2025/02/18 のログ
ご案内:「学生通り」に青霧 在さんが現れました。
青霧 在 > 贖いの本質とは何か、時折考えてしまう。
法に則り拘留、労働を終えれば良いのだろうか。
被害者に償い、許しを得れば良いのだろうか。
それとも、犯した罪の重さだけ他者を救えば良いのだろうか。

結論は出ない。出せない。
自分の罪と向き合いながら、それが許される基準を自分で定められる程傲慢ではない。

それでも、この時期になると考えてしまう。
自分の贖いは済んだのだろうか、と。

……

「風紀委員会だ。双方落ち着け、今すぐその手を降ろせ」

陽が沈みだした学生通り。
喧嘩する二人の学生に委員会の腕章を見せながら歩み寄る。
片や誰でも視認出来るレベルで魔力を纏い、片や腰の鍔に手を沿え今にも切りかかろうという所。
周囲の他学生らも距離をとり、巻き込まれないようにしている。
それでも彼らが即座に離れようとしないのは、風紀委員がこの場に居るからだろう。

「魔術も武器もここで振るえば処罰対象になる」
「喧嘩するならばせめて場を選んでくれ」

青霧としてもこの場で暴れられるのは非常に困る。
ここには青霧が動かせるものがない。瓦礫も無ければ武器も持っていない。
体術を用いたり周囲から借りる事は出来るが、正直それも避けたい。特別攻撃課の攻撃力を振るうのは引け目を感じてしまう。
だから同僚も既に呼んでいる。もし喧嘩が始まっても駆け付けた同僚に収めてもらえばよい。
故に時間だけでも稼ぎたい。

青霧 在 > 「ここからなら学園の模擬戦場も近い」
「そこならお互い好きなだけやれるだろう」

規則を持ち出しても良いが、下手に刺激してしまう可能性を考え、別案を提案する。
正直、この手の説得は不慣れな上恐ろしく感じられる。
激情に支配された人間は視界が狭く、人の言葉に耳をかさない事が多いと知っている。
今にも戦闘を開始しそうな彼らの視界には、敵と、邪魔者しか映っていないかもしれない。
正直、説得など無謀に感じる。
警邏課の委員はどうしているのだろうか。今度尋ねるとしよう。

「俺もお前らを連行するような結果にはしたくない」
「だから一度その手を降ろしてくれ」

やはり実力行使が一番早いのかもしれない。
しかしながら言葉を慎重に選び、実力行使を避けるように努める。

魔術師の学生 > 「は?引っ込んでろよ風紀様」

魔力を引っ込める事も無く、むしろ滾らせて青霧を睨み付ける。
余程いら立っているらしく、青筋が浮かんでいる。

剣を持った学生 > 「すみません、風紀委員さん」
「こちらの彼が礼儀を弁えていないので、分かっていただくだけです」
「すぐ終わりますから周囲の人だけ守っておいていただけますか?」

こちらもやめるつもりはないらしい。
今にも居合を放とうという姿勢で目の前の敵から目を離さない。
その態度に魔術師の学生も更に苛立ち、声を荒げた。

青霧 在 > 「……」

話にならなかった。双方、別方面で冷静さを欠いている。
これでは実力行使の他ない。他委員が来るまでの時間稼ぎも難しそうだ。話を聞こうという態度が全くない。

「そうなると俺を先に相手をしてもらう事になるが…」

そこまで言って適当に見渡す。
やはり、何もない。
人間にぶつけても問題のない適度なサイズと重量の物質。
小石であっても人間にぶつけるのは流石に憚られる。
仕方がない、肉弾戦での制圧を試みるしか―――

