2025/01/06 のログ
■伊都波 悠薇 >
「いいえ?」
なにもないと言われると、首を横に振る。
「……何を見て仰ってるのかはわからないですけど」
きょとんとしている。
「姉さえ良ければ、とも思ってないですよ」
だとするのなら、自分が大怪我なんてしにいかないし。
それこそ、もっと自己犠牲に動こうと思えば動けるのだ。
でももう、そういうことはしてほしくないと言われたし。
することに意味もないとも、思っている。
「……麝香さんは、何を見たいんです?」
結局のところ。
「わざわざ、いろんなことをして何を、求めているんですか?」
自分には、それがわからないから。
「なんにもないんだな、って言葉の意味がわからず。答えようがないです」
ただただ、ちゃんとアナタと向き合うだけ。
■麝香 廬山 >
彼女の出会いは偶然だし、勿論何かをする気でいた。
誤算が会ったといえば、天秤はあれどすれど予想通りの機能はしていなかったこと。
そして、伊都波悠薇という少女を"侮っていた"ことだ。
「───────……ふぅん」
まぁ、機能しているだけでも十分。自分には"僥倖"だった。
数度瞬きをすれば、橙色に映る悠薇の姿。
漸く目があった。そんな雰囲気すら感じるだろう。
「……今、この瞬間にキミとボクの二人きり。
キミは監視対象がどんなものか聞いた。
そして、ボクのことを"悪い人"とも感じたはずだ」
少なくとも、彼女の姉は忌避している。
紙吹雪が不意に消えたと思えば、妙に景色は"歪んでいた"。
街頭の明かりさえなく、月明かりも星もない。
少女と青年の、二人きり。不意に彼女の前で足を止めれば、一歩、二歩、歩み寄る。
「いや、訂正するよ。
キミは思ったよりも面倒な女かもしれないね。
何も無い、っていうのは存外ボクの勘違いかもしれない」
敢えて、明確には答えなかった。
少女を見下ろす橙。抵抗しなければ、その顎に指が添えられる。
目前、互いの息が掠めるほどの至近距離で、二つの橙が前髪を覗き込む。
「ボクが何を見たいか、興味ある?
別に人が思うほど複雑な人間じゃあないよ、ボクは。
……にしても、キミは少しは警戒しなかったのかい?」
「夜道に男と二人きりなんて、殺されても文句は言えないよ?」
にこやかな笑顔で、平然と言ってのけた。
勿論それが目的ではないのだが、一つの可能性として答えたようにも思える。
■伊都波 悠薇 >
「でも、しないでしょう」
別に恐怖を感じないわけじゃない。
でも、『得体が知れないわけ』でもない。
「そうするつもりだったなら、もう、関係なく、してるでしょう。麝香さんなら」
でも、しないのなら。
「今こうして話をしている事自体に意味があるのでは?」
総じて、悪い人には2種類ある。
理解ができない、ものと、理解ができるもの。
そう、自分は解釈している。
そのうえで、話をしながら思うのは。
ーー目的がない行動をしない、という勝手な憶測。
それとともに。
「そう口にすることで、私のことを測ろうとしているんですか?」
殺気も感じないから。
いつもならうろたえる。でもそうじゃないのは。
ちゃんとーー
「では逆に。アナタも、殺されても文句は言えないですね?」
別に、意識したわけじゃない。でも、胸に手を添えた。添えられた。
「……アナタも、私を警戒しなかったんですか?」
誰かと向き合う、その心づもりをしていたからだ。
■麝香 廬山 >
「……殺すだけなら、簡単だしね。
監視対象の中にも芸術家気取りの殺人鬼はいるけど、
ボクは遊び半分で人を殺したりはしない。興味半分で殺すことは多いけどね」
つまり、そちらに偏っていたら殺していた。
ただ、それ以上に別の方向に興味が会っただけに過ぎない。
賢いだ。内心ぼやく廬山の表情には、悦に満ちた笑みが浮かぶ。
「こうみえてボクは、人のことが好きなんだ。
誰かを知るには、興味と会話。まぁ、そうだね」
「ごめん、確かに初めは、キミに興味はなかったよ。
どちらかというと、キミのお姉さんに興味があった」
どう転べば面白い顔をしてくれるかわかりやすい凛霞。
そんな彼女の泣き所である悠薇。その程度の認識。
だから、まともに視界にすら映していないが、今は違う。
愉悦揺れるその橙は、すっかり伊都波悠薇を大きく映していた。
「───────……けど、今は違うな」
自身の胸に手を添えられると同時に、言った。
一切の動揺はない。所詮は天秤の出涸らし、姉のお荷物。
そう思っていたが、どうしてかな。心得ている。
道具の扱い方を。
「勿論、殺せるなら仕方ないよね。
こう見えてボクは、生命に関しては割と真摯だ」
相変わらず言葉尻は軽薄だが、そこに嘘はない。
添えられた少女の手から伝わるはずだ。
緊張の色もない、ドクン、ドクン、と脈打つ生命の音を。
「そうだね、お察しの通り"侮っていた"。
いいね、悠薇ちゃん。ねぇ、一つだけ提案があるんだけど、いいかな?」
■伊都波 悠薇 >
