2024/12/15 のログ
ご案内:「学生通り」に伊都波 凛霞さんが現れました。
■伊都波 凛霞 >
「…ふうっ…さむ……っ…」
秋空も遠く雲の向こう。
すっかり寒空が広がり北風が吹く季節。
首元のチェックのマフラーを口元まで持ち上げて、白くなった自分の吐息に冬の訪れを感じる。
そんな帰宅中の学生通り。時間ももう遅いけど、街灯のおかげで町は明るい。
『あ、伊都波さんだー。帰り?またねー』
「うん、さよならー。もう遅いから気をつけてね!」
同じく下校途中の生徒に声をかけられ、にこやかに手を振って別れの挨拶を返す。
ひらひらと、足を止めて手を降っていると、名前を呼ばれた所為か帰宅途中の生徒達のあちこちから視線を感じる。
最近こういうことがちょっと多い。多分、件のグラビアピンナップのせい。
もう一度口元までマフラーをきゅっともちあげる。やっぱりちょっと恥ずかしい。
「もうじき雪も降りそう。積もるのかなぁ」
歩みを進めつつ空を見上げる。
この島は星がとても綺麗に広がって見える。
天体観測とかには、きっとうってつけの島なんじゃなかろうか…。
■伊都波 凛霞 >
すれ違う生徒達は帰宅途中の生徒ばかりではなく、
もう遅い時間になろうというのに、男女連れ添って道を歩く者も多い。
寒さを口実にして腕を組んでみたり。
二人で一つのマフラーを巻いてみたり…。
みんな、幸せそうだ。
「(うーん、青春だね)」
なんとなく、そんな達観したような感想が出てしまった。
十代の時間は短い。
恋や愛なんてものを知ってからは、特に。
もうじきクリスマス。気がつけばそんな時期だ。
「(また何もないんだろうなあ)」
少し、歩く速度が落ちる。
許嫁の彼と再会してから、もう半年近く。
風紀委員なんかでそれなりに忙しくしつつも、月に数度は会っている。
にも関わらず、夏祭り以降の進展らしい進展はナシ。
少しずつ、離れていた時間をお互いに埋めていって、今現在。
大事にされている、そう思われているのは、すごく伝わってくるけれど。
そんなことを頭の片隅で考えながら歩いているとベンチに座る男女が目に入る。
人目も憚らず…というわけえはないんだろうけど、密着して、互いの顔を重ね合わせようとしていた。
「(おおっと…)」
思わず視線を逸らす。見てナイ見てナイ。
■伊都波 凛霞 >
危ない…出歯亀になっちゃう。
……にしても、大胆というか……。なんというか。
でも、好きあっていたらきっとあんな風に、我慢ができないようなこともきっとある。
そんなきっと若いうちだけ。限られた時間…十代の勢いあってこそ。
子どもと大人の中間の時間が彩る、甘酸っぱくも泡のように消えてしまう…思い出となるモノ。
通り過ぎて、立ち止まる。
あたりには男女のペアが多く歩いている。
商店街の方から、こちらまでクリスマスソングが聞こえてくる。
どうして立ち止まっているんだろう。
待つことには慣れてるし、ずっと待っていてもきっと平気。だけど……。
「(魅力、ないのかなぁ。私…)」
小さな溜息は白くなって、消える。
■伊都波 凛霞 >
でも彼は優しいから。
万が一にも私が傷つくかもしれないことを躊躇してるのかもしれない。
そうだとしたら…いやでも………考えすぎ、なんだけど。
「………」
寒空の下。
身を寄せ合って、笑い合う男女。
腕を抱いて楽しげに歩く二人。
ベンチにかけて、互いの距離を詰め合う生徒…。
「(……いいなー)」
嫉妬。
羨望。
普段自分が向けられているような感情が、ふつふつと心の奥に湧いてくる。
それは少女がこれまで感じることが少なかった類のモノで………ちょっとだけ、気分が悪かった。
ご案内:「学生通り」に大神 璃士さんが現れました。
ご案内:「学生通り」から伊都波 凛霞さんが去りました。
■大神 璃士 >
「………。」
学生通りを歩く、風紀委員の制服に黒いレザージャケットの姿。
何の事はない、只の見回りである。
以前の一件以降、何度か落第街の巡回には出ていたが、手配されている…自身も一度交戦した
「熊鼠」を名乗る凶悪犯は見つからなかった。
――そもそも、簡単に見つかるようなら苦労はないのだが。
(……賑やかだな。)
多くが男女の組である。
つまり、そういった仲の者達には大事な日時、なのだろう。
風紀委員からすれば、人の出が多いという事は騒動の種――ひいては
潜伏犯に襲われる者が多くなりやすい、という事になるのだが。
(今年も碌に休みはなさそうだ………ん…?)
