2024/10/10 のログ
ご案内:「商店街」にリリィさんが現れました。
リリィ >  
「うぅ……。」

活気溢れる商店街の隅っこを、とぼとぼ歩くポンコツ淫魔。
こいつの頭上だけどんより暗雲が立ち込めている。

「はたらくって、むずかしい……。」

グスン。
啜り過ぎて赤くなった鼻以外にも、膝とか腕とかあちこちに擦り傷だの打ち身だのの細かい傷が見て取れる。

リリィ >  
斡旋してもらった荷物運びのアルバイト。
倒けつ転びつがんばったけれども、まあ、荷物運んでる最中にこけてまろんじゃダメですよね、っていう。

優しげな笑顔が苦笑いになり、段々イライラ、最終的には憐れむ顔と。
ポンコツを見てくれた世話係の表情筋は、今頃過労でげっそりしているのだろうなぁ。

胸の内で深く嘆息を零し歩く中、視界の端に背中を丸めた陰気な誰かが掠める。
――否、服屋のショーウィンドウに映ったポンコツの姿だ。

立ち止まって背筋を伸ばすついでに、じぃ、と窓に映った自分を見つめる。

「自分でも働けるところを探すとして、……面接にこの恰好っていうのもなぁ。」

とはいえ、だ。この服だって借り物である。
ポンコツが持っているのはシーツ一枚(と、差し出されたからと奪い取ったオモイカネ。はよカエセ。)のみ。
あと非常食のバナナの皮。中身は食べた。

「どうにかして服を手に入れなくちゃいけなくて(ぐー)
 そのためにはお金が必要で(ぐー)
 お金を得るためには働かなくちゃいけなくて(ぐー)
 働くためには……あれ、詰んで……る……?(ぐー)」

ご案内:「商店街」にゼアさんが現れました。
ゼア >  
「おつかれさま、でぇーすっ」

 のほほんと。
 どこかから漂う暗雲なんて気にすることも何もなく、ゼアはその発生源(あくまのおねえさん)に声をかけた。

 《巨人化》のできるゼアは、荷物運びのバイトによく顔を出す。良くも悪くも独特な雰囲気と、強烈なインパクトを残す異能であることもあって、三度同じ顔を見た者からは「お、今日もよろしく」なんて声をかけられることも珍しくないくらい。
 そんな荷物運びを今日も――といったところ、見慣れない大人っぽいお姉さんがいて。
 まあその時は新しい子だー、なんて何も気にしていなかったわけだ。

 が、バイトの帰り道、背中を丸めて歩く件のお姉さんが見えて。
 しかし落ち込んでる姿など気にすることもなく、今日は疲れたねー、みたいな。そんな日常の延長線上みたいなノリで声をかけた。
 初対面だとか、気にすることもあんまりなく。

「お疲れさまだねー。お姉さん、あんまり見たことないけど、最近来たの?」

 知り合いなのか初対面なのか、よくわからない距離感なのである。

リリィ >  
「うへぇい!?」

考え事の最中だったからか。荷物運びという体育会系な職場で揉まれたからか。
恐らくは両方だろうが、突然声を掛けられて飛びあがる程驚き口から出てきた声は酷く奇妙な返事(?)だった。

