2025/01/06 のログ
伊都波 悠薇 >  
「いいえ?」

なにもないと言われると、首を横に振る。

「……何を見て仰ってるのかはわからないですけど」

きょとんとしている。

「姉さえ良ければ、とも思ってないですよ」

だとするのなら、自分が大怪我なんてしにいかないし。
それこそ、もっと自己犠牲に動こうと思えば動けるのだ。

でももう、そういうことはしてほしくないと言われたし。
することに意味もないとも、思っている。

「……麝香さんは、何を見たいんです?」

結局のところ。

「わざわざ、いろんなことをして何を、求めているんですか?」

自分には、それがわからないから。

「なんにもないんだな、って言葉の意味がわからず。答えようがないです」

ただただ、ちゃんとアナタと向き合うだけ。

麝香 廬山 >  
彼女の出会いは偶然だし、勿論何かをする気でいた。
誤算が会ったといえば、天秤はあれどすれど予想通りの機能はしていなかったこと。
そして、伊都波悠薇という少女を"侮っていた"ことだ。

「───────……ふぅん」

まぁ、機能しているだけでも十分。自分には"僥倖"だった。
数度瞬きをすれば、橙色に映る悠薇の姿。
漸く目があった。そんな雰囲気すら感じるだろう。

「……今、この瞬間にキミとボクの二人きり。
 キミは監視対象(ボクら)がどんなものか聞いた。
 そして、ボクのことを"悪い人"とも感じたはずだ」

少なくとも、彼女の姉は忌避している。
紙吹雪が不意に消えたと思えば、妙に景色は"歪んでいた"。
街頭の明かりさえなく、月明かりも星もない。
少女と青年の、二人きり。不意に彼女の前で足を止めれば、一歩、二歩、歩み寄る。

「いや、訂正するよ。
 キミは思ったよりも面倒な女かもしれないね。
 何も無い、っていうのは存外ボクの勘違いかもしれない」

敢えて、明確には答えなかった。
少女を見下ろす橙。抵抗しなければ、その顎に指が添えられる。
目前、互いの息が掠めるほどの至近距離で、二つの橙が前髪(カーテン)を覗き込む。

「ボクが何を見たいか、興味ある?
 別に人が思うほど複雑な人間じゃあないよ、ボクは。
 ……にしても、キミは少しは警戒しなかったのかい?」

夜道に男と二人きりなんて、殺されても文句は言えないよ?」

にこやかな笑顔で、平然と言ってのけた。
勿論それが目的ではないのだが、一つの可能性として答えたようにも思える。

伊都波 悠薇 >  
「でも、しないでしょう」

別に恐怖を感じないわけじゃない。
でも、『得体が知れないわけ』でもない。

「そうするつもりだったなら、もう、関係なく、してるでしょう。麝香さんなら」

でも、しないのなら。

「今こうして話をしている事自体に意味があるのでは?」

総じて、悪い人には2種類ある。
理解ができない、ものと、理解ができるもの。

そう、自分は解釈している。
そのうえで、話をしながら思うのは。

ーー目的がない行動をしない、という勝手な憶測。

それとともに。

「そう口にすることで、私のことを測ろうとしているんですか?」

殺気も感じないから。
いつもならうろたえる。でもそうじゃないのは。

ちゃんとーー

「では逆に。アナタも、殺されても文句は言えないですね?」

別に、意識したわけじゃない。でも、胸に手を添えた。添えられた。

「……アナタも、私を警戒しなかったんですか?」

誰かと向き合う、その心づもりをしていたからだ。

麝香 廬山 >  
「……殺すだけなら、簡単だしね。
 監視対象(ボクら)の中にも芸術家(アーティスト)気取りの殺人鬼はいるけど、
 ボクは遊び半分で人を殺したりはしない。興味半分で殺すことは多いけどね」

つまり、そちらに偏っていたら殺していた。
ただ、それ以上に別の方向に興味が会っただけに過ぎない。
賢いだ。内心ぼやく廬山の表情には、悦に満ちた笑みが浮かぶ。

「こうみえてボクは、人のことが好きなんだ。
 誰かを知るには、興味と会話。まぁ、そうだね」

「ごめん、確かに初めは、キミに興味はなかったよ
 どちらかというと、キミのお姉さんに興味があった」

どう転べば面白い顔をしてくれるかわかりやすい凛霞(ヒト)
そんな彼女の泣き所である悠薇(イモウト)。その程度の認識。
だから、まともに視界にすら映していないが、今は違う。
愉悦揺れるその橙は、すっかり伊都波悠薇を大きく映していた。