聞き覚えのある声 > 「青霧さん!これを使ってください!」

此方を見守る人混みの向こうから声がした。
どこかで聞いた気がする声と共に此方へと放られた球体は弧を描き、青霧の目の前へと―――

青霧 在 > 「なるほど、バレーボールか」

放られた球体は、バレーボールらしき球。
使用権はあると考えて良いだろう。視界に収めたボールを操り、前に出した両手の間で高速でバウンドさせる。
連続で跳ね返り手のひらをバチバチと鳴らすボール、しかしながらその痛みは大したものではない。

「これなら適している」

十数度手のひらを跳ね返り続けたボールを脇に浮かせて再度勧告する。

「これが最終勧告だ。今すぐその手を降ろし武器を納めるなら不問とする」
「従わないのであれば、これより実力行使へと移行する。喧嘩は俺を排除した後にしてもらう」

先ほどまでの諭すための温和を被った態度とは異なり、威圧的に言い放つ。
これで駄目なら、救いようがない。彼らは連行される事となる。

魔術師の学生 > 「望む所だぁ!」
青霧 在 > 先に動いたのは魔力を纏い、滾らせていた方。
己の路を阻むのであれば死するべきとでも考えているのかもしれない。

溢れる魔力を練り、繰り、雷撃と為す。
魔力の雷故光速でこそないが、その雷が放たれ可燃物に当たれば延焼するかもしれない。
放たれれば、の話であるが。

「そうか…」

先に動いたのは青霧だった。
学生1人の魔術発動に劣る速度しか出せない様では戦場では通用しない。
迅速に放たれたバレーボールは爆速で飛翔し、今にも雷撃を放とうという学生の顎を側面から直撃する。
それだけ。それだけだが、戦闘訓練もロクに受けていないであろう魔術師1人を失神させるには十分すぎる。

雷撃と纏った魔力を霧散させ、その場に前のめりに倒れそうになる学生を異能で支えてやり、その辺りに横たえる。

「返事を聞こうか」

そして、目を丸くする剣を抜く直前の学生に問う。
その瞳を睨み付け、脅迫するかの如く威圧で。
殺気とも言い換えられるかもしれない。

剣を持った学生 > 「……やめておきます。このような場で大変申し訳ございませんでした」

目の前で何が起きたか、全く理解出来なかった。剣士である自分に見えなかった。
故に、剣からその手を離す。このまま戦っても勝ち目はない。何より、このまま剣を抜けば罪状が増えるだけ。
感情的であったことを認め、素直に風紀委員会の指示に従うべきであると、判断した。

青霧 在 > 「ありがたい。だが、参考人として同行してもらう」

何らかの処罰が下る可能性もあり得る。
その辺りの判断は別の課の者がするだろう。
バレーボールを手元に納め、オモイカネを取り出す。
最新の状況を報告していると、誰かが駆け寄ってくる。

「あぁ、久しぶりだな。榊」

懐かしい顔だ。

> 「久しぶりだねえ青霧さん!」

先ほど青霧へと放られたボールの持ち主であり、放った張本人。
凹凸のはっきりとした身体つきとショートヘアの美少女。
青霧に親し気に話しかけながら駆け寄る。

「ごめんね!そんなボールしかなくて。怪我とかない?大丈夫?」

笑顔で青霧の顔を覗き込む。

青霧 在 > 「いや、本当に助かった。手頃な武器が無くて困っていた。感謝する」

榊は、一年の頃の生活委員会所属だったころからの委員会での知り合いだ。
妙に距離感が近く、何かと心配されていた事をよく覚えている。
嫌いではないが、当時はどう接すればいいか全く分からず苦しんだ記憶がある。
彼女に悪気はないのだろうが、当時は随分と苦しめられたものだ。

