2024/08/18 のログ
ご案内:「商店街」に武知 一実さんが現れました。
武知 一実 >  
――夜も更けた頃合いの商店街。
元々夏休みという事もあって夏季休業中の店が昼でも目立っていたけれど、夜半近くになると静けさに包まれてる。
アーケード街の街灯が点々と並び、シャッターの下りた店頭を照らしている中を、オレは駆け回っていた。

「ンの……ッ、ちょこまかと……!」

暇を持て余してのランニング……などではなく。
バイトとして始めた怪異や魔物討伐、その一環だ。
転移荒野で着々と(形式上秘密裏に)討伐をこなして来て、今日届いた仕事は落第街に発生した怪異の討伐。
……のはずだったんだが、オレまで仕事が来る前にターゲットが落第街から繁華街、そのまま商店街まで移動して来たという事でこうして商店街を駆け回る羽目になっている。

「まだ落第街の方なら潜伏とか先回りとか出来たんだけど……なッ!」

ターゲットを追って路地に入りながら愚痴る。
瓦礫やら何やらで足場の悪い落第街であれば、こうして馬鹿正直に鬼ごっこする事も無かったことだろう。
まあ、追う側ってのは中々経験が無いから、新鮮と言やぁ新鮮だけどよ。

武知 一実 >  
商店街の路地に入れば外套の明かりが消え走りづらくなる。
幸い夜目が利くし、何より追手から逃げる奴の心理はある程度理解してる。
だから次の逃げ先も見当がつくし、実際つかず離れずの距離を維持は出来ているんだが……如何せんターゲットが大変すばしっこい。

「……だからこうして、追い込む必要があったわけだ…ハァ」

狭い路地を、飲食店の裏口脇にあるゴミバケツを倒さんように気を払いながら走り続けた先。
袋小路にターゲットを追い込むことに成功した。

『……ヂ、ヂヂッ……』

三方を壁に囲まれ、月明かりに照らされたターゲットは正面に居るオレに向けて威嚇している。
その姿――端的に言うならバカでかいネズミだ。
半円の耳、尖った鼻面と延びた髭、そして長い尾。容姿、形状はドブネズミと呼ばれるそれに酷似している。
ただ、デカい。ちょっとした大型犬くらいの大きさがある。
そして全身黒一色だ。体毛が黒いというレベルじゃない、ネズミの形をした影、一目見て怪異や魔物の類と分かる様な。
そいつが今回のターゲット。討伐対象の怪異だ。

「時間も時間だ、あんまり騒ぎにゃ出来ねえし、そろそろ覚悟決めて貰おうかァ」

こちとら蒸し暑い中走り回らされてヘトヘトだってんだ。
さっさと帰ってシャワー浴びて涼しい部屋でアイスとか食いてえ。
息を整えて近づくオレから後退る様にネズミ怪異は距離を取るが、すぐに退路を壁に阻まれる。
文字通り袋のネズミだ。オレぁもう汗だくで笑う気も起きねえけど。

武知 一実 >  
「発生経緯についちゃ同情するが、こっちもバイト代が掛かってるからよ。
 せめて一発で仕留めてやるから、目ェ瞑ってな!!」

逃げ場を失って威嚇を続けるネズミとの間合いを詰める。
ネズミ型とは言え怪異は怪異、爪や牙による反撃もあり得るし、尻尾を払われれば大きさが大きさだけにバットくらいの威力は出そうだ。
追い詰められた獣は何をするか分からないとも言うし、情けを抜きにしても一撃で決める……!
オレはネズミ怪異の急所へ狙い済ました拳の一撃を放――

「―――は?」

――ったものの、それはもう見事に空振った。
と言うのも、拳が触れる瞬間、ネズミが破裂しやがった。
いや、破裂したように見えただけで、実際のところ小型のネズミに分裂、分散していた。

……いや、え? こいつ、個体じゃなくて、群体?

呆気に取られるオレを尻目に、再び集まって一体の大ネズミとなった怪異は、耳障りな啼き声と共にオレを威嚇し続ける。

――いや、どないせえっちゅーんじゃい。

武知 一実 >  
――その後何度か攻撃を試してみるも、殴っても蹴っても分散されて決定打には届かない。
小型の怪異一匹二匹は仕留めることが出来たものの、焼け石に水というかキリの無さが窺える。

「……道理でこんなとこまで逃げ遂せて来たわけだ」

落第街で発生した怪異が、流れ流れて商店街。
きっと発生直後に迅速に他の担当が対応したのだろう。そして戦い辛さもあって決定打を与えられず、下水道とかに逃げ込まれて、を繰り返した結果今に至っている、と。
その辺の説明も仕事依頼のメールに書いてあったと思うんだけど、正直場所と敵のタイプしか確認してなかった。今までそれで行けたから。

今度はもっとちゃんと確認しよう、と反省しながらオレは拳を構え直す。
一度引き受けちまったもんは、ちゃんと達成しないとだ。
最悪、完了報告が上がって来ない事に痺れを切らした依頼主が増援手配してるかも、だし。望み薄かな……

「もう、こうなりゃ雷で一掃……」

……出来れば良かったんだけどな。
夏季休業中が多いとはいえ商店街の真ん中で雷ぶっ放すのは大変リスキーだってことはオレも承知している。
個人で勝手に動いてるならここら一帯のブレーカーを落としても逃げりゃ済む話だが、今回は依頼元に話がいけば簡単に足が付く。

つまり、どうにか分散するのを食い止めて一撃で倒すか、分散した小ネズミを虱潰しにしていくかの二択。

………今すぐ帰って涼しい部屋でアイス食べてえ。

武知 一実 >  
――結局。

分裂、分散を繰り返すネズミ怪異を叩いて逃げられ、別の路地に追い込んでは叩いてを繰り返し。
夜が明ける頃にようやく最後の一匹を討伐してオレは無事に依頼達成の報告をしたのだった。

報酬……割に合わなくねえか?と考える余力すらなく、帰宅後倒れ伏したのは言うまでもない。

ご案内:「商店街」から武知 一実さんが去りました。