2025/12/07 のログ
ご案内:「学生通り」に桜塚 愛輝さんが現れました。
桜塚 愛輝 >  
「わぁ―――!」

人でごったがえす学生通りは常世学園の日常だ。
そんな光景を見て感嘆の声をあげてしまうのは、すなわち来島間もないということ。
おのぼりさんよろしくきょろきょろと周囲を見渡しているのは、
長らくの旅程を経て本土から越してきた者だ。

「ずーっと若いコばっかり……!ほんとに学園島なんだなぁ……」

大学近くなどで、街がこうなるのは見覚えがあっても、
ここだけではなく、広大な島すべてが学園に含まれるという巨大な研究施設。
噂の常世島に来たのだという実感が、秒針ごとに湧き上がる。

「しょーじきヤだったけど……楽しみになってきたかも。
 任期の間は、うん、がんばろ!」

やがて、人並みに紛れて歩む。
がらごろとキャリーケースを引きずりながら。

桜塚 愛輝 >  
「とりあえず寮に荷物を置いてー。
 えっと、お役所……生活委員会だっけ。
 いろいろと手続きしないと。
 今日中にできることは、今日のうちに!」

歩幅は広めだ。しゃきしゃきと歩く。
ぐっと拳を固めてひとりで語る不審人物も、
青春真っ只中の学生たちの背景として流れていく。

「……お店とか、みんな若いコだ。
 たしかー、事務とかもほとんど学生のコがやってるんだっけ。
 スゴいなぁ。わたしが学生の時なんて……」

懐古に表情をふにゃっとさせていると、ふと景色が変わっていた。

「あれっ、ここどこだろ……。
 まいったな、目印の建物――、
 青い壁の建物……なんてたくさんあるしーっ!
 んーっ、ん……あ!」

桜塚 愛輝 >  
「ごめんっ! ちょっといい?
 職員寮の――……っていうところ、どこかわかるかな?」

そこゆく女生徒を呼び止めて問いかけてみた。
交通機関で移動すればいいものの、歩いてみたいなんて我儘で行動した結果がこれだ。
恥ずかしい気持ちがいっぱいだが、背に腹は代えられない。

『あっち。遠くに高い――ほらあれ。あの建物が見えるでしょ~。
 そこまっすぐいけばだいじょぶ』

二人連れの女生徒のお洒落な感じのほうが、慣れた感じで案内する。

「ありがとう~!まだ地図アプリとかも入ってなくって……
 ていうか専用の端末もらわないといけないんだった」
『いいのいいの。新しいセンセー?担当なに?うちもしかしたら取るかも』
「スポ……えっと――とりあえず保体かなあ。
 非常勤だけどね!もし会ったらよろしくねえ。わたし、ふだんは――」

大型犬のように表情豊かに受け答え。
少し言葉が弾んでいるなかで、二人連れのうちのひとりに顔を不審げに見つめられていることには、
気づいていないかのように。

二人組 >  
『美術館の職員なんだって。どうする?今度いく?…どしたの?』

そうして新任の非常勤講師が去っていったあと、
その後ろ姿に手を振っていた女生徒は連れ合いに声をかけた。
眼鏡をかけた女が紛れていった人混みのほうをじっと見つめていたものだから、
不思議そうに首を傾いで。

「いや、うん……」

連れ合いの生徒は腰の部分に手をすべらせた。
この学園では確かな免状を受ければ帯剣が許される。
もちろんこんなところで抜刀しては大問題ではあるものの。
なんだか少し気になって、その柄に、爪に化粧けのない指がかかった。

「あの先生、どっかで見た覚えがあるんだよね……」
『そぉ?東北訛りじゃなかったけど。
 そんなことよりさぁ、行こ行こ。新作奢ってくれるんでしょー?』

その言葉に、後ろ髪引かれるのも僅かだったらしい。
どこにでもある日常の親切で、この一幕はおしまい。 

ご案内:「学生通り」から桜塚 愛輝さんが去りました。