2024/09/13 のログ
ご案内:「商店街」に緋月さんが現れました。
■緋月 >
「はっ…はぁっ……!」
本文を読む前に、消えてしまったメッセージ。
だが、その差出人だけははっきりと確認が出来た。
――あのひとが、何か…メッセージを送ろうとした。
その行為に虫の知らせを感じた書生服姿の少女が訪れたのは、最も手近だった商店街。
7月の始め頃、一緒にお菓子を食べた和風喫茶の店だった。
あちらこちらを必死で見渡すが――
「……いない…。」
簡単に見つかる筈はない、と覚悟はしていた事だ。
落胆は、それ程でもない。
それに、時間差という事もある。
此処に着いてから、まだ間もない。直ぐに立ち去るのは軽率だろう。
「…流石に、あまり長時間という訳にも、行きませんが。」
兎に角、和風喫茶の少し前を中心に、見慣れた姿や覚えのある気配、
視線を感じないか、少し集中して探しにかかる事にしてみた。
ご案内:「商店街」に紅き機械ノ女王さんが現れました。
■紅き機械ノ女王 > ちゆきさんを追い、商店街の路地裏を走っている。
ちゆきさんの居場所は、彼女に注入したナノマシンにより、レーダーに表示されて把握している。
「……はぁ…………はぁ……」
今、ちゆきさんは禁書図書館にいる。
イーリスは今、《紅き機械ノ女王》になっていた。
紅き文様が体に浮かび、右目が紅く光る禍々しき姿。その姿は疑似的な《紅き屍骸》
無用に、この紅き屍骸としての姿を晒さないよう、イーリスは白いローブを纏いフードで顔を隠していた。
治療のためちゆきさんに注入した《紅き機械ノ女王》の感染源は、元々ちゆきさんにあった紅き屍骸の感染源と反発して殺害欲を齎してしまっている。
だから《紅き機械ノ女王》として、ちゆきさんに注入した感染源を制御し、少しでも元の感染源と反発して殺害欲を生まないよう出来る限りコントロールしているのだ。
「ぐ……ぬ……ッ!!」
一度立ち止まって、胸を押さえる。
《紅き機械ノ女王》になるというのは自身に呪いをかける行為。その呪いの苦しみを和らげるため、イーリスは注射器を取り出して自身の首筋にさす。
苦しみがある程度和らぐが、紅き文様が消えかかる。
「だめ……です!」
薬で苦しみが和らがぐが、代わりに《紅き屍骸》としての力が弱まる。文様が消えかかっているのもそのためだが、イーリスはなんとか呪いを維持。消えかかる文様が再びはっきりと浮かぶ。
再び走りだした。
そして路地歌を出たそんな時、誰かとぶつかってしまう。
「……! い、急いでいて……。も、申し訳ございません! ひ、緋月さん……!」
ぶつかってしまった相手が、顔見知りの相手であると気づく。
フードが取れて、紅き文様が浮かんだ顔、そして紅き右目が露わになる。
■緋月 >
「――っと!?」
注意を張っていた外から、誰かがぶつかってきた。
完全に注意の外の気配だったので、張っていた注意の間をすり抜けてきてしまったのだろう。
迂闊だった、と反省しながら、ぶつかってきてしまった方に向き直る。
「いえ、こちらこそ不注意で申し訳――」
ありません、という言葉が漏れる前に凍り付く。
フードを被っていたようだが、ぶつかった表紙に外れてしまっている。
その顔にも見覚えはあるが、何よりその顔の文様は――――
「あ、あなたは、確か6月の懇親会で――
いや、それより、その顔の文様は――――!?」
次の瞬間、半ば反射的に両の瞳に蒼い炎が宿る。
その焔は死者観測の力。
――顔に浮かび上がる文様と紅い瞳が、"紅き屍骸"を連想してしまった為、
反射的に発動してしまったものだった。
「す、すみません…!
兎に角、こっちに――!」
慌ててフードを被せると、何とか瞳の炎を消し、
なるべく人目の届かない、小さな路地に紅い右目の少女を引っ張っていく。
「――ここなら、人目も届かないでしょう。
お互い、聴きたい事や知りたい事もあるでしょうし…。
…とりあえず、お名前を聞いてもよろしいでしょうか?
