2025/01/05 のログ
ご案内:「学生通り」に麝香 廬山さんが現れました。
ご案内:「学生通り」に伊都波 悠薇さんが現れました。
麝香 廬山 >  
学生通り 某日。
季節の移り目、すっかり日は沈んでしまった。
より一層寒くなる空気感の中でも震えることなく歩く青年。
温かな缶コーヒーを軽く揺らしながら、鼻歌気分で外出中。

「こんな時間でも人を見張らなきゃいけないなんて、大変だねぇ」

視線を感じるのはいつものことだ。
首につけられた制御装置(アクセサリー)を撫でて、肩を竦める。
珍しくこの日の大通りには、人気が少なかった。

伊都波 悠薇 >
今日も今日とて見回り。
人手が少ないから、今は引っ張りだこ。
できることをコツコツと。

人手が少ないから、目に入るであろう少女。

「……ふぅ」

周りの視線は気にせずに。

……今日も、異常なし、かな。

ちゃんと、自分なりの見回りを。

麝香 廬山 >  
人気もない、静かで、街頭の明かりばかりが眩しい夜の学生通り。
そう、決して異常はない。今日も平和な夜だった。

「……おや、こんばんは。こんな夜まで見回りかな?
 伊都波 悠薇ちゃん。こんな夜遅くまで精が出るね。一人かい?」

そうしてひ偶然にも出会うことになった。
互いに向かい側から歩いてきたので、わかりやすい。
人当たりの良いにこやかな笑顔で挨拶をすれば、何気なしに歩み寄る。
ある意味、このタイミングは天啓なのかもしれない。

「こんな寒い日にキミもお疲れだね。コーヒー飲む?」

手元で揺らす、未開封の無糖缶コーヒー。

伊都波 悠薇 >  
「あ、どうも。こんばんわ」

至って普通に。
ペコリとお辞儀を返す。

「いえ、大丈夫です。今は喉乾いていないので」

遠慮しながら。

「はい。そろそろ終わりなので帰ろうと思っていたところです」

麝香 廬山 >  
「ハハ、お姉さんと違ってすんなり接するね。
 初めて会った時もそうだけど、意外と図太いのかな?
 それとも、ボクの事実はなんにも聞いてなかったりする?」

監視対象といえど、全てが周知の事実という訳では無い。
知らずに接する人間も少なくはない。事情を知ったら離れていくまでワンセット。
至って普通の対応に廬山は面白そうだ。
手元で転がしていた缶コーヒーは、ぱっと手を開けば消えてしまった。

「そっかそっか、お疲れ様。
 どう、途中まで一緒に歩かない?帰りならちょうどいいでしょ?」

伊都波 悠薇 >  
「そうなんですか?」

詳しくない。といっても詳しい人のほうが少ない。
悲しいことにボッチとはそういうものだ。

接する人が増えてきたとはいえ……詳しい人は多分、『誰もいない』。
「はい。麝香さんも、かえりだったんですか?」

麝香 廬山 >  
「そうそう、ボクってば"悪い人"だからね。
 こうして制御装置(アクセサリー)をつけられて飼いならされてる位にはね。
 今では立派な風紀の道具さ。キミのお姉さんだって、そんな道具の使い手なんだけどね」

「切ちゃん……切人って知らない?
 ホラ、なんか無愛想で顔の怖いバカっぽい男子」

首元に巻き付く制御装置(アクセサリー)を指でなぞり、語る姿は何処か楽しげ。
あっけからんとする態度だが、言葉の端々に嘘はない。
ゆるりと歩調を合わせながら歩く、二人ぼっちの学生通り。

「帰りといえば帰り、かな。やることは一通りやったしね。
 急なお呼び出しがかからなければ帰れるんじゃないかな?」

「そういうキミだって、こんな時間まで見回りしてたの?」

伊都波 悠薇 >  
「あ」

そういえば、そんな話をされた。
姉の代わりをしたときに。
アクセサリーを指摘されると、思い出したように声を上げて。

「センパイですか。この間、ご一緒しました」

識っていると口にして。

「姉と、コンビ、の方ですよね」

そういう認識だ。

「では一緒に

はい、今は人手が足りないみたいなので」

嫌がることもなく自然と二人で歩いていく。
前髪を整えながら。

麝香 廬山 >  
わずかに目元が細くなる。
夜だというのに、やたら橙の眼差しは光って見えた。

「その口ぶりからして切ちゃんから聞いたのかな?
 そうそう、キミのお姉さんと"コンビ"を組んでる人。
 人間としての相性はともかく、"コンビ"としてはイマイチのようだけどね」

こともなし気に言ってのけた。
前回もそのことで一石を投じたが、この感じ妹には話していないらしい。
見てくれだけは気丈なんだな、と内心失笑ものだった。

「人手不足、ねぇ。
 まぁ、誰でも出来そうな仕事を回されてるって事かな?
 その口ぶり、人がいないから"仕方なく"って感じ?それとも、自分の意志で参加したのかい?」

