2024/07/29 のログ
ご案内:「商店街」にミア・コレットさんが現れました。
ミア・コレット >  
知見。
犬は真夏の昼間に散歩させると熱中症になりやすい。
肉球を火傷してしまうことすらある。

よって夏休みとかは結構、犬を夕暮れに散歩させるバイトとかがある。
わかるよ、やるべきことが全部夕方以降にズレたんじゃバイトも雇いたくなる。
つまり稼ぎどころだ。
遊び、学び、戦い、オシャレし、食べるためには。
たくさんバイトをしてお金を稼ぐ必要があるのだから。

でもまぁ!!
頼まれた犬が頭3つあるとは思わなかったな!!
魔獣じゃん!!

犬の体につながったリードはちぎれない。
よって元気溢れる体重25kgなシベリアンハスキーベロス(仮名)の
アジーンくん、ドバくん、トゥリーくん(実名)たちに振り回されるのは。

私のほうだ。

ミア・コレット >  
「待て待て待て待てッ!!」
「左は……ドバくんか、よぉしドバくん落ち着いて!!」
「となると右がトゥリーくんね、あちこち通りすがる人の匂いを嗅がないこと、レッスンワーン!!」

叫びながら頭が3つあるシベリアンハスキーに振り回される。
どうでもいいけど真ん中のアジーンくん寝てない?

あとは……フンを拾い、排尿したら水で流し。
適切な水分補給をさせ、散歩で元気を……発散させる…お仕事です……

既に裏渋での怪異バトルの三倍は疲れている。
さすがシベリアンハスキーベロスだ、問題あるぜ。

ご案内:「商店街」にシアさんが現れました。
シア > ささやかながらバイト代、というものが手に入った。
なにか買いだしてみようと、商店街に足を運んでみる。
そこには、まだ見慣れない店の数々と。

「……犬?」

リードをつけた生き物を引き連れた女の子が一人。
生き物、と評したのはそれが犬のようではあっても、首が三つあったからだ。
少女は、そのような生き物を見たことがない。

「……怪異?」

それにしては、普通に引き連れられているのも妙である。
いや、女の子が引きずられているようにも見える。
ただ、周りの人も大騒ぎ、というわけではない。

「ん……」

そういえば、この間はじめてみた怪異とはまた違う感じもする。
知らないだけで、特別な生き物なのだろうか。
気になって側に近づいていく。

「……この子、なに?」

シベリアンハスキーベロス(仮)の眼の前まで近寄って、引きずられてる少女に話しかける。
目線はどちらかと言えば、ハスキーに向いている。

ミア・コレット >  
息を切らせてストップ。
ダメだ、スタミナでは完全に負けている。
あとはペース配分で勝負するしかない。

スロー、スロー、クイッククイックスロー。
ダメだ二回もクイック挟んだら死ぬ!!


その時、眼の前に少女が立ち止まる。
身長にして私と同じ。
ジャージ姿に軍手をしている。
園芸部……みたいな?

「この子は……生まれつき頭が3つある異能の犬で…」
「シベリアンハスキーの…ぜぇ、ぜぇ……」

「こっちから順に……ぜぇ、ぜぇ…」
「ドバくん、アジーンくん、トゥリーくんです……」

息を切らせて目を血走らせて説明した。
そういう異能だから仕方ないね。

お人間さん大好きなトゥリーくんがジャージガールの匂いを嗅ぎにいった。
もう知らん。

シア > 「異能の犬……あるんだ異能、犬にも」

カルチャーショックである。
今や異能の時代とは言え、犬にもあるとは。
少女に電撃が走る。

「ドバくん、アジーンくん、トゥリーくん……」

復唱する。首ごとに名前があるらしい。
それぞれ独立意志を持つのなら別々に名前を持ったほうがいいのか。
よくみれば確かに、それぞれの顔つきや性格らしきものも違うような感じがする。