お顔に覚えはあるのですが、名前は生憎失念していまして…。」
よく考えたら、顔は知っているが名前を知らない。
息を吐いて冷静さを保ちつつ、まずは質問。
■紅き機械ノ女王 > イーリスの体は小さく、路地裏から不意打ち気味に突然出てきた形なので、緋月さんの注意の外になってしまったかもしれない。
文様という言葉に、フードが取れてしまっている事に気づく。
慌てて被り直そうと思ったが、その前に緋月さんによりフードが被せられる。
緋月さんの双眸に映る蒼い炎には驚くも、その驚いている間に緋月さんにより、イーリスが元きた路地裏に引っ張られた。
死者かどうかを調べても、イーリスは生者と判定される。
イーリスは死んでいるわけではなく、自身に呪いをかけて疑似的に紅き屍骸になっている。
「あ、ありがとうございます。この姿を見られては、無用にパニックになる恐れがありました」
6月の懇親会では、集まった人の一部で自己紹介をし合っていて、イーリスもそれで緋月さんの名を覚えていた。
しかしもう数ヵ月も前の事なので、一度自己紹介をし合っただけで名前を憶えていなくても無理はない。
緋月さんは、ちゆきさんの大切な友人……。ちゆきさんはきっと、緋月さんと想い出をいっぱいつくっていて、そして緋月さんとやりのこした事もあるという……。
そんな緋月さんなら……と……。
ここは路地裏で人目がない、というのを確認。
イーリスはゆっくりと白いフードを脱ぐ。
そのフードの下、イーリスは全身に紅き文様が浮かんでいた。
「お会いするのは納涼氷柱割り以来となりますね。改めまして、私は《紅き機械ノ女王》Dr.イーリス。ちゆきさんと同じく、《紅き屍骸》です」
そう自己紹介した。
■緋月 >
「紅き、屍骸――!?」
フードを脱いでその姿を曝し、加えて自身を紅き屍骸と名乗った少女の言葉に、
先程までではないものの、驚愕の表情を抑えきれず、書生服姿の少女は顔に右手を当てる。
再び両目に蒼い炎が燃え上がるように灯り、目の前の少女をくまなく確認するが――結果は、白。
目の前にいる彼女は、間違いなく生きている。
「――すみません、突然の無礼を。
私が遭遇した「紅き屍骸」は、例外なく「死んでいた」ものですから…
「死者観測」の力で、あなたを確かめさせて貰いました。
ですが、あなたは確かに「生きている」…。」
ふう、と息を吐き、顔から手を離す。
蒼い炎は、まるで吹き消すように少女の双眸から消え去った。
「ああ…あの氷柱割りの催しの時も、いらっしゃったのですか。
これは失礼しました。
しかし、あのひとの名前を知っているという事は、私の事は蒼雪…失礼、千癒姫さんから伺ったので?」
彼女に出会ったというのなら、自分の事を聞いていてもおかしくはない。
――目の前の少女が風紀委員の関係者であり、その流れで自分の事を詳しく知ったとは、
微塵も考えていない書生服姿の少女であった。
■紅き機械ノ女王 > 「あなたは人の生死を見極める能力があるのですね。私はその“例外”です。かつて私は《紅き屍骸》の“王”なる存在により呪われていました。その呪い、感染源などを研究や解析をし、そして自分で自分に呪いをかける事により疑似的な《紅き屍骸》になっています」
疑似的な《紅き屍骸》。イーリスは落第街で蔓延する《紅き屍骸》の仲間でもなんでもないし、この姿になっているのは意図的なもの、かつオンオフ可能な一時的なもの。
「例外ついでに、私には殺害欲はありませんし今後も殺害欲が発現する事もないのでご安心ください。元の姿に戻る事も可能です。今、この姿になっているのは少しでもちゆきさんを助けたいと思っているためです」
自分で自分に呪いをかけていて、その呪いがイーリスを蝕んでいる。
額から汗も滲んだりしている。
「あなたとちゆきさんの事は、ある程度は彼女から聞いています。あなたは、ちゆきさんにとって大切な友人である事。いえ、正確には『友人でありたかった事』ですね。ちゆきさんもまた殺害欲を抑え込んでいた例外的な《紅き屍骸》であり、しかしながらもう時期殺害欲に飲み込まれてしまう事」
凛と、言葉を発する。
イーリスはちゆきさんをどうにかしたいと頑張って治療してみたけど、だめだった……。それでも、まだ諦めきれないでいて、ちゆきさんの元に向かっている。
「あなたに屍骸としてのこの姿を明かそうと思ったのも、《紅き屍骸》であるちゆきさんがあなたの事をとても大切に思っていたからです」
■緋月 >
「紅き屍骸の、王の呪い…。」
そんなものが存在するとは思わなかった。
しかし、「司書」は確かに以前、あの紅き屍骸について「病に過ぎない」とも語っていた。
――口数が多いし胡散臭いが、信用は、出来ると思っている。
「…感染源を研究して、自力で『紅き屍骸』になる事が出来るように、ですか…。
殺害欲もないなら、私が手を出すべき範疇を超えてはいます…ね…。」
目の前の少女は…年の頃は見た目、10かそこらに見えるが、随分と聡明で、何かを解明し、
何かを作り出す才能に恵まれていると見える。
『紅き屍骸』の元となるものを研究し、それを己に対して、しかも殺害欲という危険性なしに
行使し得るというのは――並大抵の発想や才能で出来る事ではない。
「――ええ、彼女とは、友人…でした。
私は、今でもそうでありたいとは、思っています。