「───────……けど、今は違うな」

自身の胸に手を添えられると同時に、言った。
一切の動揺はない。所詮は天秤の出涸らし、(マヌケ)のお荷物。
そう思っていたが、どうしてかな。心得ている。


道具の扱い方を


「勿論、殺せるなら仕方ないよね。
 こう見えてボクは、生命(いのち)に関しては割と真摯だ」

相変わらず言葉尻は軽薄だが、そこに嘘はない。
添えられた少女の手から伝わるはずだ。
緊張の色もない、ドクン、ドクン、と脈打つ生命(いのち)の音を。

「そうだね、お察しの通り"侮っていた"。
 いいね、悠薇ちゃん。ねぇ、一つだけ提案があるんだけど、いいかな?」

伊都波 悠薇 >  
「それは、そうしようとしたことで興味を満たすためですか。そしたらたまたま……満ちる前に、という話でしょうか」

そういう人なのかもなと思った。
まだ、わからないけど。そんな感想。

「謝ることないですよ。姉のほうが魅力的です」

別にいつもと一緒であり、そして、自分もそう思う。

「そうなんですか」

今知った事実。でもうっすらそうなのではないかなとも思っていたので。
真摯と言われると納得した。

そして提案があると言われれば。

「え、嫌です」

すっと身を引いて。

「……嘘です。なんですか?」

歩き出した。アナタを置いて先んじて。

麝香 廬山 >  
気づけば周囲の夜景が戻っていた。
満天の星空に、明るい街灯。寒い夜風が二人の間をすり抜ける。

「その判断はキミに任せようか。その方が面白そうだ」

「魅力的?まさか、ありきたりだなって思っただけさ
 そう、一般的な内面の人間だ。だからこそ、いい反応をしてくれる」

可愛くて可憐で明るく社交性のある人間。
社会という枠組みでは、それなりに目をつくような人材だ。
それこそ週一で出てくる食卓の素材。
自分の思う"魅力"とは、程遠い。
だからこそ、"面白い"反応のさせ方を知っているだけ。

嫌な女

なんて、冗談めかしに言えば同じくして歩みだす。
歩調を合わせて再び隣へ。それこそ親しい友人のように。

「悠薇ちゃん、ボクとコンビを組んでみないかい?」

こともなしげに、言ってのけた。
同意しようがしまいがどうでもいい。
『天秤』は見えたのだ、ノーというなら"境界線"をイジれば……。

伊都波 悠薇 >  
「はい。普通だけど、でも。世界一の姉さんです」

少し噛み合わない、姉の評価。
でも、別に構わない。

「考えておきます」

コンビを、と言われると。

「麝香さんが、姉に対する態度次第ですね」

‐‐端々から感じること。面白いから弄って、からかっているのだろうと想像できる。

それに、真剣に、考えていたり、苦手に思ったり。
姉には苦手な、タイプ。悪い人であった、「彼」と、いっしょ

「がんばってくださいね」


麝香 廬山 >  
思わず、失笑。

「ほら、"言わされてる"。
 果たしてボクは、今まで伊都波悠薇と話してたのか、
 それともキミの"揺れる天秤"と会話してたのかわからないな」

時にそれは異能疾患と言われる病状、あるいは呪いとも称させることもある。
他人事ながら、果たして自分が見てきたものさえ疑わしく感じてきた。
妙な徒労感を覚えると同時に、遥かに魅力的だ。

「さて、なんのことだかね。ボクは本当のことを言ってあげただけさ。
 ま、"それはともかく"、ボクの方から推薦しておくよ。
 ボクの監視役(バディ)は何時でも"人手不足"らしいからね」

そんな彼女の言葉を無視するように話を進めていく。
なにせ、ご覧の通りの問題児だ。やりたがる人材はいない。
それこそ、見回りと一緒。まるで意趣返しだ。
ともかく、一応監視になる以上、流石に上の連中も強制はしないだろう。
どう答えるか、伊都波悠薇としての答えに期待しておくとしよう。

「キミこそ、頑張ったほうがいいんじゃない?」

伊都波悠薇として。

伊都波 悠薇 >  
「いいえ」

断固。

「頑張るのは麝香さんです」

なぜならーー

「まずは、姉さんに謝るところからですからね」

むんっと何故か偉そうだった。

「私が頑張るのは、いつものことですから」

さらっとそう告げて。

「どうぞ、推薦するのはご自由に。受けるかどうかは、麝香さん次第なので」

クスリと笑ったあと、揺れる前髪。覗く左目泣きぼくろ。

「お疲れ様でした。麝香さん」

いつの間にやら、自分の家、伊都波家の前。

「気を付けて帰ってくださいね。では、また」

告げて、家の中へ、向かっていく。

麝香 廬山 >  
「……そうきたか。
 お姉さんよりもよっぽど道具(ヒト)の扱いが上手だな」

これも一つの姉に対する嫌がらせのつもりだった。
面倒なら"境界線"でも弄ってイエスと言わせてやろうと思ったが、違うな。
この傾き方はおそらく、そう───────。

「仕方ないな、ノってあげよう。キミの提案に」

勿論廬山にも矜持(プライド)は存在する。
目的なくして動く流浪者でもなく、もっと理知的であり奔放だ。
もしかしたら、彼女は似ている人物の扱いを心得ているのかもしれない。
"そっちのが面白い"と思ったら、乗ることを知っているんだ。彼女は。
してやられた、と言わんばかりに肩を竦める。

「(それに興味がある。"天秤"は生きてるみたいだし、
 もし姉が許してくれるなら彼女の反応も興味あるし、逆も然りだ)」

何れにせよ、どちらに転んでも面白い。

「……そう言えばこの前通ったっけな。
 やれやれ、結局ただ送ってあげただけになっちゃったよ」

本当に、素敵な(イヤな)女だ。

「うん、そっちこそお疲れ様。
 それじゃあ、またね。悠薇ちゃん」

自らの家に帰る彼女見送り、踵を返した。
足音もなく、廬山の姿は闇に消えていった。

ご案内:「学生通り」から伊都波 悠薇さんが去りました。
ご案内:「学生通り」から麝香 廬山さんが去りました。