「トゥリー?」

首の一つが匂いを嗅ぎによる。
果たして、嗅いだのは何の匂いだったのだろうか?
彼(?)は怪訝な顔(?)をして、向き直った。

「大変そう?」

そういえば、リードを持つ女の子はすごい勢いで息を切らせている気がする。
体格は……犬としてはそれなり。
首が三つある分、三倍のパワーとかを持っているのだろうか。

さらに、いつもより振り回す回転力を二倍にすれば六倍だ。

「大丈夫……えっと……みぼうじん?」

なんと呼びかけたものか、と思ったらTシャツの文字が目について、口から出た。

ミア・コレット >  
「あるんじゃないかなぁ……彼…彼ら?にあるんだから」

息を切らせてそう答える。
正直、真摯な答えとは言い難いが
脳が酸素に行き届いていればエスプリの利いた答えの一つも用意できたのだ。

全てはそう……サヘラントロプス・チャデンシスが二足歩行を始めたのが悪い(?)。

「落ち着いたかなーきみたち……そしてアジーンくんはそろそろ起きてね…」

今にも擦り切れそうな声で彼らに呼びかけると、
ようやくしっかりとした足取りで地面を踏む。

「大変か、大変じゃないかで言ったら死にそう」

言われて自分のTシャツを見る。
なんだこれ。恥ずかしいな。誰だこんなの着てるの。私だ。

「これ……半額で1200円だったやつ……」
「私……バイトのミア・コレットだったやつ……」

「今は死にかけの……」

とりあえず休むために足元に水飲み皿を3つ置いた。
それぞれに水を規定量の三分の一入れる。

彼らは相当のどが渇いているだろうが、
3つの頭がガブガブ水を飲んだらすぐにお腹がパンパンになってしまう。

そう飼い主から説明を受けているのだ。

「名前……はぁぁぁ…あなたの名前は? 聞いてもいい?」

シア > 「あるんだ……」

真摯な回答ではなくても十分。
衝撃は変わらない。世界は脅威に満ちている。
犬にさえ、異能の力が宿る時代だ。
異能と魔術が支配する世界へようこそ。

「マイペースだ、彼。」

すり、とアジーンくんと呼ばれる首を撫でる。
ぱちり、と彼が目覚めた。

「強そうだよね、この子達の力」

少女の筋力がどの程度かはわからないが、リードの感じからしてかかっている力などはなんとなく推測が立つ。
よく、これを支えていたものだ。

「死にかけ……えっと……お疲れ様?」

奔放なる三首の犬に引き回されれば、そうもなろう。
しかも、よく聞けば散歩のバイトらしい。
常時、連れ立っていればこうもならなかったのかもしれない。
……いや、どうだろう。

「ん?ああ。ただのシアだよ、ボクは。
 話しかけてごめん、急に。気になったから、その子が。」

名前を聞かれれば、そう答える。

「マッサージでもする?疲れてそうだけど。
 あるよ、針とかも」

ミア・コレット >  
「常世動物園とか熊本弁で喋るマーモットがいるらしいし…」

これが本当のくマーモット弁ですねってやかましいわ。
喋るだけでえらいなら私にノーベル生きてて偉いで賞が欲しい。
なんかダメな方向に思考がヒートしてる気がする。

スポドリを飲んで落ち着こう。

「ぷぁー……うん、アジーンくんはマイペース」
「ドバくんが落ち着きがなくて、トゥリーくんが人間大好き」

強そう、と聞かれて肩を竦めてHAHAHAと笑った。

「強そう、じゃなくて。強い」

お疲れ様と言われればなんか泣きそうな気分になった。
バイト先で退勤時に言われる『お疲れ様』よりも。
裏渋に潜って命がけで救出した命を保健委員に送り届けた時の『お疲れ様』よりも。
染みる。

「シア、か。私はミアで、名前似てる」
「いやぁ、初対面の人にマッサージを受けるのは申し訳ないかな」

「って、針とか使えるんだ……」

若そうに見えるのにすごい技術を持っているのだなぁ。

シア > 「クマモーット弁、それは?」

言ってしまった。言わなくていいことを。
終わりの始まりである。滑って転ぶのである。

「ああ、やっぱり。
 大変そうだった、引っ張るの。
 躾けるか、理解らせるか……するのも手」

異能を持っていようが、動物は動物なので根本は多分変わらない。
どちらが主導するものなのか、理解させれば少しは楽になることだろう。

「ドバ辺りを……こう」

きゅ、と何かを締める動作。
一体何を示唆しているのだろうか。躾の道は険しい。
一日にして成らせるには、極限的手段も必要、ということか。
その後が怖いが

「ん。似てる、確かに。
 針? 習った、使い勝手いいし。
 たとえば、〆るのに動物を」

山での獲物を、少ない傷で仕留めたり実に便利である。

「それにしても。よく飲む。
 まだ散歩するの、この子達?
 ……大変そう」

ずびずばずずず、と水をすする三つ首を見つつ問う。

ミア・コレット >  
「私にはなんのことかわからないナー」

自分も同じことを考えていたはずなのに、つい顔を背けてしまった。
ああ、ミア・コレット!! 汝に罪ありき!!
残酷なりし背信者め!! 全ての罪深き者と共に地獄へ落ちるがいい!!

「私の仕事はこの子たちの散歩」
「躾や人間との力関係を教え込むのは業務外」

この子たちは。
最低限の躾はされている。
よってドバくんは好奇心旺盛でも吠えず。
トゥリーくんは人間大好きでも飛びかかろうとしないのだ。

……いやアジーンくんはもうちょっとどうにかしよ!? 散歩中に寝てるが!?