ふい、と暫し離れた所を見た覚えのある女生徒の姿。
(……伊都波か。)
相手はこちらに気付かなかったようだが――目の良い方であるレザージャケットの男は見逃さなかった。
考え事でもしていたのか、あるいは――――
(……風紀の優等生殿にも、男が出来たか。)
語弊がありそうな思考である。
■大神 璃士 >
風紀委員とて人間である。
色恋沙汰にかまけるのは――職務に支障が出なければ、誰が咎める事でもないだろうが。
(…「あの」伊都波に、そんな相手がいるものか。)
知られたら恐らく殴られそうな思考をしてしまう。
本人に悪気がないのが余計性質が悪い。
(――まあ、どちらでもいい。
他所事に気を取られて、取り返しのつかない怪我にならないなら、だが。)
ふ、と小さく息を吐く。白くなった息が少しの間宙に浮かび、直ぐに消えた。
(風紀と言っても、人間だ。心も迷うし、色恋に現を抜かす事もある。
休みを取る者もいるだろう。
その分は――「狗」が働いてればいいだけだ。)
無味乾燥な思考。そんな思考と共に、道行く男女の連れを眺めながら、
黒いレザージャケットの人影は静かに学生通りを往く。
(――どうせ、色気のある予定も入っていない。
狗は狗らしく、抜けた穴を埋めるだけ働いていればいい。)
歳の割に冷え切った考えと共に、視線だけを動かしながら見回りを行いつつ、道を往く。
■大神 璃士 >
……浮かれた雰囲気が多い道を往くごとに、頭の片隅が冷えるような気持ちになる。
こうして年の瀬も近い時期、どれだけ平和な夜を過ごせる者たちがいるものか。
その為に、どれだけ風紀が働く事になるのか。
(……暢気に浮かれている、周りを見ない連中を、守る事に、意義はあるのか……。)
小さく舌打ちし、頭を軽く振る。
今の思考は、善くなかった。風紀としてもだが、「ヒトの中」で生きている身分としても、だ。
(……誰もが誰も、牙を持った者じゃない。
そんな連中を、牙を持った者が守る必要があるから、風紀委員がいる。)
「風紀委員」としての思考にスイッチを入れ直し、見回りと巡回を再開する。
――今日は、随分と頭と心が冷えて来る。
(食事程度は贅沢をして、気を紛らわすか…。)
そんな事を考えながら歩みを進めて行く。
あまりにも冷えるようなら、靴を滑らないものに買い替えなくては厳しいだろうか。
何かしらの現行犯を発見した時、滑ったせいで取り逃がしたのでは始末書ものだ。
ふと、すれ違う中に、金色の長い髪の女子の姿。
(……。)
似てない、とは思いつつ、以前に出会った金の髪の少女を思い出さずにはいられなかった。
今頃、何をしているのか。寒さで参っていないならいいが――――。
(……職務中だ。余計な考えは後にしろ。)
己を軽く律し、注意を払いながら、表向きは何事も無いように道を行く。
――今日は幸い、何事もなし。
業務日誌には平穏無事、と記入できそうだ。
そんな、味気の無いクリスマスと年末年始を過ごしそうな風紀委員の一日は、今日も過ぎていく。
年が変わるまで、あと半月程。
ご案内:「学生通り」から大神 璃士さんが去りました。