2024/06/23 のログ
ご案内:「商店街」にノーフェイスさんが現れました。
ノーフェイス >  
「全っっっ……」

雨上がり、曇り空。
ショーウィンドウ連なる賑やかな街路を行くパンキーなパリピはというと、
手にもった数枚の、それぞれサイズも柄も違う紙を手に青息吐息。

(めーつ)……まさかここまで手強いとはね……。
 2ndか3rdロットなら穫れると思ったけど、大手部活でもダメかぁ。
 さすが鳴り物入りの"オモイカネ8(エイト)"。
 最新ガジェットは抑えておきたいボクとしては手痛いな、コレは……」

抽選販売権、予約権、整理券――様々な店舗で、最新型多機能学生証の購入競争に弾かれてしまった。
楽曲制作とリハーサルで立て込んでいたとはいえ、初動に乗り損ねたのも悔しい。

「ゆるくなってきたロットで買うのはちょっと悔しい……
 でも抽選権にまで(ダフ)屋が湧く始末だしなあ……
 ガジェットは買うなら初物(しんぴん)がいいし、転売品はもってのほか……
 そもそも既に粗悪な偽物が出回ってる話だし……ダメダメ落ち込んできちゃった……」

ぱしゃり――ブーツの底が水たまりを蹴る。
傘をたたみはじめた生徒たちでごったがえす、そんないつもの商店街では。

ノーフェイス >  
「しょーがない。可愛い女の子でも捜すか。
 あわよくばお持ち帰り……でも腰痛めちゃうの、も……ん?」

切り替えて前むいて。
ぽつ、と肩に落ちてきた雫が、ひとつ。
ふたつ、みっつ。

「うわ、マジか――安定しないなホントに、この季節って」

この気候には未だ慣れない。降り始めた雨から逃げるようにするりと軒先へ。
傘をさしはじめる生徒も、同じように対比する人もいる。
透けた色気を捜すまえにぱっと眼に入ったのはショーウィンドウ。
どうやら家電製品だったらしく、最新式の操作や画質をうたうテレヴィジョンの群れ。

「…………」

視線が滑る。
―――『オモイカネ8は完売しました!次回入荷をお待ちください』

「うるっせー」

そこで、画面のワイドショーがふいに切り替わった。
真面目そうなキャスター、報道系の部活だろうか。

「あ、可愛い」

ちょっと雨宿りしよう。

キャスター >  
「――お昼のニュースです」

淀みのない、仕込まれた滑舌だ。

「昨日の夜、学生通り付近で、
 連続暴行傷害事件の容疑で手配されていた男が逮捕されました。
 男は、元風紀委員の、藤井―――」

ノーフェイス >  
「へー……逮捕されたんだ?」

濡れた髪を気にしながら、ぼんやりと見上げた。
肩越しにちらりと伺う――
行き交う傘たち、雨宿りは。

こわいね、と雑談のように、あるいは大げさに告げるものもいれば。
気にせずに足を進めて、今日の楽しみを、これからを語るものもいて。
街頭に流れる宣伝番組や放送番組の楽曲が彩るのは、やはり日常。

どうやらこの周囲に、当事者(・・・)はいないらしい。
自分もそうだった。

「一般生徒の協力……この島らしいっちゃ、らしいのかな」

扱いの難しそうな話ではあるけれど。
結果として、現行犯逮捕――……見事御用、となったわけだ。

キャスター >  
「――違法薬物の過剰摂取や、未認可のナノマシンの使用と思われる症状も確認されており、
 風紀委員会は、回復し次第、動機や背後関係の聴取に乗り出すということです――」

ノーフェイス >  
どこか、ぼんやりとして。
過ぎゆく日常のかけらを見送った。

このニュースが、他とどう違う(・・・・)のか――
それはきっと、当事者たちにしかわからない。

奪われたもの。傷つけられたもの。失われてしまったもの。得られたもの。

かかわる(・・・・)、ということ――ゆえに、落第街に潜むこの存在からしても。
そのドラマは、遠く、遠く――……
確かさは、そこに在ったものたちが、知っていればいいことなのだ。

(ああ、でも……)

ノーフェイス >  
凛霞(あのコ)、だいじょうぶかな……)

危険を承知で、落第街の奥深くを調べていた風紀委員。
自分を成り立たせてくれている、認識してくれていた――大切な。
何か……取り返しのつかないことが起きれば、きっと報道されるだろうから。
そこまではいっていない、とは思うのだけれど。

この事件をきいて、ふいに顔がよぎった。顔だけじゃないかも。

「…………」

どこか、それでも――同じ島にいて、ほんの僅かずつ、指先道士がふれあうような。
かすかなことでもつながっていた。
熱く、強く、あるいはそっけなく。

しかし、ひとつの事件が終わってしまえば、部外者に語ることばは、なにもない。
引き続きスタジオで、侃々諤々、学生自治の不完全性だとか、風紀委員会のケアがどうだとか、
そういうことを語る唇も、いまはなかった。

そのひとを、特別とできる(・・・)のは――関わったもの、だけだ。

ノーフェイス >  
それでも、ほんのすこしだけ。
この島で確かにあったことの、ほんの端っこに指をふれさせたような。
一瞬だけの錯覚に思いを馳せて――そして、身を翻す。
雨は、あがっていた。白い雲間、風にあおられて、隙間から太陽の輝きがこぼれおちる。

「いこう」

あの、刃持つ少女の。
理想を追い、実現たらしめんとするものに、自分はかかわり(・・・・)……背中を押したのなら。
また、立ち止まってはいられない。

じっとりとした風が吹く。手を翳し、歩きながら太陽を望む。
蒼穹は開ける。残酷に。一方向に進み続ける時間が、止まることなどないことを、笑うように。

ノーフェイス >  
 
 
 
「夏が、始まるんだね」
 
 
 
 

ご案内:「商店街」からノーフェイスさんが去りました。