかもしれない、だから、補足をしよう。

「私と本気で、実戦形式で、"殺すつもり"で。
 …禁じ手なしだと、君はAFを使うこともできずに死ぬ」

はっきりと、明確にそれを口にする。
恐らくそれは、彼が望むところではないだろう。

「飽くまで実戦を想定した模擬戦まで。
 ただ、その上で私は容赦をしないし使えるものを全部使う。
 …君のAFの戦力を分析すれば、当然だとも思う」

「……それでいい?」

改めて、問おう。
後輩からの挑戦状へ、真っ直ぐに向き合う。

橘壱 >  
「……要するに本当の実戦形式だと、ってことでしょう?
 流石にそこまでしてくれとは言ってないし、どうしようもうないですしね。」

非異能者であり、超人でもない。
この強さは全て機械(マシン)ありきのものだ。
暗殺までありにしたんじゃ模擬戦の意味がない。
成る程、彼女の武術のルーツはそこまで行くらしい。
ぞっとしないな。そこまで考えてはいない。
現代的思考で言えばちょっと極端な思考に苦い笑みを浮かべた。

「本当に操縦士(パイロット)業をやるなら、それも想定すべきなんですけど
 まだちょっと鍛えている最中なんで、勘弁してください。」

知っている。
自らが所属する企業、そのトップたる操縦士(パイロット)
生身で狙われようと、殺されないあの強さを。
ある意味目指すべき到達点だがまだそこは頂だ。
道半ばの少年には荷が重い。

採算確認するような彼女に、強く頷いた。

「構いませんよ。元々そのつもりで挑んだんだ。
 僕だって、加減する気はない。」

「……まぁ、それはそれとしてもう帰りましょう。
 その様子だと、もう仕事は終わったんでしょう?
 家まで送っていきますよ。一応、男なんで。」

いるかどうかはさておき、と冗談めかしに一つ。

伊都波 凛霞 >  
「ちなみに…」

そっちの才能は私より悠薇のほうが上だよ」

天秤の話を知っているなら、理解が出来るに違いない。
盤外戦術、暗殺を含めた人を確実に始末する技。
この伊都波凛霞という少女が、そんな技に"適する筈"がない
天秤は揺れ動き、その才能を──妹に与えたのだ。
天秤が止まった今も、姉の才能がそのまま根付いているということは──そういうことなのだ。

「おっけー。私もそのつもりでいるよ。 …え、送ってくれるの?」

悠薇に、妹にそれを見られてもいいんだろうか…と内心思うも、
真っ直ぐな彼のこと、きっと本当にまだ、妹に対する感情はピュアなものなんだろう。
そう結論づければ、之まで通りの、柔和な笑みを浮かべて。

「じゃ、お言葉に甘えて。 襲われたら、守ってね♪」

そんなことを告げつつ、彼の隣に並び立つだろう──。

橘壱 >  
「…………天秤、か。」

その話は聞いている。
確かに相反するものに傾くなら納得がいく。
そう聞くと本当に細かい所まで行き届いてるらしい。
中和とは聞いたが、機能を停止したとは聞いていない。
何かの拍子に起こり得るなら、今回のももしかして──────……。

「……ん?」

でも、そう考えるならどちらかは貧相な体つきになるのではないか
だかどちらもデカいしいい身体している。
もしかしてそこだけ気を使ってくれたのか。
そこに作用しなかった天秤、ちょっと感謝だ。

……とまぁ、横切った邪念は軽く首を振って追い払った。
何時もと変わらない人懐っこい彼女の笑み。
但し、言葉にはちょっと苦笑い。

「……はい。」

寧ろこれ守られる側じゃないか。
そんな事を思いながら、帰路へ
正確にはまずビルを降りるところから始めるのだった。

ご案内:「学生通り」から橘壱さんが去りました。
ご案内:「学生通り」から伊都波 凛霞さんが去りました。