2024/10/13 のログ
ご案内:「学生通り」に武知 一実さんが現れました。
武知 一実 >  
「し、必要なもんは大抵揃ったな……」

良く晴れた休日の学生通り。
バイトも無く例によって例の如く暇を持て余していたオレは、ふと思い立って買い出しに学生通りへと来ていた。
今回買ったのは、釣り具一式。 浜辺に釣りに行った時は、バイトで世話になった魚屋の店主から借りたもんだ。
……どうせなら時々は暇潰しに釣りをするのも悪くない、と思えたので、今日こうして自分の釣り具を調達したというわけだ。

「案外、値が張るもんなんだな……いっぺんに揃えようとすっと」

予想外の出費だが、以前校舎で怪異を討伐した際の特別報酬があったのでギリギリチャラだ。
あとは食費を少し抑えれば良い、はず、だ。

「……ま、オレの食費は割と簡単に抑えれっけど……」

問題は、オレ以外。
最近やたらと腹をすかせた奴に遭遇するので、その分の食べ物をストックしておく為の費用が地味に痛い。
まあ、別にわざわざそんな事しなくても良い訳だから、自業自得っちゃ自業自得だが。

武知 一実 >  
「後は適当な求人情報誌貰って……何か漫画でも買ってみっかな」

実のところスマホをあまり使わない所為か、昨今の流行りには全くついていけていない。
なので学校の休み時間にダチと話していても、ほぼ話についていけていない。
何のためにスマホを持ってるのかと訊かれ、「週一で島内のニュース見るため」と答えたら、変な生き物を見るような目で見られた。
……正直、解せねえ。

「つーかよ、オレの異能の事情知っててスマホの事とやかく言って来やがるから腹立つんだよな」

雷――電気を扱う異能である以上、精密機器にとってはオレは不倶戴天の仇となる。
しかも自分の意思とは関係なく、電気が漏れるとあれば尚更だ。
なので自分のスマホの使用は勿論、あらゆる家電の使用は極力控えている。
しかも自分で発電出来るので電気代はほぼ0円だ。
……何の自慢にもならねんだけどもな。

武知 一実 >  
「ま、たまにゃ本屋に行ってみんのも悪かねえ」

ひとまず学生通りを釣り具片手に歩いて行く。
時折すれ違う生徒が物珍しそうにオレを見ては、気付いたオレと目が合って何故か謝りながら去って行った。
……別に謝らなくても良いっつのに。

「そんなに目つき悪いか、オレ……」

毎朝鏡の前で洗顔ついでに目尻が下がる様に解したりしてみてはいるんだけども。
中々効果は出て来ない。そりゃそうだ、15年物の人相なんざそうそう簡単に変わらねえ。
……まあ、だからと言って半ば日課と化した目元マッサージを止める気は無いけども。

「えーと、本屋は確かこっちだよな」

食べ物屋の立ち並ぶ通りを進んで、右に曲がれば古本屋があったはずだ。
あそこならオレの興味を引く様な奇書があるかもしれない。
そう考えるオレの鼻を、香ばしい醤油の香りがくすぐる。目を向けてみれば焼きモロコシの幟。
……焼きモロコシかあ。そろそろ時季外れになりそうな気もするが、今度買って見るのも良いかもな。
今は無理。焼きモロコシと釣り具持って本屋に突撃かますとか、読書の秋への冒涜だろ。

武知 一実 >  
焼きモロコシ……焼きモロコシなあ
リリィや御津羽に買ってやったらどんな顔するだろうか。
そもそもあの腹ペコ女子ーズは、また腹減らしたりしてねえだろうな?
そんな事を考えながら焼きモロコシ屋の前を通り過ぎて、ふと足を止める。

「……オレって、こんなに他人の事考えるような奴だったか?」

目の前で困ってる様に見える奴が居りゃあ、そりゃ手を貸したり知恵を貸したりする事はある。
当人の居ない場であれこれ考えるってのは、そんなにして来なかった気がするんだが……。
“お人好し”という単語が頭の中でネオンサインに彩られて明滅し始める。クソ、うぜぇ、止めろ。

「……はぁ~。これも他人と関わりを持たずに育った弊害みてえなもんか……?」

或いは。
オレに一切関心を持たずに研究施設へと売り渡した親へのせめてもの意趣返しか。

「………チッ」

せめて前者であってくれ。

舌打ちと共に心の内でそう呟きながら、オレは本屋へと向かう足を再び動かし始めたのだった。

ご案内:「学生通り」から武知 一実さんが去りました。