振り返ってみれば覚えのある顔。
そりゃそうだ。直接の絡みはなくても、あれ!?遠近感おかしくない!?とびっくりした記憶がしっかりと刻まれていた。

だから突然のことに驚きはしたものの、すぐに笑顔を浮かべて応じることもできる。

「あ、はい。お疲れさまです。
 ええと、ゼア様……ですよね。 わたしはリリィと申します。
 お察しの通り、新参者です。……わかりますか?」

仕事を教えてくれた世話係から聞いた彼女の名前を確かめるように呼んで、
自身も名乗り頭を下げる。

見ない顔だからと看破できるくらいには島か荷運びのバイトかの歴が長いのだろう。殊更丁寧な対応を心掛けている、心算。

ゼア >  
「ひゃぅ!」

 びっくりした声にびっくりして声を上げる。よくあるやつ。

「はぁい、ゼアでーす。リリィちゃん、だねぇ。よろしくー。
 えっと……なんとなく? 見たことなかったから」

 特別な理由はないのである。
 多分異邦人街に前から住んでいた住民が歩いていても同じことを言う。

 さて、二人で目を合わせたら、当然ながら、彼女の細かい傷の数々を目にしてしまうわけで。

「って、怪我ばっかりしてる! 傷をそのままにしちゃだめって言われるでしょー?」

 何せ、ゼア本人が言われ続けたことであるため。

「まってねぇ、ばんそうこう持ってるから。どれがいい?」

 すぐに傷を作って帰ってくるゼアのために、いつもお世話になっている服屋のおじさんが持たせてくれたもの。
 女児用のカラフルなそれを扇状に並べて見せる。

リリィ >  
その声にまた驚いて(ry)
コントめくやりとりがファーストインプレッション。
お互い丸くなった目を合わせ、次の瞬間おかしそうに笑ったのだとか。

「リリィちゃん……。」

ぽ、と頬を赤らめて、よろしくお願いしますと眦を緩める。
暗雲ばいばい。いらっしゃいのほほんとした春の陽気。
尚実際は秋風が軽快な足取りで商店街を駆け抜けていったところ。

「そうなんですか?
 ズバリ言い当てられたから、余程御詳しいのか、わたしがおのぼりさんみたいだったのかと。」

ほわほわした笑顔のまま、もじ、とはにかむ。
が、傷に言及する鋭い声にはきょとんとした。

「え? ああ、だいじょうぶですよ、慣れっこですし。
 放っておけばその内に治りますから。」

慌てて手を振るが、少女の手には既に絆創膏が握られていた。
やたらと可愛らしい、ファンシィなそれらに目を奪われること三秒ほど。

「えぇと……では、このうさちゃんのやつで……。」

躊躇いがちに指を指したのは、桃色の下地にデフォルメされた兎が描かれたもの。

ゼア >  
「なんとなくだよー」

 半分ほど雰囲気で生きてるようなものだし。

「だめだよぉ。ちゃんと消毒しないと、ばい菌が入って危ないんだって。ゼアあんまり気にしたことないけど」

 台無しである。少しは気にしてほしい。せっかく持たせてくれたんだから。

「うさちゃんだねぇ。はい、じゃあちょっと止まっててねぇ」

 同じデザインの絆創膏をいくつか取り出して、傷口にぺたぺた。

「痛い? ちょっとだけ我慢、ねぇー」

 小さい子にやるみたいな雰囲気だった。

リリィ >  
間延びした語尾だとか、纏う雰囲気だとか、所持品だとか。
なんとなく、見た目よりも幼い印象を抱きつつ。

膝丈近くまであるスカートをちょこっとだけ持ち上げて
貼り易いように膝小僧を晒す。
赤くなってはいるものの、血も殆ど滲んでいないかすり傷が可愛らしく飾られていく。

ぺたぺたぺた……。

「ちょこっとぴりっとする、かな?
 でも平気ですよ、ありがとうございます。」

傷自体は本当に些細なものではあるが、如何せん箇所が多い。
膝だけでなく、腕なんかにも打ち身やらなんやらがチラホラと。
全部に絆創膏を貼り付けたら随分珍妙な恰好になりそうだが、今更かもしらん。

懸命に手当てしてくれる姿を双眸を細めて和やかに見守って、
終わったら改めて「ありがとうございます。」とお礼を告げよう。

ゼア >  
 見た目よりも遥かに年齢を重ねていて、雰囲気は見た目よりも幼くて。
 色々ちぐはぐな少女なのだった。

「どういたしましてー」

 手当てをしている間にも、にこにこ顔は一切崩していない。

「でも、なんでまたそんなに怪我したの?
 危ないこと、あった?」

 荷物運びで怪我をする要素なんて、そうそうないだろうに。
 と、そんな純粋な疑問から、ある種残酷な質問をするゼア。

リリィ >  
にこにこにこ。
最初に背負っていた暗雲はいずこといった具合に、朗らかな笑みを向け合っていたのだが、

「うっ!」

ポンコツ に 5の ダメージ!▼

みたいなテロップが脳内再生された。
勿論現実ではそんなダメージウィンドウは現れない。

にこにこ笑顔がぴしりと固まり、汗が滲む。
挙動不審に周囲を見回すが、手当てしてもらった手前誤魔化すのもなぁ……ということで。

「危ないことはぜんぜん……あの、単純作業でむずかしいこともなかったですし……
 ただ、わたしがその、ほんのすこーしだけドジというか、ポンコツというか、
 ……荷物を運んでは転び、運んでは転び……極めつけには積荷に突っ込んで雪崩を起こしたり……ですね……。」