「それは、そうしようとしたことで興味を満たすためですか。そしたらたまたま……満ちる前に、という話でしょうか」
そういう人なのかもなと思った。
まだ、わからないけど。そんな感想。
「謝ることないですよ。姉のほうが魅力的です」
別にいつもと一緒であり、そして、自分もそう思う。
「そうなんですか」
今知った事実。でもうっすらそうなのではないかなとも思っていたので。
真摯と言われると納得した。
そして提案があると言われれば。
「え、嫌です」
すっと身を引いて。
「……嘘です。なんですか?」
歩き出した。アナタを置いて先んじて。
■麝香 廬山 >
気づけば周囲の夜景が戻っていた。
満天の星空に、明るい街灯。寒い夜風が二人の間をすり抜ける。
「その判断はキミに任せようか。その方が面白そうだ」
「魅力的?まさか、ありきたりだなって思っただけさ。
そう、一般的な内面の人間だ。だからこそ、いい反応をしてくれる」
可愛くて可憐で明るく社交性のある人間。
社会という枠組みでは、それなりに目をつくような人材だ。
それこそ週一で出てくる食卓の素材。
自分の思う"魅力"とは、程遠い。
だからこそ、"面白い"反応のさせ方を知っているだけ。
「嫌な女」
なんて、冗談めかしに言えば同じくして歩みだす。
歩調を合わせて再び隣へ。それこそ親しい友人のように。
「悠薇ちゃん、ボクとコンビを組んでみないかい?」
こともなしげに、言ってのけた。
同意しようがしまいがどうでもいい。
『天秤』は見えたのだ、ノーというなら"境界線"をイジれば……。
■伊都波 悠薇 >
「はい。普通だけど、でも。世界一の姉さんです」
少し噛み合わない、姉の評価。
でも、別に構わない。
「考えておきます」
コンビを、と言われると。
「麝香さんが、姉に対する態度次第ですね」
‐‐端々から感じること。面白いから弄って、からかっているのだろうと想像できる。
それに、真剣に、考えていたり、苦手に思ったり。
姉には苦手な、タイプ。悪い人であった、「彼」と、いっしょ
「がんばってくださいね」
■麝香 廬山 >
思わず、失笑。
「ほら、"言わされてる"。
果たしてボクは、今まで伊都波悠薇と話してたのか、
それともキミの"揺れる天秤"と会話してたのかわからないな」
時にそれは異能疾患と言われる病状、あるいは呪いとも称させることもある。
他人事ながら、果たして自分が見てきたものさえ疑わしく感じてきた。
妙な徒労感を覚えると同時に、遥かに魅力的だ。
「さて、なんのことだかね。ボクは本当のことを言ってあげただけさ。
ま、"それはともかく"、ボクの方から推薦しておくよ。
ボクの監視役は何時でも"人手不足"らしいからね」
そんな彼女の言葉を無視するように話を進めていく。
なにせ、ご覧の通りの問題児だ。やりたがる人材はいない。
それこそ、見回りと一緒。まるで意趣返しだ。
ともかく、一応監視になる以上、流石に上の連中も強制はしないだろう。
どう答えるか、伊都波悠薇としての答えに期待しておくとしよう。
「キミこそ、頑張ったほうがいいんじゃない?」
伊都波悠薇として。
■伊都波 悠薇 >
「いいえ」
断固。
「頑張るのは麝香さんです」
なぜならーー
「まずは、姉さんに謝るところからですからね」
むんっと何故か偉そうだった。
「私が頑張るのは、いつものことですから」
さらっとそう告げて。
「どうぞ、推薦するのはご自由に。受けるかどうかは、麝香さん次第なので」
クスリと笑ったあと、揺れる前髪。覗く左目泣きぼくろ。
「お疲れ様でした。麝香さん」
いつの間にやら、自分の家、伊都波家の前。
「気を付けて帰ってくださいね。では、また」
告げて、家の中へ、向かっていく。
■麝香 廬山 >
「……そうきたか。
お姉さんよりもよっぽど道具の扱いが上手だな」
これも一つの姉に対する嫌がらせのつもりだった。
面倒なら"境界線"でも弄ってイエスと言わせてやろうと思ったが、違うな。
この傾き方はおそらく、そう───────。
「仕方ないな、ノってあげよう。キミの提案に」
勿論廬山にも矜持は存在する。
目的なくして動く流浪者でもなく、もっと理知的であり奔放だ。
もしかしたら、彼女は似ている人物の扱いを心得ているのかもしれない。
"そっちのが面白い"と思ったら、乗ることを知っているんだ。彼女は。
してやられた、と言わんばかりに肩を竦める。
「(それに興味がある。"天秤"は生きてるみたいだし、
もし姉が許してくれるなら彼女の反応も興味あるし、逆も然りだ)」
何れにせよ、どちらに転んでも面白い。
「……そう言えばこの前通ったっけな。
やれやれ、結局ただ送ってあげただけになっちゃったよ」
本当に、素敵な女だ。
「うん、そっちこそお疲れ様。
それじゃあ、またね。悠薇ちゃん」
自らの家に帰る彼女見送り、踵を返した。
足音もなく、廬山の姿は闇に消えていった。
ご案内:「学生通り」から伊都波 悠薇さんが去りました。
ご案内:「学生通り」から麝香 廬山さんが去りました。