バレーボールを返しながら感謝を伝える。
このボールのおかげで迅速かつ安全な鎮圧が適った。
この功績は彼女のお陰と言っても過言ではないかもしれない。

「…………」
「どうかしたか…?」

そんな榊はじっとこちらを見ている。
いまいち何を考えているか分からない瞳で。

> 「いやー?相変わらずあんまり寝れてないんだなーって」

榊から見た青霧は四年前と何ら変わっていなかった。
肉体は成長し、顔立ちも変化しているが、その内面に潜む何かが居座り続けている事を察していた。

「そういえばこの前みんなで送ったチョコ、食べてくれた?」

青霧が何か反応する間も作らぬように尋ねる。

青霧 在 > 「……明日食べる予定だ」

榊に中途半端な嘘は通用しない。故に、適当に誤魔化す。

榊が言うチョコは、所謂義理チョコだ。
そして、青霧の元に届く義理チョコは年々増え続けている。
様々な部署、委員会に顔を出していれば…まあ、妥当と言えるかもしれない。
とはいえ、極度の甘党でもない青霧はそのチョコの山を完全に持てあましているのだが。
来年にはチョコを見るのも嫌になっているかもしれない。

正直、榊の言うチョコがどれかも分らない。
ホワイトデーのお返しは適当に同じお菓子を送っている筈なのだが、義理チョコは止まらない。

> 「そう?じゃあまた今度感想教えてね」

感想は返ってこないであろうことを直感しながら、差し出されたボールを受け取る。
榊の部署のみんなで送ったチョコは安価なチョコの詰め合わせに+αを加えた物。
そのαだけでも感想が欲しかったのだが、恐らくどれがそれかすら彼は気づいていないのだろう。
少し残念。

「それじゃあ、無理しないでね!」

部活に遅れてしまう。笑顔で手を振りながら急いでその場を後にした。

青霧 在 > 「ああ、そちらこそ」

こちらに手を振る榊を見送り、呼んでいる他の風紀委員の到着を待つ。

「チョコか…」

年々増え続けるチョコには思う事がある。
義理チョコだというのは分かっている。
中には、青霧個人宛てではない物も多数ある。

とはいえ、青霧へチョコを充てる人数が増え続けているという事実に、年々こういった想いが嵩んでいく。
これは、何のチョコなのだろうか、と。

当然、義理であろう。中には友チョコなんてものも混ざっているかもしれないが、期待はしていない。
それでも、多くの人が青霧を記憶し、わざわざチョコを宛てる。その事実に、内心僅かな期待を抱いてしまっている。

これは、感謝の気持ちというものではないだろうか、と。


感謝の証として物品を送るのは古来より人類の伝統のようなものだ。
であれば、青霧に送られるこのチョコは感謝の証の一種なのかもしれない。

自意識過剰かもしれない。それでも、チョコは年々増えている。
個人宛ても当然増えている。メッセージ付きもあり、中には個人宛てで感謝の言葉が綴られたものもある。

そして、思うのだ。
これだけ誰かに良い方向で記憶され、社会に貢献し、感謝されているのであれば…

青霧 在 > 贖いを為したのではないかと。
青霧 在 > 本気ではない。
しかし、膨大な量のチョコを貰うこの時期、チョコの甘さにつられてか、自分に甘い認識を持ってしまう。
浮かれているのだろうか。裏付けに一見適当な材料に縋っているのだろうか。
情けないと思う時もあるが、それでもこの甘い考えは消えない。

「……」

生活委員会所属だった頃の同期からは、一年の頃からチョコレートを貰っている。
その中には榊も当然含まれる。風紀委員会所属となって、顔を合わせなくなっても。

榊は以前から妙にこちらを見ていた。
そして、今も顔を合わせると覗き込んで来る。
不思議な女だ。

「……」
「…義理は義理だろう。意味なんてない」

遠くに見えた同僚の影。
気持ちを切り替えようと、自分に言い聞かせるよう呟く。
己の贖いの基準を自ら定めるなど、傲慢な事はあってはならない。
故に、罪は消えない。咎はぬぐえない。

「妙な気持ちになったな…」

風紀委員として喧嘩を止めるだけの筈だったのに、どうしてこんなことを考えているのか。
小さく溜息を吐いた。

ご案内:「学生通り」から青霧 在さんが去りました。