少女の無垢な瞳が見てられなくなって顔を覆った。
おかえり暗雲。

ゼア >  
「えー……あー」

 そういえば、と思い出す。
 確か、なんか新しい子が話題になってた気がする。悪い意味で。
 話しぶりからすれば、この子がそうなのだろう。

「だいじょーぶ、だいじょーぶー。ゼアもね、荷物ぐっしゃあってしちゃうことあるよ。
 おっきくなってると力加減が難しいんだよねえー」

 勢いあまって握りつぶしたり、つい高いところから落としたり。
 ゼアが『われもの注意』を一切任されない理由である。

「そういえば、前もねえ、おっきくなってる途中に転んじゃったことがあってねぇ」

 惨 事 。
 言うまでもなく。なんでコイツはのほほんと喋ってるんだ。

リリィ >  
その「あー」で全てを悟る。
恥ずかしいやら情けないやらでしとしとと頭上の暗雲から雨が降りしきるようだ。※心象風景

最初は大丈夫だよーって笑ってくれていた世話係も、繰り返す度に表情を険しく歪めていた。怒鳴らないだけ菩薩が如く広い心の持ち主だったように思う。
だから、だいじょーぶ、って言葉にも最初は顔をあげられなかったんだけど、
尚ものほほんと語られる言葉に、そろりと顔を持ち上げる。
あわせた手の向こうから、すだれめく前髪に透けた瞳のみを窺わせてお話をきいている。

「ち、力加減っ、むずかしいです。わかりますっ。」

コクコクと頻りに頷くポンコツの場合は、腹が減り過ぎて丁度いい加減が出来なかったりとかそんなかんじ。
あとはちょっと順調にいくと調子にのっちゃったりね。

「おっきくなる途中に? それは……、」

現場で見た遠近感おかしくない!?と思った姿を思い出す。
手で顔の下半分を覆っていてよかった。惨事を想像して神妙な面になってしまったから。

「……ゼア様は、どうしてうまくいかないんだろう、って落ち込んだりはしないのですか?」

ゼア >  
「んー? んー……」

 考える。
 最初の方は、確かに、うまくいかなくて落ち込むこともたくさんあった、けど。

「いっぱい落ち込んだら、美味しいもの食べて、いっぱいお休みすることにしてるよー。
 終わっちゃったことは、もう終わっちゃったことだから、落ち込んでてもしょうがないじゃない。
 それより、今度はどうしたらいいかなーって考えたりー、周りの皆に聞いてみたりするの。
 できなくても、頑張ってたらね、見てくれてる人はいるんだよー」

 そうやって、ゼアは商店街の人たちと打ち解けていった。
 今でもたくさん失敗することはあるけど。
 人と混じって暮らすようになった頃から――だいたいずっと、こういうマインドで生きている。

「だからー……そうだ。これあげます。美味しいよー」

 そうしておもむろに取り出したのは、帰りがけに買っていたミルクドーナツ。
 食べながら帰ろー、なんて思って買っていたもの。

リリィ >  
考えている様子をじぃと見つめる。
幼い言動。無垢な少女。
彼女はどうして笑っていられるのだろう。

ただただ不思議で、気付けば問うていた。

「落ち込まないのではなく、落ち込んだ……その後、ですか。」

ほうと零れた吐息が掌の中に篭る。
ぱちぱちと瞬きを繰り返して少女の言葉を何度も反芻してみた。

おいしいものを食べて、
いっぱいお休みをする。

成る程単純だがそれはとてもいい案に思えて、

嗚呼、でも――……

胸の内で嘆息を零して眉を下げる。目を瞑って、一秒、二秒。
数字を数えて落ち着くべく努めていると、その声はきこえてくるのだろう。
ついでに、ほんのりと甘い香りも。

「え……いいんですか? ありがとうございます。」

ゆるく瞼を持ち上げると、眼前にはおいしそうなドーナツ。
その向こうで少女は微笑んでいるのだろうか。

おずおずと受け取って、少しだけ考えてから半分に割り、歪な片割れを差し出した。

「では、半分こしましょう。
 こうすると、美味しいものはもっと美味しくなるのだそうです。ほんとうかどうか、知りたいなって。」

少しだけ照れくさそうにはにかんだ。