そしてシアはキュ、となにかを絞めるジェスチャーをした。

「動物には優しくしよ?」

笑顔でツッコミを入れておいた。
特に借りてきた犬には!!

「へー……魚とか活け締めにするのに針を使うとは聞くけど」

ノッキングで動物も同じ風にできるんだろうか。

「まだ散歩するよ、この子たちが満足したら帰り時」
「私が着てる怖気がするほどダサいTシャツの何倍ものバイト料が入るから頑張ってる」

飲み終わったタイミングで彼らの喉を撫でてから皿を荷物に戻した。

シア > 「そう?本当に?」

背信者には天罰を。裏切り者には制裁を。
首から『私は本心を誤魔化した敗北主義者です』と吊り下げて晒すしかない。
さあ、跪け!泣いて詫びろ!部屋の隅でガタガタ震えて命乞いをしろ!

なんていうことはなく、ただじっと見つめるのであった。

「業務外……そっか。
 しなくていいね確かに、業務にないなら。」

妙に納得して頷いた。
定まったこと以外は特にしなくてもいいのは、よくわかる。

「これが早い、上下をわからせるのは。」

優しい優しくない、というかどちらかというと野生の論理に近かった。
何して生きてきたんだろう、この娘。

「ツボ、あるし。寝かせたり、神経、殺すのも。
 たとえば犬も……」

無造作にハスキーベロスくんに手を出す。
夢中で水を飲んでいるドバくんの目の辺りを……

「落ち着く、この辺刺激すると」

軽く触れる。意に介さず、彼は水を飲み続けていた。
急に体が爆裂したりもしなかった。

「……それは、それで?」

怖気がする、というシャツにそうでもないのでは?という顔を返す。
多分、漢字とか日本語書いてあるとなんかイイ、みたいに思うアレだ。
日本人だってなんか横文字書いてあるとイイ気がするけど、意外と書いてある字はアレなことがある。

「そっか。大変だもんね、お金稼ぐの。
 そっか。苦労してる」

なにか琴線に触れたのか、深く頷いた。

「手伝う? よくない?仕事だから」

ミア・コレット >  
「すいませんちょっとだけ『熊本弁を喋るマーモットつまりくマーモット弁』って考えてました…」

泣き真似をした。
夏の夕暮れの鴇色は、夜の帳の桔梗色と溶け合っていく。
まるで空はこの世界の神秘の全てだと言わんばかりの。
無意味な美しさを目一杯広げていた。

「それに、躾に不満があったら飼い主が専門家に任せるだろーしね」

良い仕事というのは地道な作業の地味な積み重ねで。
決して見栄えの良いことを片手間にやって褒められることではない。

「シアさん見た目の可憐さからは想像もつかないワイルドさを感じますが!?」

動物の上下関係をダイレクトに伝える方法を知ってるのは
もう滅びたロクゴロウ古王国のミッシングアーツ(失われた技術)なんよ。

「お、おお……確かにリードを緩めても一緒に歩いてくれる…」

ツボって犬にもあるのか。
異能があるんだから当然あるんだろうなぁ。

「そう? なんとなく着てきたけど」

なんとなくで自分でこき下ろすレベルのTシャツを着てくるなという話だけれど
そのへんは話の都合でかっ飛ばしておくぜ!!

笑顔で頷いて。

「手伝ってくれたらご飯くらい奢るっていうのはどう?」
「行こう、シア。この子たち、まだまだ元気だから」

そう言って彼女と共に歩き出す。

いつか夏が過ぎ去っても。
私はこのことをああ待って考えてる間にハスキーベロスボディが電柱におしっこし始めた誰だどの頭がやり始めた。

シア > 「言えたね、よく」

あの時、言えなかった……その胸のつかえを解き放つような少女の告白。
それを受け入れる、少女。感動物語である。
嗚呼、空はこんなにも美しく澄み渡っている。
まるで、二人の今の心持ちのよう……なんていうことはないのだが。

「いいか、飼い主が満足してれば。
 ボクなら、もう少し……だけど」

一体なにをどうするつもりなのか。それは永久の謎である。
でもきっとたぶんおそらく、知らないほうが幸せなような気がする。

「普通、お山では。生き残れない、油断すれば」

本当にワイルドであった。

「ご飯……わかった、それで。
 いいなら、ミアが」

なんとはなしの提案であったが、受け入れられるならそれでいい。
ミアと並んで歩き始める。

「……アジーン?」

おしっこをし始めたハスキーのそばに寄って、ささやきかけた。
なぜか、ビクッとしたような気がするのは気の所為だろうか。

「いこう?」

そうして、激闘の散歩は続くのであった……

ご案内:「商店街」からミア・コレットさんが去りました。
ご案内:「商店街」からシアさんが去りました。