……その関係を台無しにした私が言えた事では、ありませんが。」
自虐的にそう語ると同時に、再び書生服姿の少女の双眸に蒼い炎が宿る。
のみならず、蒼い炎が顔を覆い隠すように溢れ――その後には、
書生服姿の少女の顔を、エジプト風のデザインの、黒い狼の仮面が覆い隠している。
――心なしか、その双眸の蒼炎は、素顔の時よりも強い。
「…正確には、死者観測の力は私自身の力という訳ではありません。
私は死者の神である、黒き御神の信徒となり、その使徒として、黒き御神の御神器である
この仮面――「埋葬の仮面」の継承者となったのです。
死者の観測は、この仮面の力。
――無論、死して『紅き屍骸』となってしまった人も、見分けられます。」
蒼春 千癒姫が『紅き屍骸』であると暴いたのは、この仮面の力と己の意志であったと、言外に語る言葉。
詳しく事を明かしてくれたから、自身もこの秘密と己の行いを打ち明ける決意が出来た。
「……そう、ですか。
千癒姫さんは、もうすぐ、殺害欲に呑まれて……!」
ぐ、と握り締めた手に力が入る。
自分が追い詰めなければ、そんな事にはならなかったのだろうか、と自責の念が沸き起こる。
■紅き機械ノ女王 > 「もしあなたが私に手をくだしていたなら、ただ《紅き屍骸》という理由でちゆきさんにも同じ事をしてしまうと判断せざるを得ませんでした。試すような事をして申し訳ございません」
緋月さんは、ちゆきさんにとって大切な人。
《紅き屍骸》の姿を見せても、緋月さんはイーリスに手を出してこなかった事には安堵している。
「あなたも、ちゆきさんも……友人である事は過去形なのですね。今はもう、友人に戻れはしないという事ですか……?」
眉尻をさげて、首を傾げた。
緋月さんのお顔が、エジプトをイメージするような狼の仮面で覆いかぶされる。
「《埋葬の仮面》の継承者……」
埋葬という言葉に、イーリスは目を見開いている。
「黒き神の信徒さん……《埋葬の仮面》を継承しているという事は、あなたの答えはそういうことなのでしょうか」
《埋葬の仮面》、つまりちゆきさんを埋葬するという事だと判断した。
埋葬、つまり死者を埋めて眠りにつかせる。
まだ殺害欲に飲まれていないちゆきさんを救いたいと願った。
だがイーリスも……《紅き月輪ノ王熊》にかつて殺害されて屍骸になった仲間達を、今度は安らかに眠らせてあげようという覚悟を決めていた……はず。
だけど、ちゆきさんは殺害欲に飲まれていなかったから、紅き屍骸の研究を進めてきた今なら救える……と思っていた。無理だった……。
「もう……本当に……ちゆきさんは……救われないのでしょうか…………」
イーリスの右の紅い目から、雫が垂れて頬の文様を濡らした。
ちゆきさんを治療してみたから分かる。
少なくとも、イーリスにはもうちゆきさんを救う手立てなんてなかった。
■緋月 >
「…この仮面を継承し、黒き御神の使徒となるに当たって、私は
『先輩』と呼べる方から、教えと禁忌を、伝えられました。」
紅き屍骸であるというだけで手を出さなかった理由。
それが、その教えと禁忌。
「教えは、『死を想い、安寧を願う事』。
『死を想う』――それは、いずれ死が訪れるからこそ、生きている事を大事に出来るという事。
『安寧を願う』――それは数多の試練と共にある生を全うした者に、祝福あるべしというもの。
ただ一度の生だからこそ…生きている事は素晴らしく、その生を終えた時は、
安らかなる最期と、冥界での穏やかなる幸福があるべき。」
蒼く燃える双眸が、紅い文様を纏う少女に向けられる。
「――あなたは、まだ試練を伴う「生」を生きている。
私が…いえ、あなたに訪れる「最期」は、まだ先であるべきです。」
その声と共に、蒼い炎に掻き消されるように、狼の仮面はその姿を消し、
書生服姿の少女の素顔が戻る。
「――『禁忌』は、怒り、憎しみ…あらゆる私心で以て、死を与える事の禁止。
私が与える『死』は…祝福であり、慈悲でなくてはならない。
そしてそのいずれも、あなたに向けるべきものではありません。
あなたはまだ、こうして生きているのですから。」
大きく息を吐く。
あの蒼い少女が救われないのか、という言葉には、無意識に天を仰ぐ。
「――可能であるなら、私だって千癒姫さんを助けたいです。
ですが、彼女は――もう、1年も前に、生死不明となっていて、その間、目撃情報すらなかった。
恐らくは…その1年前に、何らかの紅き屍骸の手にかかってしまったのでしょう…。
……彼女が、既に殺害欲に苦しめられるほどに追い詰められていて、
しかも、それを何とか耐えているというのなら……」
ぎり、と、歯を噛み締める音。
「――せめて、彼女が「人殺し」に堕ちてしまう前に……「友人」であれる間に、
私が、彼女に「祝福」を与えます…!
蒼春 千癒姫という人の…私の友人であるひとの尊厳が、殺害欲に蹂躙されて、
怪異として処理される前に…せめて――!!」
その声と共に、一滴だけ。
天を仰ぐ少女の顔から、雫がこぼれる。
「…イーリスさん、千癒姫さんを気にかけてくれて、本当にありがとうございます…!
あのひとが、怪異として処理される前に…人間として、接してくれた人がいてくれて…本当に、良かった…。」
伝え切れない感謝の念と共に、深々と礼を向ける。