寒い空気に、明るい声をはよく聞こえる。
流すように見る横目は、何故だか前髪(カーテン)の奥を見透かしているように見えた。

伊都波 悠薇 >  
「そうなんですか」

そう、近くにいる人が判断するのならそうだろう。
‐‐今は。

「じゃあこれからですね」

こともなげに。
すんなりと、すらすらと。

「そうですね。そういう感じです。大事な仕事のひとつなので、自分から。まぁ、誰でもできること、なんですけどね」

そう口にするのは、友人が。それでも偉いと言ってくれて。
とある男の子が、尊敬すると言ってくれてたのを覚えているから。

大事だと告げた。

麝香 廬山 >  
寒い風がゆるゆると吹き抜ける。
何故だが妙に、夜空が遠く見えてしまう。
制御装置(アクセサリー)を撫でながら、廬山の口元が僅かに歪む。

「──────それは本当に、自分の意思なのかな?」

寒い風よりも何処か鋭い声が、不意に問いかける。

伊都波 悠薇 >  
「どうしてですか?」

自分の意志か、と聞かれると。
そう思っているから、普通に。

「なにか、気になることあります?」

ご案内:「学生通り」に伊都波 凛霞さんが現れました。
ご案内:「学生通り」から伊都波 凛霞さんが去りました。
麝香 廬山 >  
笑顔を絶やすことなく、言葉を続ける。

「キミのお姉さんは、凄いよね。"キミと違って"、何でも出来る。
 "キミと違って"、お友達も多い。面白いね、まるで光と影みたいだ」

もちろん全てが全てとは言わない。
全てを持っているような姉と対比するかのようだ。
彼女の言葉に嘘は見えない。そう思っている。

「どちらかに傾くと、どちらかが落ちる。まるで天秤みたいね。
 ……いや、ごめんね?ちょっとした"クセ"でね。人のことを調べるの」

「勿論、キミの事だってね」

よりよく人のことを知るために何にでも手を回した。
幸いにもその"異能"は研究対象になっており、苦労はしなかった。
気づけば廬山の手元には、夜風に靡く紙のカルテ。
靡く紙から僅かに見える「伊都波 悠薇」の名があった。

伊都波 悠薇 >  
「そうですか」

驚きはしない。そういう人もいるだろう。
調べたことにはびっくりするけれど……
そういう物言いをしてくる、人ではあるみたいだから。

わざわざ、前置きをしてくれるだけ、親切な人だなと思った。

「そうですね。それのせいで、姉はひどく傷つきましたし。自分も、それなりに苦労はしました。でも」

‐‐でも。

「過去の話ですから」

麝香 廬山 >  
彼女の返答は概ね予想通りだった。
既に伊都波 悠薇の異能は無力化された。
彼女にはなにもない、ただの無能力者。そういうことになっている

「なら、どうしてキミはそのままなのかな?」

腕を振り上げればカルテが宙を舞う。
寒風に煽られて紙吹雪が互いの夜景を覆い尽くした。

「まぁ、分配されたものはもう戻せないとも過程出来る。
 ボクはキミ達について詳しいわけではないけどね。飽く迄、他人の所感」

「ボクには、相変わらず揺れてるように見えるな」

彼女を見下ろす視線は、彼女を見てはいなかった。
彼女の更に奥の奥。本来事象の境界線さえ覗く異次元の双眸。
今は制御装置(アクセサリー)のせいで、そこまで便利なものじゃない。
彼女が"そうである"と思い込んでいるものを否定するかのように、


揺れる天秤(タカラモノ)を見透かそうとしている。


思い返してご覧よ。直近でも会ったんじゃない?
 ……まぁ、思い返せるなら、だけどね」

どちらにせよ、そう思い込んでいる/思い込まされているならわかるまい。

伊都波 悠薇 >  
「どうでしょう」

自分の天秤は、もうない。
なにせ、姉と自分限定で。かつ姉が乗り越えたのだから。
効力は発揮しない。

「そのままでしょうか?」

変わってないように見えるのだろうか。彼は。
いや、前を識っているわけでもないなら比較もできないような気もする。

なんだか。

自分が知っている、悪い人と、同じに見えた。

「かもしれないですね」

でも。

「……どっちでもいいですかね。私は」

自分に出る結果なら、正直。

「姉が悲しむのを、識っているので。もしそうだったら、姉が泣いてしまいそうなので、隠してはいますけど。

私は、天秤があろうと、なかろうと、どちらでもいいんです。正直」

見えるかもしれない天秤は揺れているがーーしかして。

その皿には。

「他責にできないですもん。この天秤って」

『何も乗っていない』

麝香 廬山 >  
ざらつく視線には映った。
確かにそこには揺れる天秤が映っていた。
やはり、未だ天秤は健在であった。予想通りと、広角が上がる。

「─────……おや?」

ただ、そこには"なにもない"。
傾けるはずのものが、何もなかった。
流石にそれは、予想外だった。何もなしに、傾いてる。
薄気味悪い笑みも消え、"珍しく真顔"だった。

「驚いたな…何にもないんだな、キミは

もしそれが彼女自身を表すのであれば、本当に虚無だ。
人の形をした出来損ない。姉の愛玩人形。
それこそ不思議そうに、廬山は首を傾ける。

「此の世の不利益は、当人の努力不足……って、誰が言ってたっけな。
 傾くのはキミ自身の責任、行いか……成る程ね。ちょっとビックリだな……」

「……キミは、お姉さんさえ良ければ自分はどうでもいいと思ってるのかな?」

こともなし気に言ってのけた。
紙吹雪は舞い続けている。より多く、二人を隠してしまうように。